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『Free Soul. the classic of Leon Ware & His Works』
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今年2/23に惜しまれつつも77歳で亡くなった、ミスター・メロウネスことレオン・ウェアの偉大な功績を讃える追悼コンピ、『Free Soul. the classic of Leon Ware & His Works』が7/12にリリースされます。マーヴィン・ゲイ/ミニー・リパートンを筆頭とする70年代の名盤から、マックスウェルを始めとする90年代以降の名コラボまで、40年以上にわたって幾多のメロウなソウル・ミュージックの立役者となった彼の、貴重なシングル・オンリー曲も含むアーバン&センシュアルな自身名義の傑作に加え、プロデュース・ワーク/フィーチャリング/カヴァーのとびきりの名品も選りすぐった、2枚組42曲172分におよぶ(しかも¥2,500のスペシャル・プライス)正真正銘のキャリア集大成ベスト盤です。それは最高のドライヴ・ミュージックにして絶品のベッドサイド・ミュージックであり、男女が親密な関係になるのを手助けする音楽。アプレミディ・セレソンでお買い上げの方にはもれなく(通販含む)、橋本徹・選曲のスペシャルCD-R『Urban-Mellow FM 2017』と『2017 Best Selection Vol.5』をプレゼント致しますので、お見逃しなく!
『Free Soul. the classic of Leon Ware & His Works』ライナー(橋本徹)
2017年2月23日、惜しまれつつ77歳で亡くなった、ミスター・メロウネスことレオン・ウェアの偉大な功績を讃える追悼コンピレイションが完成した。自身の作品はもちろん、マーヴィン・ゲイ/マイケル・ジャクソン/ミニー・リパートン/シリータ/クインシー・ジョーンズらの70年代の名盤から、マックスウェルを始めとする90年代以降の名コラボレイションまで、40年以上のキャリアを通じて数多くのメロウなソウル・ミュージックの重要な立役者となったレオン・ウェア。貴重なシングル・オンリー曲も含む彼名義の傑作に加え、プロデュース・ワーク/フィーチャリング/カヴァーのとびきりの名品も選りすぐった、2枚組42曲約172分におよぶ正真正銘の集大成ベスト決定盤。レオン・ウェアのアーバン&センシュアルな珠玉の名作群を、スムースな音のマッサージに身を委ねるように、あるときは最高のドライヴ・ミュージック、あるときは絶品のベッドサイド・ミュージックとして、ご堪能いただけたらと思う。
この追悼コンピの企画を発案したのは、訃報が届いてまだ間もなかった2月末日だったが、様々な事情が錯綜する死後すぐの時期ということもあり、収録希望曲のアプルーヴァルOKの知らせが揃うのには、普段以上の時間と手間が必要だった。そうした中で、これだけの充実した楽曲を集めることができたのは、ひとえに担当ディレクター(そしてライセンス業務に携わってくださったすべての皆さん)の努力のおかげだ。レオン・ウェアと彼の音楽への敬愛と感謝の意を示すとともに、そのことにも心から深謝したいと強く思う。世界一豊富な有力レーベルのカタログを保有するUNIVERSAL音源を中心に据えながら、日本のSONY/WARNER/P-VINE、英国のExpansionなどからの、許される範囲で最大限の他社ライセンス音源も収めることができた。
選曲の基準(テーマ)を挙げるとしたら、ありきたりの表現で恐縮だが、やはりアーバン、そしてメロウということになるだろうか。マスタリングを終えて聴き通してみても、甘い夜に優しく寄り添うような、そこはかとなくリゾート風味が漂うアーバン・メロウな曲が多いと思う。よく黒人たちが「マーヴィン・ゲイでも聴いてリラックスしよう」と話すことがあるが、レオン・ウェアの音楽もまさにそんな雰囲気に相応しい。そして彼の誘う“ムード”は、スタイリッシュで都会的でありながら、アダルトな翳りを帯びてセンシュアル。男女が親密な関係になるのを手助けする音楽だ。レオンのアルバム名に倣うなら『Taste The Love』、いや『Love’s Drippin’』か。官能的でロマンティック、それでいてエレガントな、愛が滴るような音楽。もっと直接的に言うなら、男と女を濡らす音楽。インスピレイションの源は“Love”だと公言してはばからない彼は、音楽を通した“愛の伝道師”だった。
個人的な思い出を話すなら、やはりレオン・ウェアとの出会いは、墓場まで持っていきたいほど大好きなアルバム、マーヴィン・ゲイの『I Want You』。レオンがソロ作として制作中だった楽曲をマーヴィンがいたく気に入り全面プロデュースすることになった、というエピソードは広く知られているだろう。実際この『Free Soul. the classic of Leon Ware & His Works』にも、『I Want You』収録の名曲群と双子の兄弟のような作品が多い。カヴァー作から受ける印象にも、微笑ましくなるほどマーヴィン・マナー、という感じが少なくないはずだ。
続いて入れこんだのはミニー・リパートンの『Adventures In Paradise』だった。スティーヴィー・ワンダーとの蜜月を経てバトンタッチされた(シリータと同じ流れだ)レオン・ウェアと、真の友人だったミニーそしてその夫リチャード・ルドルフとの共作による3曲がとりわけ絶品のマイ・フェイヴァリット・アルバム。トライブ・コールド・クエストが「Check The Rhime」で「Baby, This Love I Have」を、「Lyrics To Go」で「Inside My Love」を立て続けにサンプリングしたときの心の震えは、今も忘れない。
DJを始めるようになって、1994年にFree Soul Undergroundをスタートさせた頃、夢中になってあらゆるカヴァー・ヴァージョンを集めていたレオン・ウェアの楽曲が、「If I Ever Lose This Heaven」と「Wanna Be Where You Are」だ。どちらもいわゆる“こみあげ系”の名曲(“こみあげ系”なら、ジャネイによるサンプリングもあって人気沸騰したマイケル・ワイコフ「Looking Up To You」にも触れないわけにはいかないが)。ナンシー・ウィルソンやマキシン・ナイティンゲイルをよくスピンした前者は、安く中古盤を買えるレコードにも素敵な音楽がたくさん埋もれていることを教えてくれたし、ズレーマ版をこの世で最も胸に迫るソウル・ミュージックとさえ思う後者は、カーリーン・アンダーソンがポール・ウェラーをフィーチャーしてリメイクしたときも感激した。
レオンのプロデュース・ワークではメリサ・マンチェスター(特にスティーヴィー・ワンダー作シュプリームスの好カヴァー「Bad Weather」)やシリータ、コラボ作では芸風も近いマルコス・ヴァーリ(シカゴのロバート・ラムの貢献も見逃せない)なども、たびたびターンテーブルにのせたが、彼自身の作品で最もヘヴィー・プレイしたのは、ジャニス・シーゲルとのデュエット「Why I Came To California」だろう。レオン・ウェアの魅力が凝縮されたようなアーバン・メロウな作風だが、“ズマの浜辺を素敵な女の子たちを見つめながら歩きたい”と歌いだされる歌詞にも僕は惹かれる。いずれにせよ、テンション・コードを多用したジャジーでセクシーなメロウ・グルーヴ、という彼のスタイルが、Free Soulにとって欠かすことのできない大切な要素であることは、イントロのエレピ(DJ Camを始め多くのトラック・メイカーもサンプリングしている)が流れた瞬間にフロアから歓声が上がる、この曲の人気が証明していると言えるだろう。
もちろん他にも、紹介すべきレオン・ウェア自身が歌った逸品は枚挙に暇がない。波の音に導かれるオープニングの「Cream Of Love」、続く「Let Go」は海沿いの道をゆっくりとクルマを走らせながら聴きたくなる。レオンの再評価と切り離せないUKソウル~ネオ・ソウルとの共鳴も感じずにはいられない。「I Wanna Be Where You Are」はマーヴィン・ゲイ版、「Inside Your Love」はミニー・リパートン版を踏まえた自演ヴァージョン。「Journey Into You」は“裏『I Want You』”として制作されデヴィッド・T.ウォーカー/レイ・パーカー・ジュニア/ジェイムス・ギャドソンらパーソネルも重なる『Musical Massage』の中で特に好きなグルーヴィー・チューン。ジャジーなアーバン・ナイト・フィーリングの「A Whisper Away」、イントロからデヴィッド・T.ウォーカーのギターが印象的なリラクシン・ミディアム「Words Of Love」、軽快かつ憂いを帯びたドライヴィン・ナンバー「All Around The World」、マルコス・ヴァーリ&ロバート・ラム作の哀愁AORグルーヴ「Love Is A Simple Thing」が続くあたりも、まさしくきら星のごとくという感じだ。
