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阿川泰子『Free Soul Yasuko Agawa』
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シリーズ通算120作以上を数え累計セールス120万枚以上を誇る人気コンピ“Free Soul”の25周年記念企画第1弾となる最新作として、80年代ジャズ・ブームの牽引役として話題を呼び、90年代以降はロンドンのクラブ・ジャズ・シーンを中心にインターナショナルな評価も高い、日本を代表する女性ジャズ・シンガー阿川泰子のオールタイム・ベスト盤『Free Soul Yasuko Agawa』が3/6にリリースされます。クラブDJに人気のヴィヴァ・ブラジル〜アライヴの逸品カヴァー「Skindo-Le-Le」やサイド・エフェクトのオージー・ジョンソン&ミキ・ハワード作の絶品メロウ・グルーヴ「L.A.Night」を始め、リッチー・コール/ダイアナ・ロス/ビル・ウィザース/ビリー・ジョエル/サッシャ・ディステル/アウディー・キムラ/エドゥ・ロボ/アントニオ・カルロス・ジョビンらの好カヴァーから、ヴィヴァ・ブラジル/イヴァン・リンス/ピノ・パラディーノらとのナイス・コラボレイションまで、グルーヴィー&メロウで心地よい珠玉の名作が80分にわたって連なる極上の音楽旅行。アプレミディ・セレソンでお買い上げの方にはもれなく(通販含む)、橋本徹・選曲のスペシャルCD-R『Best Of Suburbia Radio Vol.17』をプレゼント致しますので、お見逃しなく!
『Free Soul Yasuko Agawa』ライナー(橋本徹)
僕が学生だった80年代、阿川泰子は女性ジャズ・シンガーとして、自分の両親でさえその名を知っているような、ポピュラーな存在だった。そんな80年代ジャズ・ブームの牽引役として人気を集めた彼女の音楽が、90年代初頭、ジャイルス・ピーターソンを始めとするイギリスのクラブDJたちにプレイされていると知ったときは、少なからず驚いたし、先入観にとらわれない“ジャズで踊る”ムーヴメントの自由さを感じた。そうした印象は、Free Soulの選曲やフィロソフィーにも影響を与えていると思う。
このコンピレイション『Free Soul Yasuko Agawa』では、阿川泰子の40年におよぶキャリアをアルバムごとに振り返り、メロウ&グルーヴィー(そしてサウダージ)な感覚を大切にする視点から19曲をセレクトしたが、その90年代初頭の体験が、特にオープニングの流れに反映されている。クラブDJに人気のヴィヴァ・ブラジル~アライヴの逸品カヴァー「Skindo-Le-Le」やサイド・エフェクトのオージー・ジョンソン&ミキ・ハワード作の絶品メロウ・グルーヴ「L.A.Night」を始め、リッチー・コール/ダイアナ・ロス(アシュフォード&シンプソン)/ビル・ウィザース/ビリー・ジョエル/ブラインド・フェイス(スティーヴ・ウィンウッド)/サッシャ・ディステル/アウディー・キムラ/イヴァン・リンス/エドゥ・ロボ/アントニオ・カルロス・ジョビンといった多彩なカヴァー、ヴィヴァ・ブラジル/イヴァン・リンス/セルジオ・メンデス/ピノ・パラディーノらとのコラボレイションなど、心地よい珠玉の名作が80分にわたって連なり、極上の音楽旅行を楽しめるはずだ(ジャケットのアートワークからイメージされるように、とりわけドライヴには格別だろう)。90年代前半以来Free Soulシーンにたびたび訪れたブラジリアン・モード、そのフロアを軽やかに吹き抜けたメロウ&グルーヴィーなサウダージ・ブリーズ、あるいはサロン・ジャズ的なフィーリングが愛されたCafe Apres-midiのコンピ・シリーズにも通じる親密なブラジル風味も、甘酸っぱく爽やかな後味と心地よい余韻を残してくれると思う。
『Free Soul Yasuko Agawa』ライナー(小川充)
