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V.A.『Forever Free Soul Collection』

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Toru Hashimoto Compilation > Free Soul

昨年リリースされ、旧譜カタログのコンピレイションとしては近年では稀に見る大ヒットを記録したユニバーサル編『Ultimate Free Soul Collection』と対をなす、究極のFree Soulベスト・オブ・ベスト盤の待望のワーナー編『Forever Free Soul Collection』が9/9にリリースされます。今回も3枚組で¥2,750(税抜)のスペシャル・プライス、ダニー・ハサウェイ「Love, Love, Love」に始まり「Memory Of Our Love」に終わる、4時間・64曲にわたって錚々たる珠玉のアーティストたちによる永遠不朽の名作群が連なる、橋本徹の入魂選曲です。アプレミディ・セレソンでお買い上げの方にはもれなく(通販含む)、橋本徹・選曲のスペシャルCD-R『More Forever Free Soul』と『Good Mellows〜夕陽と海の音楽会』(2枚組)をプレゼント致しますので、お見逃しなく!


『Forever Free Soul Collection』ライナー(橋本徹) 


『Forever Free Soul Collection』のリリースに寄せて

2014年春、Free Soul 20周年企画としてUNIVERSALから舞い込んだ“ベスト・オブ・ベスト”というコンセプトのコンピレイション『Ultimate Free Soul Collection』が大きなヒットとなり、2015年夏、今度はWARNERからその兄弟編と言うべき『Forever Free Soul Collection』の選曲依頼をいただいた。こちらも同じく3枚組・4時間におよぶ大作、そして大充実作となったと思う。

収録された全64曲は、熱心なFree Soulファンには言わずもがな、と言っていいだろう不朽の名作ばかりで、僕にとってもかけがえのない思い出と物語が詰まっているが、特に思い入れのあるアーティストであり愛してやまない、ダニー・ハサウェイの「Love, Love, Love」に始まり「Memory Of Our Love」に終わるという構成には、個人的にこだわった。レーベル・カラーを反映して、ブルー・アイド・ソウルやフォーキー・グルーヴの珠玉が数多くフィーチャーされているのも、このWARNER編の特徴だろうか。

僕のコンピレイションにしては、『Ultimate Free Soul Collection』同様、現在から過去を照射するというよりも、90年代(から見た70年代ソウル周辺音楽)の輝きを再現することを主眼としているから、サンプリングやカヴァー、サウンド・スタイルの継承を通して、いわゆる“渋谷系”以降のアーティストたちに大きな影響を与えた曲が多く、それもFree Soulらしさと言えるかもしれない。そうした背景を踏まえつつ、waltzanovaに委ねた全曲解説を読んでもらえたら、ある種の世代論・時代論としてのこのコンピレイションの価値も、より伝わるのではないかと思っている。

また、今回のセレクションが、今年9~10月にやはりWARNERからFree Soulの冠のもとにSHM-CD化される、オリジナル・アルバム50枚復刻シリーズのダイジェスト・サンプラーとしての役割も担っていることを、記しておきたい。とはいえ、アルバム単位でのリイシューは可能でも、収録曲のコンピへのエントリーが今はできない音源もいくつかあった。カーティス・メイフィールドが主宰した名門カートム・レーベルの名曲群や、プリンスの「My Love Is Forever」「I Wanna Be Your Lover」、セルジオ・メンデス&ザ・ニュー・ブラジル'77「The Real Thing」あたりが、その代表的な例だ。20年前は収録することができたスティーヴン・スティルスの人気曲「Love The One You're With」も無念だったが、逆に20年前は使用許諾の届かなかったジュディー・シルやスヴァンテ・スレッソン、ポジティヴ・フォースやヴァン・モリソンなどを収めることができたのは、とても嬉しい。

『Ultimate Free Soul Collection』のライナーを書いた際にも感じたことだが、Free Soulを始めた頃には、20年以上の月日が流れた後に、こんな夢のようなコンピレイションを作ることができるとは、想像もしなかった。もう何も言うことはない、問答無用の傑作64曲を揃えることができたと思う。多くのミュージシャンやリスナーの皆さん、そして素晴らしい音楽の持つ力に、心から感謝したい。


Forever Free Soul Collection[DISC 1](waltzanova)

01. Love, Love, Love / Donny Hathaway
ダニー・ハサウェイは、カーティス・メイフィールドやリロイ・ハトソンと並び、フリー・ソウルという視点から最も再評価が進んだアーティストのひとり。ミドル・クラス出身で名門ハワード大学で正式な音楽教育を受け、知的なアティテュードの持ち主であるという、都市に生きる新しい黒人像を提示したのも彼の功績だ。J.R.ベイリー作のこの曲の持つスムースなメロウネスや、ガリアーノがカヴァーした「Little Ghetto Boy」のクールネスなどが、90年代以降のリスナーから大きな支持を集めた。たおやかで伸びやかなラヴ・ソング「Love, Love, Love」は、遠い天国が近づいたような至福の思いを与えてくれる。ブラック・ミュージック史に燦然と輝く金字塔『Extension Of A Man』(1973年)から。素敵な夢が見られそうなJ.R.ベイリー自身のヴァージョンも必聴だ。

02. Overdose Of Joy / Eugene Record
60年代にシャイ・ライツのリード・ヴォーカルとして活躍したユージン・レコードは、シカゴを代表するシンガー/コンポーザー/プロデューサー。フリー・ソウル文脈では、妻であるバーバラ・アクリンの「Am I The Same Girl」や、彼女と共作した「Stoned Out Of My Mind」がよく知られているだろう。前者はダスティー・スプリングフィールドやスウィング・アウト・シスター、後者はポール・ウェラーのバンド、ジャムやジョン・ホルトらに取り上げられており(もちろんマリアン・ファーラ&サテン・ソウル版も大人気)、英国のR&B好きから格別な支持を集めていたことを伺わせる。タイトルも素晴らしい「Overdose Of Joy」は、1977年リリースの初ソロ・アルバムからのエントリー。ジョニー・ブリストルの「Hang On In There Baby」をよりポップにしたような、爽快で伸びやかな感覚。洗練された都会的なサウンドに、人柄を反映したジェントルなヴォーカル。スモーキー・ロビンソンにも通じる個性を感じる、素敵なシティー・ソウルのマスターピースだ。

03. Soldier Of The Heart / Judee Sill
ジュディー・シルは、10 代の頃に養父のDVに苦しみ、家を出て放浪生活をする中でドラッグに溺れ、そのドラッグ代のために強盗を働いて刑務所に送られるなど、波乱の多い生涯を送った女性SSW。ボロボロになりながらも赤裸々に自分を表現した彼女の音楽は、生前に大きな注目を集めることはなかったが、ニック・ドレイクなどと同様に新しい世代の音楽ファンに“発見”され、2005年に幻のサード・アルバム『Dreams Come True』、2007年には『Live In London: The BBC Recordings 1972-1973』がリリースされ、年を追うごとにその人気と評価は高まり続けている。「Soldier Of The Heart」は、セカンド・アルバム『Heart Food』に収録の、メロディーと演奏が一体となったフォーク・ロック調の名曲。魂を鼓舞するような「Soldier Of The Heart」というタイトルにも心を揺さぶられる。彼女は1979年にオーヴァードーズでその短い30年の人生に終止符を打った。

04. Tighten Up / Archie Bell & The Drells
一般に“フリー・ソウル的”と言われる楽曲は、例えばマーヴィン・ゲイの「What’s Going On」やジャクソン・シスターズの「Miracles」、リアル・シングの「Rainin’ Through My Sunshine」などを筆頭に、現在ではクラシックと認知されている強力な楽曲のヴァリエイションであることが多いが、このアーチー・ベル&ザ・ドゥレルズのダンス・クラシックもそのひとつ。YMOが『増殖』(1980年)で取り上げたことから、ソウル・ミュージックのファン以外にもお馴染みだろう。ダイアナ・ロス&ザ・シュプリームス「You Can’t Hurry Love」と双璧をなす、発明と呼ぶべきベース・ライン、ツボを押さえてたたみかけるホーン・フレイズなど、“グルーヴィー”の究極の形がここにある。アーチー・ベル&ザ・ドゥレルズはヒューストン出身のグループで、「Tighten Up」は全米1位の大ヒットとなった。1968年のアトランティック盤に収録。

