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00003568
Ultimate Suburbia Suite; Future Antiques
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2014年に旧譜カタログのコンピレイションとしては近年では稀に見る大ヒットを記録した『Ultimate Free Soul Collection』の兄弟編として、90年代以降の都市型音楽シーンに絶大な影響を及ぼしているフリーペーパー〜ディスクガイド「Suburbia Suite」で紹介された音楽ファン垂涎の名曲・名演が集められた『Ultimate Suburbia Suite Collection ~ Evergreen Review』『Ultimate Suburbia Suite Collection ~ Future Antiques』が5/20にリリースされます(※こちらは『Ultimate Suburbia Suite Collection ~ Future Antiques』がご購入いただける商品ページです)。ジャズやボサノヴァ、ソフト・ロックにSSW〜AOR、メロウ・グルーヴからラテンやフレンチや映画音楽まで、オール・ジャンルから選りすぐられた日常を心地よくスマートに彩る珠玉の名作集にして、全110曲・5時間半以上におよぶアーカイヴとしても大変貴重な永遠不朽の決定版セレクションです。アプレミディ・セレソンでお買い上げの方にはもれなく(通販含む)、橋本徹・編集による名盤102枚を紹介したディスクガイド「Ultimate Suburbia Suite Collection」と、橋本徹・選曲のスペシャルCD-R『More Future Antiques』(同時入荷の『Ultimate Suburbia Suite Collection ~ Evergreen Review』と併せて2タイトルともご購入の方には、それに加えて橋本徹・選曲のスペシャルCD-R『More Evergreen Review』)をプレゼント致しますので、お見逃しなく!
『Ultimate Suburbia Suite Collection』ライナー(橋本徹)
2014年にリリースされ、旧譜カタログのコンピレイションとしては、近年では稀に見る大ヒットを記録した『Ultimate Free Soul Collection』。2015年はその「Suburbia Suite」版を、という話をUNIVERSALからいただいた。しかも僕が2003年に上梓した「Suburbia Suite」集大成本2冊のタイトルとアートワークに合わせて、“Evergreen Review”“Future Antiques”と2種類のコンピを、そこに掲載されていたオリジナル・アルバム100枚のリイシューと共に、という絵に描いたように鮮やかなオファー。もちろん僕が意気に感じないはずはなかった。
「Suburbia Suite」とは、僕がかつてインディペンデント・マガジンとして編集・執筆していた音楽紹介誌。1990年末にフリーペーパーとして創刊し、90年代にはその内容を再編集したディスクガイドを3冊発行、その後は「relax」誌などの既存メディアでの特集という形で記事を制作してきた。
その志は、大きく言えば、自分が好きなのにあまり知られていない埋もれた名作に光を当て、肌に合うある種のムードをもった音楽を再評価・再編成すること、だっただろうか。気分やシチュエイションに応じて、あらゆるジャンルや年代・地域(ジャズやボサノヴァ、ソフト・ロックにSSW~AOR、メロウ・グルーヴやラテン~ブラジリアンから、フレンチや映画音楽まで)の中から、ある種のテイストを感じさせるレコードやCDをセレクトして、新たな価値観と独自のスタイリングのもとにその魅力を提案すること。それは個人のリスニング・スタイルから音楽シーンをとりまく環境に至るまで、決して小さくはない影響を及ぼしたと感じている。少なくとも僕にとっては、CDショップや中古レコード店の品揃えも、ふと立ち寄った飲食店やセレクトショップで耳にしたり、街で何となく流れてくる音楽も、25年前と比較すると、はるかに好ましいものになった(そのピークはやはり、90年代半ばから2000年代前半にかけてだったかもしれないが)。
