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Chris Coco『My Favourite Place (Before Sunset)』
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地中海イビサ島のCafe Del MarやCafe Mamboの歴代レジデントDJとして活躍し、バレアリック・チルアウト・シーンを牽引する英国のリヴィング・レジェンド、Chris Coco(祝プロモーション来日DJツアー)の待望の最新アルバム『My Favourite Place (Before Sunset)』が7/5にリリースされます。彼が愛する美しいサンセットをテーマに、活動20周年を迎え話題のCalm、フジロックにも出演した人気ユニットjan and naomiも参加したキャリア最高傑作(しかも日本盤先行で3曲のボーナス・トラック付き)。アプレミディ・セレソンでお買い上げの方にはもれなく(通販含む)、未発表音源入りCD-RとFJDアートワークによるA3ポスターとポストカード、橋本徹・選曲のスペシャルCD-R『Good Mellows For Chris Coco』をプレゼント致しますので、お見逃しなく!
Chris Coco『My Favourite Place (Before Sunset)』ライナー(日高健介)
いいDJは様々な音色と音楽を自由自在に操り、あらゆる空間のサウンド・デザイン、架空のサウンドトラックを描く力を秘め、場の雰囲気や聴き手の気分を一気に高揚させ、癒し、変容させるセンスの持ち主であり、特定の仮想空間に誘導したり、時空を超越する錯覚で魅了する魔術師でもある。そんなことをChris Cocoの新作『My Favourite Place (Before Sunset)』を聴けば聴くほど、また以前に聴いた彼のDJプレイを思い起こすと、改めて痛感する。我々は大自然が自由奔放に大胆に表す壮観、イビザや海岸沿いのサンセットの瞬間を真っ向からわざわざ体感しなくてもいいのだ。すでに何千回も経験したことのある、その情感を心身共に身に占め、その感動を沸かすことができるに相応しいサウンドトラックをプレイできる。そのフィーリングを音楽で絶妙に表現できるバレアリック/チルアウト・マスターであるChris Cocoに完全に身を委ねるべきだと本作を聴きながら改めて思った。
『My Favourite Place (Before Sunset)』について、Chris Cocoはこう語った。「私は、2016年の夏の大半をイビザで過ごした。この夏にこのスペインの島と地中海の向かい側にあるイタリアの海辺で、サンセット時に50回もDJをした。夏の季節が終わり、その多忙な時期を振り返り、私が最も気に入った場所は何処だろう? と回想し思ったことが、その場は実際に存在するひとつのプレイスではなく、一日の中ある特定なひとときに生じる情感であると認識した。私が最も気に入っている場所は、日没が現れる場所であれば何処でも良かった。見通しが良い、海に沈む夕陽が見えるスポットだったら何処でも良かった。そんなひとときを思い起こし、その魔法の瞬間を再びとらえようと志したのが本作を制作する動機だった。そして、何人かの仲間と音楽友達と議論した結果、バレアリック・ミュージックという“架空”とも言える音楽ジャンルはイビサや夏に創造された音楽と限定しなくてもよく、その記憶、憧れやひとときがある引き金により蘇り、音の形態を通して再解釈されるものではないかという結論に達した。本作に収録されている楽曲のうち、1曲だけイビザで実際に制作されているが、しかし全ての創造のひらめきは、我々の頭の中に焼きつけている、地中海の日没を見て、感動した記憶の余韻から来ている」。
Christopher MellorことChris Cocoは、DJ、プロデューサー、ミュージシャン、レーベル・オーナー、ミュージック・キュレイター、ブロードキャスターにジャーナリストといった多数の肩書きの持ち主だ。1980年代末に地元のブライトンの伝説的なクラブ、Zap Clubで開催していたパーティー、The Coco ClubのレジデントDJとして活躍し、UKのクラブ・シーンで注目を集め始め、30年以上も続く華々しいキャリアはスタートした。このパーティー名が今の名義の由来だ。その後、UKクラブ・カルチャーの創世記の1990年代に、その創造に先駆的な役目を果たした音楽誌、DJマガジンの編集長を務める。まだインターネットのない時代に、幸いにもロンドンに在住していた筆者にとってDJマガジンは、大躍進を告げるUKクラブ・ミュージック・シーンの動向をフォローするバイブル的な媒体だった。彼はその編集長をしており、同時期にCoco Steel & Lovebomb名義でクラブ・ヒットを飛ばしながら、トップDJとしても活躍していた。その三者が同一人物だと後々に知り、筆者は驚いたことがある。1990年代にbounce誌の編集長を務め、本作を出すレーベル、Suburbia Recordsを主宰する橋本徹とChris Coco、日英のクラブ・カルチャーに多大な影響力を及ぼし、現在も先頭で指揮を執り、バレアリックとチルアウト・シーンをリードしている二人が、本作で集結していることに気づき、喜んでいるのは筆者だけだろうか?
