• NEW
商品コード: 00003764

V.A.『Heisei Free Soul』

通常価格(税込): 2,640
販売価格(税込): 2,640
ポイント: 24 Pt
大変お待たせしました! シリーズ通算120作以上を数え累計セールス120万枚以上を誇る人気コンピ“Free Soul”の25周年記念特別企画となる最新作『Heisei Free Soul』(平成フリー・ソウル)が8/7にリリースされます。元号が変わるのを機に平成元年(1989年)から毎年を振り返り、その曲を聴けばその年を思い出す、時代を彩ったグルーヴィー&メロウな名作の数々を様々な思い出を胸に楽しむことができる、平成レトロスペクティヴの決定版となる文句なしの全31曲です。アプレミディ・セレソンでお買い上げの方にはもれなく(通販含む)、橋本徹・選曲のスペシャルCD-R『Heisei Free Soul - Outtakes』(Side-A/Side-Bの2枚組)をプレゼント致しますので、お見逃しなく!


『Heisei Free Soul』ライナー(橋本徹)

シリーズ通算120作以上を数え、2019年春に25周年を迎えたコンピレイションFree Soulの、令和初のリリースとなる最新作『Heisei Free Soul』は、元号が変わるのを機に平成元年(1989年)から毎年を振り返り、各年を象徴する名作をグルーヴィー&メロウなFree Soul的視点からセレクトした、言わば平成レトロスペクティヴの決定版企画。その曲を聴けばその年を思い出す、時代を彩った名曲の数々を様々な思い出を胸に楽しんでいただけたら、という気持ちで選曲した。

それは同時に、時代や世代をこえてエヴァーグリーンな光を放ち続ける名曲群でもあり、平成とともに歩んできたFree Soulムーヴメントを一望することもできる。思えば平成という時代は、ちょうどCDの時代と重なっていた。CDの登場とそれに伴う復刻の活性化はFree Soulの隆盛と表裏一体で、音楽の新旧やメジャー/マイナーという区分けをフラットにして、歴史を横に(自由な角度から)見る豊かさやジャンルを横断する楽しさを教えてくれた。そしてCDというフォーマットはコンピレイションに最も相応しい、と僕は感じている。

収録希望曲のアプルーヴァルに時間がかかり、制作期間に約半年を要してしまった(当初のリリース予定は令和初日となる2019年5月1日だった)『Heisei Free Soul』だが、担当ディレクターを始め楽曲の使用許諾に尽力してくださった皆さんには心から感謝したい。本当にあの曲もこの曲もという感じで、世界一豊富な有力レーベルのカタログを保有するUNIVERSALの音源を中心に、SONYからの8曲を始めとする他社ライセンスの強力音源も加え、まさにベスト・オブ・ベスト・セレクションを実現することができたと思う。

セレクトの基準は複合的で、その年を代表するヒット曲(MVも印象的な)だったり、Free SoulのDJパーティーやコンピで特に人気を博した曲だったり、個人的な好み(よくDJプレイしたとかプライヴェイトでよく聴いたとか)も反映されていたりと、様々な要素をはらんでいるが(UNIVERSAL音源が半分以上というのも必要条件)、コンピレイションの企画が立ち上がった2019年1月に僕が提出したアプルーヴァル申請曲(収録希望曲)のリストも、ライナーノーツの最後に付記したいと思う。収録OKの知らせをいただきながら惜しくも選外となった曲、ライセンス不可だった曲、選曲のしめきりまでに返事が届かなかった曲も含むが、実際に収録された曲は太字で表記してある。それらはその年にあった社会的な出来事も絡めながら、waltzanovaが丁寧に全曲解説してくれているので、そちらもぜひ読んでほしい。

偶然ながら全100曲となっているリストを眺め改めて感じるのは、90年代と2010年代は自分(やFree Soul)とメインストリームのヒット作の趣味・音楽性が比較的クロスしたディケイドだったのかな、ということだ。そういう意味でも、『Free Soul 90s』や『Free Soul ~ 2010s Urban』のコンピ・シリーズを何枚も作ることができたのは幸せだ。今回どうしてもインデックスに名前があってほしいアーティストが誰だったか、というのもリストを見ていただくとうかがい知れると思う。『Heisei Free Soul』の発売が2回にわたり延期になってしまったのは、2010年代のどこかにケンドリック・ラマーとフランク・オーシャンの名を、と僕が強く思っていたことも一因だったりする。

もちろん僕としては自信をもってベストと言える選曲を心がけたが、残念ながら収録されなかった楽曲のタイトルを目にして、個人的な記憶や感情、大切な思い出がよみがえる方も多いだろう。そんな皆さんは、よかったらサブスクリプションなどを使って、ご自身の『Heisei Free Soul』プレイリストを作って楽しんでみていただけたらと思う。令和のリスニング・ライフは、きっとCDよりもそうした楽しみ方が主流になっていくのかもしれない。

1989年/平成元年
Soul II Soul / Keep On Movin’
De La Soul / Eye Know〈The Know It All Mix〉

1990年/平成2年
Deee-Lite / Grooves Is In The Heart
A Tribe Called Quest / Can I Kick It?
Courtney Pine feat. Carroll Thompson / I'm Still Waiting
Beats International / Dub Be Good To Me

1991年/平成3年
De La Soul / A Roller Skating Jam Named “Saturdays”〈Disco Fever Mix〉
Lenny Kravitz / It Ain’t Over ‘Til It’s Over
Shanice / I Love Your Smile
Frankie Knuckles / The Whistle Song
Massive Attack / Be Thankful For What You’ve Got

1992年/平成4年
Swing Out Sister / Am I The Same Girl
The Brand New Heavies feat. N’Dea Davenport / Never Stop
Jamiroquai / When You Gonna Learn?
Sade / Kiss Of Life
En Vogue / Give It Up, Turn It Loose

1993年/平成5年
A Tribe Called Quest / Award Tour
SWV / Right Here〈Human Nature Radio Mix〉
Lisette Melendez / Goody Goody〈Hip Hop Mix〉
Des’ree / You Gotta Be

1994年/平成6年
TLC / Waterfalls
Beck / Loser
Aaliyah / At Your Best (You Are Love)
R. Kelly / Summer Bunnies〈Summer Bunnies Contest Remix〉

1995年/平成7年
The Pharcyde / Runnin’〈Smooth Extended Mix〉
D’Angelo / Brown Sugar
The Cardigans / Carnival

1996年/平成8年
Jamiroquai / Virtual Insanity
Nuyorican Soul feat. India / Runaway
Eric Clapton / Change The World
Mary J. Blige feat. LL Cool J / Mary Jane (All Night Long) 〈Remix〉

1997年/平成9年
The Brand New Heavies / You Are The Universe
Janet Jackson feat. Q-Tip & Joni Mitchell / Got ‘Til It’s Gone〈Mellow Mix〉
Erykah Badu / On & On
Roni Size Reprazent / Brown Paper Bag〈Roni Size Full Vocal Mix〉

1998年/平成10年
Lauryn Hill / Can’t Take My Eyes Off Of You
4hero / Star Chasers
Slum Village / Fall In Love

1999年/平成11年
MF Doom feat. Pebbles The Invisible Girl / Doomsday
George Michael feat. Mary J. Blige / As
D’Angelo / Untitled (How Does It Feel)

2000年/平成12年
Sade / By Your Side
Common / The Light
D’Angelo / Feel Like Makin’ Love

2001年/平成13年
Janet Jackson / Someone To Call My Lover
Rufus Wainwright / Across The Universe
4hero / Les Fleur

2002年/平成14年
Koop / Summer Sun
Norah Jones / Don’t Know Why
Donnie / Do You Know?