日本の女性ジャズ・シンガーの中で、阿川泰子はジャズ界にととどまらないポピュラーな人気を博してきたひとりで、TVやコマーシャルの世界でも活躍している。阿川泰子が出てきた1970年代後半から1980年代にかけ、普段はジャズを聴かない人も彼女が歌う姿はTVで観ており、昔はジャズのジャの字も知らなかった私もその名前はTVを通じて知っていた。ポピュラーな人気を得るにあたって女優出身というルックスが大きなセールス・ポイントになったのだろうが、彼女の歌声や歌い方もポップスやAORにマッチするものであったので、より幅広い層に受け入れられたのだと思う。当時のジャズ界はフュージョン全盛時代で、ロック、ソウル、ポップス、AORなどを取り入れた音作りが盛んだった。ジャズのスタンダードだけでなく、その頃に流行ったポピュラー・ソングをカヴァーすることも多く、阿川泰子のようなヴァーサタイルで新しい魅力を持つシンガーをジャズ界は探していたのだろう。そうした時代の要請にピッタリとハマって、阿川泰子はお茶の間の人気を博するに至った。この『Free Soul Yasuko Agawa』にもチョイスされたビリー・ジョエルの「New York State Of Mind」とか、同じアルバム『SWEET MENU』(1980年)に収められたボズ・スキャッグスの「Hard Times」など、いわゆるジャズ・スタンダードでないポピュラー・ヒット曲のカヴァーが、そうした阿川泰子というシンガーの置かれたところを物語る。
このように自分にとって、最初の阿川泰子像はブラウン管の中の人というイメージだったが、次にその出会いは思いがけないところからやってきた。それはアシッド・ジャズが流行っていた1990年代初頭で、クラブでDJがプレイするレコードの中からだった。まず多くプレイされたのは『SUNGLOW』(1981年)に収録された「Skindo-Le-Le」。当時のクラブ・ジャズ・シーンではブラジリアンの人気が盛り上がってきたところで、とてもタイムリーな一曲だった。実はこれはカヴァー曲で、オリジナルのヴィヴァ・ブラジルやアライヴによるヴァージョンを、阿川泰子経由で知ったという人も少なくないだろう。最初に「Skindo-Le-Le」がクラブでプレイされたのはイギリスで、ジャイルス・ピーターソンやパトリック・フォージらのDJを通じて日本にも逆輸入という形で入ってきた。そもそもイギリスでは1980年代から日本のフュージョンがプレイされていて、”Jap Jazz”と銘打ったFM番組もあったのだが、そうした流れの中で発掘された一曲だったのである。ちなみに『SUNGLOW』のバック演奏やアレンジは松岡直也で、パシフィック・ジャムなど彼が関わったラテン~ブラジリアン・フュージョンの数々もいろいろとプレイされた。
ほかによくプレイされた曲と言えば、『GRAVY』(1984年)に収録の「L.A.Night」もある。『Mastercuts』というUKの人気コンピ・シリーズのレア・グルーヴ編に収録されたこともあり、アシッド・ジャズ期に人気を博したロイ・エアーズのアーバンなメロウ・グルーヴに通じる曲だ。ライト・オブ・ザ・ワールドの「London Town」に近い雰囲気もあるが、両者ともにヴィクター・フェルドマンによるヴィブラフォンがフィーチャーされている。1980年代半ばの日本はロサンゼルス、ニューヨーク、ロンドンなどでの海外録音が盛んで、『GRAVY』もロサンゼルス録音。サイド・エフェクトのオージー・ジョンソンのプロデュースで、デヴィッド・T.ウォーカーやボビー・ライルら名手が参加している。「L.A.Night」は1987年に日本でシングル・カットされているが、それに先駆けた1986年にUK盤で12インチがリリースされており、当時のイギリスにおけるジャパニーズ・フュージョンの人気の一端がうかがえる。シングルで「L.A.Night」とカップリングされたのは「New York Afternoon」 で、こちらは『FINE!』(1982年)からのカット。リッチー・コールの曲で、本家のヴァージョンはジャイルス・ピーターソン編纂のコンピ『Jazz Juice』に収録されるなど、やはりロンドン・ジャズ・ダンス・クラシックの一曲として知られる。ちなみに『FINE!』もロサンゼルス録音で、前作の『SUNGLOW』の成功をきっかけに、「Skindo-Le-Le」の作者であるヴィヴァ・ブラジルとの共演レコーディングが行われている。