そして代表曲と言っていいだろう、ジャザノヴァがレオン本人とドゥウェレ(デトロイトつながりの両者は、それを差し引いても極めて共振する感性の持ち主だと思う)をヴォーカルに迎えカヴァーしたことでも知られる「Rockin’ You Eternally」の登場。マルコス・ヴァーリとの共作によるメロウ・ジャムの至宝だ。続いての「Turn Out The Light」も優しく慰撫されるようなナイトキャップ・クワイエット・ストーム。さらにミスター・メロウネスの真骨頂、ファーサイドのサンプリングにもしびれた大のお気に入りマーヴィン・ゲイ「Since I Had You」の自演版となる「Long Time No See」、デビュー・アルバム『Leon Ware』に潜む曲名通り甘やかでテンダリーな秘宝「Nothing’s Sweeter Than My Baby’s
Love」へと連なっていく。
華麗なる躍動に魅せられる「What’s Your Name」は、タイラー・ザ・クリエイターによる直接的な引用でよく知られているだろうが、ジャミロクワイのフェイヴァリット曲であることにも深くうなずかされるドライヴ・チューン。「Smoovin’」はタイトル通りスムースでグルーヴィンなアーバン・ミディアム。儚い夏の情景が浮かぶ「Summer Is Her Name」ではカマシ・ワシントンのサックスが聴けるのも嬉しい。イギリスのソウル・ミュージック愛好家レーベルExpansionの25周年を記念して7インチ・リリースされた「Step By Step」は、スペシャル・サマー・シングルと銘打たれているのも納得のクールで密やかでブリージンな魅力を漂わせる。個人的には、今は亡きアーバン教(狂)の友人がプレゼントしてくれた、いつまでも大切に聴き続けていきたい思い出の一曲だ。そしてマッドリブを始め多くのトラック・メイカーが愛するサンプリング・ソースとしても人気のソウルフルな「What’s Your World」、やはり7インチを宝物にしている若き日のレオンの瑞々しさと甘酸っぱさが胸を疼かせてやまない「Girl, Girl, Girl」(ダニー・ハサウェイ「Love, Love, Love」を思い浮かべるのは僕だけだろうか)の素晴らしさも、特筆しないわけにはいかない。
プロデュース・ワーク/フィーチャリング/カヴァー作品についても詳しく触れたいところだが、字数がどれだけあっても話が尽きないだろうから、waltzanovaによる丁寧な全曲解説に譲ることにして、ここでは惜しくも収録することができなかった楽曲を紹介することにしよう。もちろん収録できた楽曲は、長年にわたって繰り返し愛聴してきた、トップ・フェイヴァリットばかりだから。
CDのトータル・プレイング・タイムの制限がある中で、1アーティストにつき1曲に絞ったことにより、収めることができず最も無念だったのはミニー・リパートンの「Baby, This Love I Have」。やはりレオン・ウェアが絡んだ「Feelin’ That The Feeling’s Good」「Can You Feel What I’m Saying?」も選ばれた作品たちに全く遜色がなく、これらはぜひ『Free Soul. the classic of Minnie Riperton』でお聴きいただけたらと思う。
誉れ高いクインシー・ジョーンズ70年代半ばの傑作アルバムからも、レオンとミニーがヴォーカル参加した「If I Ever Lose This Heaven」「My Cherie Amour」をエントリーしていたが、契約書の規定でミニー・リパートン客演曲はコンピレイションへの貸し出しが難しいということだった。レオン・ウェア名義でも、マーヴィン・ゲイ「Come Live With Me Angel」と異名同曲の「Comfort」やメイン・イングリディエントによるグルーヴィー・カヴァーを収めた「Instant Love」は、同じ理由で断念した曲だ。
同じ曲ばかりになってしまっては、と気をつかってセレクトに難儀したのは、やはり「I Wanna Be Where You Are」「If I Ever Lose This Heaven」「Inside My Love」だ。「I Wanna Be Where You Are」は「After The Dance」の歌詞で歌われるマーヴィン・ゲイ版が最後の最後まで選曲リストに残っていたし、スピリチュアルなレオン・トーマスや、ズレーマ版をナイス・サンプルしたロドニー・ジャーキンスの手腕が光るティム・バウマン・ジュニア「I’m Good」も候補に挙げていた。鉄板2ヴァージョンを収めた「If I Ever Lose This Heaven」は、クインシーはもとよりアヴェレイジ・ホワイト・バンド/G.C.キャメロン/ジョナサン・バトラー×メイザ/ハーヴィー・メイソン×クリス・ターナーあたりが次点だった。ミニーと並んで心から大好きな『Love Jones』サントラ(マックスウェル/ローリン・ヒル/ディオンヌ・ファリス/グルーヴ・セオリー/カサンドラ・ウィルソンらが並ぶ)よりトリーナ・ブラッサードを入れた「Inside My Love」は、アプルーヴァルをいただいていたノルウェイの歌姫アレックスやサイ・スミスが歌うデコーダーズ(彼らはレオンを迎えて「Baby, This Love I Have」もラヴァーズ・カヴァーしている)、それにシャンテ・ムーアやシビル・フェントンなども捨てがたかった。
収録を熱望しながら、権利元が明らかにならず、泣く泣く断念せざるをえなかったのが、レオン・ウェアをゲスト・ヴォーカルに招きネオ・ソウル・マナーをまぶしたフューチャー・ソウルの旗手スティーヴ・スペイセックの「Smoke」と、レオン・ウェアが共同プロデューサーを務めたイタリアで活躍した女性歌手ララ・セイント・ポールの「So Good」だ。ブラジルの盟友と言えるマルコス・ヴァーリは、「Nao Pode Ser Qualquer Mulher」と「A Paraiba Nao E Chicago」も必須かな、と思っていたが、日本盤発売元の協力を得られなかった。近年の作品では、クアドロンとの共演「Orchid For The Sun」も、条件面でのハードルが高かったこともあり、最終的に選外とした。カメール・ハインズ「How Are You My Dear Today」、リキッド・スピリッツ「Melodies」、AAries「Baby, This Love I Have」なども、予算と収録時間が許せばぜひとも選出したかった曲だ。
SONY音源でライセンスの予備候補と考えていたアーティストも多い。ボビー・ウーマック「Trust Your Heart」を筆頭に、マリーナ・ショウ「Sweet Beginnings」、ダニエル・ボアヴェンテュラ「I Wanna Be Where You Are」、タイラー・ザ・クリエイター「Okaga, CA」、マリオ・ビオンディ「Catch The Sunshine」、そしてティーナ・マリーがマーヴィン・ゲイの死を受けてレオン・ウェアと共作した追悼曲「My Dear Mr. Gaye」。エル・デバージによる絶品のマーヴィン・オマージュ「Heart, Mind & Soul」をライセンスしていただいたWARNER音源では、もちろんダニー・ハサウェイ「I Know It’s You」やデヴィッド・ラフィン「Love Supply」も予備候補だった。
さらにレオン・ウェアの音楽シーンへの多大なる貢献を一望する意味も兼ねて、選曲にあたってメモとしてリストアップした固有名詞(カヴァー/プロデュース/共演/楽曲提供など)を列挙すると、ジャクソン・ファイヴ/ミラクルズ/アイズレー・ブラザーズ/デラニー&ボニー/アイク&ティナ・ターナー/スザイー・グリーン/アル・ウィルソン/ジェリー・バトラー/ノーマン・コナーズ/シャドウ/クリストル/コン・ファンク・シャン/ラムゼイ・ルイス&ナンシー・ウィルソン/ルース・エンズ/ミーシャ・パリス/リサ・スタンスフィールド/ヒンダ・ヒックス/マッシヴ・アタック&マドンナ/テイシャーン/ケブ・モ/ジャネイ/トライブ・コールド・クエスト/ファーサイド/マノ・ブラウン/グイダ・ヂ・パルマ&ジャジーニョ/インコグニート/リール・ピープル/マーク・ド・クライヴ・ロウ/セオフィラス・ロンドン/ジョヴァンカ……といった具合。まさに壮観という他ないだろう。