2003年/平成15年
Madlib feat. Medaphoar / Please Set Me At Ease
The RH Factor feat. Q-Tip & Erykah Badu / The Poetry
Jose Gonzalez / Heartbeats

2004年/平成16年
Build An Ark / You’ve Gotta Have Freedom
Alicia Keys / If I Ain’t Got You

2005年/平成17年
Corrine Bailey Rae / Put Your Records On
Benny Sings / Make A Rainbow

2006年/平成18年
Robin Thicke / Lost Without U
J. Dilla feat. Common & D’Angelo / So Far To Go
Jack Johnson / Upside Down

2007年/平成19年
Common feat. D’Angelo / So Far To Go
Amy Winehouse / Love Is A Losing Game
Ne-Yo / Because Of You

2008年/平成20年
Q-Tip feat. Norah Jones / Life Is Better
Yael Naim / New Soul

2009年/平成21年
Mental Remedy / The Sun・The Moon・Our Souls
Build An Ark / This Prayer: For The Whole World
Nujabes feat. Giovanca with Benny Sings / Kiss Of Life

2010年/平成22年
John Legend & The Roots feat. Common & Melanie Fiona / Wake Up Everybody
Jose James / Detroit Loveletter
Taylor Eigsti feat. Becca Stevens / Between The Bars

2011年/平成23年
James Blake / Limit To Your Love
Gretchen Parlato / Holding Back The Years

2012年/平成24年
Kendrick Lamar feat. Mary J. Blige / Now Or Never
Robert Glasper Experiment feat. Erykah Badu / Afro Blue
Frank Ocean / Sweet Life

2013年/平成25年
Rhye / The Fall
Quadron / Neverland
Daft Punk feat. Pharrell Williams / Get Lucky
Justin Timberlake feat. Jay-Z / Suit & Tie

2014年/平成26年
Michael Jackson / Love Never Felt So Good
Kendrick Lamar / i
Pharrell Williams / Happy
Flying Lotus feat. Kendrick Lamar / Never Catch Me

2015年/平成27年
Donnie Trumpet & The Social Experiment / Sunday Candy
Kamasi Washington / The Rhythm Changes
Janet Jackson / Broken Hearts Heal
Kelela / Rewind

2016年/平成28年
Mac Miller feat. Anderson .Paak / Dang!
Chance The Rapper / Finish Line/Drown
Solange / Cranes In The Sky
Frank Ocean / Nikes

2017年/平成29年
Drake / Passionfruit
Frank Ocean / Provider
Thundercat feat. Michael McDonald & Kenny Loggins / Show You The Way

2018年/平成30年
Anderson .Paak feat. Kendrick Lamar / Tints
Mac Miller / What’s The Use
Tom Misch feat. Poppy Ajudha / Disco Yes
Kendrick Lamar feat. SZA / All The Stars

2019年/平成31年 (1月のみ)
Ariana Grande / 7 rings


『Heisei Free Soul』ライナー(waltzanova)

DISC-01

01. Keep On Movin' / Soul II Soul (1989年/平成元年)
平成の始まりは、国内はもとより海外で大きな動きがあった年だった。ベルリンの壁崩壊、冷戦の終結(マルタ会談)、天安門事件と、世界史的に見て転換点となった出来事が次々と起こっている。そんな1989年を代表する一曲として選ばれたのはジャジー・B率いるイギリスのプロジェクト、ソウル・Ⅱ・ソウルの記念碑的名曲。この曲でも特徴的な低音の効いた跳ねたリズム=グラウンド・ビートはUKソウルの象徴として一世を風靡した。クールなヴォーカルを聴かせたキャロン・ウィーラーはUKブラックを代表する歌手として認知され、マッシヴ・アタックの前身だったワイルド・バンチに参加していたネリー・フーパーもその後、ビョークを筆頭に多くのプロデュース・ワークを担当するなど、メンバーも時の人となった。この曲の大ヒット以降、クラブ・ミュージックの方法論が用いられた作品が本格的にオーヴァーグラウンド・ヒットしていくようになるという点でも、エポックメイキングな一曲と言えるだろう。橋本徹は「ソウル・Ⅱ・ソウルの登場が、80年代末ながら、90年代の始まりを感じさせた」と語っており、1995年に編んだコンピ『Free Soul '90s〜Yellow Edit』の1曲目に「Keep On Movin'」のネリー・フーパー・リミックスを置いている。

02. Groove Is In The Heart / Deee-Lite (1990年/平成2年)
翌1991年の湾岸戦争のきっかけとなったイラクのクウェート侵攻が起こったのがこの年。前年のソウル・Ⅱ・ソウルがUKソウル~グラウンド・ビートを広めたとしたら、ディー・ライトはNYハウス的なイディオムを世に知らしめた。彼らはスーパー・DJ・ディミトリー、レディー・ミス・キアー、テイ・トウワ(当時はジャングル・DJ・トーワ・トーワと名乗っていた)の3人組ユニットで、この頃のピチカート・ファイヴ始め、90年代の日本のポップ・ミュージックにもインスピレイションを与えた。カラフルでポップなサンプリング・センスは、ゲストで参加しているQ・ティップのトライブ・コールド・クエストや、デ・ラ・ソウルなどにも通じるもの。ブーツィー・コリンズもゲスト参加したキャッチーでファンキーでサイケデリックな「Groove Is In The Heart」は、全米で4位、全英・全豪では1位まで達するビッグ・ヒットとなった。テイ・トウワはディー・ライト脱退後、1994年に満を持してソロ・アルバム『Future Listening!』をリリース、日本の音楽ファンの間で大きな話題を呼んだ。SWEET ROBOTS AGAINST THE MACHINEや、 高橋幸宏、小山田圭吾らとのMETAFIVEなどの別プロジェクトも行い、現在に至るまで精力的に活動を続けている。

