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Banti『Proyecciones』
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アプレミディ・レコーズの単体アーティスト作品第19弾として、アルゼンチン・コルドバ出身のシンガー・ソングライターSanti BaravalleがBanti名義で配信のみで発表していた名作ファースト・アルバム『Proyecciones』が5/29にリリースされます(この日本盤CDが世界最初のフィジカル・リリース)。リリカルなピアノの輝きと共に色彩豊かでしなやかなSSWとしての魅力と才能が冒頭からあふれだし、中南米音楽特有の高揚感と清涼感を併せもつ複雑なリズムとたおやかな歌心に包まれるメロウな一枚で、カルロス・アギーレ/アカ・セカ・トリオ/スピネッタなどのアルゼンチン勢から“街角クラブ”に代表されるブラジル・ミナスの音楽を愛する方にまで大推薦したい、早くも2020年ベスト・アルバムの声もあがる注目作です。アプレミディ・セレソンでお買い上げの方にはもれなく(通販含む)、橋本徹・選曲のスペシャルCD-R『Best Of Suburbia Radio Vol.24』をプレゼント致しますので、お見逃しなく!
Banti『Proyecciones』ライナー(渡辺亨)
ブエノスアイレスの西北西700kmに位置するアルゼンチン第二の都市、コルドバ。Bantiは、この街に住んでいるサンティアゴ・バラヴァーレ(Santiago Baravalle)というキーボード奏者兼シンガー・ソングライターのソロ・プロジェクトである。
ここ数年の間、カルロス・アギーレやアカ・セカ・トリオ(フアン・キンテーロ、アンドレス・ベエウサエルト、マリアーノ・カンテーロ)、キケ・シネシ、フアナ・モリーナ、ギジェルモ・リソットなどの度々の来日、そしてディエゴ・スキッシやセバスティアン・マッキ、パブロ・フアレス、クリバスなどの初来日に象徴されるように、現在進行形のアルゼンチンの音楽が日本でより広く聴かれるようになってきた。と同時に、首都のブエノスアイレスだけでなく、コルドバ、ロサリオ、パラナ、ラ・プラタといったアルゼンチンの地方都市の音楽シーンも日本に少しずつ知られるようになった。カルロス・アギーレはパラナ、アカ・セカ・トリオはラ・プラタ、ギジェルモ・リソットはロサリオといった大きな川の流域の街を代表するアルゼンチンのアーティストだが、冒頭にも記したとおり、Bantiはアルゼンチン内陸部のコルドバ出身だ。
僕の自宅のCD棚には、数はそれほど多くないものの、2000年代以降のコルドバのアーティストのアルバムが並んでいる。カルロス・アギーレのレーベル、シャグラダ・メドラからリリースされたフアンホ・バルトロメ(Juanjo Bartolome)の『Luminilo』(2011)や大洋レコードを通じて日本に紹介されたメリー・ムルア&オラシオ・ブルゴス・トリオ(Mery Murua & Horacio Burgos Trio)の『アカシア(Acacia)』(2015)、男性シンガー・ソングライターのロドリゴ・カラソ(Rodrigo Carazo)の『Oir E iR』(2016)、女性シンガー・ソングライター兼ピアニストと男性ベーシストのデュオであるクララ・プレスタ&フェデ・セイマンディ(Clara Presta & Fede Seimandi)の『Casa』(2018)などだが、このうち、ロドリゴ・カラソは、クララ・プレスタ&フェデ・セイマンディの『Casa』と本作『Proyecciones』に繋がっている。というのも、ロドリゴが、どちらのアルバムにも客演しているからだ。ちなみに現在コルドバには、どんなミュージシャンがいるのかということを知りたければ、地元の放送局“redacción 351”のホームページをお薦めする。“Música de Córdoba 2019”では、このBantiの『Proyecciones』も紹介されている。