レオン・ウェア単独名義では、マーヴィン・ゲイ「I Want You」的テイストの色濃い「Learning How To Love You」、リチャード・ルドルフとの共作によるブリージン・ボサ「Sure Do Want You Now」にビル・チャンプリンとの共作によるブリージン・ブギー「Miracles」、グローヴァー・ワシントン・ジュニア&ビル・ウィザース「Just The Two Of Us」への回答のようにクリスタルな「Slippin’ Away」、まさにブラジリアン・ナイト・ラウンジという趣の「Night In Brazil」などが、コンパイル最終段階で選からもれてしまったが、僕はこの『Free Soul. the classic of Leon Ware & His Works』のセレクションに、限りなく100%に近い満足を覚えている。とりわけUKソウル~ネオ・ソウルとの共振性(特に90年代以降の作品に強く感じられ、レオン自身もマックスウェル「Sumthin’ Sumthin’」をライヴ・レパートリーにしていたりする)と、DJプレイにおいてフロアを切なくも陶然と高揚させる吸引力は、これまでのどんなアンソロジー企画よりもヴィヴィッドに伝わるはずだ。
“The Master Of Mellow Soul”と讃えられた、艶やかな吐息のような歌と、悩ましいほど胸をしめつける哀切を帯びたメロディー。レオン・ウェアは生涯最後のアルバムとなった『Sigh』が発表された際のインタヴューで、こう語っている。「タイトルが意味するのは二つの心で、二つの心が互いのスピリットを最大限に膨らませて“吐息”の中に美を見つけたときに起こるシンプルな出来事についての音楽だ」と。僕はこの言葉を聞いてすぐに、「Inside My Love」の歌詞そのものではないか、と思った。
Two people, just meeting, barely touching each other
Two spirits, greeting, trying carry it further
You are one, and I am another
We should be, one inside each other
そう、レオン・ウェアの音楽は、男女の思いが絡み合い、溶け合う場のサウンドトラックだ。収録された楽曲の中でひとつだけ紹介しそびれていた名曲中の名曲(ファースト・アルバムのオープニング曲だ)の名を最後に記そう──「The Spirit Never Dies」。ミスター・メロウネスよ、永遠なれ。天国で安らかに。
『Free Soul. the classic of Leon Ware & His Works』ライナー(waltzanova)
レオン・ウェアの異名と言えば「ミスター・メロウネス」、あるいは日本では「メロウ大王」がすぐに挙がるだろう。“メロウネス”を文字通り具現化した存在。しかし、彼のキャリアを振り返ってみると、そこに「生涯現役」というのを加えてもいいように思える。稀代のソウル・スタイリストは、どこまでもロマンティックでメロウという自らの美学を貫いた作品を作り続けた。しかも、そのイメージは77歳で亡くなるまで変わることがなかったのが、レオンの「生涯現役」たるゆえんだ。
レオン・ウェアはデトロイト出身、1940年2月16日生まれ。10代の頃はホーランド=ドジャー=ホーランドのラモン・ドジャーなどとグループを組んでいたという。ベリー・ゴーディーと出会ったことがきっかけで、地元レーベル、モータウンのスタッフ・ライターとなったレオンは、1967年にアイズレー・ブラザーズに書いた「Got To Have You Back」がヒット、その後もキム・ウエストンやライチャス・ブラザーズ、アイク&ティナ・ターナー(1971年の『’Nuff Said』は約半数の曲がレオン作だった)などに曲を提供するなど、実績を重ねていく。この時期──ソングライター時代のレオンの代表作は、やはり「I Wanna Be Where You Are」(1972年)だろう。のちにマーヴィン・ゲイの『I Want You』にも収められるこの曲は、マイケル・ジャクソンのソロ3枚目のシングルとして発表された。大人っぽい曲調と当時13歳だったマイケルの切ない歌声が見事なマッチングを生み、彼の新生面を引き出した。共作者は当時、モータウンのスーパースターだったダイアナ・ロスの弟、アーサー・“T・ボーイ”・ロス。レオンとの相性は抜群で、その後もコラボレイションを行っていく名パートナーとなる。
レオンはソロ・アーティストとしても1972年にユナイテッド・アーティスツから『Leon Ware』を発表、アーシーな質感の中に彼流のアーバン・フィーリングを潜ませた名作だが、その内容に反してセールスは振るわなかった。それと並行して、アヴェレイジ・ホワイト・バンド、ダニー・ハサウェイ、ジャクソン・ファイヴやミラクルズなどの作品にクレジットされ、業界ではソングライターとしての確固たる地位を築いていく。1974年には『The Education Of Sonny Carson』というブラック・ムーヴィーのサントラに、ヴォーカルで5曲参加している。
そんなレオンの名を一躍高めることになったのが、ジャズのイディオムを用いてブラック・ミュージックのコンテンポラリー化を進めていたクインシー・ジョーンズ作品への参加だった。クインシーは70年代に入るとソウル・ミュージックに接近、白人層にも受け入れられる都会的で洗練された音作りを志向していく。2曲のスティーヴィー・ワンダー・カヴァーを含む1973年の『You’ve Got It Bad Girl』に続く、ニュー・ソウル色の濃い『Body Heat』(1974年)にレオンは「If I Ever Lose This Heaven」など3曲を提供、同曲をミニー・リパートンやアル・ジャロウとともに歌っている。「If I Ever Lose This Heaven」はアヴェレイジ・ホワイト・バンド、セルジオ・メンデス、コーク・エスコヴェード、ナンシー・ウィルソン、マキシン・ナイティンゲイル、G.C. キャメロンらにカヴァーされ、「I Wanna Be Where You Are」と並ぶ彼の代表曲となった。
レオンをさらに後押しするような出来事が続く。1975年、モータウンの社長ベリー・ゴーディー・ジュニアは、『Let’s Get It On』の後、レコーディングをなかなか行おうとしないマーヴィン・ゲイに苛立っていた。そんな折、マーヴィンは制作中のレオンのトラックを耳にして気に入り、ゴーディーもそれを彼に譲り渡すことを決める。マーヴィンはそのトラックに魔術的とも言える多重コーラスを施し、17歳年下の妻、ジャニスへの狂おしいほどの情熱を乗せて歌い上げたのだった。これがマーヴィンのブラック・ミュージック史に残る名盤『I Want You』(1976年)である。
マーヴィンにマテリアルを渡してしまったため、改めてレオンの作品としてレコーディングされたのが、『I Want You』の兄弟作『Musical Massage』(1976年)だ。リリースはモータウンの傍系レーベル、ゴーディーからだった。愛の伝道師、レオンを象徴しているようなタイトルに、とろけるような陶酔と官能、高揚と不安とが入り混じる、まぎれもない傑作。現在ではCDのボーナス・トラックでこの作品と『I Want You』絡みの未発表音源が聴ける。マーヴィンへのさらなる楽曲提供を求めるモータウンに対し、レオンはそれを拒んだため、アルバムのプロモーションは行われず、『Musical Massage』は商業的に失敗してしまう。
レオンは再び裏方としての仕事に比重を移し、ミニー・リパートンやマリーナ・ショウ、ボビー・ウーマックらに書いた曲は、どれにも彼でしかないシグネチュアが刻まれているが、『I Want You』を機に増加したプロデューサー仕事にも特筆すべきものがある。1977年にはスティーヴィー・ワンダーの元妻であったシリータ・ライトの『One To One』の制作に関わり、中でも「I Don’t Know」は都会派メロウ・グルーヴの最高峰と称すべき珠玉の一曲だ。翌年にはメリサ・マンチェスターの“アーベイン”な傑作『Don’t Cry Out Loud』にも全面的に参加、シュプリームスのスティーヴィー・ワンダー作「Bad Weather」のカヴァーや、これまたレオンのセンスが冴え渡る「Almost Everything」などが収録されている。
