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V.A.『Free Soul ~ 2010s Urban-Jam』
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累計セールス120万枚を越える“Free Soul”のアップデイト版として注目を集め、ソウルとジャズとヒップホップの蜜月が生んだ現代のアーバン・メロウ・ミュージックの充実を伝え大きな人気を呼んできた、“2010s Urban”シリーズ待望の第6弾となる最新作『Free Soul ~ 2010s Urban-Jam』が9/21にリリースされます。橋本徹の2016年上半期ベスト・ソングから12曲、2015年の年間ベスト・ソングから7曲が収録され、エリカ・バドゥ「Mr. Telephone Man」などの世界初CD化も含む、まさに2010年代のベスト・オブ・ベスト・コレクションと言える計21曲84分の超強力選曲。シルキー・メロウな歌声と陰影に富んだグルーヴ、バリー・ホワイト/ウィリアム・ディヴォーン/ニュー・エディション/カーティス・メイフィールドの好リメイクも光り、マーヴィン・ゲイ〜スティーヴィー・ワンダー〜プリンスからシャーデー〜ディアンジェロまでソウル・ミュージックの偉人たちの影を宿した、心躍らせ深く胸に沁み入る珠玉の名作群が満載された、都会的で心地よい浮遊感と甘美な陶酔感に彩られた絶品コンピレイションです。アプレミディ・セレソンでお買い上げの方にはもれなく(通販含む)、橋本徹・選曲のスペシャルCD-R『Another Selection of Free Soul ~ 2010s Urban-Jam』と『Good Mellows For Autumn 2016』をプレゼントいたしますので、お見逃しなく!
『Free Soul ~ 2010s Urban-Jam』ライナー(橋本徹)
待ちに待った『Free Soul ~ 2010s Urban』シリーズ新作の登場。僕自身がいちばん楽しみにしていたと言ってもいいだろう。それに相応しい強力な楽曲が揃った。
2013年末にスタートしたこのコンピレイション・シリーズは、Free Soulアップデイト版というコンセプトで2010年代に生まれたメロウ&グルーヴィーな珠玉の名作群を集めており、今回の『2010s Urban-Jam』は、『2010s Urban-Mellow』『2010s Urban-Mellow Supreme』『2010s Urban-Groove』『2010s Urban-Sweet』『2010s Urban-Jazz』に続くシリーズ第6弾(『Free Soul Decade Standard』『Free Soul 21st Century Standard』の2枚も、その兄弟編に数えていいかもしれない)。バリー・ホワイト~ウィリアム・ディヴォーンの好カヴァーが連なるオープニングから、Free Soulファンならずとも惹かれること必至だが、今年の初めに出た全曲最高のアルバム『Malibu』が個人的に年間ベスト3入り間違いなしで、2016年のMVPと言えるだろう(待望の来日公演も楽しみでならない)アンダーソン・パーク絡みの傑作をメイン・ディッシュにできたことに、胸の高鳴りを抑えることができない。
とりわけStones Throwからの『Link Up & Suede』というEPをへヴィー・プレイしている、ノレッジとのデュオ・ユニットNxWorriesは、ライセンス・フィーが群を抜いて高かったにもかかわらず、収録をOKしてくれた発売元のUNIVERSALの理解に、心から感謝している。Poolsideによるリエディットも含め、海辺の似合うバレアリック・サマー・ソウルとして脚光を浴びる70年代のブラジリアン・ソウル至宝、カシアーノ「Onda」をサンプル・ループしてざらついたビートダウンに仕立てた「Link Up」は、彼らの真骨頂(カップリングのギル・スコット・ヘロン&ブライアン・ジャクソン「The Bottle」をスクリュー・サンプルした「Suede」も秀逸だが)。両者はこのコンピに「Love You」を収録した、ケンドリック・ラマーからクリス・デイヴまでと親交が深く、J・ディラの後継者としても注目されるSiRの傑作アルバム『Seven Sundays』での活躍も見逃せない。