そう、20代半ばの僕が自らに課した使命は、音楽ファンに無意識の意識変革を問いかけながら、ピースに、スマートに、笑顔で無血革命をなしとげることだった。そうした試みの精粋にして集大成と言ってもいいセレクションになっているのが、豊富なUNIVERSAL音源から選りすぐられた『Ultimate Suburbia Suite Collection』だ。もちろん残念ながら今はコンピレイションへの収録ができなくなっているアーティストもあったが(ジョアン・ジルベルトとかケニー・ランキンとかね)、2枚組を2種類、珠玉の110曲を5時間半以上にわたって堪能できる申し分ない選曲になったと思う。
僕にとっては人生の夏を彩ってくれた至上の名曲集であり(歳を重ねてしまった今の自分にはちょっと眩しいほどだが)、音楽シーンにとっては紛れもない永遠不朽のニュー・スタンダード。きらめくような心地よさと、ときめくような幸福感を後ろ盾に、自由なリスナーシップを唱えた若き日を振り返ると、それはフェアリーテイルのサウンドトラックのようでもあるが、“カウンター・カウンター・カルチャー”を標榜するうえでのテーマ・ソングでありレベル・ミュージックでもあった。
レコードに息づいている“雰囲気”を伝えることを大切に、と心がけていた「Suburbia Suite」の音楽紹介を2015年にアップデイトさせたような、waltzanovaによる全曲解説と共に、未来の至宝・秘宝となるだろうエヴァーグリーンな輝きを、ぜひ末永く楽しんでください。
Ultimate Suburbia Suite Collection ~ Future Antiques[DISC 1](waltzanova)
01. Love Is Everywhere / Pharoah Sanders
オープニングを飾るのは、ジョン・コルトレーンの高弟にしてスピリチュアル・ジャズの巨人、ファラオ・サンダース。「Love Is Everywhere」は彼の数ある楽曲の中でも特別な吸引力を持っている、まさにマスターピース。セシル・マクビーの強力なベース・ラインを牽引力に、るつぼのようなグルーヴを生むパーカッション、大地のように力強いジョー・ボナーのモーダルなピアノ、そしてファラオのスクリーム。一度その熱に触れたが最後、その世界に引きずり込まれてしまう。熱狂ののちに静謐へと至る、よりドラマティックな展開を持つ『Love In Us All』(1974年)での20分にも及ぶヴァージョンは、バンドがさらなる高みへと昇りつめる瞬間を記録しており、こちらも必聴。
02. Roda / The Gimmicks
“スウェーデンのセルメン”ことギミックス。「Roda」はエリス・レジーナ版でも知られるジルベルト・ジル作のサンバ・ナンバー。サビの爆発力が圧巻のこの曲を、ギミックスはパーティー仕様で料理している。アウトロの澄んだハーモニーも彼ららしい。ギミックスはLeif Carlqvistが1960年代後半に結成した6人組のグループ。セルジオ・メンデスへの憧れは相当なもので、アルバム収録曲の半数以上がセルメン・ナンバーという傾倒ぶりを見せており、その真っすぐな敬愛ぶりこそが彼らの音楽の輝きの源になっているのだろう。彼らは1970年代半ばまでに10枚弱のアルバムを残しているが、この『Brazilian Samba』(1970年)が最高傑作であることに異論はないだろう。
03. Catavento / Alaíde Costa