3作目のソロ・アルバム『Inside Is Love』(1979年)は、マイアミのTK傘下のファビュラスからのリリースとなった。内容的にも充実しており、中でもA面は出色の名曲揃い。タイラー・ザ・クリエイターがサンプリングした「What’s Your Name」に始まり、メリサ・マンチェスターとの共作「Club Sashay」まで、レオン流のメロウ美学がこれでもかと詰め込まれている。もちろん、ミニー・リパートンが『Adventures In Paradise』(1975年)で歌った「Inside My Love」のセルフ・リメイク版「Inside Your Love」も収録。次作以降につながる、リゾート・フィーリングをまとった曲が登場しているのにも注目だ。
エレクトラと契約したレオンは、1981年に『Rockin’ You Eternally』をリリース。海辺での開放感のあるジャケットが物語るように、ここでレオンが提示したのはアーバン・リゾート的な作風。前作に引き続きブラジルのシンガー・ソングライター、マルコス・ヴァーリとタイトル曲を含む3曲を共作、モダンなブギーから黄昏の海を染めるドラマティックなスロウ・ナンバーまで、エイティーズの潮流に対応した作品だ。翌年の『Leon Ware』は、コンテンポラリーなブラック・ミュージックとAORの最良の形での邂逅。共同プロデューサーに名匠マーティー・ペイチ、ホーン・アレンジにジェリー・ヘイを迎え、西海岸のプロフェッショナルたちを配した鉄壁の布陣によるサウンドは高い完成度を誇る。マンハッタン・トランスファーのジャニス・シーゲルと共作、デュエットしたアーバン・フィーリングの極み「Why I Came To California」は、LAの夜風が吹いてくるような逸品だ。
この時期のすぐれたレオン・ワークスとしては、90年代にジャネイにサンプリングされたマイケル・ワイコフの「Looking Up To You」、ロッキー・ロビンス「Point Of View」、ノーマン・コナーズ「Everywhere Inside Of Me」(レオンはヴォーカルも担当)あたりが挙げられる。元オハイオ・プレイヤーズのメンバーが結成したシャドウの2枚のアルバムや、ビリー・グリフィンの『Systematic』(1985年)の制作にも関わっている。
80年代中盤以降のレオンは、当時のヴェテランR&Bアーティストの多くがそうであったように、活動ペースがスロウ・ダウンしていく。インディーからのリリースだった1987年の『Undercover』から次作の『Taste The Love』(1995年)までは8年間のブランクがあった。そんな彼にラヴ・コールを送ったのは、ルース・エンズやミーシャ・パリスといった、レオン・マナーをこよなく愛する英国のアーティストたち。その後リサ・スタンスフィールド、カメール・ハインズ、ヒンダ・ヒックスらともコラボレイトしている。そんな中、UKソウルの至宝オマーが『For Pleasure』(1994年)で「Can’t Get Nowhere」を共作・共演、レオン再評価の機運はさらに高まることとなる。そのタイミングで本国アメリカでも、ニュー・クラシック・ソウルの旗手として登場したマックスウェルと、スムースなグルーヴのファンク「Sumthin’ Sumthin’」を手がけ、レオンは再び前線へとカムバックしたのだった。
その後のレオンはマイ・ペースかつ精力的に活動を展開していく。2000年代前半は、デイヴ・グルーシンの弟、ドン・グルーシンとの双頭プロジェクト『Candlelight』(2001年)、ソロ作『Love's Drippin’』(2002年)、『A Kiss In The Sand』(2004年)をリリース、そこでのレオンの世界観はいい意味で変わっていない。ソウル・ミュージックの本質とは、“The Changing Same(変わりゆく、変わらないもの)”とよく言われるが、それを体現しているのがまさにレオン・ウェアという存在だと言えよう。2008年には新生スタックス・レーベルから4年ぶりの新作『Moon Ride』を発表、健在ぶりを見せつけた。2011年にはサマー・シングル「Step By Step」、2012年にはロビン・ハンニバルとココ・Oのユニット、クアドロンをゲストに迎えて「Orchids For The Sun」を発表、齢70を越えても生涯現役の絶倫ぶりはさすが。2014年の『Sigh』には、サンダーキャットやその兄ロナルド・ブルーナー・ジュニアを始め、ロブ・ベーコン、フレディー・ワシントンやカマシ・ワシントンら若手のLA人脈が参加、最後まで現在進行形の姿勢を失わなかった。ここに挙げた以外にも、近年、曲提供や客演を行ったアーティストは、ジャザノヴァ、ジョヴァンカ、インコグニート、マリオ・ビオンディ、セオフィラス・ロンドン、デコーダーズ、ルーカス・アルーダなどなど多岐にわたる。もちろん、カヴァーやサンプリングも後を絶たない。レオンの唯一無二の個性がそれだけ求められていることの証左だろう。
レオンの音楽を考えるとき、共作というファクターを抜きに語ることはできない。彼の永遠のテーマ“Love”という二人で行う営みのように、共作という行為によって、互いのクリエイティヴィティーが引き出され、熱を帯びた化学反応が生まれる。レオンが常にフレッシュでいられたのも、他者から受ける相互作用の力ゆえだったのではないだろうか。改めて、芳醇な味わいの赤ワインやふくよかな大吟醸を思わせるレオンの愛の世界に乾杯だ。もちろん、愛する人とともに──。
Free Soul. the classic of Leon Ware & His Works[DISC 1](waltzanova)
01. Cream Of Love / Leon Ware
80年代後半から90年代前半にかけて、レオン・ウェアの再評価は本国アメリカよりもイギリスを中心に起こった。ルース・エンズやミーシャ・パリスを先駆けとして、オマーやカメール・ハインズ、リサ・スタンスフィールドなどの作品に関わり、若い世代にも彼の名は注目を集めるようになる。その流れに乗るように、8年ぶりの新作『Taste The Love』(1995年)をエクスパンション・レーベルからリリース。波の音から始まる「Cream Of Love」は、跳ねるグラウンド・ビートがボトムに導入され、90年代らしさを感じさせるが、アーバンでセンシュアルな純度100%のレオン・ワールドは変わらない。
02. Let Go / Leon Ware
2002年にリリースされた『Love’s Drippin’』からの、極上のミッドナイト・ソウル。夜のしじまに溶けていくようなレオンのセクシーなヴォーカルが深い余韻を残す。それは「I Want You」を蒸留したかのような、まろやかなシングル・モルトを思わせるテイストだ。なお、2001年にデイヴ・グルーシンの弟、ドン・グルーシンとの共同名義でリリースした『Candlelight』にもこの曲が収められている。『Candlelight』は、「My Funny Valentine」や「’Round Midnight」など、有名ジャズ・スタンダードが数多く取り上げられており、大人の恋人たちがインティメイトな時間を過ごすのにふさわしいアルバムなので、こちらもファンの方はぜひ手に取っていただきたい。
03. Why I Came To California / Leon Ware
80年代レオンのソロとしての代表曲といったら、この“たまらなく、クリスタル”なアーバン・ソウル・チューンにとどめを刺すだろう。こみあげまくるメロディー、ドラマティックで最高に洗練されたアレンジと、あまりのミラクルぶりに卒倒してしまいそうだ。マンハッタン・トランスファーのジャニス・シーゲルとの共作で、彼女はデュエット相手も務めている。バックはデヴィッド・T. ウォーカー、チャック・レイニー、ジェイムス・ギャドソンといった“超”のつくスペシャリストたち。ヴェニス・ビーチやサンフランシスコ、サンディエゴなど、カリフォルニアの地名が歌詞に読み込まれ、いやが上にもリゾート気分をかき立ててやまない。1982年のセルフ・タイトルド・アルバム『Leon Ware』に収録。
04. I Wanna Be Where You Are / Leon Ware
