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Tigana Santana『Vida-Codigo』

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Apres-midi Records - Artists

アプレミディ・レコーズの単体アーティスト作品第18弾として、翳りを帯びた内省的な歌声から“アフロ・ブラジルのニック・ドレイク”と異名をとるバイーア生まれの黒人男性シンガー・ソングライター、チガナ・サンタナの4年ぶり4作目となるフル・アルバム『Vida-Codigo』が12/13にリリースされます。自身のルーツであるアフリカとブラジルの音楽、そのスピリチュアリティーの探究と長く深い思索を経てたどりついた最新作(この日本盤CDが世界最初のフィジカル・リリース)は、これまでで最も安らぎと静寂を感じさせる穏やかな大名作で、淡々と刻まれるリズムやゆったりと奏でられるギターのアルペジオ、心地よく揺らぐエレクトリック・ピアノなどのシンプルなアレンジの中心にあるのは、インティメイトで滋味深い歌声。その叙情に満ちたメロディーに宿る静謐な美しさに胸を打たれる、正真正銘の大推薦盤です。アプレミディ・セレソンでお買い上げの方にはもれなく(通販含む)、橋本徹・選曲のスペシャルCD-R『Best Of Suburbia Radio Vol.23』をプレゼント致しますので、お見逃しなく!


Tigana Santana『Vida-Codigo』ライナー(渡辺亨)

チガナ・サンタナは2014年1月、故郷のバイーア州サルヴァドールおよび自分自身のルーツを探る音楽の旅の一環として、セネガルのダカールに足を運び、複数のアフリカ人ミュージシャンと共演した。そうして生まれたアルバムが、主にダカールで録音された前作『テンポ&マグマ(Tempo & Magma)』(2015)である。その前作から約5年ぶりに届けられた本作『ヴィダ・コーディゴ(Vida-Código)』は、サルヴァドールでの録音。チガナはサルヴァドール生まれだが、2010年以降はサンパウロを拠点に活動している。にもかかわらず、この新作をあえて約10年ぶりにサルヴァドールで録音したことが示しているように、チガナの“アフロ・ブラジル”へのこだわりに基づく音楽の旅は、継続かつ深化している。

16世紀から17世紀にかけて、アフリカ大陸から奴隷として連れてこられた人々が持ち込んだ文化や宗教の痕跡が色濃く残っているブラジル北東部のバイーア州。チガナ・サンタナは1982年12月29日、ここの州都サルヴァドールで生まれた。チガナは、ある種の霊妙なフィーリングを宿した歌声の持ち主で、14歳のときから始めたというアコースティック・ギターを爪弾きながら、主にオリジナル曲を呟くように静かに歌う。これが彼の基本的な音楽スタイルだ。シンガー・ソングライターとしてのチガナのたたずまいは常に静謐で、思索的かつ瞑想的な空気を漂わせている。言い換えるなら、宗教家や哲学者、あるいは詩人のような風情を漂わせている。チガナは、2015年8月下旬に初来日公演を行った。僕は“SUKIYAKI TOKYO 2015”として、マリのベカオ・カンテットとの対バンで行われた8月26日の東京公演を観たが、ステージにおける彼の風情はまさに哲学者や宗教家のようだった。

実際のところ、チガナは幼い頃からカンドンブレの儀式に直接触れ、バイーア連邦大学(UEBA)では哲学を専攻した。カンドンブレは、アフリカのヨルバ族の土着宗教を基盤としたブラジルの民間信仰のひとつ。サルヴァドールはカンドンブレの中心地だ。ちなみに『テンポ&マグマ』には、2015年の時点で90歳だったサルヴァドール在住のカンドンブレの女司祭がフィーチャーされた「Guinean Hunters' Traditional Chant」という曲が収められている。また、チガナはサンパウロ大学の現代文学部の大学院における博士課程の研究生でもあった。大学院でのチガナは、主にアンゴラで話されているキンブンド語(Kimbundu)と、コンゴ共和国やコンゴ民主共和国などで話されているキコンゴ語(Kikongo)を研究した。だからこそチガナのセカンド・アルバム『The Invention Of Colour』(2012)には、歌詞にキンブンド語とキコンゴ語を含む曲が収録されているが、この『ヴィダ・コーディゴ』でもブラジル・ポルトガル語に加えて、曲によってキコンゴ語、スペイン語、フランス語を取り入れている。