05. Love'll Get You High / Jo Mama
愛すべきファンキーなスモール・サークル・オブ・フレンズ。ジョー・ママは、シティー解散後にダニー・コーチマーが結成した(メイン・ソングライターも彼)5人編成のバンド。チャールズ・ラーキー、アビゲイル・ヘイネスら、キャロル・キング~ジェイムス・テイラー人脈のメンバーばかりが集っている。ファースト『Jo Mama』(1970年)のジャケットは、ピッツァ・ハウスの窓越しに彼らの姿を捉えたもので、フィフス・アヴェニュー・バンドの従兄弟といった風情のいかにも街っ子らしい佇まいを見せる。「Love’ll Get You High」は、ソウル・ミュージックへの憧れがストレイトに表出したご機嫌な楽曲。メリー・クレイトンのアルバムにも参加したアビゲイル・ヘイネスのパワフルな歌にホーンと、それぞれが清々しい(鍵盤とギター・ソロも最高)。翌年にはこちらも意欲的な作品を収録した『J Is For Jump』(1971年)を発表するが、商業的成功には恵まれず、このアルバムを最後に解散することになる。

06. Thinking Of You / Sister Sledge
フリー・ソウルの顔役と言える存在感のガールズ・ディスコ・グループ、シスター・スレッジは、フィリー出身の4姉妹。70年代後半にヒット・メイカーだったシックのナイル・ロジャースとバーナード・エドワーズとタッグを組み、数々のヒット作が世に出ることとなる。「Thinking Of You」もその一曲で、冒頭のシグネチュアと呼ぶべきナイル・ロジャースのギター・カッティングからこみ上げるサビのフレイズへと、これまたミラクルという言葉を使わずにはいられない永遠のダンス・クラシック。この曲を収録した1979年の3作目『We Are Family』は、タイトル曲や「He Is The Greatest Dancer」などの代表作も収められた名盤。彼女たちの曲は、リエディット作品も多いが、UKロックのカリスマ、ポール・ウェラーがカヴァー・アルバム『Studio 150』で取り上げたこの曲のカヴァーも感涙の出来。

07. Opening Up To You / Laura Allan
“裏ヴァレリー・カーター”という呼称もある(?)SSW愛好家の間で評価の高いローラ・アラン。アルバムは1枚しか残していないものの、そのメンバーが当時の西海岸オールスターズと言うべき陣容で、なおかつ彼女のソングライティングとヴォーカルも優れていたのがその理由。スケートボードを抱え、サンバイザーにフラワー・プリントのスカートというルックスもあってか、日本発売時の邦題は『L.A.ギャル』だったという(笑)。「Opening Up To You」では、ジム・ケルトナーにエイブラハム・ラボリエル、ワディー・ワクテル、ジェイ・ワインディング、さらにジェリー・ヘイ率いるシーウィンド・ホーンズという豪華メンバーをバックに従え、色づいていく季節の想いを可憐に歌い上げている。その姿には、ヴァレリー・カーターだけでなく、ジョニ・ミッチェルやキャロル・キングにレスリー・ダンカン、そしてリンダ・ルイスの影までも。

08. You Are The Sunshine Of My Life / Cold Blood
広がっていくエレクトリック・ピアノの波紋。柔らかなギターとホーンの響きが淡く色を添える。後半に進むにつれ、テンポを速めてグルーヴィーに展開していくのも70年代風。スティーヴィー・ワンダーのソフト・サウンディングなボッサ・ソウルの魅力を、よりクロスオーヴァーに拡大している。もちろん、曲調に合わせ表情を変化させていく紅一点、リディア・ペンスの表現力も忘れてはいけない。演じるのは、1970年代に活躍した大所帯ファンク・バンドの雄、コールド・ブラッド。西海岸のベイ・エリアを拠点とし、白人やラテン系のメンバーが中心になっているところは、タワー・オブ・パワーと並べて語られることも多いが、彼らの個性はよりブルースやロック寄りのもの。1973年作『Thriller!』に収録。

09. Simple Song Of Freedom / The Voices Of East Harlem
明日への希望を歌い上げるポジティヴな歌声。ヴォイセズ・オブ・イースト・ハーレムは、NYはイースト・ハーレムの養護施設で育った子どもたちを中心としたゴスペル・グループ。『Right On Be Free』(1970年)は、躍動感に溢れ力強さの漲る彼らの歌唱を、チャック・レイニーやコーネル・デュプリーらの職人がしっかりとグルーヴィーに下支えしている名作で、ニュー・ソウルと共振するムードがたっぷり。2007年には、ダニー・ハサウェイがプロデュースした7曲を含む、ボーナス・トラック入りの再発盤もリリースされた。カーティス・メイフィールドやリロイ・ハトソンらの全面的なバックアップを受けて制作され、ピチカート・ファイヴの「万事快調」にも大きなインスピレイションを与えた「Cashing In」やレア・グルーヴ・クラシック「Wanted, Dead, Or Alive」を含む、彼らのジャスト・サンシャイン盤(1973年)は、“渋谷系ソウル”の聖典として大人気だった。

10. I Want You Back / The Esso Trinidad Steel Band
スティール・ドラムもののスタンダードにして最高峰として知られる、本場トリニダード・トバゴのエッソ・トリニダード・スティール・バンド、1971年のアルバムからの選曲。キンクスの「Apeman」に始まり、ハチャトゥリアンの「Sabre Dance(剣の舞)」などをレパートリーとして縦横無尽に取り上げ、カリブ海の暑さと涼しさが混じった風を運んでくれるが、ベスト・トラックはやはりジャクソン・ファイヴの大ヒット曲「I Want You Back」。カル・ジェイダーのヴァージョンとともに人気で、サバービア・ファンには甲乙付けがたい傑作カヴァーなのではないだろうか。スティール・ドラムものと言えば、ブライアン・ウィルソンとの『Smile』でのコラボレイションで知られるアメリカン・ミュージックの鬼才ヴァン・ダイク・パークスのソロ第2作『Discover America』(1972年)、そこでフィーチャーされていたロバート・グリーニッジが参加したタジ・マハルの『Music Fa Ya』(1977年)など、ワーナー・ブラザーズ~バーバンク・サウンドとの縁は深い。

11. On The Stage / Linda Lewis
空を自由に舞う雲雀のように──。リンダ・ルイスのことを思い浮かべるとき、この形容を思い出す音楽ファンは多いだろう。初期フリー・ソウルのイメージの一端を担っていた彼女のセカンド・アルバムにして代表作『Lark』(1972年)は、冒頭の「Spring Song」から、彼女のナチュラルなイメージそのままの曲が並んでいる正真正銘の名盤だった。1995年に初CD化されたとき、テリー・キャリアーと同じく、同時代音楽としての瑞々しさも持ち合わせている、とフリー・ソウルやいわゆる“渋谷系”に共感した当時の若いリスナーは感じていた。「On The Stage」は1973年作『Fathoms Deep』からのナンバー。演奏もファンキー&グルーヴィーだが、彼女の持ち味である、天賦の伸びやかなオーラとでも言うべき空気が全体を包んでいるのが、何より素晴らしい。

12. Rainbow In Your Eyes / Al Jarreau
君の瞳の中にかかった虹。高鳴る胸の響きが息づいたような「Listen to your heartbeat」のフレイズも印象的な、フリー・ソウル・シーンでは鉄板の人気を誇る名ラヴ・ソング。作者であるレオン・ラッセル自身と当時の奥方メアリーのオリジナルはもちろん、ダグ・パーキンソンズ・サザン・スター・バンド版とともに親しまれているのが、70年代から現在に至るまで活動を続けるジャズ・ヴォーカリスト、アル・ジャロウの名ヴァージョン。こみ上げる切ない幸せをかみしめるようなヴォーカル、爽やかな風を運ぶニック・デカロのアレンジメントが胸に迫る。きらきらとしたシンセの音色も効果的。アルがジャズにとどまらない新世代ヴォーカリストとしての才を発揮したセカンド・アルバム『Glow』(1976年)に収録されていた。

