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James Tillman『Silk Noise Reflex』

通常価格(税込): 2,530
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Apres-midi Records - Artists

チガナ・サンタナ以来2年近くぶりのアプレミディ・レコーズからの単体アーティスト作品となる、ジェイムス・ティルマン『Silk Noise Reflex』が12/22に先行入荷します。「新しいフォーキー・ソウル」の決定版として年間ベスト級と絶賛され、テリー・キャリアー〜ダニー・ハサウェイ〜ビル・ウィザース〜マーヴィン・ゲイ〜カエターノ・ヴェローゾらと並び称されるNYの黒人シンガー・ソングライターの、ダウンロード&カセットのみだったファースト・アルバムの世界初CD化(しかも橋本徹やジャイルス・ピーターソンがコンピに選出した2013〜2014年の音源5曲もボーナス収録したキャリア完全版!)。エレガントかつシルキーな歌声、クールなジャズ感覚、ボーダーレスな感性で構築されたハイブリッドなトラック、きめ細かく繊細な音響空間まで、すべてが素晴らしい一枚です。アプレミディ・セレソンでお買い上げの方にはもれなく(通販含む)、FJDアートワークによる“Good Mellows”のA3ポスターとコースターとキーホルダーとポストカード、橋本徹・選曲のスペシャルCD-R『2016 Best Selection Vol.1』(同時期リリースの『Good Mellows For Stardust Memory』のCDかEPもしくはキング・ジェイムス・ヴァージョン『First Time We Met』のいずれかを併せて2枚ご購入の方にはそれに加えて『2016 Best Selection Vol.2』、併せて3枚の方にはさらに『2016 Best Selection Vol.3』、4枚すべての方には『2016 Best Selection Vol.4』も)をプレゼント致しますので、お見逃しなく!


James Tillman『Silk Noise Reflex』ライナー(国分純平)

テリー・キャリアーとダニー・ハサウェイとビル・ウィザーズを足して、ジェシ・ボイキンス3世とクリス・ターナーとマイケル・キワヌーカもさらに足して……2014年に初めてジェイムス・ティルマンを聴いた僕は、その印象をこう書いた。歴代の名ソウル・シンガーから気鋭の若手まで、並べた名前を改めて見るとやや大げさだった気もするのだけれど、それだけ彼の音楽に出会ったことに興奮し、多くの人に聴いてほしいという気持ちがあったのだった。もちろん、上の名前を見て惹かれて聴いても期待外れに終わらないことはわかっていたし、何より、ティルマンのデビュー曲「And Then」のMVを見てほしい。誰もがそんな気になるんじゃないだろうか。

セピア調の映像で心地好く色落ちたニューヨークの風景。ショート・ドレッドと洒落た眼鏡のインテリ風の風貌。そして、温かなジェントリー・ヴォイスとエレガントなストリングスが響く穏やかなフォーキー・ソウル。「And Then」を包み込むノスタルジックなロマンティシズムに浸っていると、都会的な洗練と人肌の温もりを併せ持ったソウル・ミュージックの先達が次々と浮かんでくるのだが、そんなソウル・シンガーのひとり、マーヴィン・ゲイとの出会いが、ティルマンが本格的にシンガーを志すようになったきっかけだという。

マーヴィン・ゲイといえば、言わずと知れた大スター。彼に影響を受けたシンガーは数知れず……というより、ほとんどのR&Bシンガーにとってマーヴィンはスペシャルな存在であると言っていいだろう。しかし、ティルマンの理由は少しユニークだ。それは、マーヴィン・ゲイが彼と同郷だということ。そして、マーヴィンと同じくらいシンガーとして影響を受けた人物にナット・キング・コールを挙げている。

ジェイムス・ティルマンは、米ワシントンDCの出身。アフリカ・バンバータからジョニ・ミッチェルまで、幅広いレコード・コレクションを持っていた音楽好きの両親の下、幼いころからさまざまな音楽に親しんでいたそう。そうした恵まれた環境に加え、多くの黒人アーティストと同様、教会での音楽体験や16歳まで9年間クラリネットを学んでいたというクラシックの素養まで、幅広いバックグラウンドを持っている。

マーヴィン・ゲイはそのなかでも特にお気に入りだったらしいのだが、マーヴィンが自分と同じワシントンDCの出身だと知ったことで、音楽の道へ進む想いを一層強くしたのだという。音楽的な影響はもちろん、同じ土地で生まれ育ち、シンガーとして成功を収めたマーヴィンの姿に、自分の未来を見たのだろう。そう聞くと、デビューEP『Shangri La EP』でティルマンが被っている赤いニット帽が、マーヴィンがよく身につけていた赤い帽子に見えてくる。