マッドリブによるプロデュースも冴えまくっている、アンダーソン・パーク「The Waters」(僕は一聴してディアンジェロが「Brown Sugar」でデビューした頃を思い浮かべた)にフィーチャーされているBJ・ザ・シカゴ・キッド(彼自身も初来日ライヴでこの曲を披露したのには感激した)も、2016年の顔だろう。ディアンジェロ・トリビュートや、ヴォコーダーもソウルフルに奏でた『The M.A.F.E. Project』も愛聴していたが、このコンピレイションにはもちろん、モータウンから出た最新アルバム『In My Mind』のハイライト、PVも含めてマーヴィン・ゲイへのオマージュが色濃い逸品「Turnin' Me Up」をセレクト。彼とフィラデルフィアのネオ・ソウル・クイーンの艶やかなコラボレイション、ジル・スコット「Beautiful Love」とメドレーのように連ねてみた。
2015年末にダウンロード・オンリーで発表された、エリカ・バドゥの電話をモティーフにした素晴らしいアルバム『But You Caint Use My Phone』(ティミー・トーマス「Why Can't We Live Together」のリズム・ボックスをサンプリングしたドレイクの大ヒット「Hotline Bling」へのアンサー・ソングや、トッド・ラングレン作アイズレー・ブラザーズ版の「Hello It's Me」のリワークも最高だった)から、2010年代ならではのとろけるようなメロウネスに魅了される、胸疼くニュー・エディション「Mr. Telephone Man」の絶品カヴァーを世界初CD化できたことも、とても嬉しいトピックだ。これまでコンピ収録へのハードルが極めて高かったジャネット・ジャクソンのエントリーも、まさに奇跡的と言っていいだろう。マイケル・ジャクソンへの思慕も滲む、アーバン&メロウ・ブリージンなマイ・フェイヴァリット「Broken Hearts Heal」は、昨年暮れに夜の首都高速をドライヴしながら聴いていて、甘美な夜景との好相性に感極まってしまったことが忘れられない名作だ。
エリカ・バドゥの登場から(アメール・ラリューの名も出してもいいかもしれない)ネオ・ソウル~アンビエントR&Bという流れを汲んで花を咲かせた、しなやかでフレッシュな感性が息づく女性ヴォーカル曲をたくさん収めることができたのも、この上ない歓び。ファースト『Be Free』も愛聴盤だった、ジャズとソウルの蜜月をピュアに温かく体現するようなLAの新星トリオ、ムーンチャイルドのセカンド『Please Rewind』の冒頭で夜のそよ風と月の光を感じさせた「All The Joy」は、珠玉のナチュラル・メロウ・ジャム。スティーヴィー・ワンダーやロバート・グラスパーも讃辞の声を寄せているが、記憶に新しい来日公演でも、彼女たちの清々しさには大いなる好感を抱いた。アルバム・デビュー前から、ケンドリック・ラマーによるサンプリングやロバート・グラスパー・エクスペリメントへのフィーチャリング、プリンスやエリカ・バドゥらの絶賛もあって話題を呼んでいたKINGの『We Are King』は、2016年を代表する一枚だろう。選出したのは、スティーヴィー・ワンダーが書いたマイケル・ジャクソンのメロウ・サイド名曲「I Can't Help It」へのオマージュという意味合いで、クアドロン「Neverland」やジャネル・モネイ×エスペランサ・スポルティング「Dorothy Dandridge Eyes」と並び称したいドリーミーな「Red Eye」。そしてKINGによる好サポートも光っていた約6年ぶりの新作『The Heart Speaks In Whispers』を届けてくれた、我が愛しのコリーヌ・ベイリー・レイ。KINGプロデュースの「Green Aphrodisiac」と悩みつつ選んだのは、僕にとって生涯の一曲でもあるカーティス・メイフィールド「The Makings Of You」の『Curtis/Live!』ヴァージョンへの敬愛あふれる「Do You Ever Think Of Me?」。今もマレイシア時代のフランク・オーシャン「Thinkin Bout You」の可憐なアコースティック・カヴァーが忘れられないYunaの、アッシャーを迎えた最新ヒット「Crush」は、意外に思われるかもしれないが、僕にはジェイムス・ブレイクとの親和性が感じられた。ロバート・グラスパー・エクスペリメント『Black Radio』への回答という感じで、ブルーノートからミシェル・ンデゲオチェロのプロデュースで発表された、マーカス・ストリックランドの新名盤『Nihil Novi』の白眉「Talking Loud」で歌うジャネイの歌姫Jean Baylorの名も、ここに付け加えよう。