ジョアン・ジルベルトもお気に入りだったという女性歌手によるミルトン・ナシメントの名曲カヴァー。空へと伸びていくアライジ・コスタの喜びに満ちたスキャットが幸せを運んでくれる。潮風を感じるような間奏など、メロウなサウンド・クリエイションもナイス。イントロのフレーズをCalmが効果的にサンプリングしたことで、新たな命が吹き込まれた。アライジ・コスタは1950年代後半から1960年代にかけて多くのレコーディングを残している黒人ボサノヴァ・シンガー。『Coração』(1976年)は「Catavento」の作者であるミルトン本人がプロデューサーとして名を連ね(マリオジーニョ・ホーシャとの共同プロデュース)、アレンジはジョアン・ドナートが担当。また、ミルトンの人脈を活かしてトニーニョ・オルタ、ベト・ゲジスらのミナス系ミュージシャンが参加している。
04. I'm Too Shy / Paige Clare
シックスティーズ・ガール・ポップのときめきは永遠に。美しい眼差しと横顔のジャケットに惹きつけられる謎の美少女、ペイジ・クレール唯一のアルバムは、ブレイディー・バンチ、ボビー・シャーマンなどを手がけたジャッキー・ミルズのプロデュース。ちょっぴりソウルフルな曲調は、同じMGMからリリースされたジョーイ・ヘザートンの「The Road I Took To You (Pieces)」などを連想させるが、ヴォーカルの質感はクロディーヌ・ロンジェやペギー・リプトンといった歌手の系譜。ミシェル・ルグラン、ラヴ・ジェネレイションのトム・バラーなど、よく練られたセレクションに加え、アル・キャプスとハリー・ベッツのアレンジも曲の魅力をより引き出している。ブレッド「Make It With You」の優しいカヴァーも素晴らしい出来映え。
05. Maita / Dóris Monteiro
新しい季節の訪れと柔らかな風のダンス。軽やかなギター・カッティング、ボトムに絡むホーンによって生み出される、ソフトなファンキーさを持った幸せなムードには、何かが始まりそうな予感も感じられる。ドリス・モンテイロはボサノヴァ時代からのキャリアを誇る実力派シンガー。豪華ミュージシャンが顔を並べる1976年の『Agora』は、この時代ならではのサウンド・プロダクションが心地よい名作。エレピを生かしながらも、アコースティックな瑞々しさを保っている。ジョアン・ドナートの名曲「Lugar Comum」など、バランスの良い選曲も好感度高し。余談だが、ドリスの横顔を捉えたジャケット(マルコス・ヴァーリ『Previsão Do Tempo』などのプロデューサーとして知られるミルトン・ミランダによる)は、配色もあってジョニ・ミッチェルの『Blue』を彷彿させるデザインになっている。
06. River / Carita Holmström
カリタ・ホルムストレムはフィンランド、ヘルシンキ出身のピアニスト/歌手/作曲家。「River」は、きらきらと輝く川の水面のように生命の息吹に充ちたフォーキー・チューン。春の到来を祝福するようなゴスペル・フレイヴァーのコーラスも花を添える。ナチュラルな質感のギターやエレクトリック・ピアノ、澄んだ音色のソプラノ・サックス・ソロも効果的。1973年のファースト・アルバム『We Are What We Do』の1曲目に収録されていた至宝だ。当時の彼女はジョニ・ミッチェルやキャロル・キングへの憧れを強く感じさせるシンガー・ソングライターだったようで、この曲ではスティーヴン・スティルスを連想させる瞬間も。
07. Vou Deitar E Rolar (Quaquaraquaqua) / Elis Regina
ブライトな空気の中で、大きな口を開けて笑う彼女。気分屋な彼女だけれど、その笑顔には誰も逆らえない。さっきまでイライラしていたけれど、そんなことを気にしないかのような彼女の声に救われたように思った──。エリス・レジーナには魅力的なジャケット写真がたくさんある(改めて見ると彼女のジャケットは本当に笑顔の写真が多い)が、『Em Pleno Ver Não』(1970年)は麦わら帽をかぶった『Como & Porque』(1969年)と並ぶ人気作。笑い声そのもののようなサビのフレーズが明るく弾む気分を盛り上げる。コンポーザーはバーデン・パウエルとサンバの詩人パウロ・セーザル・ピニェイロ。