「Skindo-Le-Le」や「New York Afternoon」のように、阿川泰子の作品にはブラジリアンをモティーフにした曲が多い印象だ。日本でブラジリアンが好まれてきたということもあるだろうし、軽やかで華やかな歌からしっとりとした歌まで幅広くこなす阿川泰子にマッチしていたのだろう。今回のFree Soulのコンピも、「Zanzibar」「Seabird」「Smile On Your Face」「Until You Tell Me」「The Universe Is Calling You」など、その多くがブラジリアン系の作品となっている。ブラジルものの人気が高かったFree Soulのムーヴメントと、阿川泰子の作品の関係性を見て取ることができる選曲だ。この中で「Zanzibar」は、セルジオ・メンデスなど多くのアーティストが取り上げるエドゥ・ロボの曲で、クラブDJもいろいろなヴァージョンをプレイしてきたクラシックなのだが、このカヴァーが収録された『OURO do MANAUS』(1988年)はそのセルジオ・メンデスによるプロデュース。また「The Universe Is Calling You」収録の『AMIZADE』(1994年)はイヴァン・リンスとの共演作。このように阿川泰子はブラジル音楽界の大物たちとも一緒に仕事をしてきており、彼女がいかにブラジル音楽に傾倒してきたかがわかるだろう。『Lady September』(1986年)に収録された「Velas」もイヴァン・リンスの曲だ。同じく『Lady September』からの「Seabird」は、吉田和雄率いる和製ブラジリアン・バンドのスピック&スパンがバックの演奏を務め、ハワイ出身のシーウィンドに近いイメージの曲となっている。改めて聴き直してみると、阿川泰子はシーウィンドのポーリン・ウィルソンに近いところがあるのかなと思う。一方1978年のデビュー・アルバムが出典となるワルツ曲の「The Good Life」は、トニー・ベネットなどもレパートリーとするサッシャ・ディステル作曲のジャズ・スタンダードだが、ここでの阿川泰子の歌はブロッサム・ディアリーを思わせるコケティッシュで可愛らしいもの。おそらく阿川泰子はいろいろなタイプの歌手を参考にしつつ、そこから自分のスタイルを磨いてきたシンガーなのだろうということがうかがえる。
ブラジリアン系のナンバーが多く収められる一方、今回のコンピではブギー・タッチの「Meant To Be」、ディスコ調の「It's My House」などもピックアップされている。「Meant To Be」は「L.A.Night」と同じく『GRAVY』が出典で、ネイザン・イーストとランディ・ウォルドマンの作曲。「It 's My House」は『SWEET MENU』が出典で、アシュフォード&シンプソン作曲によるダイアナ・ロスのナンバーのカヴァーである。このあたりのナンバーのテイストは、現在の和モノ・ブームや1980年代の国産シティ・ポップスの再評価に繋がるものと言え、そうした側面から阿川泰子をいろいろと掘り下げていくのも面白い。『SUNGLOW』からの「Island Breeze」は、阿川泰子としてはユニークなレゲエ調のナンバーだが、ドラムはポンタこと村上秀一、パーカッションはペッカーこと橋田正人と、和モノや和ジャズ・ブームによって再評価著しい人たちが参加していることもポイントが高いだろう。
『Free Soul Yasuko Agawa』ライナー(waltzanova)
01. Skindo-Le-Le
阿川泰子の代表曲にして、ブラジリアン・ジャズ~クラブ・ジャズのエヴァーグリーン。サンバ・リズムの生み出す高揚感とポジティヴィティー、一気に爆発する鮮やかな展開と、非の打ちどころがない。この曲を収録したアルバム『SUNGLOW』(1982年)は、日本のジャズ・ヴォーカルものとしては異例のヒットとなったが、80年代後半~90年代にロンドンのクラブ・ジャズ・シーンで再発見されたことをきっかけに新しい世代の間でも人気作となり、現在ではスタンダード化している。アメリカ在住のブラジリアン・グループ、ヴィヴァ・ブラジルがオリジナルだが、阿川やサンフランシスコを拠点とする女性グループ、アライヴのヴァージョンも、それに劣らずよく知られている。バックを務めるのは、日本におけるラテン・ジャズの第一人者であるピアニスト/アレンジャー、松岡直也とそのグループ、We-Sing。