心地よいグルーヴとツボにくる刺激を感じながら、何度もリピートしてその世界にずっと浸っていたくなるのがレオン・マジック。温泉やマッサージにも通じるような感覚かもしれない。「I Wanna Be Where You Are」もまさにそんな一曲だ。レオン版は『Musical Massage』がCD化された際にボーナス・トラックとして追加され、『I Want You』セッションからの未発表テイクとして世に出た。もともとはレオンのソングライターとしての出世作となった若き日のマイケル・ジャクソンの楽曲で、アーサー・“T・ボーイ”・ロスとの共作。もちろん『I Want You』収録曲でもあるが、ここではその原石のような姿を楽しむことができる。
05. The Spirit Never Dies / Leon Ware
ファースト・アルバム『Leon Ware』(1972年)のオープニング・ナンバーで、これも「I Wanna Be Where You Are」「I Want You」などを共作したアーサー・“T・ボーイ”・ロスとの作品。すでにレオン節とも言えるオリジナリティーはすっかり確立されている。コーラスなどにゴスペル的なテイストが滲むのは、アルバムの共同プロデューサーがデラニー&ボニーと関係の深かったダグ・ギルモアだからだろうか。エクレクティックな音楽性、シンガー・ソングライター的なスタンスを含め、このアルバムにはまぎれもなく70年代前半のニュー・ソウル・ムーヴメントとの共振性が感じられる。
06. Inside Your Love / Leon Ware
ミニー・リパートンのメロウ・クラシック「Inside My Love」の自演ヴァージョンは、モータウン離脱後の3枚目のアルバム『Inside Is Love』(1979年)から。彼女とそのパートナーだったリチャード・ルドルフとの共作による楽曲は、今ではスタンダード的な存在感を誇る。アレンジは70年代のソウル・ミュージックを支えたマエストロ、ジーン・ペイジが担当。オリジナルよりややテンポを速めてライトな感触に仕上げているが、これがレオンのヴォーカルの質にうまくマッチし、風通しのよいヴァージョンになっている。
07. Journey Into You / Leon Ware
バスルームで細いゴールドのチェーンだけを身につけた黒人女性。彼女はまっすぐにこちらを見つめ、美しい肢体をさらけ出している。そこに伸びる男性の腕……。レオン自身のフィロソフィーを反映しているかのようなタイトルの『Musical Massage』(1976年)のヴィジュアルは、忘れられないインパクトを放つ。『I Want You』のアレンジャーでもあったコールリッジ・テイラー・パーキンソンが織りなすサウンド・タペストリーの上で、恋人に愛撫をするかのように歌い上げるレオン。どこまでもシルキー・メロウな世界が広がっていく。
08. A Whisper Away / Leon Ware
「I Want You」をジャジーに再構築したらこうなるのでは? と思わせる、とろけるような大人のメロウ・グルーヴ。サクソフォンやピアノ、パーカッション的なギターのカッティングやワウが空間の演出に一役買っている。2008年のアルバム『Moon Ride』は、復活したスタックス・レーベルからの、久しぶりのメジャー・リリースとなった。とはいえそこはレオン、自身の持ち味は微塵も変わることなく、円熟と余裕、そしてときには枯淡すら感じさせる作品となった。リリースの翌年、2009年の来日時のライヴでは、光沢感のある黒のスーツをまとって客席を巡り、女性客を中心に握手をするレオンの姿がそこにあった。
09. Words Of Love / Leon Ware
エレクトラからの2作目『Leon Ware』(邦題は『夜の恋人たち』だった)は、ジャズ・フィールドで活躍した名アレンジャー、マーティー・ペイチ(アルバムにも参加しているTOTOのデヴィッド・ペイチは彼の息子だ)を共同プロデューサーに迎え、西海岸の豪華ミュージシャンが顔を揃えたアルバムとなった。アーバン・ブラック・ミーツ・AORという感じの音楽性は、そちらの筋のファンからも人気が高い。「Words Of Love」は、優しい表情が印象に残る、リラックスしたミディアム・スロウ。バッキング・ヴォーカルにはボニー・ブラムレットやリタ・クーリッジらが参加、一聴してそれとわかるギターはデヴィッド・T. ウォーカー、ホーン・アレンジはジェリー・ヘイによるもの。まさに適材適所という感じのナイス・ディレクション。この曲を収録した『Leon Ware』は、曲によって異なるミュージシャンが起用されており、そのスティーリー・ダン的な方法論も併せて楽しむことができる。
10. All Around The World / Leon Ware
クラクションなど雑踏のSEから始まるからだろうか、この曲にはドライヴ・ミュージックとして聴きたい、スムースでジェントルなヴァイブレイションがある。あたりが黄昏色に染まる中で聴けば、車内の空気も自然と二人にとって親密なものになるのではないだろうか。レオン自身の個性というのは良い意味で一貫していて、『Musical Massage』以降はほぼ不変と言える。基本的なサウンド・プロダクションはバンド・アンサンブルで、ディスコやヒップホップとは本質的には無縁だ。そのあたりのオーセンティックな感覚は、一見派手ではないが上質な生地や仕立てのスーツに喩えられるかもしれない。2002年のアルバム『Love’s Drippin’』からの収録。
11. Love Is A Simple Thing / Leon Ware
この曲のソングライティングにレオンはクレジットされておらず、マルコス・ヴァーリとシカゴのロバート・ラムの共作となっている。このマルコス~シカゴ人脈は、レオンの次作『Rockin’ You Eternally』やマルコスの『Vontade de Rever Voce』(1981年)へと引き継がれていく。マイアミのTKレーベルからデビューした白人シンガー・ソングライター、ボビー・コールドウェルなどにも通じる、男の哀愁漂うミディアム・テンポのナンバーで、AORファンを惹きつけるのもうなずける。『Inside Is Love』収録曲。
12. Rockin’ You Eternally / Leon Ware
エレクトラ・レーベルに移籍しての1981年作『Rockin’ You Eternally』で打ち出されたのは、ジャケットに象徴されるように海やリゾートのイメージだった。そのタイトル・チューンはマルコス・ヴァーリとの共作(彼はこの曲でエレクトリック・ピアノも弾いている)で、黄昏から夜にかけての時間が似合う、憂いを感じさせるスロウ・ジャム。楽曲アレンジは『Inside Is Love』に引き続き、ジーン・ペイジが担当。マルコスは自身のアルバム『Vontade de Rever Voce』で、「Velhos Surfistas Querendo Voar」というタイトルでこの曲を取り上げているが、マルコス版はアップテンポでかなりポップなアレンジを施されているので、印象はだいぶ異なるものになっている。
13. Turn Out The Light / Leon Ware
『Musical Massage』のクロージングは、“そっと灯りを消して”と題されたナイトキャップ・ナンバーで。かつて音楽評論家の渡辺亨氏は、レオンのことを「いわば寝室の空間プロデューサーである」と評していたが、そのことがよく感じられるトラック。マーヴィン・ゲイ~テディー・ペンダーグラス~フランキー・ビヴァリーといった、ベッドルームで機能するソウル・ミュージックの系譜と言えるだろう。音楽を媒介にしてお互いを慰撫した孤独な二人のラヴ・ストーリーは、これからどのように続いていくのだろうか……。優れた映画や小説のエンディングのように、余韻を感じさせてやまないムーディーな名曲は、都会の一室から街の夜景が見えるかのようだ。ミニー・リパートン、リチャード・ルドルフとの共作。
14. Long Time No See / Leon Ware
「I Wanna Be Where You Are」同様、こちらも『I Want You』セッションのアウトテイクから。タイトルは異なるものの、マーヴィン・ゲイ「Since I Had You」のオルタネイト・ヴァージョンという趣だ。90年代西海岸を代表するヒップホップ・グループ、ファーサイドは「Otha Fish (L.A. Jay Remix)」でこの曲を引用し、メロウ・マッドネス全開のリミックスに仕立てたが、「Long Time No See」にもそれはしっかりと宿っている。楽曲の基本的な骨格は同じだが、マーヴィンはそこに自身の多重ヴォーカルや悩ましげな女性のヴォイスを加え、密室的で濃厚な味わいとした。英エクスパンションからの再発CDには、アップテンポな別ヴァージョンが収録されている。
