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スガ シカオ『フリー・ソウル・スガ シカオ』
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2014年(Free Soul 20周年)のNujabes〜オリジナル・ラヴ〜origami PRODUCTIONS〜クレイジーケンバンド〜キリンジ以来となる、橋本徹が選曲・監修を手がける日本人アーティストのベスト・コンピレイションとして、『フリー・ソウル・スガ シカオ』が11/28にリリースされます。1997年のメジャー・デビュー以来数々のヒットを飛ばしてきたスガ シカオの、ソウル〜ファンクの影響色濃いグルーヴィー&メロウで胸に沁みる名曲群を、全キャリアを通してレーベルをこえ丁寧かつ大胆に選りすぐった2枚組35曲におよぶ大充実のオールタイム・ベスト盤です。「黄金の月」「愛について」「Progress」「夜空ノムコウ」といった人気曲ももちろん収録された、まさしく“世界中にあふれているため息と 君とぼくの甘酸っぱい挫折に捧ぐ”コンピレイション。アプレミディ・セレソンでお買い上げの方にはもれなく(通販含む)、橋本徹・選曲のスペシャルCD-R『Best Of Suburbia Radio Vol.15』をプレゼント致しますので、お見逃しなく!
『フリー・ソウル・スガ シカオ』ライナー(橋本徹)
スガ シカオの音楽特有の“わびさび感”を大切に、20年以上のキャリアを振り返り、レーベルをこえて発表されたすべての曲を聴き直し、候補作を50曲ほど選んでおいてから、まるで“スガ シカオ・ナイト”でDJするように、曲順はひと筆書きのように組むことができました。
そんな感じなので、流れの中でたまたま入らなかった好きな曲もたくさんありますが、スライ&ザ・ファミリー・ストーンを始めビル・ウィザース~カーティス・メイフィールド~マーヴィン・ゲイらへの憧憬を共有しながら、僕なりにFree Soulのパースペクティヴを通してスガ シカオ固有の文体、その皮膚感覚や言語感覚を浮き彫りにしたつもりです。
連載コラムをお願いしていた「bounce」の編集長をやっていた頃から、同世代としてファン歴も20年以上ですが、自分の周りのFree Soulファンや初めてスガ シカオを聴く方も魅せられるに違いない、70年代ソウル/ファンクの影響が感じられるメロウ&グルーヴィーな楽曲を中心に、コンピレイションの物語を構成できたと思います。
心をこめて選んだこのセレクションが、アーティストご本人や熱心なスガ シカオ・ファンの方はもちろん、Free Soulの愛好家からFree Soulに初めて接する方にまで気に入っていただけたら、これ以上の歓びはありません。
Free Soul スガ シカオ[DISC 1](waltzanova)
1. 黄金の月
メジャー・デビュー・アルバム『Clover』のラストに置かれていた、スガ シカオ初期の名曲として名高い90sクラシック。スライ&ザ・ファミリー・ストーン風のリズム・ボックスにワウ・ギター、ざらついた声質で歌われる内省的なリリック。ベン・ハーパーやG・ラヴ&ザ・スペシャル・ソースなどのオルタナティヴ・インディー~ローファイ・ポップの影響も感じさせながら、よりソウルフルなヴォーカルとプロダクションは、日本における新世代のシンガー・ソングライターの姿を提示した。今なおフレッシュにしてエヴァーグリーンな傑作である。
2. 光の川
エレピとギターの音色が闇の中に鈍く浮かび上がるクルマを思わせる、アーバン・ファンク・チューン。サビの展開の仕方とグルーヴの質感が「黄金の月」との類似性を感じさせ、この位置に置かれているのも納得である。洗練度の高いプロダクションは、森俊之が担当。宇多田ヒカル/椎名林檎など錚々たるミュージシャンとの仕事で知られる森は、スガのキャリア初期から大きく貢献している共同制作者のひとり。2007年までスガのライヴ時のバック・バンドだったShikao & The Family Sugarや、沼澤尚らの参加するNothing But The Funkのメンバーでもある。その卓越したキーボード・ワークは、ブラック・ミュージックのエッセンスを抽出し、スマートな形で提示している。
3. June
