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Marcos Ruffato『Vata』
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アプレミディ・レコーズの単体アーティスト作品第21弾として、2か月前の配信タイミングから絶賛の言葉がやまず「ブラジル・ミナス音楽2020年No.1アルバム」の呼び声高い男性シンガー・ソングライター、マルコス・ルファートのファースト・アルバムのフィジカル化となる日本盤CD『Vata』が11/28にリリースされます。「音楽家は静寂のスタイリスト」と語る彼らしい、たおやかで叙情あふれる歌心、ナチュラルな響きが美しい彩り豊かなアンサンブル、多彩なハーモニーとリズムを見事に昇華したメロディー/アレンジ/演奏/録音のすべてが素晴らしい、ゲスト参加したトニーニョ・オルタも最大級の讃辞を寄せる、ミナスの新しい才能が生んだ現代ブラジル音楽の金字塔です。アプレミディ・セレソンでお買い上げの方にはもれなく(通販含む)、橋本徹・選曲のスペシャルCD-R『Best Of Suburbia Radio Vol.27』をプレゼント致しますので、お見逃しなく!
Marcos Ruffato『Vata』ライナー(田方春樹 a.k.a. lessthanpanda)
『Vata』(ヴァータ)とは、インド発祥の「アーユル・ヴェーダ」と呼ばれる世界最古ともいわれる伝統的医学の考え方におけるドーシャ(体を構成する3つのエネルギー)のひとつで、「風/空」の性質を持つ。ヴァータが司るのは肉体的な運動、感覚の刺激や神経の伝達、そして呼吸。ドーシャにはヴァータの他にカパ(土/水)、ピッタ(火/水)という要素があり、これら3つのバランスが崩れると病気になると言われている。
2020年。新型コロナ禍によってあらゆる地平は暗く重い雲で覆われた。未知のウイルスによる病魔は世界中の人々から冷静さを奪い、その代わりに私たちが抱えるにはあまりに大きすぎる不安が与えられた。何かとその言動が物議を醸すボウソナロ大統領の感染も報じられたブラジルは、ご存知のように新型コロナウイルスによる最も深刻な打撃を受けた国のひとつだ。
本作の主人公であるミナスジェライス州出身のシンガー・ソングライター/ギタリストのマルコス・ルファートは、近年興味を持ち始めたというインド哲学に由来するタイトルを冠したこのファースト・アルバムで、この時代に懸命に生きる人々の心の不安を払拭しようとする。ヴァータ、それは地上を覆う厚い雲を吹き払う「風」のエネルギー。この音楽を聴くすべての人の心を少しでも明るくしたい、そんな願いが込められている。心理学者の顔も持つ彼は、どこまでも清く美しい風が通り抜けるような類稀な音楽を通じて、不安を抱える私たちに優しく話しかけてくれる。
マルコス・ルファートは1983年にミナスジェライス州の歴史ある町ウベラバに生まれ、祖父や両親もミュージシャンという家庭で幼少時から様々なジャンルの音楽に親しみながら育った。10代の頃から父親の仕事場であるスタジオに入り機材の使い方を覚え、16歳で初めて自分の演奏で収入を得、その日から地元のロック・バンドのギタリストとしてミュージシャンのキャリアをスタートさせている。
進学した大学では心理学を専攻するなど本格的な音楽の道には進まなかったが、音楽への情熱は失われなかった。ブラジルの街角で日常的に繰り広げられている気軽なセッション=ホーダ・ヂ・ショーロで演奏を重ねたり、12月の第1週にブラジル北東部のセアラー州で開催されるショーロ・ジャズ・フェスティヴァルにほぼ毎年参加し、そこで行われる一流ミュージシャンによるクラスに参加するなど自然体での地道な努力を重ね、その過程を通じて多くの人脈を築いてきた。
2016年、友人の勧めで初参加した器楽曲のコンテスト、BDMG Instrumentalで見事に優勝し、作曲家/バンドリン奏者としてブラジルの文化団体SESC(セスキ)が主宰するインストゥルメンタル・セスキ・ブラジルでいくつかの自作曲を披露。30代も中盤に差し掛かっていた彼の音楽家としての人生はこの辺りから大きく動き出した。この頃はSESCのステージのためにいくつかの器楽曲を書き、自身のショーロ・グループChoro da Merceariaでバンドリン奏者として活動したり、他のいくつかのグループでも演奏したが、もともとシンガー・ソングライター志向が強かった彼は友人の勧めもありクラウドファンディングを通じて資金を集め、ついにこのデビュー作の完成に漕ぎ着けた。
それにしても、なんと色彩豊かなアルバムなのだろう。本作で特筆すべきポイントはいくつもあるが、まずは全曲マルコス・ルファート自身の作詞作曲(12曲目「Serra de Luz」のみエヂルソン・パンテーラとの共作)による楽曲自体の優れたメロディー、アレンジ・センス。アルゼンチンのネオ・フォルクローレ勢にも通じる瑞々しさのある1曲目「O Azul」からして、その心地よさに耳だけでなく心も奪われる。リズムも曲調も様々で、多くはサンバやマルシャ、フレーヴォ、フォホーといったブラジルの伝統的なリズムにインスパイアされているが、ロックやジャズからの多様な影響も窺える。さらに目を引くのが参加しているゲストの多彩さだ。大御所から若手まで、ソロでも活躍する素晴らしいミナスの音楽家たちが一堂に集結している様は圧巻。ここにその一部を紹介しよう。