15. Nothing’s Sweeter Than My Baby’s Love / Leon Ware
これもまたレオンらしい、スウィート&テンダーな情感の中に一抹の哀しみが入り混じる佳曲。レオンの曲の大きな特徴として、ジャジーなテンション・コードの使用が挙げられる。これがいわゆる「メロウでやるせない」「浮遊感に満ちた」という形容につながっていくのだが、スティーヴィー・ワンダーやダニー・ハサウェイ以上に先鋭的だったジャズ感覚が、クインシー・ジョーンズやマーヴィン・ゲイなどのアーティストを刺激したのだろうことは想像に難くない。この曲が収められたファースト・アルバムでは「Why Be Alone」にも、そのセンスがよく表れている。
16. What’s Your Name / Leon Ware
1979年のサード・アルバム『Inside Is Love』冒頭を飾っていた華やかなダンス・ナンバー。ホーンとストリングス、コーラスが駆使されたゴージャスなサウンドを従え、レオンも気持ちよさそうに歌っている。『Inside Is Love』は、マイアミのTK傘下のレーベルだったファビュラスからリリースされたが、どうやらこのレーベルにとっては初のアルバム・リリースだったようで、社運を賭けて制作されたらしい。そのため参加ミュージシャンも豪華で、サウンド・プロダクションも前作『Musical Massage』と遜色ない出来となっている。実際に「What’s Your Name」は全米R&Bチャートで42位を記録し、彼の最大のヒットとなった。
17. Smoovin’ / Leon Ware
「A Whisper Away」同様『Moon Ride』に収録されていた、ムーンライト・ドライヴの最中に流れてきてほしい跳ね感のあるミディアム・グルーヴ。その艶やかなクールネスがオールド・ファンからニュー・ジェネレイションまでを惹きつける、2000年代レオンの最良の一曲に数えられるだろう逸品。『Moon Ride』には、2014年の『Sigh』でも貢献していたキーボードのテイラー・グレイヴスをはじめ、デヴィッド・T. ウォーカー、アレックス・アルといった気心の知れた面々に加え、アンプ・フィドラーなど幅広い世代のメンバーが参加しているが、ここでのバッキング・ヴォーカルはかつてクインシー・ジョーンズの秘蔵っ子と呼ばれたジェイムス・イングラムによるものだ。
18. Summer Is Her Name / Leon Ware
2014年にリリースされた『Sigh』は、結果的にレオンの最終作となったが、そこでクリエイトされていた音楽は、彼の健在ぶりを感じさせるものばかりだった。鳥の声に導かれて始まる「Summer Is Her Name」は、シーサイド気分たっぷりのボッサ・ナンバー。伸びやかなサックスは2015年の大作『The Epic』が大きな話題を呼んだLAジャズ・シーンのキー・パーソンのひとり、カマシ・ワシントンのプレイ。彼やサンダーキャット、その兄のロナルド・ブルーナー・ジュニアといったブレインフィーダー周辺の面々が『Sigh』には参加しているが、レオンは彼らを若手時代から支援していたという。
19. Step By Step / Leon Ware
2011年に7インチでスペシャル・サマー・シングルとしてリリースされた、ブリージンなソウル・ナンバー。この曲を流しながら、暑く長いカリフォルニアの夏を過ごしたくなってしまう。新譜・旧譜ともに彼の作品を数多くリリースしている英国のエクスパンション・レーベルの設立25周年を記念したスペシャル・コンピレイションにも収録された。リリース形態も含め、レオンのフットワークの軽さを象徴している。女性ヴォーカルとの絡みなど、いかにもレオンならではといった風情で、伊達男レオンの真骨頂ここにあり、という感じの一曲だ。
20. What’s Your World / Leon Ware
エンディングに向けてここで登場するのが、レオンの記念すべきファースト・アルバム『Leon Ware』(1972年)からのエントリー。ファショーンやマッドリブ、Ta-Kuなど、サンプリング・ソースとしても人気を集める。アンニュイなムード漂う曲調は、マーヴィン・ゲイよりダニー・ハサウェイを思わせる部分が多い(実際、シンガーよりもソングライター的な資質の勝っていたレオンは、この当時強くダニーを意識していたのではないだろうか)。憂いを帯びたレオンのポートレイトは、ジョニ・ミッチェルやリッキー・リー・ジョーンズなど、記憶に残る数々のジャケット写真を撮影したノーマン・シーフによるものだ。
21. Girl, Girl, Girl (Sonny And Virginia) / Leon Ware
レオン・ウェア・ソロ名義の最後を飾るのは、1974年にパラマウント・レコードからリリースされたレア・シングル。『The Education Of Sonny Carson』というブラック・ムーヴィーのサントラに収録されており、そこでレオンは5曲でヴォーカルをとっている。2009年にエクスパンション・レーベルから『Leon Ware And Friends』というレオンのソングライティングおよびプロデュース・ワークス、自身のレア曲などを集めた編集盤が発表され、そこでも目玉となっていた。ダニー・ハサウェイの作品に通じるような落ち着いた雰囲気のミディアム・ナンバーで、じんわりと心に沁みてくる魅力を持っている。
Free Soul. the classic of Leon Ware & His Works[DISC 2](waltzanova)
01. Heart, Mind & Soul / El DeBarge
「I Like It」や「Stay With Me」の大ヒットで知られる、80年代モータウンを代表するファミリー・グループ、デバージ。その解散後、リード・ヴォーカルのエル・デバージが1994年に発表した4枚目のソロ・アルバムからのタイトル・トラック。アルバムのプロデュースは当時のヒット・メイカー、ベイビーフェイスが担当している。いかにもレオン印という趣きのロマンティック・メロウなナンバーで、エルは自身のアイドルであるマーヴィン・ゲイ・マナーで快調な歌を聴かせている。
02. If I Ever Lose This Heaven / Maxine Nightingale
レオンの名を不動のものにした不朽のメロウ・クラシックであり、フリー・ソウル・シーンでも彼の名刺代わりと言うべき一曲。オリジナルはクインシー・ジョーンズのニュー・ソウル色濃い『Body Heat』(1974年)に収録され、レオンは一躍世の注目を集めることとなった。アヴェレイジ・ホワイト・バンド、コーク・エスコヴェード、セルジオ・メンデスなど数多くの名カヴァーが存在するが、その最右翼と言えるのがこのマキシン・ナイティンゲイル版。彼女はイギリスのシンガーで、この曲が収められている『Right Back Where We Started From』(1976年)はファースト・アルバム。フリー・ソウル・コンピレイションでは『Free Soul Moon』に収録され、ライナーでは「このヴァージョンが一番フロア映えする」と評されていた。
03. Inside My Love / Minnie Riperton
“パーフェクト・エンジェル”のニックネームで親しまれる不世出のソングバード、ミニー・リパートン。その可憐かつ心を打つ歌声はリスナーを今なお魅了してやまないが、彼女のメロウ・サイドを代表するのが「Inside My Love」だ。切なくも狂おしいほどの恋心が見事に表現された、レオンとミニーにとってのベスト・ワークと言える。サンプリング・アートの金字塔とも言うべきトライブ・コールド・クエストのサード『Midnight Marauders』(1993年)収録の「Lyrics To Go」で引用され、ヒップホップ世代以降のリスナーにも定番曲となっている。ミニーのサード・アルバム『Adventures In Paradise』(1975年)は、ラリー・カールトンとジョー・サンプルがサウンド・プロダクションで大きな貢献を果たし、愛することの喜びと悲しみが陰影に富んで描き出された傑作だが、同作収録の「Baby, This Love I Have」もまた、ATCQの作品に引用されることで新たな生命を吹き込まれた一曲。彼らは「Check The Rhime」で、アヴェレイジ・ホワイト・バンド「Love Your Life」とともにこの曲のベース・ラインをサンプリングし、その抜群のセンスを見せつけた。ミニー・リパートンやチャールズ・ステップニーゆかりの楽曲をラヴァーズ・ロック・スタイルでカヴァーするというLAのプロジェクト、デコーダーズも「Inside My Love」および「Baby, This Love I Have」を取り上げている(後者ではレオンをゲストに迎えている)ので、レオンとミニーのファンの方は必聴。もちろんこの2曲は『Free Soul. the classic of Minnie Riperton』にも収録されている。
