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Lourenço Rebetez『O Corpo de Dentro』
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Suburbia Recordsによる単体アーティストのアナログ・リリース・プロジェクト第1弾として、充実を極める現在進行形ジャズとブラジル音楽の融合のマイルストーンと言える歴史的名作、ロウレンソ・ヘベッチスの『O Corpo de Dentro』が7/15に先行入荷します。J・ディラ以降の冴えたビート感覚とアフロ・ブラジルの躍動感、ネオ・ソウルの香りに気高いラージ・アンサンブルや室内楽ジャズの系譜も息づく、2016年に発表され年間ベストに推す声も多かったアート・リンゼイ・プロデュースの大名盤です。アプレミディ・セレソンでお買い上げの方にはもれなく(通販含む)、ジャケット・デザインをあしらった缶バッジと橋本徹・選曲のスペシャルCD-R『Jazz×Brazil The New Chapter』をプレゼント致しますので、お見逃しなく!
”ジャズとヒップホップ/R&Bの融合の歴史におけるマイルストーンがロバート・グラスパーの『Black Radio』なら、ロウレンソ・ヘベッチスの『O Corpo de Dentro』はジャズとブラジル音楽の邂逅の記念碑だ。アフロ・ブラジリアンの豊潤なグルーヴとJ・ディラ以降のねじれたビート感覚に、マリア・シュナイダー~挾間美帆らのラージ・アンサンブルや室内楽ジャズの系譜も息づく、ギル・エヴァンス×モアシール・サントスの現代版のような大傑作。アート・リンゼイ・プロデュースによる前衛的なセンスも香らせながら、ディアンジェロやケンドリック・ラマーに触発されて生まれた稀有なアルバム。ただひたすらカッコイイ!”──(橋本徹)
“何度も聴きながら、現代ジャズとアフロブラジル、ネオソウル/ヒップホップといった様々な要素がここまで美しく、シンプルに組み合わさっていることに驚きを禁じ得ない。が、どうやらそれもまだ序章に過ぎないようだ。「Interludio 2 (Supernova)」を聴いてみてほしい。アフロブラジル・パーカッションとトラップがスムースに合わさったこのインタールードを聴けば、これからもブラジルから刺激的な音楽が生み出されて行く予感が沸いてくる。これもまた「ジャズミュージシャンが作り出すまだ名前のついていない音楽」としか言い表せない音楽だと僕は思う。”──(柳樂光隆)ライナーノーツより一部抜粋
Lourenco Rebetez『O Corpo de Dentro』オルタネイト・ライナー(柳樂光隆)
ロウレンソ・ヘベッチスの音楽を簡単に説明すると、マリア・シュナイダーがやっているようなクラシック~ギル・エヴァンス経由のホーンアンサンブルがありつつ、それと並行してディアンジェロ~ロバート・グラスパーが採用しているようなクエストラヴ~クリス・デイヴ経由のJ・ディラのビートを生演奏のドラムに置き換えたようなサウンド(ちなみに時折ホーンのアンサンブルにロイ・ハーグローヴ~黒田卓也的なネオソウルのフィーリングを仕込んでいるのもロウレンソの特徴だ)があり、更にそこにブラジルのバイーアの伝統的なリズムが組み込まれていたりと、様々な要素が組み合わさった音楽になっている。そして、そんなサウンドを作る際に、バイーアのリズムとクラシカルなアンサンブルをいち早く取り入れていたブラジルの巨匠モアシール・サントスの音楽を参照しつつ、そのモアシール的なサウンドをさらに発展させたカエターノ・ヴェローゾの傑作『Livro』におけるアート・リンゼイやカルリーニョス・ブラウンの仕事をアップデートしたようなサウンドを生み出したりと、ジャズとブラジル音楽の様々な文脈が有機的に交錯しているのもこの作品の魅力になっているのだ。