02. New York Afternoon
よく晴れた日曜の午後、阿川泰子によるニューヨーク案内、という趣きのブライトなボッサ・ナンバー。“Groovin' On A New York Afternoon”というフレーズに、60年代のブルー・アイド・ソウルの名グループ、ヤング・ラスカルズの「Groovin’」を連想するリスナーも多いかもしれない。洗練をまとったブラジリアン・フィールに、グルーヴするベース・ライン、スネアの音色が最高に心地よい。70年代に日本でも人気を博したサキソフォン奏者、リッチー・コールの名曲で、1977年に発表されたオリジナルでは、エディー・ジェファーソンがバップ風のヴォーカルを取っている。
03. L.A.Night
あまく危険なLAの夜。極上のアーバン・ソウル・チューンには、ドライヴやナイトクラビングでのミステリアスなムードが漂う。そのメロウな空気感は、カリフォルニアの地名を織り込んだレオン・ウェアの「Why I Came To California」をテンポ・ダウンしたよう。ソングライティングは、かつてインコグニートもカヴァーした「Always There」のヒットで知られるジャズ・ファンク・グループ、サイド・エフェクトのオージー・ジョンソンとミキ・ハワードによるもの。発表当時、イギリスのクラブでヒットを記録すると同時に、近年では阿川泰子のレパートリー中、いちばんの人気曲となっている。
04. The Good Life
心弾むスウィートなワルツ・ナンバーは、1978年の記念すべきデビュー・アルバム『Yasuko LOVE-BIRD』から。サロン・ジャズ的なエレガンスも有しており、この曲や「New York Afternoon」は、Free Soulと並ぶ橋本徹の代表的なコンピレイション・シリーズ“Cafe Apres-midi”的と言えるだろう。アルバム全体のアレンジを手がけた気鋭のピアニスト、有馬すすむのトリオをバックに、コケティッシュな魅力を振りまいている。
05. Seabird
柔らかく頬をなでる海からの風。そんな優しいメロウ・ブリージン・ボッサは、アウディー・キムラの名曲カヴァー。彼は日系3世のシンガー・ソングライターで、1983年のアルバム『Looking For“ The Good Life”』は、ハワイアンAORのファンに人気が高い。やはりハワイで活動していたカラパナのメンバーらと親交が深く、ホノルルの夜景が写るマッキー・フェアリー・バンドのジャケットを撮影した人物でもある。『Lady September』には、もう1曲アウディーの作品「Summer」も収められているので、気になった方にはぜひ一聴をお薦めしたい。
06. Meant To Be
小気味いいギターのカッティング、軽快なコーラスなど、70年代ソウル的なテイストを持ったグルーヴィー・チューン。タイトルが示すように、運命を信じる恋心を映したようなキュートなヴォーカルには、聴いている者を笑顔にする力がある。阿川にとって3回目のLAレコーディングとなった1984年作『GRAVY』は、それまでに比べてソウル~R&B色が強まった意欲作。アレンジを担当したオージー・ジョンソンと縁の深いL.A.バッパーズのメンバーを中心に、デヴィッド・T.ウォーカーらも参加、その超一流のプレイを聴かせている。
07. Smile On Your Face
大ヒットした『SUNGLOW』に続く1982年のアルバム『FINE!』はLAレコーディング、さらに「Skindo-Le-Le」のオリジナル・アーティスト、ヴィヴァ・ブラジルがバックを務めるという、阿川の理想が実現したプロジェクトとなった。彼女のピーク・ポイントが記録されているアルバムであり、同時に日本のシティー・ミュージック最良の一枚であることに異論はないだろう。軽快なラテン・タッチのナンバーだが、サルサ風のホーン・フレーズが南国のムードとともに、都会的でシャープな印象を与えている。