08. Samba De Orly / Tania Maria with Boto & Helio
縦横無尽に鳴らされるリズミカルなピアノ。左右に身を揺らしながら爆発するパッション。ステージでエネルギッシュにプレイする彼女を見たとき、ぼくはジャズ・サンバの進化系を見たように思った──。小さな女傑、タニア・マリアがフランスのバークレイ・レーベルに録音した『Via Brasil』(1975年)からの素晴らしいブラジリアン・ジャズ。パリからブラジルへ向かう友人を見送るという内容の曲で、そこには故郷を思う心=サウダージがそこはかとなく薫る。変拍子とスキャットが全開の曲からスロウなナンバーまで、彼女の才気があらゆる角度から感じられる快作アルバムの中でも白眉。
09. Noa... Noa / Milton Banana Trio
ミルトン・バナナは歴史に名を残す名盤『Getz/Gilberto』を筆頭に、星の数ほどのボサノヴァ/ジャズ・サンバ・レコードにその名を刻んでいるドラマー。ジョアン・ジルベルトがボサノヴァを特徴づける独特のギター奏法(バチーダ)を発明したように、彼なくしてはボサノヴァにおけるドラミングはなかったと言える。その彼が1965年に録音した自己トリオ名義のスウィンギーでクリスプなジャズ・サンバ。ドラムを中心にして聴くと、彼のプレイが疾走感のある演奏をリードしていることがよくわかる。有名曲を取り上げているレパートリーも含め、『Milton Banana Trio』は入門編にして定番的な貫禄。
10. Quatro De Dezembro / Ronald Mesquita
一緒に歌い出したくなるようなフックのメロディーと躍動するサンバ・リズム。明るさを振りまく歌声のマルリ・タヴァレス、デュエットする男性ヴォーカルはローランド・ファリア、ブラジルの音楽が持つポジティヴな力を感じることができる。エルシオ・ミリート、トニーニョ・ピニェイロ、アイアート・モレイラなど、ミルトン・バナナの影響を受けた新世代ドラマーのひとりであるホナルド・メスキータ。ボサ・リオにも在籍していた彼が初のソロ名義でフランス・バークレイからリリースした『Bresil 72』(1972年)は、優れた選曲とアレンジ・センスで、ポップなブラジリアン・ミュージックの魅力を楽しむことができる。
11. Sirié / Sapoty Da Mangueira
日曜日のサンバ。真っすぐに前を見つめるヴォーカルと思わず合唱したくなるコーラス、ピースフルなヴァイブに気持ちが満たされていく。女性歌手、サポーティー・ダ・マンゲイラの『Nega Atrevida』(1975年)は、全編に渡ってサンバ・ナンバーを歌ったアルバム。アジムスの鍵盤奏者、ホセ・ロベルト・ベルトラミが参加している。名前を含めて頭に浮かぶのは、やはりカルトーラのこと。エスコーラ・ジ・サンバ“マンゲイラ”の創始者のひとりである彼は、晩年になってようやくレコーディングの機会に恵まれた。『Verde Que Te Quero Rosa』(1977年)の緑のカップとピンクのソーサーでエスプレッソを飲む彼の姿は、ある種の生き方の象徴として、アルバムともども愛されている。
12. Maos Libertas / Leci Brandão
哀愁を帯びたサンバ。祭りの熱狂の裏で、つきまとうやるせなさの影。パレードで踊る人々をファインダー越しに覗きながらそんな思いを抱いたのは、異国の長い滞在で少し感傷的になっていたせいだろうか──。ベッチ・カルヴァーリョ、クララ・ヌネス、エルザ・ソアレス、アルシオーネらと並べて語られる女性サンビスタ、レシ・ブランダォン。彼女はキャリア初期、ポリドールに4枚のアルバムをレコーディングしており、本曲はホーンとコーラスがカーニヴァルの賑わいを伝える、セカンド・アルバム『Questão De Gosto』(1976年)収録曲。感情を巧みにコントロールする歌唱はさすがだ。90年代後半から2000年代にかけて多くのブラジリアン・ミュージックの名盤がCD化されたが、本作は未CD化のままである。