13. I Saw The Light / Todd Rundgren
前曲からの“ 瞳の中の愛”繋がりは、60年代後半から活動していたナッズというサイケデリックなポップ・グループを経て、ラントという名義でデビューしたトッド・ラングレンの大名曲。美メロを満載したSSW垂涎の『Runt. The Ballad Of Todd Rundgren』(1971年)から大きく飛躍し、彼の名声を不動のものにしたのが2枚組の一大傑作『Something/Anything?』(1972年)と、シングル・ヒットもしたこの「I Saw The Light」。キャロル・キングなどソウルフルなポップス・ライターへの憧れが真っすぐに表現されたこの曲は、今ではラヴ・ソングのスタンダードとしても幅広い人気を博している。『Something/Anything?』は、メロディー・メイカーとマルチ・ミュージシャン/プロデューサーとしての彼の資質が大輪の花を咲かせた作品。もうひとつの代表曲と言うべき「Hello It's Me」(アイズレー・ブラザーズらもカヴァー)や「It Wouldn't Have Made Any Difference」など、数々の名曲が収められた万華鏡のようなアルバムである。

14. Fantasy / Aquarian Dream
ファラオ・サンダースのドラマーとしてキャリアをスタートさせ、フィリス・ハイマンやマイケル・ヘンダーソン、ジーン・カーンらを世に送り出したことで知られる、プロデューサー/アレンジャーのノーマン・コナーズ。奮いつきたくなるような疾走感が何よりの魅力の「Fantasy」は、彼がバックアップしたグループ、アクエリアン・ドリームの代表曲にしてジャズ・ファンク~ダンス・クラシック。吸引力のあるクラヴィネットのイントロからのバンド・アンサンブル、続く決定打の鮮やかなホーン・リフでぐいっと引き込まれる。のちにロイ・エアーズのプロデュース(彼もノーマンと似た個性の持ち主だ)のもとで傑作ソロ・アルバムをものするシルヴィア・ストリップリンも、負けじとパワフルな歌いっぷりで存在感を示している。

15. Whachersign / Pratt & McClain
プラット&マクレインは、「Happy Days」の大ヒットで知られる、トラエット・プラットとジェリー・マクレインのデュオ。70年代にコマーシャル・ソングなどの商業音楽に携わっていたという彼らの片割れマクレインは、マイケル・オマーティアンとはかつてのバンド仲間だった。オマーティアンはクリストファー・クロスやピーター・セテラとの仕事で知られるトップ・プロデューサー。彼が全面的に制作に関わった「Whachersign」は、奥さんのストーミーとソングライティングも行っている。マーヴィン・ゲイやレオン・ウェアの諸作にも通じる哀愁漂うアーバン・メロウなシティー・ソウルには、夜の首都道路が似合う。

16. Why I Came To California / Leon Ware
“メロウ大王”の異名を取るシンガー/コンポーザー/プロデューサー、レオン・ウェア。モータウンのスタッフ・ライターとしても活躍した彼が制作していたトラックをマーヴィン・ゲイが気に入り、それが名盤『I Want You』となったというエピソードは有名。彼の作品だと、近年はマルコス・ヴァーリとの共作を含む1981年の『Rockin' You Eternally』や、「カリフォルニアの恋人たち」の邦題を持つこの「Why I Came To California」を含む1982年作などに脚光が当たることが多くなっている。それもそのはず、このアーバンでメロウなクリスタル感はまさにアーベイン。ほのかに香るマリン・フレイヴァーも気分を高めてくれる。レオンは後輩ミュージシャンからの客演依頼も多く、先日リリースされたルーカス・アルーダのブラジリアン・アーバン・メロウな快作『Solar』にも参加していた。

17. Move Me No Mountain / Dionne Warwick
「Walk On By」「I Say A Little Prayer」など、バート・バカラック=ハル・デヴィッドの一連の作品で知られる歌姫が、バリー・ホワイト・プロデュースによるラヴ・アンリミテッドの曲を取り上げたレディー・ソウル。コンポーザーである名匠ジェリー・ラゴヴォイとタッグを組み、前曲「Why I Came To California」などと同様、アーバンな香気たっぷりに仕上がった。同時代のエスター・フィリップスやマリーナ・ショウ、ナンシー・ウィルソンらの女性シンガーと共通するアダルトなムードの一曲は、リプリーズ移籍後の『Then Came You』(1975年)からのエントリー。ハンク・クロフォードやチャカ・カーン、ソウル・II・ソウルなどもカヴァーしており、そのどれもが好作だ。

18. Remind Me / Patrice Rushen
70年代から活躍する実力派アーティストのパトリース・ラッシェンだが、その再評価が進んだきっかけは、90年代半ばのヒップホップ~ R&Bで彼女の曲、特に「Remind Me」が文字通り枚挙に暇がないくらい引用されたことだ。ちょっと名前を挙げるだけでも、メアリー・J.ブライジ、アリーヤをフィーチャーしたジュニア・マフィア、フェイス・エヴァンス、コモン、キース・マレイなどなど……。ループしたくなるドラムに中毒性のあるエレピを中心とした甘美なメロウネスをたたえたサウンド・プロダクション、ときにミニー・リパートンを思わせる切ないヴォーカルと、楽曲としての完成度が人気の秘訣だ。音楽的IQの高いミュージシャンを迎えながら、時代に合わせて自身の個性をしっかりと表現していくセンスは、エレクトラ期の他作品でも折り紙つき。90年代以降もジャネイ「Groove Thang」を提供したり、盟友シェリー・ブラウンとの活動を行ったりするなど精力的に活動している。『Straight From The Heart』(1982年)から。

19. It's The Falling In Love / Carole Bayer Sager
マイケル・ジャクソンも歴史的名作『Off The Wall』(1979年)で取り上げた、胸キュン・レディー・ソウルの最高峰。キャロル・ベイヤー・セイガーは、作詞家として知られる一方、バート・バカラックの妻として公私ともにパートナーだった(現在は離婚)女性としても知られる。クリストファー・クロスの「ニューヨーク・シティ・セレナーデ」の邦題でも有名なトワイライト・クラシック「Best That You Can Do」は、バカラックとの共作のうちの代表曲のひとつ。70年代後半からソロ・アルバムも数枚リリース、「It’s The Falling In Love」は、セカンド・アルバム『...Too』(1978年)に収められていた、ロマンティックな香り漂うナンバー。可憐さを失わない彼女のヴォーカルに合わせて、ディスコ一歩手前でとどまるところにセンスを感じるアレンジはデヴィッド・フォスターが担当、作曲は彼とキャロルによる。ソウル・ドラムスの大御所エド・グリーン、スラップ・ベースを披露するデヴィッド・ハンゲイト、コーラスで参加しているマイケル・マクドナルドら、豪華ミュージシャン陣の貢献も見逃せない。

20. Love Land / The Watts 103rd Street Rhythm Band
シンガー/ピアニスト/ギタリストのチャールズ・ライト率いるワッツ・103rd・ストリート・リズム・バンドは、決して派手さはないものの、ソウル・ミュージック好きなら嫌いな人はいないだろう名グループ。彼らのヒット曲と言えばサンプリング・ソースとしても名高い「Express Yourself」が挙げられるが、その曲を収録した1970年のアルバムの冒頭を飾っていたのが「Love Land」。フリー・ソウル・ファンなら、黄色いタートルネックのニットを着て微笑むスパンキー・ウィルソンのアルバム『Let It Be』(1970年)に収められたヴァージョンをすぐに思い起こすことだろう。躍動感と高揚感、生き生きとした歓びに溢れたフリー・ソウルを象徴するような一曲。ここでは、のちに数々の名作に参加する名ドラマー、ジェイムス・ギャドソン(彼はこの曲を「Got To Find My Baby」と改作して自身の名義でも録音)がリード・ヴォーカルを務め、愛することの素晴らしさを朴訥なタッチで歌い上げている。


Forever Free Soul Collection[DISC 2](waltzanova)

