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Luedji Luna『Um Corpo No Mundo』

通常価格(税込): 2,420
販売価格(税込): 2,420
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アプレミディ・レコーズの単体アーティスト作品第14弾として、しなやかでナチュラルなサウダージ香る歌声とニュアンス豊かな洗練されたアレンジメントが素晴らしい、知性と野性が伸びやかに混じり合い深い叙情性が生まれる、稀代のブライテスト・ホープにしてアフロ・ブラジリアン・ビューティー、ルエジ・ルナ(Luedji Luna)の傑作デビュー・アルバム『Um Corpo No Mundo』が2/25にリリースされます。昨年暮れに出た輸入盤ですでに早耳リスナーの間では話題沸騰、“サンパウロの宝石”という称賛の声と共に大評判になっている女性ヴォーカリストによるモダン・アフロ・ブラジレイロMPBの名盤です。豊潤なギターとパーカッションの柔らかでポリリズミックなアンサンブルに、絶妙なフィーリングを加えるジャジーなホーン・セクション、こまやかな陰影に富んだ躍動と輝きあふれるヴォーカルの存在感。アコースティック・メロウなシンガー・ソングライター好きにもぜひお薦めしたい、まろやかで生き生きとした、心動かされずにはいられない、いま最も素敵な音楽です。アプレミディ・セレソンでお買い上げの方にはもれなく(通販含む)、橋本徹・選曲のスペシャルCD-R『Best Of 2017〜ラテン・アメリカの旅』(2枚組)をプレゼント致しますので、お見逃しなく!


『Um Corpo No Mundo』ライナー(高橋健太郎)

ルエジ・ルナという女性シンガーを知ったのは2016年の春先だったか。YouTubeの音楽番組、Sofar Soundsのサン・パウロ編で彼女のライヴを見かけたのが最初のように思う。その時は格好良いシンガーとバンドだなと思ったくらいだったが、年の暮れにサン・パウロの重要レーベル、YBミュージックからリリースされたシングル「Um Corpo No Mundo」を聴いて、そのクールで不敵な存在感にノックアウトされてしまった。これは大変な新人が現れた。ブラジル音楽の新譜は定期的にそれなりの数をチェックしているが、シングル1曲でそう確信するのは滅多にあることではない。ミュージック・マガジンの2017年2月号の「2017年はこれを聴け」特集の記事に「Um Corpo No Mundo」しか発表していないルエジ・ルナを選んだのも、そのくらいのショックを受けたからだ。ちなみに、そこではもう一人、シングルしか発表していないアーティストを選んだが、それは先頃、デビュー・アルバムを発表したキューバの女性シンガー/パーカッショニスト、ブレンダ・ナヴァレテだった。

「Um Corpo No Mundo 」の衝撃はそのサウンド・プロダクションによるところも大きかった。パーカッションとギター・リフが織りなすリズム・アンサンブルはアフロ色が強いが、決して発熱はせずに、冷ややかに持続する。ジャジーな和声のホーンがイントロで一閃するが、その後はなかなか出てこない。中盤からようやく戻ってくるが、その後もホーンは音数少ないアレンジで曲を彩るだけだ。この抑制的な展開が恐ろしく格好良かった。誰がこのプロダクションを支えているのだろう? 配信シングルを買った時点では判らなかったが、少し経ってから、その名を知り、膝を打った。ブラジルに移住したスウェーデン人、セバスティアン・ノティーニだったのだ。

セバスティアン・ノティーニはスウェーデンのジャズ・ドラマー、ペトゥール・エストランドの息子で、2000年代の初め頃にパーカッション奏者として頭角を現した。2005年にブラジルのシモーネ・モレーノがスウェーデンで録音したアルバム『Samba Makkosa』に参加。多分、それが契機となって、もともと強い興味を持っていたブラジル音楽に急接近していったのだろう。2008年頃にはシモーネ・モレーノの出身地であるバイーア州のサルヴァドールに移住してしまう。

2012年にサルヴァドール出身のシンガー・ソングライター、チガナ・サンタナのスウェーデン録音のアルバム『The Invention Of Colour』をプロデュース。これは2014年にアプレミディ・レコーズから日本盤が登場し、「アフロ・ブラジリアンのニック・ドレイク」というコピーとともに話題になったから、記憶している人も多いだろう。僕がセバスティアン・ノティーニという名前に注目するようになったのも、このアルバムがきっかけだった。

チガナ・サンタナの2015年作『Tempo & Magma』も手掛けたノティーニは、同年、ヴィルジニア・ホドリゲスの『Mama Kalunga』をプロデュース。バイーア出身のアフロ・ブラジル的な音楽性を持つアーティストとの関係をさらに強めていった。そんな流れの中で、2016年にセバスティアン・ノティーニが送り出したアーティストがルエジ・ルナだったのだ。そして、2017年の暮れ、ルエジ・ルナの待望のデビュー・アルバムが登場した。それが本作『Um Corpo No Mundo』ということになる。