03. It Ain't Over 'Til It's Over / Lenny Kravitz (1991年/平成3年)
イラクとアメリカ・イギリスを中心とする多国籍軍による湾岸戦争が起こり、ソヴィエト連邦が崩壊した1991年。バブル経済も終焉し、日本は「失われた10年」という経済不況期へと突入する。レニー・クラヴィッツは当時、クラシック・ロックに対するストレートな愛情を隠さない音楽性と、ヴィンテージ感のあるアイテムにドレッド・ヘアというファッションで、若い世代を中心にアイコン的な人気を博していたアーティスト。ヴァネッサ・パラディと恋人関係にあると噂されており、彼女のアルバム『Be My Baby』をプロデュースしたことも大きな話題となった。レニーはジョン・レノンやカーティス・メイフィールド、ジミ・ヘンドリックスなどからの影響を公言しているが、ストリングスが施された「It Ain't Over 'Til It's Over」は、カーティスやフィリー・ソウルなど70年代ソウルの影響が色濃いスウィートなナンバー。2016年初めにリリースされた90年代を総括する橋本徹・選曲のコンピレイション『Ultimate Free Soul 90s』にも収録され、その後7インチ化もされた。

04. Am I The Same Girl / Swing Out Sister (1992年/平成4年)
前年の湾岸戦争を受け、国連平和維持活動に協力するPKO協力法が成立、自衛隊のカンボジア派遣が行われた。スウィング・アウト・シスターは、80年代から活動を続けるイギリスのポップ・ユニット。デビュー当時は3人組で、セカンド・シングル「Breakout」がヒット、その後マーティン・ジャクソンが脱退しアンディー・コーネルとコリーン・ドリューリーの男女デュオとなった。日本の“渋谷系”にも通じるスタイリッシュなブルー・アイド・ソウル的なポップスの作り手として人気を博し、当時感度の高いリスナーに好まれていたFM局のJ-WAVEでは彼らの曲がヘヴィー・プレイされた。この曲のオリジナルはブランズウィック・レーベルの歌姫、バーバラ・アクリンのソウル・クラシックで、フリー・ソウル・シーン屈指の人気曲でもある(『Free Soul. the classic of Brunswick』に収録)。ヤング・ホルト・アンリミテッドのインストゥルメンタル版「Soulful Strut」や、モッドからの支持も厚い英国の女性シンガー、ダスティー・スプリングフィールドのヴァージョンもよく知られている。

05. Award Tour / A Tribe Called Quest (1993年/平成5年)
サッカー・Jリーグの開幕、当時の皇太子(今上天皇)徳仁と雅子妃の結婚があった。政治的には、国内では55年体制が崩れて細川護熙内閣が誕生したことや、海外ではEU(欧州連合)の誕生が大きなニュースだった。アメリカ東海岸のニュー・スクールを代表するヒップホップ・グループ、トライブ・コールド・クエスト(以下ATCQ)は、Q・ティップの天才的なサンプリング・センスによる傑作アルバムの数々によって、90年代を代表するヒップホップ・アクトとして広い世代からリスペクトされている。近年では1998年以来となるニュー・アルバム『We Got It From Here... Thank You 4 Your Service』のリリースも大きな話題を呼んだ。「Award Tour」は金字塔となったサード・アルバム『Midnight Marauders』からのファースト・シングルとしてリリースされた掛け値なしのヒップホップ・クラシック。サンプリングされているのは、ニーナ・シモンの音楽監督だったことでも知られるウェルドン・アーヴァインの「We Gettin’ Down」で、1994年にリリースされたフリー・ソウルの最初期の一枚『Free Soul Impressions』にも収録されている。ヒップなグルーヴに乗せてジャズ、ソウル、現代音楽までをミクスチャーしたサウンドは、90年代の渋谷で聴かれることを運命づけられていたタイム・カプセルのようだった。

06. Waterfalls / TLC (1994年/平成6年)
1994年の出来事としては、連立政権が羽田内閣から村山内閣へ移行したこと、松本サリン事件(翌年のオウム事件の前哨だ)、北海道東方沖地震などが挙げられる。TLCはT・ボズ、レフト・アイ、チリの3人からなるガールズ・グループ。ヒップホップ・ソウルと呼ばれたループ感の強いサウンドが特色で、当初はどこかアイドル的な見方もされていたが、1994年の『CrazySexyCool』でアーティストとしての評価を確立。日本のカルチャーとの関係に触れるなら、彼女たちを参照項としたであろう安室奈美恵やSPEEDのヒット、さらには若い女性にヒップホップ~R&Bを浸透させた功績は大きいと言える。ブラック・コミュニティーの貧困・犯罪やHIVなどのテーマを扱った「Waterfalls」は、オーガナイズド・ノイズの手腕が冴えるクールなサウンドが心地よい彼女たちの代表作で、CGを駆使したPVも話題になった。90年代を体現する曲のひとつとして、もちろん『Ultimate Free Soul 90s』にも収録されている。なお、ベイビーフェイスのペンによる胸キュンのラヴ・ソング「Diggin’ On You」も、1994年を彩るTLCのサマー・アンセムとして忘れがたい。

07. Runnin'〈Smooth Extended Mix〉/ The Pharcyde (1995年/平成7年)
1月に阪神・淡路大震災、3月に地下鉄サリン事件が起こり、一時期から「日本の転換点」として語られることも多い1995年。アメリカ西海岸のヒップホップ・グループ、ファーサイドの代表曲にしてヒップホップ・クラシックである「Runnin'」について、ここでは3つのポイントに絞って語りたい。ひとつめは1995年のアンセムという点。曲中で「It’s 1995!」とシャウトされるが、まさにこの年の夏を鮮やかに彩った作品だった。ふたつめはJ・ディラの出世作となった作品であるということ。スタン・ゲッツ/ルイス・ボンファ名義のボサノヴァ曲「Saudade Vem Correndo」をループした魔法のようなトラックのアイディアの素晴らしさは、ソウルやファンク以外からのサンプリングという意味でもデ・ラ・ソウルやATCQなどニュー・スクール以降の自由な感覚を引き継いでいて、その後の彼のキャリアを考えるうえでも特筆すべき一曲と言えよう。最後はファーサイドというグループの存在感。ダンサーも含めた4人組グループの彼らだが、LAならではのカジュアルで奔放なヴァイブレイションがその身上。その魅力はファースト『Bizarre Ride Ⅱ The Pharcyde』、フリー・ソウルのDJパーティーでは今もフロアを震わせ続けているこの「Runnin'」が収められたセカンド『Labcabincalifornia』に刻みこまれている。