01. Only So Much Oil In The Ground / Tower Of Power
90年代前半、ジャミロクワイがシーンに鮮烈に登場してきたとき、スティーヴィー・ワンダーを聴いて彼らを思い出すという感想を持ったヤング・ジェネレイションは多かったが、この曲も同様の逆転反応を引き起こした、問答無用のヒップさを誇るジャズ・ファンク。ジェイ・ケイばりの(?)ハイトーン・ヴォーカルを聴かせるのは、バンドのフロントマン、レニー・ウィリアムス。タワー・オブ・パワーはアメリカ西海岸のベイ・エリアを拠点としたファンク・バンド。大所帯のホーン・セクションと、フランシス・“ロッコ”・プレスティア(ベース)とデヴィッド・ガリバルディ(ドラム)のリズム・セクションが生み出すパワフルなサウンドが売りで、この曲でもその魅力が最大限に発揮されている。6枚目のアルバム『Urban Renewal』(1974年)のオープニングを飾っていた。

02. Bird Of Beauty / Svante Thuresson
スウィンギーでジェントルな風を運ぶ、スウェディッシュ・ジャズの名演。スヴァンテ・スレッソンは、幅広いレパートリーを特色としているストックホルム出身のジャズ・ヴォーカリスト。この曲のオリジナルは、スティーヴィー・ワンダーの創造性がピークへと向かっていた『Fulfillingness' First Finale』(1974年)に収められていたサウダージと自由な感覚に満ちたブラジリアン・ナンバー。作詞でセルジオ・メンデスも貢献している。高性能なスポーツカーのようにコード・チェンジを繰り返すサクソフォンは、もうひとつのメロディーを奏でるようだ。スタンダードに加え、ジョン・レノンやエルトン・ジョンの曲を取り上げた1982年の『Just In Time』に収録。

03. Let's Be Friends / Marilyn Scott
ボビー・コールドウェルやネッド・ドヒニー、タワー・オブ・パワー(アルバムにも参加)などとの共演経験を持つ女性シンガー、マリリン・スコット。彼女のデビュー作『Dreams Of Tomorrow』(1979年)はブルー・アイド・ソウルの名作として、今なお愛されているアルバムだ。スピーディーかつスムースな「Let’s Be Friends」は、爽やかな初夏の香りを運んでくるようなブリージン・ナンバー。作曲とアレンジを担当したのは、イエロージャケッツのメンバーでもあるラッセル・フェランテ。ソウル~ジャズ的な個性を持つ彼女のヴォーカルの魅力を引き出している。現在に至るまでマイ・ペースに活動を続けているマリリン・スコットだが、よりAOR色を強めた『Without Warning!』(1983年)や、スティーヴィー・ワンダーの「Bird Of Beauty」のカヴァーを収めた『Take Me With You』(1996年)なども人気。

04. I Want You Back / C.C.S.
C.C.S.はアレクシス・コーナーとアレンジャーのジョン・キャメロンを中心としたグループ。アレクシスはジャック・ブルースやローリング・ストーンズ、フリー、レッド・ツェッペリンらと関係が深く、“ブリティッシュ・ブルースの父”と呼ばれる存在。ジョン・キャメロンはUKジャズ・ロックの重要人物で、ハロルド・マクネアらとのカルテット名義で発表した「Troublemaker」は、クラブ・ジャズ~レア・グルーヴ・シーンの人気曲だ(橋本徹・選曲の『Cafe Apres-midi Olive』にも収録)。ジャクソン・ファイヴの人気曲「I Want You Back」のカヴァーは、ホーンズが唸りを上げるブラス・ロック調の仕上がりに。ワイルドかつ味のあるヴォーカルもいい感じだ。この曲の入った1972年の2作目には「Running Out Of The Sky」や「Brother」なども収められており、レア・グルーヴやヒップホップ的な文脈でも楽しめる一枚。

05. Window Shopping / The Friday Club
スペシャルズのジェリー・ダマーズのレーベル、2トーンにEPを1枚だけ残した7人組グループ、フライデイ・クラブ。モータウンや2トーン系特有の快活で跳ねるようなノリ、トランペットとテナー・サックスが醸し出す、甘酸っぱさとちょっと背伸びしたような気分。それはちょうど、新しいシャツを着てあの娘と街に出かけていくときのそれだ。フリー・ソウルで言うなら、エルボウ・ボーンズ&ザ・ラケッティアーズの「A Night In New York」やホッジス・ジェイムス&スミスの「What Have You Done For Love?」、エスター・フィリップスのオデッセイ・カヴァー「Native New Yorker」あたりと通底する感覚を持っている曲と言えるだろう。

06. Mama Never Told Me / Sister Sledge
フリー・ソウルのひとつの看板と言えるのが、ジャクソン・ファイヴやフォスター・シルヴァーズに代表される、キッズ・ソウルものだろう。感情を爆発させるように歌うヴォーカルには、心をぎゅっと掴まれてしまうが、この曲もその系譜に入る名曲。イントロの“シュビドゥビ”コーラス、無敵の展開を見せるメロディー・ラインやヴォーカル・ワークと、ジャクソン・ファイヴを相当研究しただろうと思わせる、最高に胸がキュンとするガールズ・ヤング・ソウル。1973年にアトコ・レコードと契約を結んで初のシングルだった。リード・ヴォーカルを務める、当時10代前半だった末娘キャシーの溌剌とした歌声が眩しい。

07. Seeds Of Life / Harlem River Drive
ハーレム・リヴァー・ドライヴは、伝説的なラテン・ジャズ・ピアノの名手であるエディー・パルミエリを中心としたプロジェクト。名称は、ハーレムのブラック/ラテン・コミュニティーを隔てる道路にちなんでおり、女性フルート奏者ボビ・ハンフリーの楽曲タイトルにもなっている。「Seeds Of Life」は、バーナード・パーディーやコーネル・デュプリーを迎えた唯一のスタジオ作(1971年)に収められていた至高のジャズ・ファンク。アーチー・シェップ「Attica Blues」を思わせるような重量感のあるグルーヴ、切れ味鋭く切り込んでくるホーンなど、フリー・ソウル~レア・グルーヴ・ファンならずとも文句なしに反応してしまう格好良さ。パーディーのドラム・ブレイク、男臭いジミー・ノーマンのヴォーカルもたまらない。アルバムはニューヨリカン・ソウルを25年先取りした、とも言えるものだった。彼らにはシン・シン刑務所でのライヴ盤(1972年)も残されているが、そちらはラテン~サルサ色が強調された内容。

08. We Got The Funk / Positive Force
ポジティヴ・フォースは、ブレンダ・レイノルズとアルバート・ウィリアムスを中心とするファンク~ディスコ・グループ。「We Got The Funk」は、シックの作品を思わせるようなギター・カッティングとベース・ライン、シンプルなリフレインが印象的なパーティー・チューン。シュガー・ヒル・レーベルからリリースされて大ヒットしたこの曲は、現在ではオールド・スクール~ダンス・クラシック定番曲となっている。フリー・ソウル人気曲で似たようなポジションの曲を探すとしたら、やはり歓声入りのカーティス・ブロウ「Throughout Your Years」といったあたりだろうか。清涼感を感じさせるサビ後のメロディー展開も良いアクセントになっている。

09. I Know You, I Live You / Chaka Khan
ルーファス&チャカ・カーン在籍中の1978 年にソロ・デビュー、アリフ・マーディンの指揮のもと、その情熱的なヴォーカルを武器に大成功を収めた女傑チャカ・カーン。その歌唱力、楽曲やサウンド・プロダクションの水準の高さと、初期の彼女はその無敵ぶりを大いに発揮した(本当に非の打ちどころがない)。フロアのキラー・チューン「I Know You, I Live You」は、同時代的にはヒットこそしていないものの、浮遊感を持ったエイティーズ風のシンセやメロディーがどこか哀愁を誘う、ナイトライフを描いたビタースウィートなアーバン・ブギー名作。ソロとしては3作目となる『What Cha’ Gonna Do For Me』(1981年)に収録されている。彼女のヒット曲の多くは、今ではダンス・クラシックとして定番化しているが、ネッド・ドヒニーと共作したこのアルバムの表題曲や、グレッグ・ダイアモンド・バイオニック・ブギー版(ヴォーカルを務めるのは若き日のルーサー・ヴァンドロス)も「Hot Butterfly」のタイトルで人気の「Papillon」、ラヴ・アンリミテッド「Move Me No Mountain」のカヴァーなどがフリー・ソウル界隈では人気を集めた。