夏草の誘い。新しい街で新しい季節を迎え、再生しようと奮闘する主人公の姿が鮮やかに切り取られたアコースティック・ポップ・チューン。軽快でグルーヴィーなビートからは、洗いたてのブルージーンズを穿いて自転車で走る少年の姿が浮かぶよう。土手沿いの道の草いきれや夕暮れどきの光景も立ちあらわれる。この喚起力こそがスガの真骨頂だ。「君に書く手紙には つい“元気でいます”と 書きはじめたけど…それでいいと思う」という、スガにしてはポジティヴな最後のフレーズには、優れた青春映画や青春小説が持つ胸がしめつけられるようなサムシングを感じずにはいられない。6作目のアルバム『TIME』に収録。
4. 8月のセレナーデ
前曲が夏の始まりだとすると、この曲は真夏から晩夏のイメージだろうか。スガの類まれなポップ・センスがよくわかる一曲。インタヴューなどでスガはファンク・ミュージックからの影響を語ることが多いが、曲の展開などについては変化のあるソウル・ミュージック的な作り方をしている、とも。直前までのキーボードの音色とコントラストを見せる間奏のピアノは、どこか月の光を連想させる美しさ。初のコレクション・アルバム『Sugarless』のリード・トラック的にシングルでリリースされた。
5. 愛について
「愛について」は、かつてインディーズ時代にリリースした作品『0101』に収められていたが、そのディスクはスガいわく「全国流通で売れたのは140枚くらい」だったそうで、そのときの経験がもとで、今後は自分で絶対にプロデュースをしようと決めたとのこと。メジャー・デビュー後に再びこの曲で勝負しようとしたのは、それだけ自信作だったことの表れでもあろう。歌いだしからスガ渾身のヴォーカルが爆発する、正真正銘の名ラヴ・ソング。「木枯しにこごえる日には かじかんだ手を 温めてほしい」「夜がきて あたたかいスープを飲もう」といった愛情の温もりを感じさせる歌詞も素晴らしい。やはり彼の代表作と言っていいだろう。
6. グッド・バイ
「グッド・バイ」というタイトルは、太宰治の絶筆となった同名作品を連想させる。スガの歌詞は文学的だとよく評されるが、学生時代に文学好きの友人に勧められて本を読んだことが読書にのめり込むきっかけだったそう。歌詞は空港での別れを歌ったものだが、その内容はセカンド・アルバム『FAMILY』収録の「お別れにむけて」と共通したものがある。同曲はスガ自身がヘヴィーだと評する『FAMILY』のラストに置かれ、スガの死生観も感じられるアルバムを象徴する楽曲である。
7. 夕立ち
湿り気や倦怠を感じさせる情景描写によって空気感や人物の心理が鮮やかに映しだされる、スガのひとつの到達点とも言える名曲で、ファン人気が高いのもうなずける。ファーストからサードまでのアルバムが初期三部作という括りで語られることが多いが、『Sweet』はその作風が完成の域に達した傑作アルバム。フリー・ソウル的な観点から言うと、スガ流メロウ・グルーヴの最高峰。コード感や曲の展開にはマーヴィン・ゲイやダニー・ハサウェイなど70年代ソウルの香りが漂うが、ギタリストでありシンガーでもあるという共通項のせいだろうか、個人的にはリトル・ビーヴァーを特に強く連想した。
8. Progress / kōkua
NHKのドキュメンタリー番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」のテーマ曲として幅広い世代に知られる、スガの名刺代わりとなっている一曲。名義はスガ個人ではなく、同番組のためのプロジェクト、kōkuaとなっている。個人的に親交も深いというMr. Childrenの桜井和寿の作風を参考にして書き上げたと「別冊カドカワ」(2007年1月)で語っている。嫉妬や諦観、やるせなさといった感情に翻弄されながらも、最後は「あと一歩だけ、前に 進もう」と前向きに締めくくられる展開にすがすがしさを感じずにはいられない。イントロを聴いただけでなんとなく熱いものがこみ上げてくる。より自然体な雰囲気のShikao & The Family Sugarによるヴァージョンもあり(アルバム『PARADE』に収録)。
9. ホームにて