13. Vem Balançar / Claudette Soares
耳をつかまれるピアノのイントロから一気呵成の盛り上がりを見せる、一陣の風のようなキラーなジャズ・サンバ。勝気でいたずらっぽい表情を見せるクラウデッチ・ソアレスの歌もチャーミングだ。海風を感じるようなマリオ・カストロ・ネヴィス&サンバ・S.A.のヴァージョンも知られている。1969年の『Claudette』は、歌手として確実に地歩を固めつつあった彼女が、元サンサ・トリオのジョゼ・ブリアモンチとソン・トレスのセーザル・カマルゴ・マリアーノをブレインとして、新時代のブラジリアン・ミュージックを開拓しようとした名作アルバム。
14. Silk Stop / Bossa Três
さっきまで仲良く談笑していた3人。その関係性が音に宿るかのように、有機的なリレイションシップを紡いで彼らの音宇宙は形作られていく。小気味よいタッチで音符を叩き込んでいくピアニスト、それを支えるベーシスト、後ろからバックアップするドラマーのハイハットも冴えている。ブラジル屈指のピアニスト、ルイス・カルロス・ヴィーニャス率いるジャズ・サンバ・トリオによるジャズ~ラテンの色濃い高速ナンバー。ルイス・カルロス・ヴィーニャス以外のメンバーを一新して録音した『Os Reis Do Ritmo』(1966年)から。
15. Moon River / Eva
ギター・カッティングとリズミカルなピアノ、グルーヴするベースというフリー・ソウル・サウンドの上で展開される「Moon River」──DJやレコード好きなら一度は夢見たことがあるだろう、そんな奇跡の一曲は、1974年のブラジルで現実に録音されていた。エヴァことエヴィーニャは、ブラジルの女性ヴォーカル・グループの草分け、トリオ・エスペランサの初代メンバー。1969年にグループを脱退してソロ活動をスタート、ヘンリー・マンシーニの永遠の名曲のファンキー・カヴァーは5枚目に当たる『Eva』に収録されている。
16. Saudades Da Bahia / Caterina Valente Und Edmundo Ros
陽気なカーニヴァルのリズムに乗って、心のままに歌われる人生讃歌。カテリーナ・ヴァレンテ&エドムンド・ロスの屈託のないスキャットは、晴れ渡った青空を華やかに染め上げるように、生きることの素晴らしさを謳歌する。ドリヴァル・カイミ作の「Saudades Da Bahia」は、「Boink」のタイトルでも知られる人気曲。トリニダード・トバゴ出身のミュージシャン、エドムンド・ロスは英国でラテン・バンドのリーダーとして活躍。パリ育ちのイタリア人歌手、カテリーナ・ヴァレンテを迎えて制作された『Latein-Amerikanische Rhythmen』(1964年)にはハッピーなヴァイブが横溢している。
17. Chorou, Chorou / João Donato
冒頭のエレピの音色とコード感、乾いたスネアの音色が醸し出す14時過ぎの空気。リヴィングの椅子の上でゆっくりと過ぎる時間。心地よく身体の中を音楽が通り過ぎていくのがわかる。ジョアン・ドナートが初めて披露したヴォーカルも味わい深い『Quem Ê Quem』(1973年)は、マルコス・ヴァーリがアシスタント・プロデューサーとしてクレジットされており、彼のセンスが作品のムード作りに大きく貢献している(ちなみに歌うことをドナートに勧めたのも彼だったとか)。
18. Just A Girl / The Pale Fountains