10. Nena / Malo
70年代のソウル・ミュージックにおける大きなトピックとして、ラテン・リズムの導入が挙げられる。サンタナやアステカといったアーティストに注目が集まり、サルソウル~ニューヨリカンが台頭していく動きの中で、チカーノ・ロック・バンドの雄マロも捉えられるべきだろう。中心人物はアルセリオ・ガルシア(ヴォーカル)やパブロ・テレス(ベース)、そしてカルロス・サンタナの弟、ホルヘ・サンタナ(ギター)。アステカを率いたコーク・エスコヴェードもゲスト参加している。血湧き肉躍るこの「Nena」は、そのような時代の感覚を見事に映した、横揺れが快感のラテン・ロック・ナンバー。

11. Wiggle-Waggle / Herbie Hancock
ハービー・ハンコックはブルーノート・レーベルに美しい『Speak Like A Child』を吹き込んだ後、かつてのバンド・リーダーだったマイルス・デイヴィスに触発されて電気楽器に目覚め、その後を追うように自身のエレクトリック・セクステットを結成。それぞれの新たな時代が始まることとなる。「Wiggle-Waggle」は、1969年の『Fat Albert Rotunda』の冒頭を飾っていたヒップなジャズ・ファンク・チューン。どこかサイケデリックなフィーリングが香るのも60年代末らしい。イントロのギター・フレイズは、立花ハジメの「Bambi」でループされていた。プロデュースを手がけたのはテイ・トウワで、ディー・ライトが時代の先を行く90年代初めの空気が感じられた。

12. Little Ghetto Boy / Donny Hathaway
『Extension Of A Man』と並ぶダニー・ハサウェイ畢生の名盤『Live』と言えば、「What’s Goin’ On」と「You’ve Got A Friend」の二大名演がハイライト・トラックとして知られるが、この「Little Ghetto Boy」も、それに優るとも劣らない。オリジナルは『ハーレム愚連隊』という邦題に驚かされるサントラ『Come Back Charleston Blue』(1972年)に収録されているが、このライヴ・ヴァージョンが持つ切迫した高揚は至上の名曲にふさわしい。弾力性たっぷりのグルーヴの上でベースがうねり、ウーリッツァが唸る。困難な状況の中でも希望を持ち続けなくてはならない、という幼いゲットー・ボーイへのメッセージ、サビの「Everything has got to get better」という胸を打つフレイズに心を掴まれる。90年代初頭にアシッド・ジャズの代表的グループ、ガリアーノがポエトリー入りのクールなジャズ・ファンクに仕立て、この曲やダニーの魅力に新たな光が当てられることになった。

13. Sunlight / The Youngbloods
愛の夏が産み落とした、淡い白昼夢。「Sunlight」は、ジェシ・コリン・ヤング率いるヤングブラッズの代表曲と言えるボッサ風味のナンバー。アコースティック・ギターとヴォーカルの親密な響きに象徴されるように、60年代末らしい自由でピースフルな空気が流れている。彼らの3枚目にあたる『Elephant Mountain』(1969年)に収録されていた。ワーナー・ブラザーズ移籍後の『Ride The Wind』(1971年)や、グループ解散後のジェシ・コリン・ヤングのソロ作『On The Road』(1976年)でもライヴ・ヴァージョンを聴くことができる。この曲は、マッド・エイカーズのアーティー・トラウムらウッドストック系のミュージシャンがバックアップした、午後のコーヒー・タイムが似合うドリス・エイブラハムス版(『Ultimate Suburbia Suite ~ Future Antiques』に収録)もサバービア・ファン必聴だ。

14. For Sentimental Reasons / Danny Kortchmar
古くはジェイムス・テイラーやキャロル・キングが在籍したフライング・マシーンやシティー、ジョー・ママや独立後のJTやキャロル・キングの右腕として活躍、その後もセクションやアティテュードなどの活動で知られる名脇役、ダニー・コーチマー。ファースト・ソロ『Kootch』(1973年)では、その歌心と白人ならではのファンキー感覚に溢れるプレイが、遺憾なく発揮されている。ハリウッドの映画スタジオの一角で撮影されたというジャケットでは、白いスーツに身を包み伊達男ぶりを見せる彼の姿も微笑ましい。アルバム唯一のカヴァーとなるスタンダード「For Sentimental Reasons」を、軽く跳ねるゆったりグルーヴに乗せて心地よく料理。“粋”という言葉が似合う、極上のブルー・アイド・フリー・ソウルに仕上げられている。

15. Harmony Grits / Peter Gallway
元フィフス・アヴェニュー・バンドの中心人物にして、60年代グリニッチ・ヴィレッジのフォーク・カルチャー~グッドタイム・ミュージックの生き字引き的な存在のピーター・ゴールウェイ。日本でも山下達郎をはじめ、彼を敬愛するファンは多く、1987年の来日の際には、佐橋佳幸や湯川トーベン、野口明彦(元シュガー・ベイブ)、田島貴男(オリジナル・ラヴ)らのメンバーをバックにしたレコーディングも行われている。FAB解散後、オハイオ・ノックスを経た1972年作のファースト・ソロは、すべてのSSWファン必携のエヴァーグリーン。青春の光と影、甘酸っぱいシティー・ミュージックが詰まった傑作だ。「Harmony Grits」は、軽快に弾むリズムとメロウなコード、スウィートなメロディーが“あの頃”のNYの街角の風景を描き出す。シュガー・ベイブ~初期大貫妙子ファンは歓喜すること必至のギター・ソロも最高。

16. Midnight At The Oasis / Maria Muldaur
フリー・ソウル・シリーズは、“New Directions Of All Around Soul Music”を標榜し、既成の価値観に捉われないリスニング・スタイルを提案してきた(それは監修・選曲者である橋本徹の姿勢に一貫している)ように、ときに他ジャンルの定番とされている曲を取り上げ、フレッシュによみがえらせることがある。マリア・マルダーの「Midnight At The Oasis」もそのひとつ。ルーツ・ミュージックやアメリカン・ミュージックを熱心に聴いてきたファンなら基本の、しかし90年代当時の若いリスナーには新鮮に響くナンバーだった。そのきっかけは、アシッド・ジャズを代表するバンド、ブラン・ニュー・ヘヴィーズによる1994年のUKソウル・マナーのカヴァー。その“カヴァー・ソース”として聴いたとしても、曲の持つポテンシャルに引き込まれる名演にして名唱だ。そして“ 筆舌に尽くしがたい”とはこういうことだろうと思わせる、エイモス・ギャレットのギター・ソロの素晴らしさ。この曲を含む彼女のソロ作や、夫ジェフ・マルダーとの仲睦まじいアルバムは、古き佳きアメリカーナという芳醇で深い森への道標だ。

17. Soul Sister / Allen Toussaint
リー・ドーシーやアーロン・ネヴィル、ミーターズ、ザ・バンドなどのプロデュースを行い、ニューオーリンズ・サウンドの立役者として一躍注目されるようになったアラン・トゥーサンは、1970年代になると自己名義のアルバムの制作にも積極的に取り組む。リプリーズ移籍第1弾となる『Life, Love And Faith』(1972年)は、トゥーサン流のファンク感覚が前に出た一枚。ゴスペル・フィーリングのサウンドが楽しめる「Soul Sister」は、彼のメロディー・センスが光る一曲。フリー・ソウルがスタートしたのは1994年だが、ムーヴメントの盛り上がりとともにブラジリアンやフォーキー、ファンキー・ロック、ディスコ~ガラージ、スピリチュアル・ジャズなど様々な音楽的拡大を見せていく。南部のスワンプ・ロックやセカンドライン・ファンクなどのアーシーな音楽にも人気が集まるようになっていった。

18. The Vulture / Labi Siffre
最高に格好良いドラム・ブレイクからスタートする、“完璧”という言葉を使いたくなるクールなファンキー・チューン。粘りを持ったリズムに絡むストリングスやホーンにヴォーカルと、カーティス・メイフィールドやスライ・ストーン、ボビー・ウーマックなどのファンクを連想させる奇跡の一曲だ。ラビ・シフレは、テリー・キャリアーやホセ・フェリシアーノら、ギターを抱えたフォーキーなシンガー・ソングライターの系譜に位置づけたくなる英国の黒人アーティスト。一貫して優しく知的な雰囲気が感じられるのが彼の持ち味だ。70年代前半にパイやEMIから6枚のアルバムをリリースしており、「The Vulture」は1975年の5枚目『Remember My Song』に収録されていた。