08. Island Breeze
夏の太陽の下、どこまでも青い空と海が脳裏に浮かぶ、レイドバックしたレゲエ・チューン。橋本徹が「コンピレイションの中の裏イチオシ曲」と語っているように、ダブやバレアリックを通過した21世紀だからこそ輝く側面も魅力的な曲だと言える。作曲は「New York Afternoon」同様、リッチー・コール。本人のヴァージョンはメロウでリラクシンなインスト・ナンバーだったが、アレンジによって生まれ変わらせているのは、現在に至る日本のラテン・ミュージックの基盤を作った松岡直也の手腕。村上“ポンタ”秀一と中村裕二のリズム・セクションが、レイジーな南の風を運んでくる。『SUNGLOW』収録曲。
09. Until You Tell Me
1985年の『Lady September』は、それまでのアルバムに比べてぐっと陰影を増してアダルトな魅力が感じられるが、この曲もそんな一曲。流麗なストリングスやガット・ギターのソロが、映画のワン・シーンを思わせる。ボサノヴァ時代のスタン・ゲッツを思わせるサキソフォン・ソロも心憎い。コンポーザーは山下達郎や大野雄二らとの仕事で知られるギタリスト、松木恒秀。メロウなフレーズを弾かせたら右に出る者はいない職人肌のアーティストだったが、2017年に惜しまれながらこの世を去った。
10. It's My House
ソウル界の誇る名ソングライター・デュオにしておしどり夫婦、アシュフォード&シンプソン。1979年当時、ヒットを連発していた彼らが、ダイアナ・ロスに提供した楽曲。オリジナルを踏襲したレゲエ的なリズムの上で、阿川は可憐なソウル・フィーリングを漂わせながら歌っている。スタンダードのみならず、ポップ・ミュージックにも挑戦した第3作『SWEET MENU』からのナンバー。ジョー・アイザックによるカルトなディスコ・プロジェクト、リスコ・コネクションによるカヴァー版もクラブ・シーンでは人気。
11. Pardon My English
ブラジルを代表する作曲家、アントニオ・カルロス・ジョビンの60年代の作品で、クアルテート・エン・シーやシルヴィア・テリスのヴァージョンがよく知られている。ポップさとメロウさが同居した心地よいブラジリアン・フュージョン・ナンバー。阿川のアルバムは曲選びのセンスが抜群で、いわゆる「隠れた名曲」がさらりと取り上げられており、リスナーとしては彼女のアルバムを聴くことで新たな楽曲やアーティストと出会う楽しみがある。これは彼女の音楽的好奇心もさることながら、優れたスタッフ・ワークの賜物とも言えるだろう。
12. The Universe Is Calling You
ブラジルを代表するアーティストのひとり、イヴァン・リンスとのコラボレイションとなった1994年のアルバム『AMIZADE』。「The Universe Is Calling You」は、イヴァンと黒人女性シンガー、ブレンダ・ラッセルとの共作で、彼女のアルバム『Soul Talkin'』(1993年)でひと足先に披露されていた。ギターとパーカッションが織りなすサンバのリズムに乗り、阿川とイヴァンがデュエットを聴かせるさまは、穏やかに降り注ぐ陽光を思わせる。アルバムには、「Camaleão」や「Love Dance」といったイヴァンの代表曲や、セルジオ・メンデスの「So Many Stars」なども収められているので、熱心なブラジル音楽ファンはチェックされたし。
13. Darlin' Don't Ever Go Away
リゾート・ホテルのバルコニーから見つめる遠い水平線。ブラジリアンとジャズ、AORが絶妙にブレンドされた、極上のシティー・ミュージック集『FINE!』の中でも、ひときわ洗練を感じさせる柔らかなボッサ・ナンバー。サウダージ・フレイヴァーを感じさせるのは、ストリングスやトロンボーンの響き。70年代に新生ブルーノート・レーベルからアルバムをリリースしたモアシル・サントスなどを連想させる。コンポーザーは、クラウディオ・アマラルとともに、ヴィヴァ・ブラジルの中心人物だったジェイ・ワグナー。
14. Take A Holiday