Chris CocoはDJをするのと並行して、同時期に音楽制作に目覚め、Coco Steel & Lovebomb、Chris Coco、City Reverb、Beards Of Paradiseなどの多数の名義で諸作品を発表。日本のクラブ・ミュージック・ファンが、最初に彼に注目するようになったのは、当初は自主でリリースしアンダーグラウンド・ヒットとなり、後にWarpから再リリースされた、今や初期のUKハウスの傑作として名高い「Feel It」を出したCoco Steel & Lovebombの一員としてだろう。ロンドンで産まれた初期のバレアリック・シーンでは、同グループの楽曲「The Crucifixion Of DONNY」や、BOY’S OWN誌でチャートインした「T.S.O.E. (The Sound Of Europe)」もよくプレイされていたそうだ。「Feel It」の人気をきっかけに、Coco Steel & Lovebombは同レーベルとアルバム契約を交わし、デビュー・アルバム『It!』を1994年に出す。それまでハウスを主に基調にしていた彼の音楽センスは、イビザへの訪問を機に大きな打撃を受ける。1990年代の頭にCafe Del Marのサンセット・セッションでDJしていたJose Padillaのプレイを聴き、彼のプレイに大いに感化され、Chris Cocoは音楽観をひっくり返させられた。その後、彼自身の音楽テイストと制作は方向転換され、Otherを運営していたA Man Called AdamのSallyとSteve Rogersと出会い、よりチルアウト・サウンドに傾倒した作品『New World』(1997年)、続いて『Sun Set』(1998年)を彼らのレーベルから出す。
Suburbia Recordsの看板コンピレイション・シリーズ、『Good Mellows』の『Good Mellows For Sunset Feeling』には、『New World』に収められたトラック「La Isla」が収録されている。監修者である橋本徹は、この楽曲についてライナーでこう語っている。「ありそうでないタイプの隠れた秘宝として大推薦したい。スパニッシュ風味のブルージーなギターに、ドープなベースの存在感、ナレイションに澄んだ女声コーラス、ダブ処理の効いたプロダクションのカッコよさ」。また、2016年末に発表された『Good Mellows For Stardust Memory』には、彼の豊富なバレアリックの傑作がたくさん充実しているカタログから再び、2002年に本名で初めて出した、多くの名曲のカヴァーも収めたアルバム 『Next Wave』(Distinctive Records)に収録され、あのニック・ケイヴが歌う、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのクラシック「Sunday Morning」のカヴァーも選曲されている。
Chris Cocoは1990年代の初頭にイビザのバレアリック/チルアウト・サウンドに感化され、後にその親善大使として、『Blue Balearic』『Dub Club』『Chillin’ At The Playboy Mansion』『Ministry Of Sounds Sessions』『The Big Freeze』『Lazy Summer』などの数々の人気ミックスCDを手掛け、また『Real Ibiza』『Solar Spectrums』『Beach Grooves』『Acoustic Chill』『Balearic』等のコンピレイション・シリーズを監修する。また2002年から2006年まで英国の国営放送局BBCのチルアウト系の人気ミックス番組『Blue Room』でRob De Bankと共にDJを務めた。Ministry Of Sound Radioでも2008年に「Live Work Music」の司会を務めた後、自身の新しいラジオ番組「Melodica」を2009年に立ち上げ、2011年に同名のレーベル、Melodica Recordingsも設立する。
去年に自身のレーベル、Melodica Recordingsから配信のみでリリースした『Return To Good Karma』以来の新作である本作は、Chris Coco名義の通算6作目となる。去年Tartanから出た前々作『How To Disappear Completely』に収録されている楽曲「Portmerion Tide Flow」で、ヴァイオリニストの金原千恵子と共作を果たしたのに続き、Chris Cocoは本作でも日本のアーティストとコラボレイションを実現している。今回は、彼が大リスペクトしているCalmと、現代版アシッド/オルタナティヴ・フォーク的な独自の世界観を提唱しているデュオ、jan and naomiとの共演だ。Calmとは、「Like Diamonds」とボーナス・トラック「My Favourite Place (World Of Echo)」を共作している。Calmは20年以上前にレコード屋で働いていた頃からChris Cocoのことを知っているそうだ。また、Chris Cocoにとって、本作の制作の大きなインスピレイションの源がCalmだったそうだ。彼いわく「各楽曲の良し悪しを確認するときに、Calmが静かにじっとしていることを想像しようとしていた。もし彼がこの楽曲をプレイし、嬉しく聴いていなかったら、改善するか、または完全に取りやめようと思った」。