2011年にデビュー15周年を記念して発表された『Sugarless Ⅱ』に収録されていたナンバー。軽いタッチのギター・カッティングと、それに絡むような森俊之のキーボードが印象的で、春の夜の柔らかなムードが漂ってくるかのよう。サラッとした手触りのサウンド・メイクが、スガのヴォーカルの魅力を引き立てている。松任谷由実はスガの声を「コーヒーのような声」と評しているが、苦さを含んだ彼のヴォーカルの魅力を見事に言い表していると思う。
10. 夏祭り
トリオ編成だった前曲に続いて、この曲もシンプルなプロダクションが施されている。主人公が夕方になって目覚めると夏祭りが近くで行われているのに気づく、というだけのストーリーなのだが、父親との思い出や死者を送るお盆などのイメージが重なり、奥行きを持ったものになっている。日本のロックのオリジネイターのひとりである佐野元春(スガは佐野の大ファンだそうだ)は、ソングライティングをいくつもの層のあるパイ作りに喩えていたが、まさにそれを地で行く作品と言えるだろう。シングル「あまい果実」のカップリング曲として発表された。
11. ひとりごと
自由さとあてどなさがないまぜになったような心象が歌われる、フォーク・ロック調の楽曲。部屋の窓からぼんやり外を眺めているようなムードと、叙情的なピアノの音色が印象的だ。「June」の項でも書いたが、言葉とサウンドが組み合わさることで、風景が皮膚感覚を伴って浮かんでくるのがスガの音楽の卓越した美点だと思う。シングル「ぼくたちの日々」のカップリングには、よりライヴ感のある「FAMILY SUGAR TYPE」として再レコーディングされたヴァージョンが収められている。
12. サナギ〜theme from xxxHOLiC the movie〜
『TIME』収録のオリジナルを映画『劇場版xxxHOLiC 真夏ノ夜ノ夢』のために、森俊之がリミックスしたヴァージョン。女性の視点から歌われた歌詞も含め、オリジナル版にあった濃厚さが良い意味でまろやかになったという印象を受ける。「黄金の月」「月とナイフ」が『ハチミツとクローバー』で挿入歌として使用されたり、自身は『新世紀エヴァンゲリオン』のファン(このアニメをモティーフにした曲も作っている)だったりと、スガとアニメの関係は深い。
13. カラッポ
スガの音楽的アイデンティティーのベースとなっているのはブラック・ミュージック、特にファンクである。ヴァースをワン・コードで押し切る「カラッポ」はそれがよく出た曲。スライ&ザ・ファミリー・ストーンへの思い入れはとりわけ強いようで、彼らを思わせるアレンジの楽曲も少なくない。中でもスガに影響を与えているのは、よく密室的と称される『暴動』や『フレッシュ』あたりのアルバムだろう。P・ファンクなどではなく、内へと向かうファンクに、文学的な歌詞が組み合わさることで、それまでにはない新しい表現が生みだされた。ドラムは海外のミュージシャンからも高い評価を受ける沼澤尚が担当、山木秀夫と並んでスガの信頼厚いグルーヴ・マスターである。
14. 前人未到のハイジャンプ
スガはサラリーマン生活を経て、30歳でメジャー・デビュー。遅咲きのスタートであったが、そんな当時のスガの心境が反映されているような、現状への苛立ちが吐露されたヴァースのあとで、開放的なサビへの展開が鮮やかだ。これがファースト・アルバム『Clover』のオープニング。リアルタイムで聴いたとき、目の前の景色が塗り替えられるようなワクワクした気持ちになったのを覚えている。新たなポップ・センスを持った新世代アーティストが登場したという実感があった。アコースティック・ギターのザクザクとしたカッティングも魅力的だ。
15. オバケエントツ
現在のところ最新アルバム『THE LAST』(2016年)に収録されている、スガ自身が「下町シリーズ」と呼んでいる中の一曲。自分の住んでいる町に対するコンプレックスを抱えている主人公が、ガールフレンドとそこを歩くという歌詞。タイトルの「オバケエントツ」は、かつて千住にあった火力発電所の煙突。スガは中学からメジャー・デビューまでの社会人時代を下町で過ごし、愛憎半ばする複雑な思いを抱いていると語っているが、それが反映された内容である。スガは下町について、「いわゆる『こち亀』的な義理と人情だけの世界ではない」と、決して肯定的なものとしては語っていないが、最近は「下町シリーズ」を楽しんで書けるようになってきたとも語っている。
16. 夜空ノムコウ (Live)