08. Mary Jane Girls (All Night Long)〈Remix〉/ Mary J. Blige feat. LL Cool J (1996年/平成8年)
1996年は現在の視点から見ると興味深い出来事が並ぶ年だ。ポケットベルの加入数が1,000万人を超え、女子高生の必携アイテムのように言われたりもした(「ポケベルが鳴らなくて」が流行歌になったのは1993年のことである)が、ご存知のようにその後は携帯電話にその地位を奪われていく。金融ビッグバンと言われた大規模な金融改革も始まり、社会全体に規制緩和の流れが加速していく。そんな時代から活躍し、現在のR&Bシーンで押しも押されぬ地位を築いているディーヴァがメアリー・J.ブライジ。彼女のキャリアはそのまま90年代R&Bの歩みと言っていい。デビュー・アルバム『What's The 411?』(1992年)は当時流行だったループ感の強いヒップホップ・ソウル・サウンドだったが、続く1994年末の『My Life』ではカーティス・メイフィールドやロイ・エアーズなどを参照し、70年代ソウル的な音作りへとスライドしていく。「Mary Jane Girls (All Night Long)」は、リック・ジェイムスの秘蔵っ子と言われた同名グループによるヒット曲「All Night Long」のリメイク。リック・ジェイムスは1980年代モータウンの顔と言うべきアーティストだったが、ベース・ラインがシグネチャーとなっていた原曲に新たな息吹を吹き込んでいる。ちなみに「Mary Jane」とは、マリファナを意味するスラング。エリカ・バドゥも1997年のライヴ盤でこの曲を披露している。ここに収録されたのは、1996年に発表された『My Life Remix Album』に収められたLL・クール・Jをフィーチャーしたリミックス・ヴァージョン。そのLL・クール・Jも「All Night Long」をサンプリングした「Around The Way Girl」(コンピ『Ultimate Free Soul 90s』にも収録)を1990年に発表していると書くと、人気曲をサンプリング/カヴァーなどで再解釈していくことが刺激的だった90年代前半から半ばにかけてのR&B/ヒップホップの雰囲気が伝わるだろうか。

09. On & On / Erykah Badu (1997年/平成9年)
山一證券や北海道拓殖銀行の破綻など、経済不況が顕在化したのがこの年。イギリスの中国への香港返還、消費税5%への引き上げ、地球温暖化に関する京都議定書の締結といった出来事もあった。ディアンジェロやエリカ・バドゥの登場と、90年代R&Bの潮目の変化は軌を一にしている。「ニュー・クラシック・ソウル」と当時呼ばれていた70年代風な生音志向のサウンド(それはのちにその発展型「ネオ・ソウル」へと呼称を変化させていく)がシーンのトレンドとなった時期に、ディアンジェロを発掘したキダー・マッセンバーグの指揮でエリカ・バドゥは満を持してデビューした。ターバンにアンクといったアフロセントリックな面を前面に出した彼女のファッション・センスも注目を集めた。「On & On」は記念すべきファースト・アルバム『Baduizm』のリード・ナンバー。ブルージーでスピリチュアリティーを感じさせる唯一無二の歌声、リムショットを強調したジャジーな音作りと、今なお色褪せない名曲。コンピ『Ultimate Free Soul 90s』に収録され、ディアンジェロの「Brown Sugar」とのカップリングで7インチもリリースされた。エリカ・バドゥはそのオリジナリティーやアティテュードに対するリスペクトの声がキャリアを重ねるごとに高まり、現在ではR&Bというフィールドにとどまらず客演も数多い。

10. Star Chasers / 4hero (1998年/平成10年)
長野オリンピックが開催され、iMacが発売された1998年。この年の日本のCD売り上げ高は史上最高を記録した。奇しくも平成を代表する4人の女性アーティスト、宇多田ヒカル、椎名林檎、aiko、浜崎あゆみがデビューしているのも何かの縁か。マーク・マックとディーゴによる4ヒーローは、ドラムンベース創成期から活躍するイギリスのユニット。彼らの集大成的な大作『Two Pages』は1998年にトーキング・ラウドからリリースされたが、この前年にはロニ・サイズ&レプラゼントも『New Forms』をリリース、ちょうど転換期を迎えていた同レーベルのカラーを印象づけた。『Two Pages』の主調をなすのはもちろんドラムンベースであるが、それ以前の彼らの作品に比べてジャズやソウル・ミュージック的な要素が前面に出ており、チャールズ・ステップニーやマイゼル・ブラザーズといった、彼らが敬愛する先人たちへの憧憬がそこここに感じられる。2001年に橋本徹が編んだ『Talkin' Loud Meets Free Soul Two 1995-1999』で輝きを放っていた、フェイスのヴォーカルが可憐な中に芯の強さを秘めるこの「Star Chasers」は、ストリングスも導入された歌ものドラムンベース~コズミック・ソウルの傑作だ。

11. Untitled (How Does It Feel) / D'Angelo (1999年/平成11年)
茨城県東海村のJCO施設での臨界事故、国旗国歌法の成立、失業率が上昇した1999年。世紀末を迎えて不穏な空気が感じられる年でもあった。そんな1999年の一曲はディアンジェロの「Untitled (How Does It Feel)」。デビュー・アルバム『Brown Sugar』の時期は「ヒップホップ世代のジャジーなR&B」というような表現で形容されることも多かった彼だが、その後J・ディラらとのコレクティヴ、ソウルクエリアンズを結成し、彼らとともに制作されたセカンド・アルバム『Voodoo』での音楽的進化/深化は驚くべきものだった(橋本徹は過去に「Feel Like Makin' Love」「Africa」などをこのアルバムから自身のコンピレイションにセレクトしている)。ビート感覚やミキシングはもちろん、ジミ・ヘンドリックスからスライ・ストーン、ジョージ・クリントンからプリンスへと至るファンクネスの発露。この作品でディアンジェロはブラック・ミュージックの偉人たちと肩を並べる存在となった。「Untitled」は2000年初頭に発表されたアルバムに先駆けてリリースされた曲のひとつ。MVで披露されたマッチョな肉体には、多くのファンが驚愕した。サビのフレーズを繰り返しながら熱を帯びていく展開は、ソウル・ミュージックの美学そのもので、彼が革新的であると同時に伝統主義者でもあることを強く示している。ライヴではハイライトかつラスト・ナンバーとして演奏されるのが定番となっている。

12. By Your Side / Sade (2000年/平成12年)
20世紀最後の年となったこの年は、沖縄サミットが開催され、2,000円紙幣も発行された。シドニー・オリンピックでは高橋尚子(マラソン)や田村亮子(柔道)が金メダルを獲得した。シャーデー・アデュを中心としたUKソウルを代表するグループ、シャーデーは、デビューから35年というキャリアの中で発表されたオリジナル・アルバムはわずかに5枚。究極の美学を追求する彼らの存在感は、80年代再評価も含め時を重ねるにつれていや増している。名盤の誉れ高かった1992年の前作『Love Deluxe』から8年ぶりのオリジナル・アルバムとなったのが、2000年リリースの『Lovers Rock』。その冒頭を飾る「By Your Side」は、乾いた心をじんわり温めてくれるような至高のラヴ・ソング。『Ultimate Free Soul 90s』に収められた「Kiss Of Life」の続編のような世界観にファンは感涙した。アルバムも『Love Deluxe』の路線を引き継ぎながら、余計なものをそぎ落としたようなサウンドの中に、レゲエの要素が導入されるなどの新境地が垣間見え、好評を博した。