04. I Don’t Know / Syreeta
スティーヴィー・ワンダーとレオンとは、モータウンのレーベル・メイトというだけでなく、ミニー・リパートンとシリータ・ライトという二人の女性シンガーを通じたつながりを持っている。どちらもスティーヴィーのプロデュース作ののちにレオンが制作に関わっているのだ(そして、二人ともキュートな声質が魅力という共通点がある)。シリータの3作目『One To One』(1977年)に収録された「I Don’t Know」は、車窓に流れる街の灯りを見ながら聴きたい、メロウな女性ヴォーカルものの最高峰と形容したくなる傑作で、『Free Soul. the classic of 70s Motown』にも収録されている。なお、アルバム・タイトル曲も「If You Were There」をお洒落にアダプトしたような仕上がりなので、フリー・ソウル・ファンやアイズレー・ブラザーズ・ファン、シュガー・ベイブ・ファンは必聴。
05. Wanna Be Where You Are / Carleen Anderson feat. Paul Weller
カーリーン・アンダーソンは、UKソウル~アシッド・ジャズの伝説のユニット、ヤング・ディサイプルズのヴォーカルを務めていた黒人女性。ヴィッキ・アンダーソンとボビー・バードの娘でもあり、そのソウルフルな歌声は、どんなときもリスナーの心を力強く捉えて離さない。彼女のレオン・カヴァーは、2005年の『Soul Providence』で披露された。盟友と呼ぶべき存在のポール・ウェラーとのデュエットは、ゴスペリッシュな凛としたフィーリングが色濃く漂う、この二人でしか表現できないものだ。橋本徹・選曲の『Mellow Voices〜Beautifully Human Edition』にも収録されていた。
06. Point Of View / Rockie Robbins
ロッキー・ロビンスは、プリンスの本拠地だった都市として知られるミネアポリス出身のシンガー。A&Mレーベルから3枚のアルバムをリリースしており、セカンド『You And Me』(1980年)のタイトル曲は、レスリー・スミス「It’s Something」などを思わせるアーバン・メロウなトラックで、『Free Soul Parade』に取り上げられている。「Point Of View」もそれに勝るとも劣らない一曲で、サビのメロディーにいやでも気分が高まる、80年代レオン仕事の傑作曲。マイケル・ワイコフ「Looking Up To You」同様、レオンとゼイン・グレイとの共作。熱心なソウル・ミュージック好きが愛してやまないサム・ディーズが、4曲をアルバムに提供しているのも注目すべきポイントだ。
07. I Can Dream / Thelma Jones
テルマ・ジョーンズは、エスター・フィリップス~マリーナ・ショウ~ナンシー・ウィルソンなどの系譜に属する女性ソウル・シンガー。「The House That Jack Built」は、アレサ・フランクリンが惚れこんでカヴァーした、と書くとその実力派ぶりが伝わるだろうか。一度はアトランティックと契約を結ぶが、周囲の状況が味方せずにプロジェクトは頓挫。再出発作となったコロンビアからのアルバム『Thelma Jones』(1978年)で、彼女は変わらずスケールの大きな歌を聴かせる。「I Can Dream」は、NY産らしい洗練を感じさせる、ドリーミーなミディアム・チューン。プロデュースを務めたのは、マリーナ・ショウなども手がけた名匠バート・デコトーだ。
08. If I Ever Lose This Heaven / Nancy Wilson
ジャズ・フィールド出身の黒人女性シンガー、ナンシー・ウィルソンは、マリーナ・ショウなどと同様、70年代に入るとソウル的なアプローチへと歩を進めることになる。それが大きな結実を見せたのがスティーヴィー・ワンダーの曲を取り上げた『All In Love Is Fair』に続く1975年の『Come To Get This』。マーヴィン・ゲイのタイトル曲やレオンの代表曲「If I Ever Lose This Heaven」をレパートリーとした。アレンジャーは前作に引き続き、レオン作品でもおなじみのジーン・ぺイジ。職人芸が光るアレンジとナンシーの表情豊かなヴォーカルが、見事なマッチングを見せている。『Free Soul Vibes』にも収録。
09. Looking Up To You / Michael Wycoff
ジャネイのヒット曲「Hey Mr. DJ」にサンプリングされたことで注目を集めた、とびっきりのアーバン・ソウル。サビのこみあげ感はレオンの面目躍如、まさにクラシックの名にふさわしい。『Free Soul Avenue』にも収録され、ソングライティングはレオンとグレイ・アンド・ハンクスのゼイン・グレイ。「Hey Mr. DJ」がヒットした90年代半ばは、サンプリング・ソースとしてパトリース・ラッシェン「Remind Me」なども大人気だった。マイケル・ワイコフはマルチな才能を発揮した俊英で、スティーヴィー・ワンダーの一大傑作『Songs In The Key Of Life』(1976年)にも参加している。『Love Conquers All』(1982年)は彼のセカンド・アルバムで、今なお高い人気を誇る名盤。センスの良いディレクションはウェブスター・ルイスによるもの。
10. Wanna Be Where You Are / Zulema
ズレーマは、ヴァン・マッコイがプロデュースしたフェイス・ホープ&チャリティーのメンバーだった黒人女性シンガー・ソングライター。グループ脱退後にソロとして独立、RCA移籍後のセルフ・タイトルド・アルバム(1975年)に「Wanna Be Where You Are」は収められていた。『Free Soul Avenue』に収録されたフリー・ソウル・シーン屈指のキラー・チューンで、グルーヴィーなボトムに実力派のヴォーカルが光る好ヴァージョン。ロドニー・ジャーキンスがプロデュースしたティム・バウマン・ジュニアの「I’m Good」(2015年)は、このズレーマ版の印象的なコーラス部分をサンプリングし、ソウルフルかつスムースなR&Bナンバーに生まれ変わらせた。
11. I Want You / Marvin Gaye
マーヴィン・ゲイがレオンから譲り受けて完成させた1976年の歴史的名盤『I Want You』は、官能と情念の渦巻く一大絵巻となった。彼の代表作と言えば、以前は『What’s Going On』『Let’s Get It On』と相場が決まっていたが、一時期からは『I Want You』もその2枚に並ぶ、あるいはそれ以上の評価を与えられるようになってきたように思う(『Free Soul. the classic of Marvin Gaye』でも大きくフィーチャーされている)。ジャズ的なコード感やハーモニーがポップ・ミュージックにおいて一般化したということなのだろう。そのタイトル・トラックは掛け値なしのクラシック。これから夜が始まるときの、期待と不安の入り混じるムードがこれほどよく表現された曲を僕は知らない。キャンプ・ローによって引用された、アーニー・バーンズによるジャケットのイラストレイションもまた、その世界観を鮮やかに描き出している。共作者のアーサー・“T・ボーイ”・ロスをはじめ、マッシヴ・アタック&マドンナやテイシャーン、オリジナル・ラヴに至るまで、この曲のカヴァーは興味深いものが多い。
12. A Vontage de Rever Voce (Rocking You) / Marcos Valle
ボサノヴァ第2世代として登場し、60年代末からはロックやソウルなどの要素を取り入れたクロスオーヴァーな音楽を生み出してきたブラジルのシンガー・ソングライター、マルコス・ヴァーリ。海と音楽、スポーツをこよなく愛する彼は、1975年から2度目の渡米をし、レオンやシカゴのメンバーと共作した曲は、自身の1981年作『Vontade de Rever Voce』やレオンのエレクトラ作品などで披露された。女性ヴォーカルがリードする「A Vontage de Rever Voce (Rocking You)」は、UKの名門レーベル、ファー・アウトに吹き込まれた復活作『Nova Bossa Nova』(1997年)から。「Rockin’ You Eternally」のメロディーが用いられた、潮風の匂いがするサウダージなナンバーだ。曲後半でサンバ調になってテンポアップするアレンジも気が利いている。