90年代のSMAPというプロジェクトは、その音楽的な充実度はもちろんのこと、曲を提供したアーティストやバックを務めたミュージシャンにも目が向けられたが、その代表格といえば「青いイナズマ」「$10」などを書いた林田健司や「SHAKE」の小森田実だろう。「夜空ノムコウ」は160万枚以上を売り上げる大ヒットとなり、SMAPの新境地を開くとともに、スガの名前が一躍知られるようになるきっかけともなった。スガは歌詞のみの提供で、作曲は川村結花が担当している。スガ本人のスタジオ・ヴァージョンはセレクション・アルバム的な性格の『Sugarless』に収録。ここではビル・ウィザースが歌った「Just The Two Of Us」を思わせるようなライヴ・ベスト・アルバム『THE BEST HITS OF LIVE RECORDINGS』のテイクが選ばれている。
17. 夏陰 ~なつかげ~
夏から秋へと移り変わる季節を描いた、センティメントを感じさせるバラード・ナンバー。スガの曲の中で、ここまでストレートに叙情的な楽曲は珍しい。もともとはハワイのミュージシャンと現地でレコーディングされたが、亀田誠治や斉藤有太らと再録音されたものが「奇跡」「サナギ」とともにトリプルA面シングルとして発表されている。オリジナル・ヴァージョンは『Sugarless Ⅱ』で陽の目を見たが、それと比較すると、ひとつの季節が通りすぎていく余情を感じる仕上がりになっている。
Free Soul スガ シカオ[DISC 2](waltzanova)
1. 夜明けまえ (Live)
スガ流のソウルフルなポップ・ナンバーで、シティー・ミュージック的な洗練も備えている。オリジナルは1999年にシングルとしてリリースされ、その後サード・アルバム『Sweet』に収録されたが、ここでは2003年のライヴ・ベスト『THE BEST HITS OF LIVE RECORDINGS -THANK YOU-』からのファンクネス溢れるヴァージョンを。ギターのカッティングやキーボードのフレーズなど、ライヴならではの熱さがたまらない。当時のバック・バンドはShikao & The Family Sugar。もちろんスガが愛してやまないスライ&ザ・ファミリー・ストーンにその名が由来するのは言うまでもない。
2. 海賊と黒い海
2000年代中盤以降、スガは弾き語りを基調としたライヴ・ツアーを行ったり、音楽フェスに積極的に参加したりするなど、より幅広くリスナーに音楽を届けるための行動を展開していくようになる。そのような活動を経て、6年ぶりにメジャー・レーベルからリリースしたアルバムが『THE LAST』(2016年)。プロデューサーにはMr. Childrenやレミオロメンなどで知られる小林武史を起用、多彩な色を持つ楽曲を的確にディレクションしている。この曲は深い海の底のような夜の中にいて、「君」とのつながりが小さな灯りのように綴られる、詩情あふれるラヴ・ソング。
3. 青空
それまでとは異なるメロディー・ラインへの志向やUKロック的なテイストを導入したアレンジと、『4Flusher』リリース後のスガが新機軸を開こうとしたことがわかる意欲作。サビのフレーズを聴くと、目が痛くなるような青空に吸い込まれていくような感覚におそわれる。その伸びやかかつどこか穏やかさを感じさせるメロディーに乗せて表現されているのは、ひとつの終わりを受け入れ、新しい始まりへと向かおうとする主人公の心情。スガは友人の死をきっかけにしてこの曲を書いたという。
4. SPIRIT
『フリー・ソウル・スガ シカオ』収録曲の中では、最もパブリック・イメージとしてのフリー・ソウルに近い曲調とサウンドかもしれない。グルーヴするリズムにワウ・ギター、ゴスペル的な高揚感のコーラス、極めつけは夏空に溶けていくような開放感のあるフックのフレーズと、「夜明けまえ」と双璧をなすスガ シカオのブライト・サイドとも言うべきナンバー。スガは2006年の「午後のパレード」でディスコ・サウンドを取り入れているので、この曲を気に入ったリスナーにはぜひ一聴をお薦めしたい。
5. ストーリー