13. Across The Universe / Rufus Wainwright (2001年/平成13年)
いわゆる9.11、アメリカ同時多発テロというショッキングな出来事で幕を開けた21世紀。「聖域なき構造改革」を掲げた小泉純一郎内閣の誕生もこの年である。その後、5年以上にわたる長期政権となった。名匠レニー・ワロンカーに才能を認められ、ドリームワークスからデビューしたことで、当初はランディー・ニューマン的な「現代のバーバンク・サウンド」という触れ込みで注目を集めたルーファス・ウェインライトは、オペラ好き、またゲイだという自身の出自や趣味を作品を追うごとに色濃く反映させていく。「Across The Universe」は、ビートルズ屈指の名曲に挙げられることも多いジョン・レノン作の浮遊感に満ちたアコースティック・チューンの絶品カヴァーで、知的障害を持つ父親の役を演じたショーン・ペン主演の映画『アイ・アム・サム』のサウンドトラックに収録された。2001年に発表されたこのサントラ盤は全曲がビートルズのカヴァーで、サラ・マクラクラン、シェリル・クロウ、ベン・ハーパーらが参加している。2010年にアメリカの音楽誌が選出した「The 50 Best Beatles Covers Of All Time」という企画では、ルーファスのこのカヴァーは2位に選ばれている。『シュレック』のサウンドトラックに提供したレナード・コーエン作の「Hallelujah」も、ルーファスの美しい歌声を存分に味わえ、ジョン・ケイルやジェフ・バックリーのヴァージョンと並んで人気が高いのもうなずける。

14. Don't Know Why / Norah Jones (2002年/平成14年)
日韓共催のサッカー・ワールドカップが開催され、日本は初の決勝トーナメント進出を果たした。史上初の日朝首脳会談が開かれ、翌月の拉致被害者5人の帰国へとつながる。新世代ブルーノートを象徴する女性ヴォーカリスト/シンガー・ソングライター/女優、ノラ・ジョーンズは、デビュー作『Come Away With Me』が最終的に4,500万枚以上を売り上げるビッグ・ヒットとなり、グラミー賞8部門を受賞。21世紀を代表する新定番アルバムと表されることも多い(橋本徹は次作『Sunrise』のタイトル曲を『Ultimate Free Soul Blue Note』にセレクトしている)。「Don't Know Why」はノラの優しい歌声が心の琴線に触れるフォーキー・ナンバーで、ブルックリンの街並みが目に浮かぶようだ。70年代のジョニ・ミッチェルやキャロル・キング、80年代のスザンヌ・ヴェガ、もっと遡れば60年代グリニッチ・ヴィレッジのコーヒーハウス・カルチャーから連綿と受け継がれるサムシングが宿る。ソングライティングは、元ワンス・ブルーのジェシ・ハリス。この曲で彼も一気に知名度を上げることとなった。ブルーノートの新しい時代を切り開いたノラ・ジョーンズは、「お洒落なカフェのBGM」的パブリック・イメージが先行しているが、旺盛な音楽的探究心が本領。サウンド面での冒険を試みた『Little Broken Hearts』、ストレート・アヘッドなジャズに接近した『Day Breaks』など、作品ごとに新たなチャレンジを見せてくれる。2019年には7枚目のオリジナル・アルバムとなる『Begin Again』をリリースした。

15. Please Set Me At Ease / Madlib feat. Medaphoar (2003年/平成15年)
この年からイラクとアメリカ率いる多国籍軍の争いであるイラク戦争が始まり、自衛隊もイラクへと派遣され、様々な物議を醸すこととなる。個性的なサンプリング・ワークとスモーキーなサウンドを持ち味とし独特の存在感を誇るヒップホップ・トラックメイカー、マッドリブは、カジモト(Quasimoto)、イエスタデイズ・ニュー・クインテットといった名義での活動や、故J・ディラとのジェイリブなど、プロジェクトも多数。そんな彼が名門ブルーノートの音源を自由に使うことを許され、同レーベルにオマージュを捧げた20世紀音楽と21世紀音楽の架け橋となる名盤が『Shades Of Blue: Madlib Invades Blue Note』。ドナルド・バードやボビー・ハッチャーソン、ホレス・シルヴァーらの楽曲が取り上げられており、「Please Set Me At Ease」は女性フルート奏者ボビ・ハンフリーのメロウ・クラシックの好リメイクで、『Ultimate Free Soul Blue Note』にも収録された。この曲のオリジナルは、ラリー&フォンスのマイゼル・ブラザーズによるスカイ・ハイ・プロダクションのプロデュースだが、ここではマッドリブならではのビート・メイキングを施したうえで、MEDことメダファーのラップをフィーチャーし、その個性を存分にアピールしている。

16. If I Ain't Got You / Alicia Keys (2004年/平成16年)
この年の主な出来事としてはイラク日本人人質事件、日朝首脳会談、新潟県中越地震などが挙げられる。国際社会における日本のスタンスが問われた年でもあった。アリシア・キーズは、ソウル・ミュージックの伝統を受け継ぎながら、クラシックやジャズのバックグラウンドを持つ女性シンガー・ソングライター。新時代ならではの感性を有する彼女のデビュー作『Songs In A Minor』(2001年)は大ヒットを記録し、翌年のグラミー賞では5部門に輝くなど、一躍時代の寵児となった。「If I Ain’t Got You」は、2003年リリースのセカンド・アルバム『The Diary Of Alicia Keys』に収められ、翌年にかけてスマッシュ・ヒットを記録した、彼女の代表作となった美しいソウル・バラード。ピアノと歌を軸にした凛とした風情は、まさに名曲と呼ぶにふさわしく、ウェディング・パーティーなどで歌われることも多い。橋本徹・選曲のコンピ『Free Soul 21st Century Standard』でも印象的に響いていた。一聴して連想するのは、2018年に惜しくも世を去ったアレサ・フランクリンの「Natural Woman」。さらにロバータ・フラックやニーナ・シモンといったアーティストの系譜も感じられる。彼女の登場を契機として、ジョン・レジェンドやラファエル・サディークなどに代表される、レトロスペクティヴなR&Bの機運が盛り上がった。

DISC-02

01. Put Your Records On / Corrine Bailey Rae (2005年/平成17年)
愛知万博「愛・地球博」の開催、小泉純一郎が提唱してきた郵政民営化関連法案が成立した2005年に、YouTubeがサーヴィスを開始している。それまでのCDやDVDといったフィジカル・メディアからPC(その後はスマートフォン)での無料動画の視聴という流れへの転換点だったことは間違いないだろう。コリーヌ・ベイリー・レイは英国の女性シンガー・ソングライターで、カリブ海に浮かぶ小国、セントクリストファーネイヴィス出身の父を持ち、オーガニックでレイドバックした個性はそこに由来するのかもしれない。アコースティックでフォーキーなサウンド志向が花開いた「Put Your Records On」は、自転車に乗って走る彼女の可憐なMVの印象も相まって、音楽シーンに清冽な風を吹き込んだ。彼女のセルフタイトルド・デビュー・アルバムには、オープニングの「Like A Star」始め心の深いところに響く名曲がこの曲以外にも多く収録されていたが、やはりとりわけ人気の高い作品と言えるだろう。「Put Your Records On」とは「好きな音楽をかけよう」という意味だと解釈している、と橋本徹はかつて書いていたが、それはフリー・ソウルのアティテュードと見事に重なっている。その証拠に彼女の楽曲は、橋本徹のコンピレイションではすっかり常連だ。