Chris Cocoとのコラボレイションについて、Calmにも訊いてみた。「本当に軽いノリから始まりました。昨年Sunset The MARINAという新木場のサンセット・パーティーで一緒になり、その後別のツアーでクリスが来日したとき、彼も少し時間があるとのことだったので、彼を自宅に招き、日本食を作って一緒に食べたりして、一緒に音楽制作を試みました。彼のツアーの合間の息抜きみたいになればいいなと思ってましたが、実際やり始めたらお互い本気になって、夕飯前にはかなりのデモが完成しました。まさかアルバムに入るとは」。Chris CocoはCalmの自宅スタジオで制作したデモをjan and naomiに送り、ヴォーカルをレコーディングした。彼いわく「このデュオはこのデモを“砂漠のオデッセイ”に変容させた」。
jan and naomiはChris Cocoが来日中に、彼らいわく「みんながのんびりと踊っていた夜」の渋谷のHot Buttered Clubで出会った。Sunset The MARINAでのCalmとの共演の後、このデュオは、二人のコラボレイション作にヴォーカルを、と歌の依頼を受けたそうだ。彼らにChris Cocoのどんな特性に共感したのか訊いてみると、こう応えた。「欲望の溶かし方、蜃気楼の作り方、そして、現実との距離の保ち方を心得てるという点において自分たちと近いものを感じます」。
2曲目の「Before Sunset」は、Chris Cocoが過去に『ターンテーブル・シンフォニー~リマスターピース』(EMI Classics)というクラシックとチルアウトを融合したコンセプト・アルバムで共作した、イギリスの名映画監督デヴィッド・パットナムの息子で映画音楽コンポーザーであるSasha Puttnamとのコラボレイション。アイルランドにある彼のスタジオで制作が始められ、Ulrich Schnaussを思い起こすシネマティックな雰囲気が大いに漂うこの作品は、Nick Cornuによるブルージーなギターが最後に付け足され、祝賀的なムードが楽曲に注入された。陽が暮れる直前の雰囲気を緩やかに微調整してくれるサントラのようだ。
「Baby Dinosaur」は、本作に収録されている楽曲の中で本人が最も気に入っているトラック。この楽曲は唯一イビザでレコーディングされ、現地の若き期待のバレアリックDJ/プロデューサー、Camillo Mirandaが所有している、サン・ホセというイビザの西部に所在している彼のスタジオで制作された。二人が、べーシックなパーカッション・トラックをスタジオ内に転がっている幾つかの打楽器とダブル・ベースを起用し作り込んだ直後、CamilloがChris Cocoに前夜に見た奇妙な夢について語り始めた。この楽曲の歌詞はその奇妙な夢についてだそうだ。
哀愁あふれるスパニッシュ・ギターがフィーチャーされている、バレアリック・サウンドのルーツを感じさせる「Una Tarde Calurosa (Album Edit)」は、ギタリストのNick Cornuとの共作。Chris Cocoは、真夏にずっと続く、風が全く吹かない昼間の暑さと静けさによる圧倒的な感覚をこの楽曲で表現したかった。バリのクラブ、PotatoheadでJose Padillaと共演したとき、Chris Cocoがこの楽曲をプレイし、即座に彼からミックスCDに収録させてくれと要請を受けたそうだ。そのミックスCDは、『Kata Rocks』(Blanco Y Negro/2016年)だ。
正真正銘心地よい、簡素でビートレスの、極上アンビエント・トラックはなかなかない。メランコリックなチェロを弾くJo Silverstonに、Nick Cornuのギター、そしてChris Cocoによるシンプルなインスト・ループで形成されている「Every Day Is Today」は、その稀な部類に入り、ぼんやりと何も考えたくない気分にさせる。
「Gone To Ground」は、Chris Cocoがたまに映画のサントラ流の音楽作品を制作する際のパートナーでもある、UKのクラブ界の大ヴェテランLol Hammond、フィンランドの歌手Sansa Illkaとの3人のコラボレイション。この楽曲は日中のスロウな流れの中で気分をリラックスさせ、身を委ねれば委ねるほど、浮遊的な気持ちになる情景を描こうとしている、とChris Cocoは語っていた。ヨガや瞑想をするときのサウンドトラックにも似合いそうだ。
