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Tom Gallo『Vanish And Bloom』

通常価格(税込): 2,750
販売価格(税込): 2,750
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アプレミディ・レコーズの単体アーティスト第24弾として、前作のファースト・アルバム『Tell Me The Ghost』をモーゼス・サムニーやチャド・ブレイクが絶賛して、ベン・ワット〜ホセ・ゴンザレス〜デヴェンドラ・バンハート〜スフィアン・スティーヴンス〜ジャスティン・ヴァーノン(ボン・イヴェール)〜チガナ・サンタナ好きに推薦などと様々なメディアで高い評価を得た、米国はニューイングランド出身の男性シンガー・ソングライター、トム・ギャロの新作セカンド・アルバム『Vanish And Bloom』が6/17にリリースされます(配信と同時リリースでもちろん世界初CD化!)。密やかで甘美なモノクロームのファンタジー、夢の輪郭をなぞるような音響構築と、ささやくような歌声に淡く深い余情が宿る、トム・ギャロならではの静謐な陰影や揺らめくような浮遊感が独創的な、正真正銘の傑作です。アプレミディ・セレソンでお買い上げの方にはもれなく(通販含む)、橋本徹・選曲のスペシャルCD-R『Best Of Suburbia Radio Vol.38』をプレゼント致しますので、お見逃しなく!


Tom Gallo『Vanish And Bloom』ライナー(渡辺亨)

密やかなトーンはそのままに、しかし、前作と音作りはかなり違っている。ひとことで言うと各曲はパーカッシヴなサウンドを軸に作られていて、ビートが脈打っている。そしてトム・ギャロ本人による多重録音のコーラスが、前作以上に各曲に豊かな響きをもたらしている。前作『Tell Me The Ghost』とこの『Vanish And Bloom』を聴き比べると、その差異は明らかだ。

トム・ギャロのデビュー・アルバム『Tell Me The Ghost』は、日本においては、2018年6月15日にCDとしてリリースされた。『Vanish And Bloom』は、その前作から約4年ぶりにリリースされたセカンド・アルバムにあたる。

『Tell Me The Ghost』でのトム・ギャロは、多くの曲でナイロン弦を張ったアコースティック・ギターを爪弾きながら、囁くように歌っている。ただし、音作りは、一般的なギターの弾き語りを基調としたシンガー・ソングライターとは一線を画したものだ。というのも、ギャロは、アコースティック・ギターの音色を加工していたり、そのアルペジオの音をミニマル・ミュージック風に編んだりと、独自の工夫を施しているから。そんな『Tell Me The Ghost』の音作りからの変化は、本作からの第1弾シングルである1曲目の「The Drumming」に象徴されている。この「The Drumming」がパーカッシヴなサウンドを軸に作られていることは、曲名からも明らかだ。アコースティック・ギターは影を潜めていて、その代わりに曲の途中からはキーボードのような音がぽつりぽつり聴こえてくる。ただし、パーカッシヴなサウンドとはいえ、ただ単に既成のドラムスやパーカッションを叩いているとは思えない。また、ギャロは『Tell Me The Ghost』同様、この曲でも囁くように歌っているが、多重録音によるコーラスがコントラストをなしつつ、ある種の明るさと開放感を生み出している。加えて、躍動的なリズムも感じられる。が、それでいて、曲自体のトーンは密やかで、ぼんやりとした闇や影、あるいは白黒の映像が頭の中に浮かんでくる。すなわちギャロの本質的な魅力は、いささかも損なわれていない。より細かい事柄は、後述することにしよう。

僕は、『Tell Me The Ghost』のライナーノーツに、モーゼス・サムニーがトム・ギャロのことを絶賛していることを記した。モーゼス・サムニーは1990年生まれの、ガーナ人の血を引く米国人シンガー・ソングライター。彼は、まず自主制作のEP『Mid-City Island』(2014)で世に出て、2017年にジャグジャグウォーからアルバム『Aromanticism』で全世界デビューを飾った。『Tell Me The Ghost』以降の二人の交流について、触れておこう。

2020年5月、モーゼス・サムニーのセカンド・アルバム『Græ』がリリースされた。アルバム・タイトルの“Græ”は、灰色を意味する英語の“Grey”と“Gray”にもとづくサムニーの造語だ。『Græ』は、パート1とパート2に大きく分かれている。そのパート1の最後にあたる12曲目の「Polly」、2枚組のLPだと、1枚目のB面の最後を飾る同曲は、サムニーとギャロの共作である。「Polly」は、サムニーの単独プロデュースで、もちろん彼が歌っている。ただし、演奏はサムニーがシンセサイザー、ギャロがギター、と二人のみ。しかもトム・ギャロの名は、計3人のエンジニアのうちの一人としてもクレジットされている。「Polly」は、本質的な意味合いにおいて、サムニーとギャロのコラボレイションだ。

