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V.A.『モンマルトル、愛の夜。』

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ピエール・バルーが映画「男と女」での成功とほぼ時を同じくして1966年に設立したフランス最古のインディー・レーベル、サラヴァ(ポルトガル語で“祝福あれ”の意)の半世紀にわたる偉大な歴史から、橋本徹が「サウドシズモ」をテーマに選りすぐりの名作を紡いだコンピレイション『モンマルトル、愛の夜。』が3/14に先行入荷します。ボサノヴァとフレンチ・ポップスにとどまらないブラジル音楽とフランス音楽の出会いの先に開花した、奇跡のように美しく仄かな音像が心の深い部分に訴えかける全25曲79分59秒。アプレミディ・セレソンでお買い上げの方にはもれなく(通販含む)、橋本徹・選曲のスペシャルCD-R『2012年3月11日。音楽が終わった後に』(Night & Dayの2枚組!)をプレゼント致しますので(※特典CD-Rの配布は終了致しました)、お見逃しなく!


●橋本徹『モンマルトル、愛の夜。』ライナー

海が凪ぐときはジュリアーナに会いに行く。
「サウダージ(Saudade)」という曲を聴いていると、自分にとって生涯で最も大切な音楽ではないか、と思うことがある。
ドリヴァル・カイミも愛唱した、バイーアの漁師たちの古い伝承歌をモティーフに、ピエール・バルーが「サウダージ」という言葉の真意を語りかけるこの曲に耳を傾けていると、「すべてが空しく、すべてを失ったとき」に心の安らぎをもたらしてくれる存在を「惜しむ」気持ちに胸が熱くなる。バーデン・パウエルが言うように、自分の心にジュリアーナを持っていない人には、サウダージの意味はわからない。音楽を聴くということに、人生を感じる。
サラヴァの音楽を聴くことは、人生であると同時に、旅のようでもある。音楽を聴くこともまたひとつの旅、そんなことを思わせてくれる音楽。それは、一期一会に生きるピエール・バルーの精神が生み落とした、「出会いの芸術」だ。

1959年、ギターを抱えパリからヒッチハイクでリスボンまで行ったピエール・バルーは、馴染みのイタリアン・レストランで、気が向けば弾き語るようになっていたが、ある日そこで、シヴーカの演奏を聴き、友人となる。当時まだ新人だったジョアン・ジルベルトのボサノヴァの誕生を告げたファースト・アルバム『Chega De Saudade』に深い感銘を受けていた彼は、シヴーカとの交流を機にブラジル音楽にさらにのめり込み、やがてそのレストランの常連客だった商船会社の社長に頼み込んで、下働きをしながらブラジル行きの船に乗せてもらえることになった。ところが、ブラジルに行けば素晴らしい音楽家に会える、という期待を胸に、甲板掃除や皿洗いをしながらハードな船旅を遂げたにもかかわらず、そのときは運命の出会いは訪れなかった。
失意のピエールは、リスボン、そしてパリに戻り、毎晩サンジェルマン=デ・プレ界隈で、旅の話やブラジル音楽のことを語り合っていたが、あるとき、小さなカフェでいつものようにドロレス・ドゥランの「愛の夜(La nuit de mon amour)」を歌っていると、偶然に居合わせたブラジル人のグループが話かけてきた──「どうしてこんな曲を知ってるんだ?」。それは、かつてシヴーカが教えてくれた、ピエールが初めてブラジルの曲にフランス語の詩をつけた歌だった。
彼らとすっかり親しくなったピエールは、翌晩のブラジル人が集うパーティーに誘われる。そしてその会場に、バーデン・パウエルとヴィニシウス・ジ・モラエスがいたのだ。ブラジルに渡っても会えなかった偉大な音楽家を前に、ピエールはパリで、「愛の夜」を始め、いろいろな曲を歌った。「ブラジルの詩をここまで忠実にフランス語で表現できるなんて思わなかったよ」と、ヴィニシウスは感動し、3人の音楽交流が始まった。
バーデンはその後もしばらくヨーロッパに滞在し、ピエールと一緒に音楽を奏でるようになった。そんな彼らの語らいの中で、無意識に録音されたのが「サウダージ」だ。そこには音楽の奇跡が宿っている。一期一会の奇跡が刻印されている。40年後にピエールの自宅の倉庫から、偶然そのテープが見つかったというのも奇跡だが。
映画『男と女』をめぐるエピソードについては、10年ほど前に『サラヴァ・フォー・カフェ・アプレミディ』をコンパイルさせていただいたときに、ライナーに著した。1965年、監督のクロード・ルルーシュから声がかかり、クランク・インを前に、ブラジルからフランスに戻る最後の夜、バーデンたちと「Samba Saravah」や「Roses」が録音された。そして数年前に、それと同じテープに収録されているのが“屋根裏部屋”から見つかったのが、「愛の夜」だ。