さて、Bantiとは、いったい何者なのか? 現地のメディアでも、Bantiはまだ大きく取り上げられたことはないようで、詳しいプロフィールを紹介することはできない。ただし、これまではヌナ・マルタ(Nuna Malta)というレゲエ・バンドで約10年間にわたって活動。同バンドは、アルバム『Espiritu Animal Joven』(2014)と『Universo de Azar』(2016)をリリースしている。また、セッション・キーボーディストのサンティ・バラヴァーレ(Santi Baravalle)としては、けっこうな売れっ子だ。コルドバ出身のトリオであるミエル(Miel)の『Miel』(2016)や、この『Proyecciones』の4曲目「Escaleras Infinitas」にゲストとしてフィーチャーされているアシィ(Así)の『Así』(2017)でも演奏している。また、インターネット上には、サンティ・バラヴァーレの演奏している姿が捉えられた動画がいくつか挙げられていて、その中には、本作の2曲目「Lucio」と6曲目 「Escalares Infinitas」に参加しているジュリエッタ・バラヴァーレ(Julieta Baravelle)とのデュオ、ジュリ・イ・サンティ(Juli y Santi)としての映像も含まれる。ジュリエッタは、彼の妹らしい。動画の中には、二人が本作の2曲目「Lucio」を屋内で一緒に歌っている映像(2015年に撮影)もあれば、屋外でフィト・パエスの「Pétalo De Sal」を披露している映像(2014年に撮影)もある。また、サンティが単独でチャーリー・ガルシアの「Suicida」をカヴァーしている映像も観ることができる。いわゆるロック・ナシオナル(アルゼンチン・ロック)の三大スターといえば、チャーリー・ガルシア、ルイス・アルベルト・スピネッタ、フィト・パエスというのが定説だ。Bantiは、1985年生まれのロドリゴ・カラソとほぼ同世代だと思われる。彼らは、ロック・ナシオナルの影響を当たり前のものとして吸収し、欧米のロックやポップ、アルゼンチンのフォルクローレ、南米全般さらには世界各地のワールド・ミュージックに影響を受けた新世代のミュージシャンと言えるだろう。
『Proyecciones』は、2019年11月に配信リリースされたBantiのファースト・アルバムである。8曲のうち、4曲に計4組のゲスト・ミュージシャンがフィーチャーされている。「Proyectando Sueños」のロドリゴ・カラソ、「Escaleras Infinitas」のアシィ、「Vuelve Amar」のパニ(Pani)、「Raíces de Conexión」のモノ・ベネガス(Mono Benegas)とエル・ペルフィール(El Perfil)の4組だ。アシィは、シンガー・ソングライターでマルチ楽器奏者でもあるゴンサ・サンチェス率いるバンド。アルバム『Así』にはロドリゴ・カラソが計4曲、サンティ・バラヴァーレが1曲に参加している。この事実が示しているように、『Así』は現在のコルドバの音楽シーンのひとつの指標と言うべきアルバムだ。
モノ・ベネガスは、サンティアゴ・デル・エステロ州出身のベーシスト兼シンガー・ソングライター。エル・ペルフィールも同州出身の4人組バンドである。このようにロドリゴ・カラソ、アシィ、パニが客演している本作は、『Así』と同じく、現在のコルドバの音楽シーンのひとつの指標と言っていいだろう。
かつては主にレゲエを演奏していたBantiは、ジャマイカに加えて、ブラジルやキューバなどの音楽の影響も受けている。現に冒頭を飾る「El Mundo Va a Cambiar」や次の「Lucio」は、キーボードやコーラスのメロディーの流麗さという点で、カルロス・アギーレを筆頭とするネオ・フォルクローレ、さらにはブラジルのミナスのアーティストの音楽に通じる魅力が感じられる曲だ。また、「Lucio」や6曲目の「Vengo Voy」のリズムはキューバ音楽系のラテンと結びついている。ところが、3曲目の「Vuelve Amar」には、明らかに欧米のロックやファンクの影響が見出せる。Bantiは、レゲエをキーワードとしてスティングが率いていたポリスと繋がっているが、この「Vuelve Amar」はポリスを連想させる。同様にロドリゴ・カラソが参加している「Proyectando Sueños」の疾走感やめくるめく展開も、いわば南米の風を運んでくるポリスのようであり、プログレッシヴ・ロック的でもある。チャーリー・ガルシアやルイス・アルベルト・スピネッタの音楽は、アルバムによってはプログレッシヴ・ロックに分類されているが、この観点からすると、Bantiはアルゼンチン・ロックの伝統を汲んでいるとも言えるだろう。
このように『Proyecciones』は、Bantiが幅広い音楽に影響を受けてきた新世代のコルドバのミュージシャン/シンガー・ソングライターであることを伝えるアルバムだ。実は、僕はカルロス・アギーレが主宰するレーベル、シャグラダ・メドラからリリースされる予定となっているロドリゴ・カラソの新作を一足先に耳しているが、そのアルバムと本作を聴いて、コルドバの音楽シーンに俄然興味がわいた。