02. Lost Without U / Robin Thicke(2006年/平成18年)
この年を代表する出来事は、粉飾決算による関連株および日経平均株価の大幅な下落を引き起こした、いわゆる「ライブドア・ショック」だろうか。社長だった堀江貴文は、マスコミが若者のカリスマ的に取り上げていたこともあって言動も何かと注目されていたが、証券取引法違反で逮捕された。ファレル・ウィリアムスがプロデュースした2013年の「Blurred Lines」がお茶の間でも知られる大ヒットとなった(日本版のPVにはAKB48のメンバーも出演している)ロビン・シックは、フリー・ソウル的な観点では、メロウでセンシュアルなこの「Lost Without U」こそ代表曲。哀愁漂うミディアム・テンポのハートブレイク・ソングで、セカンド・アルバム『The Evolution Of Robin Thicke』からのスマッシュ・ヒット・ナンバー。2014年のこれまた切ない「Get Her Back」も橋本徹が選曲した『Free Soul〜2010s Urban-Jam』にセレクトされている。一方でジャミロクワイやブラン・ニュー・ヘヴィーズを思わせるグルーヴィーな「Ooo La La」も『Free Soul~2010s Urban-Mellow Supreme』に収録、ブルー・アイド・ソウルマンとしての彼の魅力を伝えている。

03. Love Is A Losing Game / Amy Winehouse (2007年/平成19年)
アメリカのサブプライム・ローンの焦げつきが多発し、これをきっかけに世界の金融市場が大きく動揺した2007年。27歳で悲劇的な死を遂げたエイミー・ワインハウスは、やはり同じ年齢で亡くなったジャニス・ジョプリンやジム・モリソンといったレジェンドと並び称されるべき女性シンガー。ロンドン北部で生まれ育った彼女のビーハイヴ・ヘアにアイラインを強調したメイクという60年代風ファッションは、強烈にイギリスを感じさせるものだった。2003年のデビュー・アルバム『Frank』にはジャズ~ネオ・ソウル的な楽曲も多く収められていたが、セカンド・アルバム『Back To Black』は、60年代のモッズが好んだ黒人音楽にフォーカスして制作され、ヴィンテージ感を現代的センスで昇華したマスターピースとなった。2014年に「Uptown Funk」を大ヒットさせたマーク・ロンソンとサラーム・レミのツボを押さえたプロデュース・ワークも見事で、グラミー賞5部門を受賞。一方、エイミーのプライヴェイトも往年のロック・スターやジャズ・ミュージシャンのように自己破滅的なもので、アルコールやドラッグによって数多くのトラブルを起こす。何度も施設に入り療養を試みるものの、2011年7月に急性アルコール中毒でこの世を去った。2007年にヒット・チャートを上がった「Love Is A Losing Game」は、先述の『Back To Black』からの選曲で、数多くのカヴァーも生まれた。ロック・ステディーのリズムに乗せて、エイミーは哀しみと痛みと愛を込めて魂の歌を聴かせる。

04. Life Is Better / Q-Tip feat. Norah Jones (2008年/平成20年)
2007年のサブプライム問題を受け、リーマン・ショックが発生して世界的な金融危機となった2008年。アメリカ経済の混乱の波は、ブッシュ政権の終焉、オバマ大統領誕生へとつながる布石ともなった。この年は日本でのiPhone発売も大きな出来事である。前者はアメリカの経済の行き詰まりを、後者は現在のGAFAへとつながるビジネス・モデルの変化を象徴していると言えよう。トライブ・コールド・クエストの頭脳、Q・ティップ3枚目のソロ・アルバム『The Renaissance』は、タイトル通り彼の再生を示す快作となった。ファーストはコマーシャル寄りの内容だと批判を受け、次作の『Kamaal The Abstract』はレーベル側の都合でお蔵入りしていたが、心機一転して制作され、彼の真価が発揮された内容にファンは歓喜した。「Life Is Better」はメロウなゲスト・ヴォーカルにノラ・ジョーンズを迎えたヒップホップ讃歌。「君に会って人生が良くなった」と語られ、クール・ハークからラン・DMC、ラキムまでの名前が次々と登場する。橋本徹が2015年に選曲したコンピ『Free Soul 21st Century Standard』でもハイライトのひとつだった。

05. Kiss Of Life / Nujabes feat. Giovanca with Benny Sings (2009年/平成21年)
2009年のトピックは、バラク・オバマが黒人初のアメリカ大統領に就任したこと、自民党から民主党への政権交代が実現したこと、マイケル・ジャクソンの死去などが挙げられる。橋本徹が2007年からスタートした「Mellow Beats」シリーズは、「ジャズとヒップホップの蜜月」をテーマにしたメロウなコンピレイション。2009年にリリースされた『Mellow Beats. Friends & Lovers』は、日本人アーティストの作品のみを収録しているが、そのエクスクルーシヴ・トラックとして制作されたのが「Kiss Of Life」。Nujabesは、その死から10年近くを経ても、世界各地で愛されてやまない日本人トラックメイカー。独特のメロウネスや繊細さをたたえたジャジーな音作りで、フリー・ソウルとも共振する名作を数多く残している。ここではシャーデーの名ラヴ・ソングを、ベニー・シングスに見出されたオランダの女性ヴォーカリスト、ジョヴァンカをフィーチャーしてカヴァー(橋本徹とNujabesは当初リード・ヴォーカルにコリーヌ・ベイリー・レイを考えていたが、彼女に当時ふりかかった不幸な出来事により惜しくも実現しなかったという)。沈んでいく夕陽を眺めているような、メランコリックなサウダージあふれる好ヴァージョンになっている。

06. Wake Up Everybody / John Legend & The Roots feat. Common & Melanie Fiona (2010年/平成22年)
鳩山由紀夫内閣のあとを受けた民主党政権の菅直人内閣の誕生、小惑星探査機「はやぶさ」の帰還、尖閣諸島での海上保安庁と中国漁船の衝突事件などがあった2010年。ジョン・レジェンド&ザ・ルーツの『Wake Up!』は、ダニー・ハサウェイやユージン・マクダニエルズらのコンシャスな曲を取り上げたカヴァー集。オバマが大統領に就任(2009年にはノーベル平和賞を受賞)し、現実を見据えたうえで理想を追求しようという機運が高まった時代にこそふさわしい企画だった。「Wake Up Everybody」は70年代に一世を風靡したフィラデルフィア・ソウルの有名グループ、ハロルド・メルヴィン&ザ・ブルー・ノーツの代表曲で、「同胞よ目を覚ませ」とアフリカン・アメリカンたちへの自覚を促す、公民権運動からの流れを汲むポジティヴなメッセージ・ソング。フィーチャリングされているコモンもまた、コンシャスな意識を強く持ったアーティスト。ヴェトナム反戦のプラカードが「イラクに平和を」に変わるシーンなど、MVも感動的だ。橋本徹も2010年代の幕開きを告げた曲と位置づけ、『Free Soul〜2010s Urban-Mellow Supreme』に選曲していた。