「Polly」は、『Græ』からのセカンド・シングルとしてリリースされただけあって、アルバムの中でも指折りのアコースティック・バラードだ。 ギャロによるギターの爪弾きに乗せて、サムニーがファルセットを交えながら切々と歌う「Polly」は、ポリーに対する感情がひしひし伝わってくるといった意味でも、きわめて生々しい。しかもジェンダーを超えた官能的な魅力をたたえている。「Polly」は、米国の有名な音楽ウェブサイト「Pitchfork」において、“Best New Track”に選出されたが、他のいくつかの音楽メディアでも高く評価された。「Polly」をきっかけにギャロに対する注目度が俄然高まったことは、言うまでもない。

最近のギャロに関連する話を続けると、『Tell Me The Ghost』のタイトル曲は、ジョン・リドリー監督の映画『Needle In A Timestack』(2021)に使用された。この日本未公開作品は、SF作家であるロバート・シルヴァーバーグの同名小説をもとにしたもので、レスリー・オドム・ジュニアやオーランド・ブルームなどが出演している。また、ギャロは昨年、短編映画『The Palisades』に彼自身のヴォーカルとギターを基調としたオリジナル曲「In The Water」を提供した。『The Palisades』は、シンディ・クロフォードを母に持つ有名なモデル、カイア・ガーバーの主演作品。現時点では、まだ完成には至っていないようだが、「In The Water」は一部のメディアで公開されている。この『The Palisades』の監督と脚本は、写真家のカリッサ・ギャロ(Carissa Gallo)が手掛けている。同映画のプロデューサーは、アンドリュー・ギャロ(Andrew Gallo)。カリッサの公私にわたるパートナーであり、『Tell Me The Ghost』のプロモーション・ヴィデオを監督した人物だ。トム・ギャロ本人から寄せられた回答によると、カリッサとアンドリューはたまたま名字が同じだけで、親類ではないという。ただし、カリッサは、モーゼス・サムニーの写真も撮っている。彼女は、トム・ギャロとモーゼス・サムニーの双方から信頼を得ているようだ。ちなみに『Tell Me The Ghost』のジャケット写真の撮影者は、モーゲン・ギャロ(Morgen Gallo)。彼女は、トムの家族だという。

トム・ギャロは、アメリカ合衆国北東部のニューイングランド生まれ。デビュー以前の経歴は、『Tell Me The Ghost』のライナーノーツにまとめてあるので、ここでは繰り返さない。ギャロのホームページは、当然のことながら、存在している。また、インスタグラムには、本作のジャケット写真や『The Palisades』の関連映像が公開されている。ただし、ホームページには、バイオグラフィーは記載されていない。この『Vanish And Bloom』に関しても、2022年5月下旬の時点では、6月17日に配信リリースされることが告知されているくらいで、詳細な情報は記載されていない。『Tell Me The Ghost』のリリースに際して受けたインタヴュー記事やレヴュー等が掲載されているメディアにリンクが張られているものの、ホームページから得ることができる情報量は限られている。おそらくギャロは、インターネット社会から意図的に距離をとり、自分自身をなるべく静かな環境に置くようにしているのだろう。

前作と同じく、この『Vanish And Bloom』も、All songs written, recorded, produced and performed by Tom Galloとクレジットされている。つまり本作は、ギャロが、単独でほとんどの作業を手掛けたホーム・レコーディング作品。新型コロナウイルスのパンデミックが、直接的な原因ではない。この点は、とても重要だ。

前述したようにパーカッシヴなサウンドが、本作の随所から聴こえてくる。おそらくギャロは、手拍子をはじめ、自身の身体も使って、パーカッシヴなサウンドを作り出しているのだろう。3曲目の「Only The Blue」には、シンバルを叩いているような音が入っている。もっとも、本物の楽器の音かどうか判別できないし、この曲からは何かを擦っているような音も聴こえてくる。ギャロは高校生の頃からホーム・レコーディングに情熱を費やしてきた、いわば宅録の鬼であり、音響設計士かつ音響建築家と言ってもいいアーティスト。それだけに、いろいろなサウンドの正体は把握しがたい。確実に言えるのは、ギャロはミニマリズムを追求しつつ、自身の歌声をはじめとする多重録音を存分に駆使して、まったく独創的なサウンドを築き上げているということ。とにかく本作の音作りは前作以上に凝っていて、細部まで実に丁寧に作り込まれている。

トム・ギャロとの親和性を感じる現代のシンガー・ソングライターとしては、モーゼス・サムニーやジャスティン・ヴァーノン(ボン・イヴェール)、スフィアン・スティーヴンス、ジェイムス・ブレイクなど、何人かを挙げることができる。しかし、ギャロは彼らと同時代の空気を呼吸しつつ、独自の地平を切りひらいている。その意味でも、トム・ギャロの音楽には、“Isolation(孤立)”という言葉がよく似合う。ただし、ギャロの音楽はどこにも属していないからこそ、一般的な“Isolation”という概念から解き放たれている。これほどポジティヴな意味で、“Isolation”という言葉が似合うアーティストは、ニック・ドレイクやマーク・モリス(元トーク・トーク)のような故人を含めても、きわめて稀だ。そして『Vanish And Bloom』という相反する意味の言葉から成るアルバム・タイトルも、今回も静謐でありながら、多くのことを語りかけてくるモノクロのジャケット写真(ギャロ本人が撮影)も、こんなトム・ギャロにふさわしい。
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