ジャネット・ジャクソンと共にSONYからライセンス許諾をいただいたことに感謝したい、オッド・フューチャー関連のジ・インターネットとドモ・ジェネシスについても特筆したい。『2010s Urban-Mellow Supreme』の「Dontcha」に続いてのエントリーとなるジ・インターネットは、最も2010年代らしいバンドだと思い応援しているが、新たなステップへ進んだと感じた2015年作『Ego Death』でいちばんアーバン・メロウな「Under Control」を。今春リリースされたデビュー・アルバム『Genesis』(アンダーソン・パークらも参加)が最高にご機嫌だったドモ・ジェネシスは、テイ・ウォーカーが歌うアーバン・メロウな「Wanderer」と迷ったが、2016年の最愛聴作となるかもしれないNonameのミックステープ『Telefone』でのプロデュース・ワークが冴えていたキャム・オビ(「Diddy Bop」でRauryの甘い歌声と共に絡むラップも好き)に一票を投じるつもりで、彼の客演曲「Faded In The Moment」に。
さらに男性ヴォーカル曲も、きら星のごとく錚々たる顔ぶれが揃い、曲目リストを見ているだけで胸が躍る。ノレッジによる浮遊感のあるトラックと色気のある憂いを帯びたヴォーカルが印象的な先述のSiR(彼は「Beautiful Love」を収録したジル・スコットの最新アルバム『Woman』でも、リード・シングル「Fool's Gold」など3曲のソングライティングを手がけている)に加え、遂にリリースされたファースト・アルバム『Cloak』がやはり年間ベスト・クラスの、オーストラリア出身Jordan Rakeiを大推薦。今回はDJでもよくスピンしていた、2014年のセカンドEP『Groove Curse』のリード・トラック、まろやかなローズの音色が心地よくメロウ&ジャジー&ダビーな「Street Light」を選んでみた。Free Soulファン歓喜のアコースティック・グルーヴ、メイヤー・ホーソーンの「Cosmic Love」や、慈愛と凛々しさを併せもつ歌声が唯一無二の魅力を放つグレゴリー・ポーターの、粒揃いだった最新盤『Take Me To The Alley』のとっておき「Holding On」も。『2010s Urban-Mellow Supreme』に収めたジョニ・ミッチェル「A Case Of You」のカヴァーに続くエントリーとなったジェイムス・ブレイクは、涙なしには聴けない、深いメランコリーと優しさをたたえたニュー・アルバムのタイトル曲。マスタリング直前まで収録を予定していたが、原盤元との連絡が途絶えてしまったケイトラナダ×カリーム・リギンスの「Bus Ride」に代わって、スタジオで急遽ラストに入れることにしたロビン・シック「Get Her Back」も、その切なく胸に迫る歌とギターの刻みに熱いものがこみ上げる、僕が愛してやまない名曲だ。
最後に、選曲候補リストに挙げながら、権利関係が明らかにならず、今回は収録がかなわなかった作品にも、簡単に触れよう。それは僕にとって昨年のNo.1アルバム『Surf』周辺、つまりドニー・トランペット&ザ・ソーシャル・エクスペリメントをとりまくシカゴのアーティストたち。最近の彼らの輝きは、本当に神がかっている。しかもどれもフリー・ダウンロード。『Surf』の中でも名曲中の名曲「Sunday Candy」やチャンス・ザ・ラッパー「Finish Line/Drown」を筆頭に、その2曲にもそれぞれフィーチャーされている、文句なしの2016年ベスト・ソングと言いたいJamila Woods「LSD」とNoname「Yesterday」。さらには知る人ぞ知る隠れた名作だろうSam Trump「Count On Me」。他にもダウンロード・オンリーのJosue「So Simple」やTom Misch「Crazy Dream」、Stones Throwからまもなくアルバム到着のMild High Club「Skiptracing」あたりをリストアップしていた。そしてそうそう、今年のサマー・ソングNo.1としてヘヴィー・ローテイションしていた、活況著しい今のLAを象徴する顔合わせ、マック・ミラー×アンダーソン・パーク「Dang!」も収録を熱望したが、さすがにまだフィジカル・リリース前ということでアプルーヴァルが下りなかった。いずれにせよ、この『2010s Urban-Jam』に収めた21世紀を代表する絶品のアーバン・メロウ・ミュージック傑作群と共に、これらの楽曲の素晴らしさもぜひ、リスナーの皆さんに感じてもらえたらと思う。