19. Cherrystones / Eugene McDaniels
ユージン(ジーン)・マクダニエルズと言うと、ロバータ・フラックの大ヒットにしてマリーナ・ショウの決定的な名唱で名高い「Feel Like Makin’ Love」のコンポーザーだと答える人がほとんどではないだろうか。しかし、彼の本質は自作「Compared To What」に代表されるように、社会の矛盾に抵抗する反体制的なアティテュードにあり、危険人物としてFBIにマークされていた時期もあったという。そんな彼の魅力がよく表れているのが、アトランティックからのソロ・アルバム『Outlaw』(1970年)と『Headless Heroes Of The Apocalypse』(1971年)の2作。不協和音を用いた「Cherrystones」の暗くブルージーな語り口は、“黒いボブ・ディラン”ことギル・スコット・ヘロンや、荒廃した都市のありようを描いたマーヴィン・ゲイ「Inner City Blues」などを思い起こさせる。

20. All Along The Watchtower / Barbara Keith
プライマル・スクリーム「Movin’ On Up」やベック「Loser」が時代の音だった1990年代半ば、フリー・ソウルもそうした同時代的な動きに呼応して、ラビ・シフレやジョーン・アーマトレイディング、テリー・リードなどといった、ファンキーな個性のフォークやロックが人気を集めるようになっていたが、その決定版のひとつが、XTCやジミ・ヘンドリックスによるヴァージョンでも知られるこの「All Along The Watchtower」。ヴァーヴ・フォーキャストから1枚のアルバムを出したのちに、バーバラ・キースが1973年に出したセカンドに収録されていたこの必殺のボブ・ディラン・カヴァーは、リスナーのアドレナリンが噴出すること請け合いのビターなファンキー・ロック。火傷するようなギター・プレイ、グイグイと煽るリズム隊も迫力満点。ダニー・コーチマーやローウェル・ジョージらが参加し、バーバラがソウルフルな喉を聴かせるアルバムは、ルーツ・ロック・ファンならずともコレクションに加えておきたい一枚だ。

21. Altogether Alone / Hirth Martinez
『Free Soul River』のエンディングに収録されていたこの曲を聴いたとき、痛快だったという個人的な思い出がある。というのは、ハース・マルティネスのデビュー作『Hirth From Earth』(1975年)は、いわゆるウッドストック一派などのアメリカン・ルーツ・ロックを愛するファンにとっては“ 幻の名盤”、しかもザ・バンドのロビー・ロバートソンのプロデュース作として神格化されている一枚だったから。しかし、「Altogether Alone」はボッサ風味のリズムに、ハースのダミ声が乗る浮遊感と優しさを持った、誰もが認めるだろう名曲で、これをプレゼンテイションしたところに、良い曲を多くの音楽ファンに届けたいという橋本徹の心意気(気概)が感じられた。ハースは飄々とした佇まいや、UFOとの遭遇をテーマにして曲を作るといった世界観に、細野晴臣などとの近接性も感じさせるアーティスト。1977年にジョン・サイモンのプロデュースで『Big Bright Street』をリリース後、沈黙を続けていたが、1998年には復活作『I’m Not Like I Was Before』をリリース、変わらない歌声とギター・プレイを届けてくれた。


Forever Free Soul Collection[DISC 3](waltzanova)

01. Oblivious / Aztec Camera
ロディー・フレイムのソロ・プロジェクト、アズテック・カメラのファースト・アルバム『High Land, Hard Rain』(1983年)の冒頭に収められていた、胸をかきむしられるネオ・アコースティック・ナンバー。切ない想いを喚起するコード・チェンジ、繊細さと激しさが同居した中盤のギター・ソロなど、30年以上経った今でもその輝きは色褪せることはない。ポップ・ミュージックの持つときめき、ソウル・ミュージックの伸びやかさ、ほんのりと振りかけられたラテンのフィーリングなど、ハイブリッドな音楽性も特筆すべきだろう。同質の個性を持ったペイル・ファウンテンズやベン・ワットなどの作品が与えた心の震えは、橋本徹にとっての“フリー・ソウル”の原点であることも書き添えておくべきだろう。

02. Spring Song / Linda Lewis
春の訪れを告げるかのようにギター・ストロークが鳴らされ、あどけなさを残すハイトーン・ヴォイスが空に溶けていく。ジョニ・ミッチェルとミニー・リパートン、それにコリーヌ・ベイリー・レイの個性を併せ持つ黒人女性アーティスト、リンダ・ルイス。名作の誉れ高いセカンド・アルバム『Lark』(1972年)の冒頭を飾る「Spring Song」には、彼女らしい瑞々しさが刻印されている。ソウルやフォーク、ジャズにレゲエ(彼女の祖父はジャマイカンである)などがブレンドされたそのエクレクティックな音楽性は、1970年代当時には幅広く理解されることはなかったが、テリー・キャリアーらと並んでフリー・ソウルの盛り上がりとともに注目を集め、1995年には奇跡の来日公演も実現、ファンを感激させた。

03. One Way Or The Other / The Fifth Avenue Band
NYはグリニッチ・ヴィレッジ、“Delmonico's”と書かれたカフェの前。5人のナイス・フォークスが、昼から赤ワインを空けリラックスしている。この空気感が彼らのすべてを表していると思う。ジョン・セバスチャンが在籍したラヴィン・スプーンフルの弟分的バンドと捉えられることが多い彼らだが、ロック、ポップス、R&B、ボサノヴァ、フォーク、カントリーを柔軟に解釈したその音楽性は、よりハイブリッドで瀟洒。まさに“街の音楽”と呼ぶのがふさわしい。「Fast Freight」を書いたピーター・ゴールウェイ、この曲や「Nice Folks」、のちにEW&Fのサウダージ・フィーリングをたたえた「Feelin’ Blue」を書いたケニー・アルトマン、「Angel」を書いたジョン・リンドなど、メンバーそれぞれのソングライティング・センスが高いのも特筆すべき(ピーターとケニーの共作による「Eden Rock」も名曲)。伸びやかなヴォーカルと爽やかなハーモニー、気心の知れたメンバーの織りなすアンサンブルは、ネオ・アコースティックのアーティストにも通じる“蒼さ”を感じさせる。1969年に彼らが残した唯一のアルバムから。

04. Come With Me / Eric Kaz
エリック・カズは、ボニー・レイットやリンダ・ロンシュタットらが歌った「Love Has No Pride」をはじめ、多くのアーティストにその作品が愛されているシンガー・ソングライター。アメリカン・フライヤーの活動でも知られているかもしれない。1972年リリースの初ソロ作『If You're Lonely』は、SSWファンには“幻の一枚”として高い評価を受けているが、フリー・ソウルという視点では2年後の『Cul-De-Sac』が紹介されるべきだろう。バーナード・パーディーやゴードン・エドワーズ、デヴィッド・T.ウォーカーらの豪華メンバーを迎え、ソウル・ミュージックへの傾倒が示されている。軽くグルーヴィーに跳ねるリズムと優しげな歌声、ゴスペル的な感覚を持ったこの曲や、光が射してくるようなポジティヴな輝きに溢れた「Good As Is Can Be」は、1990年代の小沢健二にも大きなインスピレイションを与えた。

05. Brazil / Geoff & Maria Muldaur
1960 年代に起きたジャグ・バンド・リヴァイヴァルの代表格と言えば、イーヴン・ダズン・ジャグ・バンドとジム・クウェスキン&ザ・ジャグ・バンドだが、その両方に参加していたのがジェフ&マリア・マルダー。彼らが結婚後にウッドストックに移住して発表したのが『Pottery Pie』(1968年)。ベッドに入った二人の写真からも推察されるように、彼ら流のレイドバックした態度でグッドタイム・ミュージックを奏でた名盤だ。「ブラジルの水彩画」という邦題でお馴染みの「Brazil」は、ジョアン・ジルベルトの奇跡的な名演や、映画『未来世紀ブラジル』の主題歌としても有名だが、口笛の響きものどかなブリージーなこのカヴァーは、ノスタルジックでありながらどこかサイケな感覚も呼び起こすもの。ジェフのご機嫌な歌いぶりもたまらない。また、マリア・マルダーのソロ・アルバムやポール・バターフィールズ・ベター・デイズへの参加で知られる名ギタリスト、エイモス・ギャレット(「Georgia On My Mind」のソロは必聴)や、ビル・キースのペダル・スティール・ギターも要チェックだ。