13. Almost Everything / Melissa Manchester
1976年のマーヴィン・ゲイ『I Want You』以降、レオンはプロデュース・ワークも多く手がけるようになるが、メリサ・マンチェスターの『Don’t Cry Out Loud』(1978年)は、レオンが全面的にバックアップした女性ブルー・アイド・ソウルの傑作。メリサは前作の『Singin’』(1977年)で「I Wanna Be Where You Are」を取り上げ、レオンのサード『Inside Is Love』では「Club Sashay」などを共作デュエットしており、当時の二人は音楽的に緊密な結びつきを持っていた。『Don’t Cry Out Loud』収録曲では、ダイアナ・ロス脱退後のシュプリームスが歌った「Bad Weather」のグルーヴィーなカヴァーも、『Free Soul Avenue』に収められ人気が高い。
14. I Wanna Be Where You Are / Michael Jackson
「Got To Be There」「Rockin' Robin」に続く、ジャクソン・ファイヴ在籍時のマイケル・ジャクソンのソロ・シングル。発表当時の邦題は、当時の彼のキャラクターを反映して「ボクはキミのマスコット」だった(笑)。アーサー・“T・ボーイ”・ロスとレオンの共作で、それ以前の2曲に比べてぐっとアダルトなムード漂う曲調。切ない恋心を背伸びをして歌い上げる様は、リスナーの心に強く訴えかけるサムシングがある。もちろん『Free Soul. the classic of Jackson Five』に収録され、マーヴィン・ゲイ、ズレーマ、カーリーン・アンダーソン&ポール・ウェラー、メリサ・マンチェスターやホセ・フェリシアーノ、ウィリー・ハッチなど、カヴァーも多数。
15. Instant Love / The Main Ingredient
メイン・イングリディエントは、キューバ・グッディングをリード・ヴォーカリストに擁する3人組のヴォーカル・グループで、70年代にRCAからコンスタントに作品を発表している。「Instant Love」のオリジナルは、レオンの『Musical Massage』に収められており、ドラマティックな展開に華を添えるミニー・リパートンの燃えるようなヴォーカルも忘れがたい。メイン・イングリディエント版は『Music Maximus』(1977年)に所収。ここでも名匠ジーン・ペイジの技が冴えている。アイザック・ヘイズも歌った彼らの1975年作『Rolling Down A Mountainside』のタイトル曲も、レオンとジャクリーン・ヒリアードのペンによるものだ。
16. Sumthin’ Sumthin’ / Maxwell
昨夏、デビューから20年を経て初の来日公演を果たしたこともファンの記憶に新しいソウル・スタイリスト、マックスウェル。名盤の誉れ高いデビュー作『Maxwell’s Urban Hang Suite』(1996年)は、スチュアート・マシューマン・プロデュースの曲が収録されていたこともあり、シャーデーの名前が引き合いに出されることも多かった。アルバムでは夢のような女性とのラヴ・アフェアーが描かれ、センシュアルでロマンティックな彼の世界観が遺憾なく表現されているが、そこにレオンからの影響を読み取ることができる。レオンとの交流から生まれた「Sumthin’ Sumthin’」は、夜の始まりを告げるようなクールなグルーヴ・ナンバー。名手ワー・ワー・ワトソンのギターが効いている。ネオ・ソウル的な音楽性を持つ顔ぶれが集まった映画『Love Jones』のサウンドトラックには、真夜中のベッドサイドが似合うような、その名も“Mellosmoothe”と銘打たれたヴァージョンが収録されている。
17. Melt The Night / Lucas Arruda feat. Leon Ware
現在はフランスを拠点に活動するルーカス・アルーダはブラジル出身のマルチ・ミュージシャンで、エヂ・モッタのサポートなどで注目されるようになった。彼のセカンド・アルバムとなる『Solar』(2015年)は、アジムスやジョージ・デューク的な、クロスオーヴァーなテイストをより前面に押し出し、持ち前のサウダージ・フィーリングと融合させた傑作となった。メロウネスを体現する“リヴィング・レジェンド”レオンを2曲でフィーチャーしており、「Melt The Night」はダフト・パンク「Get Lucky」以降の新たなブギー感覚を昇華したAOR風ナンバーとなっている。レオン作品だと『Rockin’ You Eternally』あたりに通じるムードだろうか。
18. Rockin’ You Eternally / Jazzanova feat. Leon Ware, Dwele
ドイツを拠点に活動するジャザノヴァは、当初はクラブ・ジャズ~エレクトロニックな文脈から登場したグループだったが、次第に生音と“歌もの”志向も表現していった。2008年のアルバム『Of All The Things』には、その様子がしっかりと刻まれている。準メンバーとも言うべきポール・ランドルフをはじめとして、ホセ・ジェイムスやフォンテ・コールマンなども参加。レオンと彼へのリスペクトを隠さないネオ・ソウル的個性の持ち主、ドゥウェレというデトロイト出身の二人をゲストに迎え、1981年の人気曲をカヴァー、奥行きのある大人のフューチャー・ソウルとなった。
19. Gave My Heart / Omar feat. Leon Ware
80年代後半から活動を続ける、UKソウルを代表する名シンガーのオマー。彼もまたスティーヴィー・ワンダーやウィリアム・デヴォーンら、過去のソウル・レジェンドへの敬愛をことあるごとに表現しているアーティストだ。RCAに移籍しての3作目『For Pleasure』(1994年)では、「Can't Get Nowhere」を憧れのレオンと共作したが、これがレオンの再評価のきっかけのひとつともなった。現代ジャズ界の最重要人物、ロバート・グラスパーらをゲストに招いた2017年の最新作『Love In Beats』で再びタッグを組み、息のあったデュエットを聴かせる。
20. Inside My Love / Trina Broussard
90年代半ば、R&Bシーンではディアンジェロやエリカ・バドゥ、マックスウェルらのアーティストが続々と登場し、“ニュー・クラシック・ソウル”と呼ばれるムーヴメントがひとつの潮流となった。映画『Love Jones』のサウンドトラックも、そんな時代を反映した一枚と言える。ローリン・ヒルやマックスウェル、グルーヴ・セオリー、カサンドラ・ウィルソンなど、ネオ・ソウル~オルタナティヴ・ブラックへと連なるアーティストが中心に参加、さらにはデューク・エリントンとジョン・コルトレーンの楽曲を収録するなど、黒人音楽への深い愛情と造詣が感じられた。トリーナ・ブラッサードはラサーン・パターソン周辺と親交が深い女性アーティスト。ここでのアレンジはネオ・ソウル~UKソウル風の解釈となっているが、曲後半の展開など、ミニーが持ち前のハイトーン・ヴォイスで盛り上げるのに対し、トリーナは中域を活かしてエモーショナルな表現を聴かせてくれる。
21. I Came To Love You / Booker T.
ブッカー・T. & ザ・MG’sのフロントマンとして、あるいは現在ではフリー・ソウル・ファンのみならず広く愛される「Jamaica Song」のアーティストとして、人気の高いオルガニスト/ギタリスト/シンガー・ソングライター/プロデューサー、ブッカー・T.ジョーンズ。そんな彼も時流に沿うようにアーバンなR&Bサウンドを志向したアルバムを残しており、1981年の『I Want You』もそんな一枚。ちなみにタイトル曲はレオンの書いたマーヴィン・ゲイの曲とは同名異曲である。「I Came To Love You」は、アルバムのラストに収められていたメロウ・ミディアムの佳曲。ブッカー・T.の飾らないヴォーカルとも相まって、優しいメロディー・ラインが耳に残る。ストリングスの演出するアーバン・ロマンスな雰囲気もいい感じだ。