『Free Soul ~ 2010s Urban-Jam』ライナー(waltzanova)
温故知新。それは単なる焼き直しではなく、過去のレガシーからそのエッセンスを抽出し、新たな時代感覚を注ぎ込むもの。R&Bにせよジャズにせよ、あらゆる音楽は変化しつつもその底に変わらないエッセンスを宿していると思いますが、それが「温故知新」という言葉にもずばり当てはまるように思います。橋本徹が監修・選曲するコンピレイション『Free Soul~2010s Urban』シリーズの最新作は、前作から1年4か月ぶりのリリースとなりましたが、本作『2010s Urban-Jam』は、特にその間に台頭著しかったケンドリック・ラマーに代表されるアメリカ西海岸中心のトレンドも踏まえつつ、極上の楽曲が並ぶメロウ・ソウル集に仕上がりました。
冒頭の3曲がその感覚をよく物語っています。今回の音楽旅行の幕開けは、マリオ・ビオンディやエリー・ブルーナのプロデュースを務めたことでも知られる、ネリオ・ポッジを中心とするイタリアのプロジェクト、Papikによるバリー・ホワイトの「Can’t Get Enough Of Your Love」カヴァー。インコグニートなどにも通じるアーバンでタイトなグルーヴには、自然に心も身体も揺れてしまいますよね。続くウィリアム・ディヴォーン「Be Thankful For What You Got」の艶やかさを感じさせるカヴァーも90sタッチの一曲。“渋谷系ソウル”の金字塔としても人気を博し、ちょうど同時期にマッシヴ・アタックやクリーヴランド・ワトキスも名カヴァーを残しています。みんな大好き、ルーマーの2015年リリースのEP『Love Is The Answer』からの選曲。
フリー・ソウル・ファンに訴えかける2曲のカヴァーで耳を暖めたところで、いよいよ真打ちの登場です。アンダーソン・パークは2016年の顔役とも言うべき存在感を示す気鋭の才人。BJ・ザ・シカゴ・キッドをフィーチャーした「The Waters」(プロデュースはマッドリブ)は、イントロの部分などディアンジェロのデビュー曲「Brown Sugar」の衝撃を思い起こさせる傑作。アンダーソン・パークは、ドクター・ドレーの2015年作『Compton』に参加したことで一気に注目を集めるようになったLAのプロデューサー/シンガー。ケンドリック・ラマーらとの交流も厚く、2016年初頭に出たセカンド・アルバム『Malibu』は、タリブ・クウェリ、スクールボーイ・Q、「The Waters」を制作したマッドリブ、ロバート・グラスパー、ナインス・ワンダーなどなど、R&B~ヒップホップ・シーンを代表するアーティストが参加した一大絵巻となっています。
そんな2016年を象徴するに相応しいアンダーソン・パーク関連の楽曲も、『2010s Urban-Jam』には多く収録されています。まずは彼やケンドリック・ラマー作品への参加でも知られるプロデューサーのノレッジとのユニット、NxWorriesのスモーキーな「Link Up」。70年代ブラジリアン・ソウルの逸品、カシアーノ「Onda」をサンプルした、ヒップホップ~R&B~ビート・ミュージックの音楽的要素が溶かし込まれたスープのようなトラックは、高い中毒性を有しています。2010sの魅力的な多くの楽曲がそうであるように、聴けば聴くほど味わいを増すというか。
『Malibu』にも参加したケイトラナダとBJ・ザ・シカゴ・キッドの2曲も聴き逃せません。ハイチで生まれカナダのモントリオールで育ったケイトラナダは、新進気鋭のプロデューサー。カリーム・リギンスとRiver Tiberをフィーチャーした「Bus Ride」は、2010年代的な感覚が色濃く反映されたリズム・センスが冴えるインタールード的ナンバーで、覚醒的なビートと耽美的なアンビエンスが掛け合わされた空気感がたまらなく魅力的です。名門モータウンからデビューしたBJ・ザ・シカゴ・キッドも新世代R&Bを担う逸材で、ソウル・ミュージックの偉大なレジェンドであるマーヴィン・ゲイやアル・グリーンへの憧憬を滲ませながら、現代的なスタンスも打ち出していく彼の姿には頼もしさすら感じますね。モダンなファンクネスに気持ちが高ぶる「Turnin’ Me Up」では、ディアンジェロ、さらにはマーヴィン(PVは「I Want You」仕様)ヘの敬愛を自らの喉で遺憾なく表現しています。