06. Goodbye Yellow Brick Road / Svante Thuresson
1990年代後半から2000年代初頭にかけては、ヨーロッパ産のブラジリアン・ミュージックに脚光が当てられる時期だったが、この曲の主役スヴァンテ・スレッソンもそのひとり。フリー・ソウル・シリーズに今回初めて収録可能となったスウェーデンの男性ジャズ・ヴォーカリスト。エルトン・ジョンの1973年の大ヒット・アルバムのタイトル曲を、青春を回顧する情感がさりげなく滲む、スウィンギーな絶品のサロン・ジャズに生まれ変わらせている。このような名曲のジャズ・カヴァーをひとつの核に据えた選曲の集大成が、橋本徹が2000年代後半に編んだ『音楽のある風景』シリーズなので、興味のあるリスナーはぜひ手に取ることをお勧めする。

07. Feel Alright / Crackin’
1970年代中期から後期にかけて活躍し、アヴェレイジ・ホワイト・バンドと並び称されることも多いセルフ・コンテインド・バンド、クラッキン。1977年の『Crackin’』の発表時にメンバーとしてクレジットされているのは7人で、のちにブラック・コンテンポラリー~ AORファンを虜にする傑作『Heartache』を発表するレスリー・スミス、人気プロデューサー・チームとなるピーター・バネッタとリック・チューダコフらの名前が並んでいる。バンドの中心人物レスター・エイブラムズのペンによる「Feel Alright」は、白黒混合バンドである彼ららしい、ほどよい洗練をまとったワクワクするような爽快ソウル・ミュージック。ときにシュガー・ベイブ的なギター・ワークも聴け、AWBと比べるとライトな印象を受ける。マイケル・オマーティアンが全面的に関わった翌年の『Special Touch』では、より都会的なサウンドが実現されており、こちらも好盤。

08. Papillon (a.k.a. Hot Butterfly) / Chaka Khan
「Hot Butterfly」のタイトルで知られるグレッグ・ダイアモンド・バイオニック・ブギーのダンス・クラシックの好カヴァー。チャカ・カーンは「Papillon」と改題し、こちらもニューヨーク産ダンス・ミュージックの神髄と呼びたくなる、胸のすくような歌声が素晴らしい。ヒュー・マクラッケンのハーモニカの音色が、華やかなフロアの背後にある翳りを演出する。チャカ・カーンのヴォーカルには、力強さの一方で哀しみを感じさせる瞬間が常にあり、それこそが彼女を不世出のシンガーにしているのだと思う。元アヴェレイジ・ホワイト・バンドのヘイミッシュ・スチュアートやジェフ・ミロノフ、ウィリー・ウィークス、ドン・グロルニックらの手錬れを迎え(オリジナルを歌っていたルーサー・ヴァンドロスもコーラスで参加)、アリフ・マーディンの技が冴えまくっている。1980年の『Naughty』より。

09. There's No Vibration, But Wait! / Edgar Broughton Band
漂うのはサイケデリックでアンダーグラウンドなムード。呪文のようなフレイズ。隠し味にラテン・フィーリングがあしらわれている「There's No Vibration, But Wait!」は、リズムの渦に引き込まれていくような気分になるヒップなナンバー。エドガー・ブロートン・バンドは、兄のエドガー(ギター&ヴォーカル)と弟のスティーヴ(ドラムス)のブロートン兄弟を中心に結成された3人組。60年代末~70年代初頭らしく、ヘヴィーなブルース・ロックやフランク・ザッパ、キャプテン・ビーフハートなどの影響を感じさせるハードなサウンドを志向していたようだ。ピンク・フロイドやケヴィン・エアーズなどが所属していたイギリスの名門レーベル、ハーヴェストからリリースされた2枚目『Sing Brother Sing』(1970年)に収録。

10. Right Place Wrong Time / Dr. John
ドクター・ジョンこと本名マック・レベナックは、ニューオーリンズを代表するアーティスト。同地のセカンドライン・ビートを取り入れた『Dr. John's Gumbo』(1972年)は、リトル・フィートなどと並んで当時のミュージシャンに大きな影響を与えた一枚。それに続く『In The Right Place』(1972年)は、アラン・トゥーサンがプロデュースを担当し、ミーターズが全面的にバックを務め、強力に黒っぽさを感じさせる作品に仕上がった。アルバムのタイトル曲的な位置づけの「Right Place Wrong Time」は、スリリングなファンク・チューン。ドクター・ジョンの個性的なダミ声ヴォーカルやアクの強いギター・ソロがサウンドに溶け合う様は、南部の名物料理ガンボの濃厚なスープを思わせる。

11. Hang On In There / The Stovall Sisters
ジョイス、リリアン、ネッタの3人からなるストヴァル・シスターズ。ゴスペル・ルーツの喉を聴かせる、彼女たちの唯一のアルバム『The Stovall Sisters』(1971年)からの強力なファンキー・ナンバー「Hang On In There」は、ときにジャクソン・シスターズやJBなどを思わせる格好良いシャウト・スタイルで攻める。クールなブレイクにホットなホーンとも相まって、熱量は上昇。制作を担当したのはラヴィン・スプーンフルやフィフス・アヴェニュー・バンドなど、グリニッチ・ヴィレッジ界隈のアーティストの仕掛人、エリック・ヤコブセン。

12. Valdez In The Country / Cold Blood
コールド・ブラッドはラリー・フィールドを中心に結成されたグループで、ジャニス・ジョプリンに憧れていたというヴォーカリスト、リディア・ペンスの迫力ある歌声や、ブラッド・スウェット&ティアーズ、やはりベイ・エリア出身のタワー・オブ・パワーのようなホーン・セクションを売りにして活躍した。彼らのサード・アルバムはダニー・ハサウェイがプロデュースを行い、全体にソウル色を強めた内容となった『First Taste Of Sin』(1972年)で、現在では彼らの代表作との呼び声も高い。作曲もダニーが行った「Valdez In The Country」は、ホーンズそれぞれのソロも聴きどころのミディアム・グルーヴで、自演版はのちに『Extension Of A Man』に収録。アルバムにはパーカッションでピート&コークのエスコヴェード兄弟が参加、ラテン的な躍動感を加えるのに一役買っている。ダニーはゴスペル調の「You Had To Know」も提供、こちらも彼らしいメロディー・センスを堪能することができる。

13. Long Train Runnin' / The Doobie Brothers
「格好良ければ、メジャーもマイナーも関係ない」という信念のもとに、いわゆるロック・クラシックを取り上げるのもフリー・ソウルならではの視点。その手つきは、ヒップホップ・アーティストがサンプリングによって、よく知られた名曲の意外な魅力を照らし出すのにもよく似ている。イントロからぐっと掴まれるエッジの鋭いギター・カッティング、リズミカルなパーカッション、タイトに引き締まったボトム、熱く燃えるヴォーカル&コーラスと、長年にわたって愛されているのも納得のこの曲は、ファンキー・ロック最高峰。ドゥービー・ブラザーズは1970 年代のワーナー・ブラザーズを代表するアメリカン・ロック・バンドで、トム・ジョンストンを中心とした「Long Train Runnin’」的なシャープなサウンドを持ち味として全盛期を迎えたのち、トムの体調不良などもあり、1970年代中期以降、新加入したマイケル・マクドナルドの音楽性を推し進めたブルー・アイド・ソウル的な方向へ変化していった。

14. Supermarket Blues / Eugene McDaniels
ヒップな格好良さに溢れたビート、ギル・スコット・ヘロンなどを想起させるスポークン・ワーズ風のヴォーカルと、アブストラクトな魅力が黒く光るファンク・ブルース。鋭い社会意識を持つブラック・アーティスト、ユージン(ジーン)・マクダニエルズが1971年に放った『Headless Heroes Of The Apocalypse』は、アルフォンス・ムゾーンがドラマーに起用され、ジャズ・ファンク的なシャープな音作りが冴えている。ATCQやエリック・B.&ラキム、ピート・ロック&C.L.スムース、ビースティー・ボーイズらを筆頭とするアーティストによって数多くの曲がサンプルされ、アルバムはフリー・ソウルのみならずヒップホップ~レア・グルーヴ的な観点からも名作として認知されている。