【1】「O Azul」では三姉妹ヴォーカル・グループのトリオ・アマラント(Trio Amaranto)がマルコスのバッキング・ヴォーカルとして美しいコーラスを重ねる。ピアノを弾いているクリストヴァォン・バストス(Cristóvão Bastos)は1946年生まれの重鎮。マルコスとは前述のショーロ・ジャズ・フェスティヴァルで出会い、そこから交流を深めている。ベースのカミラ・ホーシャ(Camila Rocha)は現在ミナス新世代で人気急上昇中の若い女性ミュージシャン。ドラムスのユリ・ヴェラスコ(Yuri Vellasco)も近年その名前を見かけることの多い若手の注目株だ。
【2】「Carta ao Patriota」ではヴォーカルにミナス新世代のバンド、グラヴェオーラのメンバーのジョゼ・ルイス・ブラガ(José Luis Braga)をフィーチュア。さらに2020年初頭のソロ・デビュー作も話題になったダヴィ・フォンセカ(Davi Fonseca/BDMG Instrumental 2018年受賞者)がローズ・ピアノを弾き、若手最高峰のギタリスト、フェリピ・ヴィラス・ボアス(Felipe Vilas Boas)がソロを聴かせる。
タウイ・カストロ(Tauí Castro)によるパンデイロの重いビートで始まる【3】「Peão-Rei」にはシンガーのハファエラ・スエイッチ(Rafaela Sueitt)やアコーディオン奏者のノナト・リマ(Nonato Lima)が参加。この曲はマルコスが少年期から親しんだブラジリアン・ロックの要素が垣間見え、マルコスは愛用の7弦ガット・ギター以外に祖父が所有していた70年代製作の古いスティール弦のギターも弾いている。
【4】「O Passo Faz o Chão」をマルコスと共に歌うイレーニ・ベルタシーニ(Irene Bertachini)も才気溢れる歌手。この曲の最後のコーラス部分にはミナス新世代を代表するシンガー・ソングライターのアレシャンドリ・アンドレス(Alexandre Andrés)やハファエル・ドゥトラ(Rafael Dutra)も参加している。
マルシャのリズムが軽快な【5】「Frevo pra Acordar」にはミナス音楽を半世紀にわたり牽引してきたトニーニョ・オルタ(Toninho Horta)がギターで参加、彼らしい爽やかなトーンでソロも披露する。トニーニョはマルコスから送られたこの曲のデモを聴いてすぐに気に入り参加を快諾し、アルバムには祝辞も寄せている。
美しいバラード【6】「Pescador」を歌うマイラ・マンガ(Maíra Manga)は同郷の多くのミュージシャンから信頼される実力派。マルコスは友人である彼女と一緒に参加していたヴォーカル・レッスンのクラスを通じてミナスのヴェテラン・シンガー・ソングライターのセルジオ・サントス(Sergio Santos)と出会い、この縁がきっかけとなりセルジオ・サントスは【10】「Setembro」に参加した。
【9】「Farol」には多くのシンガーがコーラスで参加しているが、外出禁止令のために録音はリモートで行われた。それぞれが自宅スタジオやスマートフォンで録音した声をマルコスに送りミックスされたという。
ほかにも前述のChoro da Merceariaのメンバーや、このアルバムを録音するように促した(マルコスに言わせると“挑発”した)友人でありベーシストのサー・レストン(Sá Reston)とドラマーのエドゥアルド・スエイッチ(Eduardo Sueitt)など多数の音楽家が参加しており、これほど各曲のクレジットを眺めるのが楽しいアルバムもそうそうないだろう。これらの素晴らしい音楽家たちの個性の集合を、マルコスは今でも夢のようだと語っている。
このアルバムはマルコス・ルファートという素晴らしいギタリスト/作曲家/歌い手が生み出した傑作だが、同時に前述のようなミナス界隈の多くの優れたミュージシャンたちや友人たちによる協力なくしては成り立たなかった作品でもある。これこそがブラジルの音楽文化の素晴らしさだと思う。人から人へ脈々と受け継がれながら、時にほかの文化に影響され変化し、新しい文化をつくり、それがまた継承されていく。このアルバムからはそんな幾重にも織り混ざった文化の豊かさや漲る生命力が感じられる。マルコス・ルファートはこう語っている──「良い風が僕らに『Vata』を運んでくれた。良い雰囲気、多くの人たちの寛大な協力。『Vata』はたくさんの人たちによる手作り(many-hands-made)のアルバムなんだ」。
古くはミルトン・ナシメントやロー・ボルジェス、最近は“ミナス新世代”と呼ばれる優れた音楽家たちを多数輩出し、独特の豊潤な音楽の発信源として注目され続けているミナスジェライスの音楽史に新たに加わったマイルストーン。音楽や自然への深い愛情が詰まった見事なアルバム。優しくも力強く吹く風は、きっとこの時代の不穏な雲を吹き払ってくれるだろう。
──トニーニョ・オルタによる祝辞(訳)──
『Vata』というアルバムを通じてマルコス・ルファートの音楽を聴いたとき、私は山と海が出会う場所にいるような感覚になりました。彼の豊かなメロディーは現実と夢の間を漂っています。CDのパーカッション、声、ギターやトロンボーンによるアレンジメントと美しいサウンドを通じて、アーティストの成熟ぶりと個性的な創造性を確信しました。アルバムの最初から最後まで、私たちは彼の歌の力強さ、大地と海についての詩情あふれる歌詞、そして美しく純粋で次元が高い愛への喜びと感謝の気持ちを見つけることができます。
おめでとう、ルファート! 船を支える木のように正確なギターに乗る君の声は、まるで森の中の小鳥のさえずりのようです。
君の洗練された音楽は軽快で親しみやすく、このCDによって、美しい音楽がもたらす魅力的な感覚にいつでも浸ることができます!