サード・アルバム『Ego Death』のリード・トラック「Girl」をケイトラナダが手がけていた、オッド・フューチャー所属のジ・インターネット「Under Control」は、浮遊感と陶酔感のバランス、跳ね感が絶妙のミッドナイト・アーバン・ソウル。夜の高速道路を流しながらこんな曲がカーステレオから流れてきたら最高ですよね。『Ego Death』では一気にメロウなR&Bに舵を切った彼らですが、グループとしてはシド・ザ・キッドの佇まいに表れているようにオルタナティヴ、つまりは新世代R&Bの旗手としての姿を提示していると言えるでしょう。
キャム・オビが客演した「Faded In The Moment」がエントリーされたドモ・ジェネシスもオッド・フューチャーの要注目メンバー。メロウハイプの作品への参加で話題を集めた彼が今年リリースしたデビュー作にして傑作の誉れ高い『Genesis』には、やはりアンダーソン・パークも参加していました。アイズレー・ブラザーズ「Between The Sheets」にも似たシンセ使い、それをサンプリングした90sヒップホップが持つフィーリングに思わず反応してしまうリスナーも多いのではないかと思いますが、(文学や映画もそうですが)音楽を聴くというのは、こういう連想ゲームなのだと思わされます。『Genesis』では、テイ・ウォーカーをフィーチャーした「Wanderer」のメロウネスも最高でした。
続いては90年代のオリジネイター~ヴィンテージ・ソウル感のある作品に触れていきましょう。エリカ・バドゥは、1997年のデビュー以来、そのオンリー・ワンの歌声とセンスでR&Bの枠をこえて幅広いシーンからリスペクトされる存在。今回収録されたのは、電話をテーマに彼女が昨年末にデジタル・リリースした『But You Caint Use My Phone』からのとろけるようなメロウ・チューン。もちろん世界初CD化です(祝!)。レイ・パーカー・ジュニアのペンによるオリジナルは、ミッド80sのヴォーカル・グループとして今なお人気の高いニュー・エディション。時空を行き来するようなナイス・カヴァーに胸を締めつけられてしまいます。
やはり90s R&Bの立役者であるジャネット・ジャクソンの「Broken Hearts Heal」は、ここ数年よく目にする、ヴェテランの作品に90年代当時のフレイヴァーが意図的に持ち込まれたアーバンな名作。シーンの流れを決定づけた革命的名盤『Janet.』を彷彿とさせるようなスムースネスが印象的ですが、そこには兄マイケル・ジャクソンへの想いを強く感じることができます。それに続くメイヤー・ホーソーン「Cosmic Love」も、どことなくノスタルジックな70s風味のソウル・チューン。彼はStones Throwからのデビュー当初は60s的な意匠をまとって登場しましたが、最近ではディスコ~ブギーを志向したユニット、タキシードとしての活躍も目覚ましく、レトロスペクティヴな白人ソウルマンとしての地位を確固たるものにしています。そんな彼らしさは、ギターの刻みとファルセット、キュートな女声コーラスが心地よいミッド・テンポの「Cosmic Love」でも全開です。
2000年デビューのジル・スコットは、ディアンジェロやエリカ・バドゥら“ニュー・クラシック・ソウル”と呼ばれていたアーティストの流れを汲むように登場し、いわゆる“ネオ・ソウル”の代表格として現在まで充実した活動を続けています。昨年リリースされた『Woman』のラストを飾るBJ・ザ・シカゴ・キッドとデュエットした「Beautiful Love」は、抑えた情感を感じさせる二人のヴォーカルと浮遊感のあるサウンドで陰影を表現、夜の深い時間を彩るスロウ・ジャムへと仕上げています。
スロウ・ジャムという意味では、本名をサー・ダリル・ファリスというカリフォルニア州イングルウッド出身のSSW/プロデューサー、SiRの「Love You」も外せません。彼もまたジル・スコットの『Woman』への曲提供を行っており、傑作アルバム『Seven Sundays』には、アンダーソン・パーク、ノレッジといった人脈が参加しており、隠れたキー・パーソンになっています。