ブラジルにおける奴隷制の歴史については、『テンポ&マグマ』のライナーノーツに記したので、ここでは繰り返さないが、ポルトガル語とアフリカの言語の関係について少し触れておこう。現在ポルトガル語を公用語としている国は、ポルトガルとブラジルに加えて、アフリカのアンゴラとカーボヴェルデ、ギニアビサウ、サントメプリンシペ、モザンビーク、赤道ギニア、アジアの東ティモール、マカオの計10か国。アフリカ最大のポルトガル語人口を擁するアンゴラは、旧ポルトガルの植民地であり、ブラジルへのアフリカ人奴隷の主要な供給源だった。チガナは言語の面でも、“アフロ・ブラジル”のルーツを探求していて、だからこそキンブンド語やキコンゴ語を研究してきたのだ。

『テンポ&マグマ』以降のチガナ・サンタナの主な活動を紹介しよう。

まずチガナは、2015年にリリースされたバイーア出身の女性歌手ヴィルジニア・ホドリゲス(Virginia Rodrigues)の通算5作目にあたるアルバム『Mama Kalunga』に全面的に関わっている。このアルバムは、チガナが『The Invention Of Colour』以来、音楽上のパートナーとして強い信頼関係を築き上げてきたスウェーデン人のパーカッション奏者セバスティアン・ノティーニとの共同プロデュース。しかも全13曲のうち、4曲がチガナの曲で(『テンポ&マグマ』に収録されている「Mon'Nami」を含む)、彼はギターやパーカッションなどでも、このアルバムに関わっている。“Kalunga”は、ブラジルのゴイアス州の人里離れた居住地に住んでいたアフリカ系ブラジル人のことを指す。チガナが一貫して追究してきた“アフロ・ブラジル”というテーマは、『Mama Kalunga』にも通底していることが伝わるだろう。

チガナ・サンタナの曲は彼自身と同じく、バイーア出身で現在はサンパウロを拠点に活動しているシェニア・フランサ(Xenia França)のデビュー・アルバム『シェニア(Xenia)』(2017)にも収録されている。このアルバムで取り上げられている「Do Alto(丘の上)」は、チガナのファースト・アルバム『Maçalê』(2010)に収録されている曲だ。

このライナーノーツを書くために最近のチガナの動向を検索したところ、興味深いライヴの情報を得ることができた。チガナは、2019年11月6日から10日までサルヴァドールで開催された第5回“Festival Radioca”において、他の二組のアーティストと共に初日を飾った。他の二組のうちの一組は、チン・ベルナルデス(Tim Bernardes)。サンパウロを拠点に活動しているロック系バンド、オ・テルノ(O Terno)のメンバーで、ソロ・アルバム『ヘコメサール(Recomeçar)』(2018)をリリースしているシンガー・ソングライターだ。ちなみにオ・テルノは今年、新作『Atras/Alem』をリリースしたが、このアルバムにはデヴェンドラ・バンハートと坂本慎太郎がゲストとして参加している。もう一組は、 『Rasif』(2018)で世界デビューを飾ったアマーロ・フレイタス(Amaro Freitas)率いるトリオ。アマーロ・フレイタスは、ペルナンブーコ州を拠点に活動している気鋭のジャズ・ピアニストだ。チガナ・サンタナとチン・ベルナルデスとアマーロ・フレイタス・トリオ。この組み合わせには心が躍る。日本でも、ぜひ実現してほしいものだ。あえて書き添えておくと、チガナと同じく、セバスティアン・ノティーニも、サルヴァドール出身の女性歌手ルエジ・ルナ(Luedji Luna)のデビュー・アルバム『ウン・コルポ・ノ・ムンド(Um Corpo No Mundo)』(2017)を単独でプロデュースするなど、着実にキャリアを積み重ねている。