アコースティック・ギターでファンクをやる、という初期の音楽的なコンセプトが具現されたフォーキーなファンク。デビュー前のスガは、日本語の歌詞とファンクが融合したオリジナルな音楽を作りたいと考えていたが、FLYING KIDSを聴いて「自分のやりたいと思っていたことをやられた」という思いを味わい、しばらく創作に向かえないほどだったという。「ストーリー」は、ラテン的なアクセントも感じられる腰の強いグルーヴ、オルガンも黒っぽさを高めるのに一役買っていて、フリー・ソウル人気アーティストだと、コーク・エスコヴェードやエレン・マキルウェインあたりの楽曲を連想させる。セカンド・アルバム『FAMILY』の先行シングルとしてリリースされた。
6. 1/3000ピース
ストリングスやコード感に爽快なポジティヴさを感じるポップ・チューン。「切なさの中にある希望」がフリー・ソウル的なフィロソフィーだとしたら、確実にこの曲はそれを宿している。2008年のシングル「NOBODY KNOWS」のカップリングとして発表され、のちにコンピレイション『Sugarless Ⅱ』にも収められた。タイトルは「ぼくの体を3000ピースに分解して」という歌詞から来ているが、ちょっとドキッとするフレーズが織り込まれているのがスガらしい。
7. ぬれた靴
スガ シカオと村上春樹の関係はファンにはよく知られたエピソードで、もともとはスガが村上の熱烈なファンだったのだが、村上が自身の音楽書『意味がなければスイングはない』において、スガ シカオについて一章を割いて取り上げたことで、ちょっとした事件として両者のファンに受け止められることとなった。「ぬれた靴」の歌詞は村上に「実にスガ シカオ的」と称されているが、行き場のない閉塞感ややるせなさに、やはりスガが大好きだという大江健三郎の初期作品と共通するニュアンスが感じられる。
8. サヨナラ
ディアンジェロやJ・ディラ、彼ら周辺のミュージシャンが参加していたプロジェクト、ソウルクエリアンズの音作りを連想させるファンク・チューン。ギターとエレピ、ホーンのキメのフレーズもライヴ感がある。スガはヘヴィー・リスナーでもあり、『愛と幻想のレスポール』(2017年)では、フレンチ・エレクトロに傾倒していた時期があったことや、ジェイムス・ブレイクにも通じる内省感を持ち味とするアメリカのインディー・ロック・バンド、ボン・イヴェールが好きだということも語っている。スガは4作目のアルバム『4Flusher』について、自身を取り巻く状況も含め失敗作と感じており、それに続くレコード会社移籍後の『SMILE』は、長野の山奥にこもり心機一転という気分で制作を行ったというが、この曲もそこで生まれたという。
9. 秘密
スガ シカオ得意のサウンド・メイクの中に、ロック的な攻撃性を内包したファンク・ナンバー。クラスメイトや会社の同僚なのだろうか、歌詞は秘密を共有している相手に向けられており、「誰もぼくらの世界には さわらせたくはない」という主人公はストーカー的なメンタリティーを感じさせる。スガの歌詞に出てくるそういった傾向は、「変態性」といった単語で語られることが多いが、スガの歌詞は単なるラヴ・ソングには収まらない解釈が可能であり、人間関係全般に当てはまるものではないかと思う。そのような良い意味での曖昧さ=解釈可能性ゆえに、彼の曲には説得力が宿っているのではないだろうか。
10. AFFAIR
恋愛の終わりを歌ったヘヴィーなミディアム・テンポのファンク。メジャー・デビューから3年後の2000年に10枚目のシングルとしてリリースされているが、当初から確立されていたスガの個性がここでは完全に“固有の文体”とでも言うべきものになっている。村上春樹は『意味がなければスイングはない』の中で、スガ シカオの音楽には、ポール・マッカートニーやスティーヴィー・ワンダー同様に「麻薬的な効果」をもたらす「固有の音楽的ツイスト」があると述べているが、まさに同感だ。
11. たとえば朝のバス停で
このコンピレイション収録曲の中では、群を抜いて親しみやすくポップな曲調。歌詞を読むと主人公はいわゆる「スガ シカオ的状況」に置かれているのだが、フックのメロディーが救いや希望を感じさせ、アレンジからはどことなくユーモラスな印象も受ける。スガのレパートリーの中には、自身のイメージと曲の主人公が重なるような「日常もの」ともいうべきシリーズがあるが、そんな一曲と言えるだろう。スガは酒を飲みながら歌詞を書くことが多いそうだが、それは「自分の恥ずかしい部分などを解放する」ためだとか。『4Flusher』に収録。