オーストラリア出身のJordan Rakeiも、ディアンジェロとジェイムス・ブレイクの邂逅といった個性を感じさせる特筆すべき存在です。「Street Light」は2014年のEP『Groove Curse』からのヴィンテージ感たっぷりのソウル・ナンバーですが、真夜中のシークレット・アフェアー感が満載の名作です。ホセ・ジェイムス、フライング・ロータスなどのセッション・ドラマー、さらにはジャズ~ブロークンビーツを結ぶサウンド・クリエイターとして知られるリチャード・スペイヴン(『2010s Urban-Jazz』にもエントリー)らをゲストに迎えた『Cloak』も最近リリースされましたが、こちらも必聴。僕の周囲ではJordan Rakeiに反応するリスナー多数(特に女子)なのですが、ひょっとしたら日本で大ブレイク、みたいなこともありうるポテンシャルの持ち主だと思います。
やはり2016年を代表する存在として記憶されるだろうKINGの「Red Eye」も、『2010s Urban』フィーリングに溢れています。ドリーミーでスペイシーなハーモニーは、聴く者を桃源郷に誘い込む吸引力たっぷり。いち早くケンドリック・ラマーにサンプルされたり、ロバート・グラスパー・エクスペリメントにフィーチャーされたり、エリカ・バドゥや亡くなったプリンスも絶賛したというのにも納得、です。ときおり聴こえるスティール・パン風の音色もパラダイス感覚を高めてくれます。この曲もジャネット・ジャクソンの「Broken Hearts Heal」同様、マイケル・ジャクソンのメロウ・サイド、特に「I Can’t Help It」の遺伝子を感じずにはいられませんよね。「I Can’t Help It」は、テラス・マーティンやエスペランサ・スポルティングのカヴァーに、クアドロンによる名オマージュ「Neverland」などなど、『2010s Urban』シリーズにも収録されている数々の名演が存在するので、気になる方はぜひチェックしてみてください。
代表曲「Be Good」から変わらない実直な語り口が心に沁みるグレゴリー・ポーターや、ストレイト・アヘッドな個性が持ち味と位置づけられるサックス・プレイヤー、マーカス・ストリックランドによるロバート・グラスパー・エクスペリメント『Black Radio』的な意味合いを持つ作品を挟み、コンピレイションは後半へと向かいます。どちらもジャズ・サイド(ブルーノート)からのエントリーですが、そこに滲む2010年代のアーバン・フィーリングが共有されているのは言うまでもなく。前者の「Holding On」は、名曲揃いの最新盤『Take Me To The Alley』からの出色のナンバー。後者のアルバム『Nihil Novi』のプロデュースは、ジェイソン・モランも手がけたミシェル・ンデゲオチェロ。「Talking Loud」はJ・ディラ的なビートとバルトークの東欧音楽を融合させる意欲的な試みだったとのことですが、見事にアーバン・ミュージックのラジオ・ステイションから流れてくるのが似合う仕上がりになっていて最高です。
グッとくるメランコリックなメロウ・ナンバーと言えば、先日の来日公演も清々しい音楽への信頼に満ちていたLAの3人組バンド、ムーンチャイルドの「All The Joy」。そのライヴでもエリカ・バドゥの「Appletree」を演っていましたが、ネオ・ソウル~アンビエントR&Bの流れを汲むしなやかな感性が反映された音楽性は、KINGやジ・インターネットとの親和性を感じさせます。エレピを中心とした演奏に溶け込む、ヴォーカルのアンバー・ナヴランの声質も本当に魅力的ですね。
もう一曲は、KINGやピノ・パラディーノ、ジェイムス・ギャドソンも参加したコリーヌ・ベイリー・レイの6年ぶりの新作『The Heart Speaks In Whispers』からの「Do You Ever Think Of Me?」。特別な存在に対する切ない想いが綴られています。カーティス・メイフィールドの「The Makings Of You」のNYビター・エンドでの伝説のライヴ・ヴァージョンを彷彿とさせるメロディーとサウンドに思わず感涙。ソウル・ミュージックへの敬愛に満ちた名曲です。