この『ヴィダ・コーディゴ』は、チガナ・サンタナとセバスティアン・ノティーニの共同プロデュース。この新作でまず特筆すべき点は、チガナが「Disu ye Mvula」「Meios」「Do Fundo」の計3曲でエレクトリック・ギターを演奏していることだ。チガナは、これまで主に独自のチューニングを施した5弦のアコースティック・ギター(“drumguitar”とクレジットされてきた)を弾いてきたから、これは見過ごせない変化である。しかもレオナルド・メンデスのエレクトリック・ギター、アリーネ・ファルカンのローズ・ピアノがフィーチャーされた曲もあり、これまでのアルバムと比べると、エレクトリック楽器の比重が大きい。もっとも、各曲の楽器編成はシンプルで、ローズ・ピアノやアコーディオンが入っている曲もあるものの、アルバム全体の音数は前作に比べても、はるかに少ない。つまりミニマリズムが徹底されている。

本作には、オリジナル以外の曲が2曲含まれている。そのうち、「Ilê, Se eu não gostasse de você」は、サルヴァドールで結成された老舗のブロコ・アフロのグループ、イレ・アイェがジルベルト・ジルとリミーニャの共同プロデュースによるアルバム『Canto Negro』(1984)で録音している曲だ。しかもチガナは、この曲をセバスティアン・ノティーニによるパーカッションの伴奏だけで、母親とデュエットしている。イレ・アイェのヴァージョンと違って、リズムは前面に打ち出されていないものの、アフロ・ブラジル性とスピリチュアルな雰囲気が色濃く感じられ、前述した「Guinean Hunters' Traditional Chant」と同じく、サルヴァドールに深く根づいている伝統を掘り起こした曲と言っていいだろう。

「Palavra de Honra」は、アルジーラ・Eことアルジーラ・エスピンドーラ(Alzira Espindola)の曲。アルジーラは、ブラジル西部のマットグロッソ・ド・スル州出身の女性シンガー・ソングライター。アルジーラとチガナは、ステージで共演したことがある。なおアルジーラは、妹のテテ・エスピンドーラとのコラボレイション・アルバムもリリースしている。この「Palavra de Honra」は、ローズ・ピアノだけの伴奏でしっとり歌われている。先に触れたようにエレクトリック・キーボードの導入は新機軸で、チガナのヴォーカルとの組み合わせは、やけに新鮮だ。

『ヴィダ・コーディゴ』の幕開きを飾る曲は、「Flor Destinada」。この曲で耳を引きつけるのは、ほのかな寂寥感を漂わせたチガナのヴォーカルに加えて、パーカッションとアコーディオンのアンサンブルだ。アコーディオンは、フランスのミュゼットやケルト音楽などヨーロッパの音楽によく使われている楽器だが、中南米にも広く普及しており、ブラジルのバイオーンやフォホー、セルタネージョにも用いられる。それだけに、この「Flor Destinada」には、アフリカからの移民が数多く住んでいるパリ経由のアフロ・ブラジル音楽といった雰囲気が感じられる。チガナ・サンタナとレオナルド・メンデスによる2本のエレクトリック・ギター、そしてセバスティアン・ノティーニのパーカッションが絶妙に絡み合う3曲目の「Disu ye Mvula」の音楽的アイデンティティーは、まさにアフロ・ブラジル。表題曲「Vida-Código」の楽器編成も同様で、こちらもアフロ・ブラジル的なるものに対する強いこだわりが感じられる。チガナ・サンタナなりのアフロ・ブラジルというテーマの追求という点では、5曲目の「Meios」も注目に値する。というのも、クレジットによると、この曲で奏でられている弦楽器は、エレクトリック・ギターとアコースティック・ギター、ウクレレ、ベースとなっているが、まるでコラのような音色が聞こえてくるからだ。コラは、西アフリカ発祥のリュート型撥弦楽器。この「Meios」は、ギター・コードの神秘的な響きも含めて一種の瞑想のような効果、つまり聴き手の心身に安静と静寂をもたらせてくれる。

先に触れた“SUKIYAKI TOKYO 2015”におけるチガナ・サンタナのライヴの後、僕は彼とほんの少しだけ会話をする機会を得たが、別れ際に持参した『テンポ&マグマ』のブックレットに以下の言葉を書いてくれた。

“I Hope You Enter This Music”

チガナ・サンタナの沈潜した音世界に浸る。そうすれば、彼の歌声は、雨水が乾いた大地に吸収されるように心によりいっそう深く染み込み、記憶の古層を刺激してくれる。そのとき、はるかに過ぎ去った時間や遠く離れた場所、そこで出会った人への秘めたる想いが湧き立つ。チガナ・サンタナが喚起する哀感は、こうした意味での“サウダーヂ”に他ならない。
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