「Lillestrøm」は、Paper RecordingsでThose Norwegians、Idjut Boysの二人とMeanderthalsというユニットで活動し、1990年代からDrum Islandレーベルを運営している、ノルウェイ出身のコズミック・ディスコ・マエストロであるDJ/プロデューサー、Rune Lindbaekとの共作。Chris Cocoは、イビザのクラブ、PikesでのDJ Harveyの夏の恒例パーティー、Mercury Risingで彼と初めて会ったそうだ。意気投合した彼らが、去年の11月にRune Lindbeakの故郷であるオスロで合流し、音楽制作に挑んだ結果、誕生した楽曲。Rune Lindbaekの彼女、Helene Rickardがチェロを弾き、ヴォーカルも入れた結果、スカンジナヴィアの切なさがあふれる、オーロラを連想するドリーミーな、とても素敵なアンビエント・トラックが産まれた。
「Miracle Beach」は、Chris CocoがよくDJする、イタリアのローマ近郊、Fregeneにあるクラブ、Singita Miracle Beachに因んだオマージュ。2012年にヒロシ・ワタナベの作品も出していることで知られるギリシャのレーベル、Klik Recordsからの『Singita Miracle Beach 10th Anniversary Compiled By Jose Padilla & Glass Coffee』や『Here Comes The Sunset』のコンピレイション・シリーズを通じて、少なからず日本のクラブ・ミュージック・ファンにも知られているクラブかもしれない。
「Something Everything」は、本作の幕を一旦閉じるのに相応しいメディテイティヴな楽曲であり、スウェーデンのアンビエント・ポップ・グループ、Hush Foreverとのコラボレイション。Chris Cocoは、コペンハーゲンのStella Polaris Festivalに行ったとき、このグループのメンバー、Sebastianと出会った。このグループのライヴを観ている最中にChris Cocoは演奏の合間のトークを録音し、そのレコーディングを彼らに送り、そのアンサーとして彼らは新たなヴォーカル、ギターとキーボードを送り返し、Chrisはその素材で、この雑念を吹き飛ばすかのような緩やかでビートレスなアンビエント・トラックを完成させた。
日本盤のみに収録されている、ボーナス・トラックと称された最後の3曲は、ただ単にボーナス・トラックとして扱うのはとてももったいないほど完成度が高い、と思うのは筆者だけだろうか? 「Love Made Me Tough」は、Calmに気に入ってもらい、またDavid MancusoのThe Loftを信仰するファンにアピールするような楽曲を試みようと思い、Chris Cocoが作った楽曲だそうだ。「Space」は、再びSasha Puttnamとの共作。NASAのアポロ号の発射のアナウンスから始まるこの楽曲は、「Every Day Is Today」に参加したJo SilverstonのチェロとNick Cornuのギターが再登場する。「My Favourite Place (World Of Echo)」は、CalmとChris Cocoとの共作であり、彼らがjan and naomiにプレゼントしたインストだ。ミキシング・デスクから送られたエフェクト・サウンドを使い音楽を作るという、奇才Arthur Russellが発案した制作理論に基づき創造された、とても素晴らしいビートレス・トラック。
『Space』で“宇宙”の彼方を浮遊し、この日本盤はコスモスと一体になる気持ちを表しているかのような「My Favourite Place (World Of Echo)」で終わる。まるで夕陽が完全に沈み、闇と静寂に包まれるような気持ちが芽生える。何て切ない終わり方だろう。本作を聴き通すと、何とも言えない心の浄化が自然にもたらされているのを感じることができる。
ある特定の場所、気持ちであろうが、いつかChris Cocoが本作で描いている“私が最も気に入っているプレイス”に行ってみたい。静寂の瞬間、至福に満ちた情景、欲を言えば、真夏の地中海の潮風に触れ、彼自身がプレイする素敵なサントラを聴きながら、カクテルを片手にイビザの夕焼けなどを体感したい。しかしその機会に恵まれるまで、様々なChris Cocoの心情が優美に凝縮されているこの『My Favourite Place (Before Sunset)』を聴き続けたいと思う。