マーヴィン・ゲイとナット・キング・コールを並べていることもとても面白い。マーヴィンにとって、コールは憧れの歌手のひとりだったからだ。60年代、ソウル・シンガーとしてモータウンでヒットを放っていたマーヴィンだが、一方でナット・キング・コールのようなポピュラー歌手、ブロードウェイ・シンガーになる夢を持ち続け、実際にミュージカル・ナンバーのカヴァー・アルバムも折に触れて録音している。そうした志向は、作曲家としてはブラックスプロイテーションのサントラという機会を得た1972年の『Trouble Man』に、ヴォーカリストとしてはその前年の名作『What's Going On』の、あの語りかけるようなスタイルに結実したと僕は見ている。シャウトやフェイクを駆使したダイナミックなソウル・ミュージック的歌唱法に、親密さと洗練を。ティルマンの、ソウルフルだが極めてデリケイトな歌い口には、マーヴィンのそんな一面からの影響が聴いてとれる。

サウンド的にはフォーキー・ソウルというのが一番近いだろうか。実はここ数年、アコースティックなサウンドを聴かせるアフリカ系のシンガー・ソングライターが増えている。冒頭で挙げたマイケル・キワヌーカ、ボン・イヴェールに大きく影響されているモーゼス・サムニー、チャントやポエトリー・リーディングも交えた表現力豊かなラップを聴かせるロウリー、作品ごとに異なった顔を見せるカナダの奇才アン・ブロンド、ジンバブウェにルーツを持つイギリスのエスカなどなど。何かに根ざした“シーン”というよりは、さまざまなところから似た志向を持ったアーティストが同時発生的に現れたというべき“潮流”のようなものだが、ティルマンがデビューした2014年前後から、ビート中心のトレンドやインターネット以後の狂騒的な状況に反動するかのように、フォーキーな音が多く聞こえるようになってきた。ティルマンは、その象徴的なアーティストのひとりでもある。オーソドックスな弾き語りからエレクトロニクスなどを用いたエクスペリメンタルなものまで、この「新しいフォーキー・ソウル」の担い手たちの強みはさまざまだが、ティルマンの特徴はジャズとの接点にある。

マーヴィン・ゲイに自分を重ね、音楽の道を進むことに決めたティルマンは、当時通っていたヴァージニア大学を中退。ホセ・ジェイムスやビラル、ジェシ・ボイキンス3世も学んでいたニューヨークのニュー・スクール大学ジャズ・ヴォーカルのクラスに編入している。この決断について、家族や友人からは反対されたとも語っているが、同大学で培ったジャズ系の人脈が彼の音楽の大きなストロング・ポイントになっている。

ティルマンは大学在学中の2013年にデビュー曲「And Then」を発表。同曲は翌年にリリースしたデビューEP『Shangri La EP』にも収録されているが、キーボードのハビ・サンチアゴ、ベースのクリス・スミス、ドラムのオーウェン・エリクソンというニュー・スクール出身者が演奏を担うシングル・ヴァージョンは、まるでダニー・ハサウェイ『Live!』収録曲のようなクールなジャズ感覚に満ちている。ビート・メイカーとしての顔も持つサンチアゴは、アマウリー・アコスタ率いるラテン・ジャズ・バンドの(U)NITYや、DJ・ハリスンによるジャズ・ファンク・バンドのブッチャー・ブラウンといったジャズ界でも注目を集める人脈とも交流を持つ鍵盤奏者であり、クリス・スミスはホセ・ジェイムスやジェシ・フィッシャー、さらにはケンドリック・ラマーの『To Pimp A Butterfly』にも参加してる若手ナンバー・ワンのベーシストのひとりだ。ティルマンはライヴではキューバ人サックス奏者のヨスヴァニー・テリーとも共演していたりするが、そうしたジャズ人脈との交流がティルマンの音楽にもたらしているものは大きいだろう。

R&B/ソウルのフィールドに軸足を置きつつ、ジャズ界隈とも親密なシンガーといえば、やはりニュー・スクール出身のクリス・ターナーが思い浮かぶ。ターナーはジェシ・ボイキンス3世の一派で活動しながら、ジャマイア・ウィリアムス率いるエリマージなどのジャズ・バンドとも懇意にしている男性シンガーで、2012年にはジャマイアやコーリー・キングらを演奏陣に迎え、セロニアス・モンクの曲に詞をつけた『The Monk Tape』もリリースしている。そんなターナーや、ベッカ・スティーヴンスのようなジャズ側からフォーキーな音を聴かせるシンガー・ソングライターを加えて眺めてみると、ティルマンの音楽は輪郭がより明確になるかもしれない。