1980年代前半に登場したベン・ワットとトレイシー・ソーンのエヴリシング・バット・ザ・ガール、アズテック・カメラやオレンジ・ジュース、そしてこのペイル・ファウンテンズなどに共通しているのは、ジャズやラテン、ボサノヴァやソウルといった多彩な音楽的イディオムを身につけていたことと、ニュー・ウェイヴ出身らしい鋭い感性を持っていたことだろう(スタイル・カウンシルもそうだろうか)。ペイル・ファウンテンズ『Pacific Street』のジャケットの写真から伝わる、壊れやすさと激しさと優しさ。彼らのデビュー・シングル「Just A Girl」は、橋本徹にとってはネオアコを超えた“特別なサムシング”を感じる一曲だという。青春の郷愁を感じさせるサビのフレーズには、オレンジ色に染まる黄昏どきが何よりも似合う。ここに収録されたのは、ロビン・ミラー・プロデュースによる再演ヴァージョン。
19. Forever / The Beach Boys
ビーチ・ボーイズを語るとき、バンドのソングライター/サウンド・クリエイターだったブライアン・ウィルソンについてのことが多いが、デニス・ウィルソンのことも忘れてはいけない。ビーチ・ボーイズで唯一サーファーだった彼は、暴れん坊であるとともに心優しい男でもあった。最期は酔って深夜のマリーナ・デル・レイの海に飛び込み、溺死を遂げた破滅的なデニスが残した唯一のソロ・アルバム『Pacific Ocean Blue』(1977年)は、ファンには大切な一枚として愛されている。それと同様に高い人気を誇るのが、デニス作曲のビーチ・ボーイズ「Forever」。静かに夕陽が落ちていくのを眺めている気分になる名ラヴ・ソングだ。ブルース・ジョンストンが加入し、「Add Some Music To Your Day」や「Deirdre」などの傑作を多く含むピースでフラワーな名盤『Sunflower』(1970年)からのセレクション。
20. Clube Da Esquina Nº2 / Lô Borges
高原で見上げた晩秋の夜空。都会を遠く離れたこの場所では、信じられないくらい多くの星が見える。ぼおっと塊のように光っているのはミルキー・ウェイ=天の川だ。懐かしくも切ない旋律が溶け出し、銀河へと続いていく──。ミルトン・ナシメント、トニーニョ・オルタらと“街角クラブ”を組んでいたロー・ボルジェス。ミナス周辺のミュージシャンの音楽には不思議な浮遊感と声の魅力があるが、彼もまたそのひとり。『Clube Da Esquina』にも収録されていた曲だが、ここでは美しく透明感に満ちたロマンティックなMPBに変身している。デュエットしているのはローの妹、ソランジェ・ボルジェス。彼の最高傑作に挙げられることも多い1979年のサード・アルバム『A Via-Láctea』に収録。
21. Sunlight / Doris Abrahams
エレクトリック・ピアノの音色が彩る午後のメロウなひととき。ジェシ・コリン・ヤングがヤングブラッズ時代に書いたフォーキー・ボッサのカヴァーは、柔らかなアルト・ヴォイスの歌声が沁みる逸品。女性シンガー・ソングライター、ドリス・エイブラハムスが残した唯一のアルバム『Labor Of Love』(1976年)は、シュガー・ベイブ「DOWN TOWN」を彷彿させるシティーなポップ・チューン「Dance The Night Away」も聴き逃せない。マッド・エイカーズのアーティー・トラウムがプロデュースを務め、彼と親交の深いウッドストック系のミュージシャンがバックアップ、ローラ・ニーロやヴァレリー・カーターなどにも通じる都会的な香り漂うブルー・アイド・ソウルの隠れた名作に仕上がっている。
22. Jazz 'N' Samba / Milt Jackson
ヴィブラフォンという楽器の持つ魅力。その知的でクールな響きは、場の空気を気品溢れるものへと塗り替える。ほどよくジャジーな女性ヴォーカルとスタン・ゲッツ流儀のジェントルなテナー・サキソフォンの音色は、くつろいだ夜の時間にぴったり。スクエアなイメージのMJQの中で、闊達自在なプレイを聴かせるミルト・ジャクソン、ジャズとボッサとラテンが同居した1964年の同名作から。「I Love You」、やはりリリアン・クラークをヴォーカルに迎えた「Kiss & Run」は、よりグラスを重ねてフォー・ラヴァーズ・オンリーの時間になってから。
23. Original Peter / The Mike Westbrook Concert Band