12. 木曜日、見舞いにいく
前曲同様にサラッとした印象の曲ながら、内容は親しい人の死を前にした心境が綴られている。村上春樹の『1Q84』で、主人公のひとりである天吾が父親の見舞いのため千倉に行くが、そんな場面を思い起こさせるよう。心の中にある距離、そしてそれを埋めたいという気持ちを痛く感じさせる佳作。ホーン・フレーズはゴスペル的で、鎮魂のニュアンスが伝わってくるようだ。4枚目のアルバム『4Flusher』に収録されており、そのタイトルは「虚勢を張る、ハッタリ屋」という意味。ちなみに「flasher」という単語には露出狂という意味もあり、思わず深読みしたくなってしまう。
13. ココニイルコト
もともとはSMAPに提供したアコースティックなスロウ・ナンバーで、1997年のアルバム『SMAP 011 ス』に収録されている。そこでは木村拓哉と香取慎吾のふたりが歌っており、SMAPファンの間では隠れた名曲として知られている。作者自身によるヴァージョンは「夜明けまえ」のカップリング曲として発表され、のちに『Sugarless』にも収録。スタジオ・ライヴ的なリラックスした雰囲気の中で、スガは肩の力を抜いて歌っている。SMAPのオリジナルと比較すると、ブリッジのメロディー・ラインやアレンジなど多少の違いがある。同名の映画が2001年に公開され、その主題歌にもなった。ちなみにこの曲と「愛について」は、スガが初めて作ったオリジナル曲だそう。
14. ふたりのかげ
ディスク2の11曲目以降は、アレンジや曲調がシンプルだったりポップだったりするものが並ぶ。このあたりの緩急のつけ方は、これまでに300枚以上のコンピレイションを手がけてきた橋本徹ならではという感じである。「ふたりのかげ」はノスタルジックでジャジーなムード漂う一曲。「夜空ノムコウ」にも通じる世界観が心を優しくしてくれる。ちょうど日が変わる瞬間を描いた楽曲の内容とアレンジがうまくマッチしている。1999年リリースのサード・アルバム『Sweet』に収録。
15. 月とナイフ
冴え冴えとした月の光が脳裏に浮かぶタイトル通り、繊細な心模様が描きだされたスロウ・ナンバー。青春時代特有のヒリヒリとした痛みを感じさせる歌とギターが切ない。「黄金の月」や「愛について」と並んで、スガの楽曲の中では屈指の人気を誇る。悔恨とともに祈りのような感情が最小限の音数で紡がれるさまは、「黄金の月」の世界観を弾き語りにしたよう。ラヴ・ソング・ベストと銘打たれた『Sugarless Ⅱ』では、ピアノ・ヴァージョンで収録されている。
16. アーケード
スガの曲を特徴づけるキーワードのひとつは「アンビヴァレンス」だと思う。幸せな光景が描かれていても、どこかに不安や倦怠の予感が拭いきれずにある。この曲でも、主人公は日常に居心地の悪さを感じており、家を抜けだして「君」と会う。夜という時間は日常の悩みや退屈を忘れさせてくれるが、それでも朝からは逃れることができない、という意識がどこかにこびりついている。スガの曲は「生理的、触感的な表現が多い」と村上春樹は評しているが、この曲も夏の熱帯夜のまとわりつくような空気がよく伝わってくる。
17. 愛について (Live)
ラスト2曲は、スガの代表的な人気曲をライヴ・ヴァージョンで。「愛について」は『4Flusher』初回盤に付属していた8センチ・ボーナス・ディスクからの収録で、2000年2月28日の大阪フェスティヴァルホール(現在では建て替えられている)での録音。時期的にはデビュー4年目を記念して行われたライヴだった。ガット・ギターとそれに寄り添うようなキーボード、女声コーラスという編成で、曲のエッセンスをそのまま抽出したかのような演奏は、オリジナル版よりも優しさをもって迫る。
18. 黄金の月 (Live)
こちらの「黄金の月」は、2007年にリリースされた2枚組ライヴ・ベスト・アルバム『ALL LIVE BEST』からの選曲。スガはこの年からバンド編成と並行して、「Hitori Sugar Tour」と題した弾き語りライヴを行うようになるが、リキッドルームでのファイナルはスガと4人の弦楽器奏者によるスペシャルな編成となっていた。曲の良さをじっくりと味わえるとともに、祈りを捧げるように歌うスガの姿に胸を打たれる。心の中にさざなみが広がっていくような余韻を残し、コンピレイションは幕を閉じる。