ルエジ・ルナも当然のごとく、バイーア州サルヴァドール出身で、アフロ・ブラジル的な音楽性を携えた女性アーティストだ。バイオグラフィーについては限られた資料しかないが、生まれたのは1987年5月25日。ということは30歳にして、遅咲きのデビューを飾ったことになる。バイーア連邦大学でシンガーのアナ・ポーラ・アルブケルクに師事。その後、マリアナ・ペレイロが提唱した声のワークショップ、アリマカンタ(Alimacanta)に参加して、強い影響を受けたようだ。マリアナ・ペレイロはモノ・フォンタナなどとも親交が深いアルゼンチンのシンガー・ソングライターで、2005年以後、4枚のアルバムを発表している。2016年の最新作『DESCALZA』はアルゼンチンやボリビアのフォルクローレとアフリカの伝統音楽のポリリズム性を掛け合わせたようなアコースティック・アンサンブルで、ルエジ・ルナの本作との関連も感じられる。

2011年頃から様々な場所で歌ってきたルエジ・ルナは、現在はサン・パウロを拠点にしていて、アルバムのレコーディングもサン・パウロのYBミュージックのスタジオで行われたようだ。セバスティアン・ノティーニが彼女のために用意したバンドは2台のパーカッションと2台のギター、そして、ベースという5人編成。絶妙に絡み合うエレクトリック/アコースティックのツイン・ギターはカトー・チャンゲとフランソワ・ムレカのコンビだ。

カトー・チャンゲはケニア出身で、同じくケニア出身のシンガー・ソングライター、エリック・ワイナイーナへの貢献で知られる。アフリカン・ギターのポリリズムとジャジーなハーモニーを併せ持つ点では、米ブルーノートからデビューしたベナン出身のギタリスト、リオーネル・ルエケにも通ずる才能と言えるかもしれない。一方のフランソワ・ムレカはブラジルのギタリスト/ベーシストだが、父親はコンゴ出身だそうで、演奏にはやはりアフリカン・ギター的な感覚が強い。この二人のギタリストが織りなすアンサンブルを基本に据えたのは、セバスティアン・ノティーニの功績に違いない。

タイトル曲の「Um Corpo No Mundo」以下、アルバムはほぼ全編に渡って、淡々としたミディアム〜スロウの曲が連続する。ホーンなどが僅かな色づけをする場面はあるが、派手さはまったくない。それでいながら高いテンションが持続する。常にその中心にあるのはルエジ・ルナのヴォーカルだ。冒頭に「クールで不敵な存在感」と書いたが、まさしく、何物にも動じないような自信と貫禄すら、彼女の歌は放っているように感じられる。

しかし、それは彼女の抱える孤独や葛藤と裏表のものにも思われる。ルエジ・ルナの音楽は彼女のブラック・ディアスポラとしての意識を強く反映している。その点ではチガナ・サンタナの音楽にも近い。鎮静感のある表現だが、抑圧や差別に対抗するレベル・ミュージックとしての戦闘性も備えているのだ。

「Um Corpo No Mundo」の英訳は「One Body In The World」。ルエジ・ルナは幼少時代から、自分の祖先がどこから来たか分からないことに喪失感を覚えてきたという。ヨーロッパからの移民の子孫達は、自分はイタリア系、ドイツ系などと祖先について語ることができる。奴隷として大洋を越えて運びこまれた彼女の祖先は、どこから来たのかも分からない。だが、それでも私はここにいる。アフリカン・レディらしい正装をしたルエジ・ルナが、サン・パウロの街をひとり彷徨う「Um Corpo No Mundo」のヴィデオ・クリップはまさしく、そんな彼女のブラック・ディアスポラとしての意識を表現したものだろう。さらに言えば、女性差別やゲイ差別、望まれない者として視線に晒されることへのアゲインストが、彼女の音楽からは強烈に放たれている。

といっても、僕がルエジ・ルナの音楽に感応したのは、そのメッセージ性に触れたからではなく、聴いた瞬間に「カッコイイ!」と思ったからに過ぎない。バイーア産のアフロ・ブラジル的な音楽は何十年も前から大好きで、ジルベルト・ジルやカルリーニョス・ブラウンを始め、数多くのアーティストを愛聴してきたが、ルエジ・ルナの音楽にはこれまで聴いたことのないフレッシュな感覚があった。それは世代的なものかもしれないし、アルゼンチン、スウェーデン、ケニアなど、ブラジル以外のミュージシャンとの関わりが反映されているのかもしれない。あるいは、近年、世界の各所で見られるアフロ・ビートとジャズの交差と共振する感覚もここにはふんだんに見出せると思う。

ロウレンソ・ヘベッチスらがプロデュースするデビュー・アルバムがもうすぐ日本盤化されるバイーア出身のシェニア・フランサや、前述のキューバのブレンダ・ナヴァレテなども含めて、不敵な存在感を放つラテン世界の女性アーティストの台頭が目立つ昨今でもある。そういう意味でも、ルエジ・ルナのこのアルバムは時代を反映した重要作だと思う。じっくりと身体に染み込ませるような聴き込み方をしていきたい。
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