現代ジャズの鍵になっている要素をこんな形で組み合わせるアイディアに驚き、同時に、ブラジル由来でしかできない音を持ってきているこのアルバムは、僕が作っているジャズ本『Jazz The New Chapter』でも特集した「現代ジャズとブラジル新世代の蜜月」を象徴する傑作であるだけでなく、現代ジャズ的な理論やテクニックを取り入れながら、自身のルーツとも巧みに接続している世界中のジャズミュージシャンたち、たとえば、イスラエルのアヴィシャイ・コーエンやチリのカミラ・メザ、アルメニアのティグラン・ハマシアンらが出てくる時代にブラジルからも出てくるべくして出てきた作品であるともいえると思う。
ここで、一つ、ライナーに書き切れなかったことを補足したいと思う。さっきも書いたが、ロウレンソ・ヘベッチスはカエターノ・ヴェローゾの『Livro』をインスパイア源にしていて、それはギル・エヴァンス的アンサンブル×アフロブラジルのリズムみたいな部分がメインだとも思う。
ただ『Livro』に関してはもう一つ文脈があるはずだ。この頃のカエターノに関しては、当時のUSのオルタナティヴなロックと呼応したエレキギターのサウンドも重要な要素だと思うのだ。そして、この『『O Corpo de Dentro』でギタリストでもあるロウレンソ・ヘベッチスは、前述のアンサンブルとリズムに自身のギターを組み合わせたかったのではないかとも僕は思っている。
90年代にカエターノ・ヴェローゾがやったのがギル・エヴァンス×歪んだ音色のオルタナティヴロックだとしたら、ロウレンソ・ヘベッチスはマリア・シュナイダー×きれいで滑らかな音色のカート・ローゼンウィンケル的、みたいな印象だと書くとわかりやすいかもしれない。自身が、バークリーへ留学した際に身に着けてきたジャズギターの滑らかなソロに現代性を求めたのかなと思う。
ノイズギターのカリスマみたいな存在のアート・リンゼイがプロデュースしているにもかかわらず、ギターのサウンドがUSジャズ経由の滑らかでテクニカルなジャズギターなのは不思議だが、ここにオルタナティヴなざらつきや退廃的な雰囲気を持ち込まなかっただけでカエターノっぽさを取り除くことができて、それ故にオリジナルかつ、現代的なものになっているというのも重要なポイントだろう。
そして、そのギターが接着剤的に機能して、多様なサウンドをブレンドさせるのに一役買っているのも重要だろう。音と音の、たとえば、リズムとホーンアンサンブルの挾間にギターのラインを一枚噛ませることですべてが繋がり違和感がなくなっているのは、ケンドリック・スコット・オラクルの諸作やアーロン・パークスの『Invisible Cinema』におけるマイク・モレーノのギターの役割そのものだ。もしかしたら、ロウレンソはマイク・モレーノをかなり意識しているのではないかとも思う。さらに言えば、マリア・シュナイダー・オーケストラにおけるベン・モンダーやラーゲ・ルンドのギターもイメージにあったのかもしれない。
そんな目線で見ながら、このアルバムをよく聴くと、ロウレンソ・ヘベッチスがその作曲やプレイでギタリストとしての自身を巧妙に誇示しているように感じるのだ。ソロを弾く場面でもコンテンポラリージャズスタイルのプレイをしているだけでなく、アンサンブルの中に自身のギターがなければ成り立たないような曲作りをしているあたりにも、このアルバムの個性があるような気がする。そして、そのプロトタイプとして、グランジやギターポップ、シューゲイザーなどギターが主役の音楽で溢れていたオルタナティヴロック時代にブラジルが生んだ最大の成果の一つとして、そして、90年代以降の新たなブラジル音楽の象徴としてのカエターノ・ヴェローゾ『Livro』があったのではないかと思うのだ。ロウレンソ・ヘベッチス『O Corpo de Dentro』はカート・ローゼンウィンケルやマリア・シュナイダー、J・ディラやディアンジェロなどにより90年代末~00年代初頭にUSで芽生えた革新と、カエターノ・ヴェローゾやアート・リンゼイ、カルリーニョス・ブラウンらにより90年代にブラジルで起こった革新などをすべて引き受けながら作られた作品といっていいのかもしれない。