グルーヴィーなベース・ラインと人懐っこいメロディーが耳に残る、こちらも『FINE!』からのナンバー。歌詞は「肩の荷を下ろして、どこかに出かけよう」と歌いかける。その音楽性ゆえか、阿川の楽曲はアメリカ西海岸やブラジルなど異郷への憧れをかき立てる力があるが、80年代初頭のシティー・ミュージックは「リゾート」がひとつのキーワードとなっていた。『FINE!』と同年にリリースされた山下達郎の『FOR YOU』や松任谷由実の『PEARL PIERCE』、佐藤博の『awakening』をはじめとする作品はそんな系譜に属するのではないだろうか。
15. Zanzibar
作曲者のエドゥ・ロボは、マルコス・ヴァーリなどと同じくボサノヴァ第2世代と呼ばれるが、その作風はブラジル北東部のリズムを取り入れるなど、唯一無二の個性を持っている。強烈なブレイクとスキャットがトレイドマークの「Zanzibar」や「Upa Neguinho」は、90年代前半のクラブ・シーンにおけるブラジリアン・ブームの際にも絶大な人気を誇った。『OURO do MANAUS』(1988年)は、ブラジリアン・ミュージックの巨匠、セルジオ・メンデスのプロデュース。ジャヴァンやカエターノ・ヴェローゾの曲を素材に、腕利きのミュージシャンがコンテンポラリーなサウンドを聴かせている。
16. New York State Of Mind
70~80年代に「Just The Way You Are」「Uptown Girl」などのビッグ・ヒットを連発したピアノ・マン、ビリー・ジョエルの名バラード。ロサンゼルスに拠点を移して活動していたビリーが、自らのホームタウンであるニューヨークへの郷愁を率直に歌い上げている。9.11事件後のライヴ・ヴァージョンも忘れがたい。数ある彼の楽曲の中でもジャジーさが前面に打ち出され、そのためバーブラ・ストライサンドやベン・シドランをはじめ、ジャズ系のアーティストに好んで取り上げられている。阿川のヴァージョンは、しっとりした情感の中に艶やかさが滲む。
17. Can't Find My Way Home
1996年にリリースされた『Echoes』は、1960~80年代のクラシック・ロックのカヴァー集。プロデュースはUKのトップ・ベーシスト、ピノ・パラディーノが務めている。「Can't Find My Way Home」は、クリーム解散後のエリック・クラプトンと、トラフィックのスティーヴ・ウィンウッドが中心となって結成されたグループ、ブラインド・フェイスの楽曲。フォーキー~トラッドな風情を漂わせるオリジナルを、ブルージーでモッドなテイストに料理した好ヴァージョン。同時期のポール・ウェラーなどにも通じるブルー・アイド・ソウル的解釈は、ブライアン・オーガーを連想させるオルガンが隠し味。
18. In The Name Of Love
グローヴァー・ワシントン・ジュニア&ビル・ウィザース永遠のアーバン・クリスタル・クラシック「Just The Two Of Us」の姉妹曲のようなシティー・ソウル。それもそのはず、ソングライティングは「Just The Two Of Us」でヴォーカルを取っていたビル・ウィザースら3人が手がけている。快適なミディアム・グルーヴは、大切な人とのふたりの時間にこそ似合い、阿川のヴォーカルも、ウォームでテンダーなビルの資質を映したかのよう。『SUNGLOW』収録曲では、タイトルを含めパティ・オースティンを連想させる「This Side Of Forever」も同路線のナイス・ソウル・チューン。
19. Velas (September)
クインシー・ジョーンズの『The Dude』(邦題は『愛のコリーダ』)で取り上げられたことで、ワールドワイドに彼の名を高めることとなった、イヴァン・リンスの代表曲のひとつ。トゥーツ・シールマンスのハーモニカがフィーチャーされ、都会のセンティメントが薫るオリジナルに対し、こちらは黄昏どきの海辺の光景が浮かぶ仕上がり。サウダージ・フィーリングに包まれながら、コンピレイション『Free Soul Yasuko Agawa』は幕を下ろしていく。バックを務めるのは、当時の阿川のパーマネント・バンドだった松木恒秀のグループだ。