サラヴァ・レーベルの日本での発売権が移行したことに伴い、『サラヴァ・フォー・カフェ・アプレミディ』『サラヴァ・フォー・カフェ・アプレミディ2』以来10年ぶりに、新しくコンピレイションを編ませていただくことになった。普通なら先の2枚の再リリースとなるのだが、現在の僕の心情に基づいて新たに、と提案してくださった高木洋司ディレクターとピエール・バルーに心から感謝する思いで、ある種の使命感に燃え、責任を感じながら選曲に取り組んだ。10年前は1960~70年代の音源に限ることによって2枚に収めたが、今回は近年の作品まで相当数を聴き込んだので、当初リストアップした候補曲は約4時間分におよんだ。“サウドシズモ/モンマルトル”と“スピリチュアリズモ/サンジェルマン”に大まかに分類して、長い文章を推敲するように楽曲を絞り込んでいったが、セレクションにこれほど時間をかけたコンピCDは、ほとんど記憶にない。もちろんアプレミディ・シリーズ2タイトルをお持ちの方にも、改めてサラヴァの音楽の素晴らしさに深く感じ入ってもらえるように、「Samba Saravah」の歌詞の一節を借りるなら“Poesia”に満ちた物語をめざした。この10年の間にサラヴァの“屋根裏部屋”から発掘された、「愛の夜」やフランシス・レイのシングル曲もフィーチャーした。

カエターノ・ヴェローゾの同名曲にインスパイアされ、サウドシズモ(孤独もかみしめつつサウダージを希求する)をテーマにした『モンマルトル、愛の夜。』では、ピエール・バルーと共に、僕が歳を重ねるほどに沁みるようになったアレスキの奏でる音が大きな役割を果たしている。両者とも、優しく凛とした、慈しむような音楽、と言えると思う。オープニングは、「サウダージ」の前はこの曲しか考えられなかった「Comment ça va」。溜め息のようなジャック・イジュランとの「J’aurais bien voulu」。ベノワ・シャルヴェやバロック・ジャズ・トリオのジャン=シャルル・カポンとのヒップなコラボレイション「80 A.B」。ジョアン・ジルベルトの「Undiu」を彷彿させるような「Petit sapin」。
『サラヴァ・フォー・カフェ・アプレミディ』のエンディングには、ピエールとデュエットしたシコ・ブアルキ「仮面の夜(La nuit des masques)」のカヴァーを置いたドミニク・バルーは、ここではささやくようなデヴィッド・マクニールとのデュエットを。アラム・セダフィアンにエリック・ギィユトンというシンガー・ソングライターたちの郷愁が漂う滋味に富んだ歌も、このコンピレイションの安らぎをたたえた叙情的なトーンに貢献している。僕は7曲目のフランシス・レイ(彼の声も大好きなのだ)までの流れをイメージしたとき、『モンマルトル、愛の夜。』に穏やかな冬の太陽が射すのを感じた。
モーリス・ヴァンデの流麗なピアノにも魅せられるピエール・バルーのマニフェスト、極めつけの「Vivre!」からの中盤は、ジャズとシャンソンとブラジル音楽が溶け合う、思い入れ深い曲が続く。風がそよぐような、ダニエル・ミルとリチャード・ボナのたおやかなミナス・サウンドを思わせるコラボレイションを挟み、『サラヴァ・フォー・カフェ・アプレミディ』にも収めたが、決して選外にはできないジョエル・ファプローとジャン=ロジェ・コシモンの名作、そして「Samba Saravah」。『男と女』に使われたテイクも素晴らしいが、やはりドキュメンタリー『SARAVAH』(まさに旅のような映画だ)のフィナーレに流れる感動的なヴァージョン。80年代半ばネオ・アコースティック期のボサノヴァ・フィーリングを漂わせるモラーヌ、ピエール・バルーがサラヴァの誇りとするアフリカのピエール・アケンダンゲとブラジルのナナ・ヴァスコンセロスのオーガニック&メロウで内省的なセッション、テリー・キャリアーにも通じるチック・ストリートマンのビターでブルージーでスピリチュアルなフォーク・ロックも、選りすぐりの逸品だ。
フランソワーズ・アルディーも歌ったピエール・バルー「水の中の環(Des ronds dans l’eau)」の澄んだ光のように清らかな透明感、マーヴァ・ブルームがアート・アンサンブル・オブ・シカゴをバックに歌った「For All We Know」の伸びやかな開放と躍動で、感情の高まりは一度ピークに達するが、実はこの後の流れにたゆたう詩情(“Poesia”)こそ、このコンピレイションの真価だと思っている。最初は、ジャズをメインにした『サンジェルマン、うたかたの日々。』に収めるつもりだったモーリス・ヴァンデによる「Moon River」、このロマンティックかつ心を鎮めてくれる名演を、ここに配置することによって全体がまとまった瞬間の歓びは、コンパイラーとして言葉に尽くせない。アラム・セダフィアンの美しくノスタルジックな感傷を誘うドビュッシーへのオマージュも、同じ経緯でこちらに収録した。音を惜しむようなこの曲から、深い寂寥感と哀切がにじむ「愛の夜」への連なりを聴いてほしい。続くジャック・トリーズはブルースかボブ・ディランのよう。諸行無常の響きに、個人的にはニック・ドレイクの「Black Eyed Dog」なども思い出す。淡々としたボサのリズムに切ないヴァイオリンが色を添えるジャン=ロジェ・コシモンとマジュンの共演ライヴを経て、ラストはアラン・ルプレスト。リシャール・ガリアーノの鮮烈なアコーディオンに導かれて、まるでフェリーニ映画のエンディングのように、ペイソスにあふれる。モンマルトルの愛の夜の光景を思うのは、僕だけではないだろう。

橋本 徹 (SUBURBIA)
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