07. Limit To Your Love / James Blake (2011年/平成23年)
2011年は、日本という国にとって東日本大震災の年として記憶されるだろう。3月11日に発生した地震とそれが引き起こした巨大津波、さらに福島第一原子力発電所事故の影響は大きく、あれから8年以上が経っても復興はまだ大きな課題として残されている。その3.11後の風景と、ジェイムス・ブレイクの音楽の印象は分かちがたいものがある。低音の強調されたゴーストリーな音像とゴスペリッシュな曲調、エフェクトがかけられたヴォーカルには、電力の不足から明るさを失った街の景色が浮かぶ。ジェイムス・ブレイクはイギリス・ロンドン出身のシンガー・ソングライター。ポスト・ダブステップ的なシーンから登場した彼のファースト・アルバム『James Blake』は、先述したようにそれまで聴いたことのない音像によって衝撃をもって受け止められた。ジャケットに映る彼の姿のように、幽体離脱したかのような浮遊感や不安定さを感じさせるサウンド、さらに声を加工することによって人間的な切なさや悲しみがより強く感じられるという逆説性。それは新しい時代のシンガー・ソングライターのあり方を示していた。ここに収められた「Limit To Your Love」はカナダのシンガー・ソングライター、ファイストの名曲カヴァー。弾き語りに最小限のプロダクションだけが施された曲だが、そこに込められた情感は深い。EP『Enough Thunder』に収録されているジョニ・ミッチェルのカヴァー「A Case Of You」(ジェイムス・ブレイクが愛聴する『Blue』というアルバムからのナンバーだ)も同質のセンティメントを宿している。「Limit To Your Love」は『Free Soul 21st Century Standard』、「A Case Of You」は『Free Soul〜2010s Urban-Mellow Supreme』に選ばれており、橋本徹の思い入れの深さがうかがえる。

08. Afro Blue / Robert Glasper Experiment feat. Erykah Badu (2012年/平成24年)
この年に第2次安倍晋三内閣が誕生、経済成長を謳った政策「アベノミクス」を打ち出した。多くの疑惑や不祥事がありつつも、現在に至るまで安倍政権は命脈を保っている。ロバート・グラスパーは、新世代ジャズの旗手としてまず名前の挙がるピアニスト/プロデューサー。エクスペリメントは、よりコンテンポラリーなサウンドを志向して結成された彼のグループで、結成当初のメンバーはケイシー・ベンジャミン、デリック・ホッジ、クリス・デイヴ(のちにマーク・コレンバーグに交替)とグラスパーだった。「Afro Blue」はアビー・リンカーンの名唱で知られる名曲を、エリカ・バドゥのヴォーカルで生まれ変わらせた奇跡的な一曲。ロバート・グラスパー・エクスペリメントとしてのファースト・アルバム『Black Radio』は、ジャズとヒップホップの邂逅とよく称されるが、現代のアーバン・ミュージックとして機能するハイブリッドな音楽というのがその本質ではないだろうか(何よりもタイトルにその狙いが込められているように思う)。シャフィーク・フセインやレイラ・ハサウェイ、ビラルやミシェル・ンデゲオチェロといった豪華な面々が参加、2010年代の金字塔が誕生した。この曲は『Ultimate Free Soul Blue Note』にも収録、現在進行形のブルーノートを象徴する作品として存在感を示している。

09. The Fall / Rhye (2013年/平成25年)
2020年のオリンピック開催地が東京に決定した一方、消費税8%への引き上げ決定、特定秘密保護法の成立など、国民にとっては心配なニュースが並んだ年でもある。ライは現在ではカナダ出身のマイク・ミロシュのソロ・プロジェクトとなっているが、この曲が発表された2013年当時はミロシュとクアドロンなどで知られるロビン・ハンニバルのユニットと認知されていた。そのスムースで繊細なヴォーカルとサウンドから、「男声版シャーデー」とキャッチコピー的に言われることも多かった。ファースト・アルバム『Woman』は、フランク・オーシャンらと並び、モーゼス・サムニーらへとつながるアンビエントR&B~インディー・ソウル的な流れを決定づけた一枚。ジャケットに象徴されるようにエレガントな官能性を提示した。アルバムを代表する2曲「The Fall」「Open」は、前者が『Free Soul〜2010s Urban-Mellow Supreme』に、後者が『Free Soul 21st Century Standard』に収められている。どちらも2010年代のベッドルーム・ソウル・ミュージックの傑作だ。ライはその後、数多くのフェスにも参加、2018年には『Blood』をリリースして来日公演も行った。2019年5月には『Blood』と対になるような『Spirit』を発表、その美意識はさらに研ぎ澄まされたものとなっている。

10. Happy / Pharrell Williams (2014年/平成26年)
政府が集団的自衛権を容認したことで、憲法改正に関する国民の関心や危機感が以前になく高まった2014年。青色LEDの開発で日本人3人にノーベル物理学賞が与えられる一方、STAP細胞論文の不正問題が発覚したのもこの年である。ファレル・ウィリアムスに関して特筆すべきは、チャド・ヒューゴとのプロデュース・チームであるザ・ネプチューンズや、ロック色を前面に出したグループであるN*E*R*Dでの活躍もさることながら、何よりもポップ・アイコンとしての存在感だろう。アパレルにも強い関心を示し、かつてはA BATHING APE、近年ではシャネルやアディダスなど多くのブランドとコラボレイトしている。ファレル登場前後でルーズだったヒップホップ・ファッションのシルエットが一気に細身になったように、その影響力の大きさは計り知れない。もちろん音楽家としても、ポップさと革新性を両立させるそのセンスによって、トップ・プロデューサーとしての揺るぎない地位を確立している。「Happy」は彼の8年ぶりとなるソロ・アルバム『G I R L』に先がけてリリースされた、60年代風の軽快なポップ・チューン。同じく彼がプロデュースしたロビン・シックの「Blurred Lines」同様、特大のオーヴァーグラウンド・ヒットとなり、世界各国で人々を笑顔にするMVも制作された。