「And Then」のシングル・ヴァージョンはニュー・スクールのジャズ系人脈によって録られているが、『Shangri La EP』の録音は何とブラジルで行っている。アメリカからはるか遠いブラジルまでわざわざ録音に行ったきっかけは、大学で友人になったブラジル出身のギタリスト、セルジオ・セイエグ。彼が本国のプロデューサーの友人であるニック・グレアム・スミスにデモ・テープを聴かせたことでブラジル録音が実現したらしい。このセルジオ・セイエグは2005年から活動しているサンパウロのバンド、ガロータス・スエーカスの元メンバーで、ガロータス・スエーカスはムタンチスのカヴァーもしているようなバンド。彼とニックによって、演奏陣にはソロとしても活躍するクルミンを始めとしたサンパウロのミュージシャンが揃えられ、録音に臨んだという。

ティルマンとブラジル、というのはやや意外な気もするが、実はティルマンはフェイヴァリット・アーティストのひとりにカエターノ・ヴェローゾを挙げている。その影響は、実際にブラジルで録音した『Shangri La EP』からはあまり感じられないが、同地での経験が彼を感化したのだろうか、むしろ今回のデビュー・フル・アルバム『Silk Noise Reflex』に強く表れている。

芳醇でリッチなソウル作品『Shangri La EP』から一転、『Silk Noise Reflex』の制作陣には、インディー・ロック界隈の人物が招かれている。ミキシングはデス・キャブ・フォー・キューティーなども手がけるボウ・ソレンソン。マスタリングはタオ&ミラやディアフーフのカルロス・アレドンド。そしてエグゼクティヴ・プロデューサーにはチューンヤーズのメリル・ガーバス。メリル・ガーバスといえばアフリカ音楽からパンクまでを飲み込んだハイブリッドなロックを聴かせるUSインディー屈指の才女であり、彼女たちのボーダーレスな感覚をティルマンは取り入れたかったのだろう。例えば「Rat Race」から聞こえてくる躍動的なビートに、その雑食性が端的に表れているが、アルバムを通して言えば、音響面の変化が大きい。

「Intrinsic Infinite」や「Death Of A Star」のスロウなピッチが醸すチルアウト感覚、「Ms. Urbane」で聴けるマーヴィンのような多重録音ヴォーカル、「Tabloid Theory」の幻想的に重ねられたエレピ、「Missed Encounters」のポリリズミックなアンサンブルと歌パートとのギャップのあるタイム感。音色の選択や空間系のエフェクト、余韻を生かした音響処理によって、アルバム全体に薄いヴェールがかかったような、淡い音像を獲得している。それはまさにタイトル通り、シルクのようにきめ細かいノイズが反射しあう繊細なサウンドであり、この音像こそ、インディー・ロックのプロダクションを取り入れた成果だと言えそうだが、それはカエターノ・ヴェローゾを筆頭としたトロピカリアのミュージシャンの、ソフトなサイケ感覚やフォーキーなアンビエンスと通じるものでもある。『Silk Noise Reflex』はこの音響感覚ゆえに、非常に現代的な歌モノ作品に仕上がっている。

70年代ニュー・ソウルの隠れた名盤のような『Shangri La EP』でデビューし、USインディーやブラジル音楽も取り入れた『Silk Noise Reflex』を完成させたティルマンは、今後どういう音楽を作っていくのだろう。本作の延長でさらにハイブリッドな音楽性を追求するかもしれないし、純粋なジャズ・ヴォーカル作品や素朴なフォーク・サウンドに一度立ち戻るかもしれない。まったく予想がつかないのだが、ひとまずは冒頭に羅列した名前にマーヴィン・ゲイとカエターノ・ヴェローゾを加えて、気長に待っていようと思う。どの方向に進んだとしても、きっと素晴らしい作品になるだろうから。

※アプレミディ・レコーズを主宰する橋本徹(SUBURBIA)が2014年に監修・選曲したコンピレイション『Free Soul ~ 2010s Urban-Sweet』と『Folky-Mellow FM 76.4』にジェイムス・ティルマンの「Shangri La」と「And Then」がそれぞれ収録されています。


01. Intrinsic Infinite
02. Ms. Urbane
03. Ms. Malaise
04. Human Behavior
05. Self Portrait of a New Yorker
06. Tabloid Theory
07. Rat Race
08. Death of a Star
09. Casual Encounters
10. Missed Encounters
11. Love Within 〈taken from “Shangri La EP”〉
12. And Then 〈taken from “Shangri La EP”〉
13. Loved 〈taken from “Shangri La EP”〉
14. Shangri La 〈taken from “Shangri La EP”〉
15. And Then (Single Version) 〈taken from “And Then”〉
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