エンディングに向けてはジェイムス・ブレイクの「The Colour In Anything」。ポスト・ダブ・ステップ的なサウンド・メイクがなされた2011年のファースト・アルバム『James Blake』は、日本ではその時代状況と結びつけて解釈されたりしましたが、最新作『The Colour In Anything』で見せる彼の個性は、メランコリックで優れて現代的なシンガー・ソングライターというものです。実際にこの曲から感じるのはジョニ・ミッチェルとプリンスの影。ジェイムス・ブレイクがカヴァーした「A Case Of You」のジョニによる原曲やトリビュート盤におけるプリンスの名演を聴きたくなりますね。マイケル同様、プリンスの遺伝子というのは現在活躍している80年代生まれ以降のアーティストには、本当に自然なものとして備わっているのだと思いますし、マイケルやプリンスの音楽がそのように次世代へ受け継がれていくのを、とても嬉しく感じます。
マレイシア出身、現在ではヴァーヴからアルバムをリリースしている女性ヴォーカリスト、Yunaの「Crush」は、彼女がインターナショナル・デビュー前に「Thinkin Bout You」をカヴァーしていたという、フランク・オーシャンを思い起こさせるアンビエントかつセンシティヴなR&Bチューン。アッシャーを起用しているあたりの目配せもいいですね。収録アルバムの『Chapters』にはシャーデーを思わせる曲もあり、美メロ好みのR&B好きは要チェックです。
クロージングはロビン・シックの「Get Her Back」。シック的なディスコ~ブギー感を見事に2010年代に蘇らせた傑作トラック「Ooo La La」が『2010s Urban-Mellow Supreme』に収録されていた彼は、今やグラミー・アーティストとなったファレル・ウィリアムスのプロデュースで一気にブレイクしましたが、ここでは生音を活かしたシンプルなプロダクションをバックに、通りすぎていった季節に思いを馳せるようなヴォーカルを聴かせてくれます。『Free Soul 21st Century Standard』に収められていた「Lost Without U」にも通じる、切なく胸に迫る名曲ですね。黄昏時のセンティメントが刻印された、2014年作『Paula』からの人気ナンバーです。
かつて、マーヴィン・ゲイやカーティス・メイフィールド、マイルス・デイヴィス、ジョン・コルトレーンなどの名盤は、リスナーにはタイムレスなものだと思われていて、音楽ガイドなどにもそう書かれていました。しかし、音楽は基本的にその時代の流行の意匠から逃れることはできず、今挙げたアーティストの優れた作品も、その時代特有のスタイルやタイムリーな感覚を反映しています。ここに収められている音楽も、もちろんそう。だからこそ、これらの音楽は永遠に意味を持つのだし、時代をこえて輝き続けるのだと思います。そしてまた新たな世代が、2010年代の音楽に影響を受け次なるマスターピースを生み出していくのでしょう。
01. Can’t Get Enough Of Your Love / Papik feat. Frankie Lovecchio
02. Be Thankful For What You Got / Rumer
03. The Waters / Anderson .Paak feat. BJ The Chicago Kid
04. Mr. Telephone Man / Erykah Badu
05. Do You Ever Think Of Me? / Corinne Bailey Rae
06. Broken Hearts Heal / Janet Jackson
07. Cosmic Love / Mayer Hawthorne
08. Link Up / NxWorries
09. Under Control / The Internet
10. Faded In The Moment / Domo Genesis feat. Cam O’bi
11. Turnin’ Me Up / BJ The Chicago Kid
12. Beautiful Love / Jill Scott feat. BJ The Chicago Kid
13. Street Light / Jordan Rakei feat. Gwen Bunn
14. Red Eye / KING
15. Holding On / Gregory Porter
16. Talking Loud / Marcus Strickland’s Twi-Life feat. Jean Baylor
17. All The Joy / Moonchild
18. Love You / SiR
19. Crush / Yuna feat. Usher
20. The Colour In Anything / James Blake
21. Get Her Back / Robin Thicke