15. Hard To Handle / Otis Redding
フリー・ソウルは当初、いわゆる従来のソウル~R&B観に対してのカウンターという側面を強く持っていたため、1960年代R&Bシンガーの“神”とされていたオーティス・レディングは“仮想敵”的に扱われることもあった。しかし、その扱いは橋本徹が言うところの“作用・反作用”であり、新たな選択眼に見合う優れた楽曲であれば取り上げるのは言うまでもない。この曲で耳を傾けるべきは、ヒップホップのビート・メイキングに使われそうな乾いたドラム・サウンドだろう。抜群のリズム感を見せるオーティスのヴォーカル、スティーヴ・クロッパーやドナルド・“ダック”・ダンにメンフィス・ホーンズらのバッキングも申し分ない。彼が1967年の飛行機事故で亡くなった後の『The Immortal Otis Redding』(1968 年)からのエントリー。

16. Rope Ladder To The Moon / Brian Auger & Julie Tippetts
1960年代半ばから70年代にかけて精力的に活動したモッドなオルガン・プレイヤー、ブライアン・オーガー。彼は60年代後半にジュリー・ドリスコール、ブライアン・オーガー&ザ・トリニティー名義で活躍、ジュリーのソウルフルな声を生かしてジャズ・ロック色の強いアルバムをリリースしているが、二人が久しぶりに再会したのが『Encore』(1978年)。結婚後なので、ジュリーの姓は変わっている。「Rope Ladder To The Moon」は、ブライアンのオルガンが優しく響くミディアム・ボッサ調のナンバー。もとはジャック・ブルース作のブルージーなロックだったが、ここではタイトル通り月へと昇っていくかのようなしみじみした幸福感に包まれる。

17. You Fooled Around / Sister Sledge
シスター・スレッジ3曲目のエントリーは、ナイル・ロジャース&バーナード・エドワーズのマジックがかかった、スムースでソフィスティケイトされたメロウ・ディスコ・ナンバー。哀愁漂うメロディー・ラインとヴォーカル・ワークが胸に響く隠れた名曲だ。シスター・スレッジを含め、ナイル&バーナードの手がけたダンス・チューンは、そのブギー感と反復の快感ゆえにダフト・パンクを経由して一時期から特に高い再評価を受けるようになったが、そのエッセンスが過度に前面に出ず、ある種の爽やかさも感じさせるこの曲が選ばれるのが、フリー・ソウルらしいセンスだと思う。通算4作目となる『Love Somebody Today』(1980年)に収録。

18. Forget Me Nots / Patrice Rushen
前曲と相性抜群のビートで披露される、これまたメロウなダンス・クラシック。跳ね感のあるベースが強調されたエイティーズのトレンドを取り入れながらも、時流に流されすぎずに自身の音楽をクリエイトできるのは、パトリース・ラッシェンのミュージシャンシップの高さと優れた審美眼ゆえだろう。ジェイムス・ギャドソン、フレディー・ワシントンらミュージシャンの人選も的を射ている。この曲はテイ・トウワによってスタイリッシュにカヴァーされたが、サンプリング人気抜群の「Remind Me」も収められエレクトラからの4作目『Straight From The Heart』(1982年)は、他にも甘美なミディアム「Where There Is Love」も収録された正真正銘の傑作だ。

19. Riding High / Faze-O
オハイオ・プレイヤーズ「Sweet Sticky Thing」などに通じる、気怠くやるせないメロウネスを漂わせるミディアム・ファンク・フローター。メロウ・ラップのサンプリング・ソースやカヴァー元としても愛されており、代表的なところでは前者はEPMDやブラック・ムーン、後者はプラティナム・パイド・パイパーズの作品がある。フェイズ・Oは、オハイオ州デイトンで結成された5人組ファンク・バンド。オハイオ・プレイヤーズの弟分的なグループとして知られている。「Riding High」を収めた1977年のファースト・アルバムのアレンジはオハイオ・プレイヤーズが担当、彼らに認められただけあって、そのセンスと実力は折り紙つきだ。

20. Moondance / Van Morrison
夜のしじまの中にこだまする、ジャジーでヒップでブルージーなワルツ。魂の安息を求めてやってきた男は、月の魔力のもとで愛を告げる──。アイルランドを代表する伝説のシンガー、ヴァン・モリソン。ゼム解散後、自身のスタイルを確立しようと生み出されたアルバムはどれも聴かれるべきだが、『Moondance』(1970年)は、R&Bとジャズ、フォーク、トラッドが見事に融合した不朽の名盤。ヴァン・モリソンのヴォーカルも圧巻で、ある種の極みに到達したという印象を受ける。男の優しさと弱さを吐露した「Crazy Love」も、彼のキャリアを代表する名曲だ。2013年にはアルバム完成までの工程が垣間見えるセッションや別ミックスを収めた5枚組のデラックス・エディションが発売された。ジャズ・ドラマーのグラディー・テイトや90年代クラブ・ジャズ・シーンで活躍したU.F.O.によるカヴァーも、それぞれの解釈が生かされている。

21. If You Don't Want My Love / Ronnie Wood
“男気ソウル”と聞いて多くの音楽ファンが真っ先に思い浮かべるのは、“ラスト・ソウルマン”ことボビー・ウーマックではないだろうか。彼の代表曲のひとつが「If You Don't Want My Love」で、1971年の『Communication』で歌われたのち、映画『110番街交差点』(1972年)のサントラに収録されたが、そのヴァージョンは愛を失った男の哀愁に満ちたものだった。ボビーはローリング・ストーンズとの親交も厚く、ロニー・ウッド2作目のソロ・アルバム『Now Look』(1975年)でイアン・マクレガン(フェイセズ)と共同プロデュースを行ったが、そこでロニーはこの曲を取り上げている。こちらも彼のしわがれた声が、裏町のダンディズムを香らせる秀逸な名ヴァージョン。アウトロのギター・ソロも渋い。

22. Footprints On The Moon / Johnny Harris
ジョニー・ハリスは英国のコンポーザー/アレンジャー/プロデューサー。トニー・ハッチに見出され、ペトゥラ・クラークやトム・ジョーンズ、シャーリー・バッシーなどの作品やTV/映画音楽の仕事で活躍した才人。『Movements』(1970年)は、彼の4作目に当たるアルバムで、自作曲とビートルズやドアーズ、ローリング・ストーンズなどのカヴァーで構成されている。この曲はサンプル・ソースとしても人気を集め、フリー・ソウル・シーンにはワイズガイズの名トラック「The Real Vibes」に引用され静かなインパクトを与えたが、イージー・リスニング風味のピアノ、ファンタジックで色彩感に富んだオーケストレイションと、「月の足跡」というタイトルにふさわしいロマンティックな世界が広がっていく。他の曲でもストリングスやブラスの使い方に、彼の自在な編曲の妙を味わうことができ、ジャズ・ロック・ファンも注目だ。

23. Memory Of Our Love / Donny Hathaway
3枚組の『Forever Free Soul Collection』を締めくくるのは、ディスク1のオープニングと同じダニー・ハサウェイ。2010年に出た『Someday We'll All Be Free』に続くボックス・セット『Never My Love: The Anthology』(2013年)で陽の目を見たのが「Memory Of Our Love」。まるでダニーの人柄そのままのような穏やかな曲調に、彼が目の前によみがえったような錯覚すら覚える、涙なくしては聴けない名曲だった。ダニーやカーティス・メイフィールド、マーヴィン・ゲイ、スティーヴィー・ワンダー、リロイ・ハトソンら、70年代のニュー・ソウルのアーティストが90年代のフリー・ソウル・ムーヴメントに与えた影響はとても大きい。それはもちろん音楽性だけでなく、彼らの持つスピリチュアリティーゆえなのは言うまでもないだろう。中でも、困難の中にあっても希望を持ち続けようとした真摯なダニーのアティテュードは、フリー・ソウルの持つポジティヴィティーと強く共振しているのではないだろうか。選曲者である橋本徹が「Love, Love, Love」に始め、この曲を最後に置いたことの意味を、深く考えずにはいられない。
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