11. Broken Hearts Heal / Janet Jackson (2015年/平成27年)
過激派組織「イスラム国」(IS)が勢力を拡大し、パリで130人が死亡するなど各地でテロが多発した2015年、邦人2人の殺害という事件も起こっている。ジャネット・ジャクソンはR&B界屈指の人気を誇るアーティスト。橋本徹は1995年に6枚制作した『Free Soul 90s』シリーズのライナーで、彼女が『Rhythm Nation 1814』から大きな変化を遂げたシックな『Janet.』を90年代ベスト・アルバムのひとつに挙げているし、その後の「Got 'Til It's Gone」や「Someone To Call My Lover」も、フリー・ソウルのDJパーティーでよくプレイされた。「Broken Hearts Heal」は、前作から7年ぶりとなった2015年作『Unbreakable』からの、高速道路の灯りや都会の夜景が似合うスムースなアーバン・チューン。兄のマイケル・ジャクソンは2009年にこの世を去っているが、生前に未発表だった「Love Never Felt So Good」が2014年に大ヒットを記録するなど、死後に大きな音楽的再評価が起こった(敢えて記しておくと、90年代の日本での彼は、どちらかと言えばゴシップ・キング的な扱いを受けていた)。「Broken Hearts Heal」は「Love Never Felt So Good」や彼のアーバン・メロウ・サイドの代表作「Rock With You」にも通じるテイストを持っているが、ジャネットと長年タッグを組んでいるプロデューサー・チーム、ジャム&ルイスの片割れであるジミー・ジャムいわく「マイケルの魂が宿っている曲」で、レコーディング時にジャネットは普段することのない指を鳴らす仕草(もちろん、マイケルのシグネチャーだ)を自然としていたというエピソードを語っている。彼の言う通り、歌い出しのフレーズから節まわしまでマイケルが憑依したようにも聴こえる感涙の名曲。『Free Soul〜2010s Urban-Jam』にも収録されている。

12. Cranes In The Sly / Solange (2016年/平成28年)
オバマ大統領が広島を訪問したこの年の大統領選では、事前の予想を裏切りドナルド・トランプがヒラリー・クリントンに勝利、その支持のあり方はアメリカ社会の分断という問題を浮き彫りにした。ビヨンセの妹として知られたソランジュだが、2000年代にリリースした2枚のソロ・アルバムは決して成功と言える結果を伴わなかった。久しぶりのアルバムとなった『A Seat At The Table』によって、姉とは違った形でアーティストとしてのアイデンティティーを確立。その意味ではビヨンセとの関係は、マイケル・ジャクソンとジャネット・ジャクソンのようとも言えるかもしれない。「Cranes In The Sky」はコモンをして「永遠の一曲」と言わしめた名作。空間性のあるサウンドの中を、ソランジュの求心性のあるヴォーカルがたゆたう。リリックはどこにも行き場のない自分について歌ったものだが、ポリティカルな意味合いも当然込められているのは言うまでもない。2019年には『When I Get Home』をリリース。本人がスティーヴィー・ワンダー『Journey Through The Secret Life Of Plants』に影響を受けたと語る、音楽的な広がりと深みを一段と増したオルタナティヴR&Bの傑作となった。

13. Show You The Way / Thundercat feat. Michael McDonald & Kenny Loggins (2017年/平成29年)
天皇陛下の退位の決定、「森友・加計(モリカケ)問題」と呼ばれる政治疑惑、「共謀罪」法の成立、将棋の藤井聡太四段(当時)の活躍などがあった2017年。ミュージシャン同志の交流によってヒップホップやビート・ミュージック、R&Bとジャズなどがハイブリッドに溶け合い、LA音楽シーンの充実という2010年代の豊潤な実りを生んだ。サンダーキャットはトップ・ドラマーのロナルド・ブルーナー・ジュニアを兄に持つベーシスト/プロデューサー。カマシ・ワシントンやフライング・ロータス、ケンドリック・ラマーとの交流でも知られる。ソロ・アーティストとしては2012年に『The Golden Age Of Apocalypse』をリリース、ジャズ~フュージョン~ネオAOR的な要素を含み、特定のジャンルに括れないオリジナリティーが当初から話題だった。「Show You The Way」は、現在のところ彼の最高傑作と言っていい2017年の『Drunk』収録曲。インターネットから火がついた“ヨット・ロック”のレジェンドふたり、マイケル・マクドナルドとケニー・ロギンスを迎え、ヴィンテージ感を漂わせつつも、2010年代的にアップデイトされた人気ナンバーだ。それは日本の“City Pop”リヴァイヴァルともシンクロしたスムースネスと言えるだろう。

14. Disco Yes / Tom Misch feat. Poppy Ajudha (2018年/平成30年)
アメリカと北朝鮮が初の首脳会談を行ったこの年、平成7年(1995年)の地下鉄サリン事件などを起こしたオウム真理教死刑囚13人への刑が執行された。平成という時代がひとつの終わりを迎えた象徴的な出来事と言えよう。新世代のギター・ヒーローという枠をこえて人気急上昇のトム・ミッシュは、ここ数年サウス・ロンドンから登場している、盟友のロイル・カーナー、ジェイミー・アイザックにジョーダン・ラカイといった才能ある若手アーティスト群の象徴的存在だ。2018年のアルバム『Geography』リリース当時、若干20歳だった彼は、J・ディラやケイトラナダ、ジョン・メイヤーを愛する好青年で、その風通しのよいサウンドと自然体の佇まいは、「恋」の大ヒットで知られる星野源と共通するものがある(彼もまたブラック・ミュージックをベースにしたポップス志向が持ち味だ)、とも評される。それまでの彼の集大成と言える『Geography』は、キャッチーなギター・リフとジャズ・ファンク的なビートで、たちまち彼を時代の寵児とした。タイトル通りのディスコ・チューン「Disco Yes」でも、そのグルーヴィーなサウンドの魅力が全開。ビートメイカー的な習作や、ゴールドリンクを迎えた「Lost In Paris」(『Free Soul~2010s Urban-Breeze』のフラッグ曲だった)、デ・ラ・ソウル参加の「It Runs Through Me」といったボサノヴァ調のヒップホップ・ナンバーの人気が高いのも彼らしい。

15. 7 rings / Ariana Grande (2019年/平成31年)
平成から令和へという31年間を振り返る『Heisei Free Soul』のラストを飾るのは、新世代ポップの歌姫として現在最も勢いのあるアーティストと言っていいだろうアリアナ・グランデ。当初は女優として頭角を現し、2013年に本格的歌手デビュー、「The Way」「Problem」などヒットを連発して一躍トップ・シンガーとなった。髪を頭のてっぺんで結ったハイポニーのヘアスタイルやファッション・アイコンとしての発信力など、同世代の女性ファンのロール・モデルとしての側面も見逃せない。名スタンダード「My Favorite Things」のメロディーを引用した「7 rings」は、アンビエントR&B的なサウンド・メイキングが施された、彼女の新境地を示す一曲。この曲が収められた『thank u, next』は彼女の5枚目のアルバムで、前作『Sweetener』から約半年というショート・スパンでリリースされた。この曲にちなんで「七輪」とタトゥーを入れ、話題になったのも記憶に新しい。アリアナは「The Way」でも共演したマック・ミラーとかつて交際しており、昨年9月の彼の死(オーヴァードーズが原因と言われている)の際には「一番の親友だった」とコメントしたが、「thank u, next」ではその彼についても誠実に歌われている。
申し訳ございませんが、只今品切れ中です。

この商品に対するお客様の声

この商品に対するご感想をぜひお寄せください。