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Michael Seyer『Nostalgia + Bad Bonez』
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アプレミディ・レコーズの単体アーティスト作品第20弾として、「21世紀版シュギー・オーティス×マイケル・フランクスのような絶妙のセンス」と絶賛されるカリフォルニアの若き才能、マイケル・セイヤーの配信&アナログ盤限定だった最新ミニ・アルバム(コンピ『Cafe Apres-midi Bleu』にセレクトされたメロウな西海岸産現行シティー・ポップとしても大人気の「I Can't Dance」も収録)と現在入手困難な傑作セカンド・アルバムをカップリングした日本独自企画スペシャルCD『Nostalgia + Bad Bonez』が6/19にリリースされます。とろけるようなスウィート・サイケデリア、極上ローファイ・ベッドルーム・ソウル〜チルアウト・AORの逸品として、高感度の音楽好きから熱狂的に支持される両作品に収められた計19曲をコンプリートしたお得盤にして、マイケル・セイヤー本人監修のもとアートワークも新たに制作されたプレミアムな一枚で、フランク・オーシャンやベニー・シングスやモッキー、トミー・ゲレロから坂本慎太郎、さらには70年代のAORやシティー・ポップのファンにまで幅広くおすすめです。アプレミディ・セレソンでお買い上げの方にはもれなく(通販含む)、橋本徹・選曲のスペシャルCD-R『Best Of Suburbia Radio Vol.26』をプレゼント致しますので、お見逃しなく!
Michael Seyer『Nostalgia + Bad Bonez』ライナー(青野賢一)
本作『Nostalgia + Bad Bonez』は、カリフォルニア州ガーデナのシンガー・ソングライター/トラック・メイカー/マルチ楽器奏者のマイケル・セイヤーが2018年に発表したアルバム『Bad Bonez』と2019年のEP『Nostalgia』をカップリングした、日本独自企画盤である。前者はもともとは配信と200本限定のカセットテープでリリースされ、のちにCD/アナログ・レコード化された作品。日本盤CDは本作と同じくApres-midi Recordsからリリースされている。後者については配信とカセットテープ、そしてアナログ・レコードで世に出された。現在では『Bad Bonez』『Nostalgia』ともにフィジカルでの入手は困難という状況にあり、このカップリング作の発売は実に喜ばしいことである。
ここで簡単にマイケル・セイヤーのリリース歴を追ってみると、2016年の4曲入りEP『Bag O’Junk』とアルバム『Ugly Boy』がデビュー作ということになろうか。『Bag O’Junk』は前半2曲がインストゥルメンタル曲、後半2曲がヴォーカル曲。ギター、シンセサイザー、打ち込みと思しきリズム・パートなど、楽曲を構成する要素は近作とさして変わらないが、メロディーの醸し出すムードは『Bad Bonez』とはやや趣を異にするところがある。『Ugly Boy』では、のちの彼の作品に引き継がれるレイドバックしたローファイ・ベッドルーム・ソウルという側面はあるものの、同時にガレージ・ロックやポスト・ロックの要素も感じられるオルタナティヴな内容だ。翌年にリリースされた『Greetings!』は、前年の2作を整理して洗練させた印象の4曲入りEP。シンセ中心のドリーミーなナンバーからギターの弾き語りまでと、ヴァリエイションを持たせつつもまとまっている小品といえよう。
2018年に『Bad Bonez』が発売された頃、同作を評していわれていたのが、「21世紀版シュギー・オーティス × マイケル・フランクス」という謳い文句である。シュギー・オーティス『Inspiration Information』(1974)の親密なベッドルーム・ミュージック感、マイケル・フランクスの内省的かつ洒脱なムード、どちらも『Bad Bonez』に収録された楽曲を簡潔に表現するのに適した喩えと当時思ったし、今もそのように感じる部分はあるのだが、今回改めてマイケル・セイヤーの曲をすべて聴き直したうえで、そこにもうひとつ付け加えるべき要素があるのではと考えた。それは東南アジアのムードである。これは彼の出自とも関連していると思われるのだが、その部分を次の段落で述べてみたい。
先に『Bag O’Junk』について、「メロディーの醸し出すムードは『Bad Bonez』とはやや趣を異にするところがある」と書いた。では、そのメロディーとはいったいどんなものかといえば、どこか東南アジア諸国のポップス──アメリカ産のロックンロールと現地の音楽が混ざり合ってできたようなそれ──を彷彿させるものだ。この傾向は『Ugly Boy』でも感じられるが、それ以降の作品についてはさほど前面には出てこない。しかし、端々にそうしたニュアンスは残っており、それゆえ東南アジア的なねっとりとした湿度が彼の楽曲に通奏低音のように存在しているといえるのではないだろうか。マイケル・セイヤーはフィリピンで生まれ、のちに家族でアメリカに渡った人物。ウェブサイト「ones to watch」のインタヴューによれば、アメリカに移住してからの学生生活時には、フィリピン人であるがゆえにコミュニティーに馴染めないなどの葛藤もあったというが、そうした「アメリカに溶け込みたい」感覚とフィリピン人としてのアイデンティティーというアンビヴァレントな感情を抱えていることが、そこはかとなく作品から伝わってくるように思う。つまり、単に耳に優しいだけのベッドルーム・ミュージックではないのである。
今回、『Bad Bonez』とカップリングされた最新EP『Nostalgia』およびそこからの先行配信曲のアートワークに目をやると、東南アジア系と思しき女性、男性、そして子どもの写真が用いられている。おそらく被写体は子ども時代のマイケル・セイヤーと両親であろう。このことからもわかるように、『Nostalgia』は自身の過去をインスピレイション源にしたものだ。しかし、今年3月の「NOISE POP FESTIVAL 2020」での彼を紹介するテキストに「日本のシティー・ポップ、ブラジルのブギー、そして彼の両親がカラオケで歌っていた曲──これらの影響がマイケル・セイヤーを今日のインディー・ポップ界で音楽制作を行うアーティストの中でも最も個性的な一人たらしめている一助となっている」(拙訳)とあるように、自分の過去という限定的な時間だけでなく、「両親がカラオケで歌っていた曲」、あるいは彼が興味を持っている様々な過去の音楽のエッセンスを絶妙にちりばめて、いつの時代の作品かわからないタイムレスなヴィンテージ感を見事に表現しているところが実にユニークだ。ヴィンテージ感ということでいえば、キング・クルールも思い浮かぶが、キング・クルールが英国的なグレイッシュなムードである一方、マイケル・セイヤーは湿度を感じるサウンド。ある意味対照的で興味深いところだ。
『Bad Bonez』の発売以来、私は暑い盛りになるとマイケル・セイヤーの音楽を無性に聴きたくなってしまう。暑いなら涼しげな音楽を聴けばいいのに、と思う方もおられるかもしれないが、夏なればこそ、このじんわりと湿気を帯びたサウンドがしっくりくるのである。その意味では、細野晴臣の『トロピカル・ダンディー』に収録されている「熱帯夜」にも通じるものがあるように思う(こちらは蒸し暑い夜のお供といったところではあるが)。さて、時が止まったように静かな真夏の昼下がり、彼のタイムレスな音楽で今年もとろけてみようではないか。