1970年前後の英国ジャズ・ロック周辺には、先入観を捨てて耳を傾けたい曲たちが数多く残されている。その名も『Mike Westbrook's Love Songs』からの本曲もそのひとつ。憂いを帯びたビートに乗ったテーマ・メロディーのリフレインの中でサックスが心の赴くままにソロを取り、ノーマ・ウィンストンの切なげなスキャットが印象的だ。英国の知性溢れるピアニスト、マイク・ウェストブルックがオーガナイズした9人編成のバンドで奏でる“愛の歌”。それは息を呑むように美しいピアノのフレーズが聴ける「Love Song No.2」により顕著な形で刻印されている。「Suburbia Suite」で橋本徹がファラオ・サンダースやジョン・コルトレーン、ユセフ・ラティーフ、ストラタ・イーストなどを中心としたスピリチュアル・ジャズの持つ輝きに光を当てたことは、若い世代の間でそれまで見過ごされていた音に注目が集まるきっかけになったが、個人的なことを書くと、英国のジャズ・ロックとカンタベリー・ミュージックとの出会いは橋本のガイドなくしてはなかった。
24. It's Over / The Pete York Percussion Band
パーティーの後のけだるさを残したつぶやき、それはまるでブルースのように聴こえる。スペンサー・デイヴィス・グループのメンバーとして知られる英国人ドラマー、ピート・ヨークが“The Pete York Percussion Band”名義で1972年に吹き込んだアルバムの最後に収められていた隠れた名曲。アルバムは時代を反映してジャズ・ロック的なテイストの曲が多いが、ここではエレピとギター、シェイカーの簡素な演奏が、男のダンディズムが滲むヴォーカルを引き立てる。ヴォーカルは作曲者でもあるスティーヴ・ファーン。
25. Aquarius / Cal Tjader
幻想的でラウンジーなオーケストレイションが生む、宇宙空間を旅しているかのような極上の浮遊感。アレンジはドン・セベスキーが手がけている。60年代末のアクエリアス・エイジ色にシンパシーを覚えたのか、のちにJ・ディラらのソウルクエリアンズと活動するQ・ティップ率いるア・トライブ・コールド・クエストにサンプリングされ、ヒップホップ世代にも広く知られるようになった。曲にヒップなエッセンスを注入しているのは、コンポーザーでもあるジョアン・ドナートのキーボード。マレットを持った預言者に扮したイラストにもクスッとなる1968年のヴァーヴ盤『The Prophet』より。
26. Northern Sky / Nick Drake
刻々と移り変わっていく空の景色。それをずっと眺めていると、自分が今いる場所がどこなのかふとわからなくなる感覚に襲われる。ワルツのテンポは心に安らぎを運び、天に昇るような不思議な浮遊感を醸し出していく──。ニック・ドレイクの美学が結晶した奇跡のフォーキー・メロウ・チューン。途中で入るピアノのフレーズも重要な役割を果たす。ニック・ドレイクが生前に残した3枚のアルバムは、どれも甲乙つけがたい名作だが、中でもセカンド・アルバム『Bryter Layter』(1970年)は、90年代以降は彼の最高傑作と言われることも多くなった。街の風景が鮮やかに浮かぶリリカルな「At The Chime Of A City Clock」や、メランコリックなボッサ「Poor Boy」など、どれも名曲揃いだ。
Ultimate Suburbia Suite Collection ~ Future Antiques[DISC 2](waltzanova)
01. Whatcha Gonna Do / Rune Öfwerman
午後のリラックス・タイムはこの曲で。クラシカルな趣きも有した上品な手触り。スウェーデンを代表するジャズ・ピアニスト、ルネ・オファーマンがアーゴ・レコードに吹き込んだアルバムは、ピアノと男女コーラスが涼しげなハーモニーを醸し出すまさに“クール“な一枚。それは北欧の森に囲まれた静かな湖や、ジャケットの微妙にトーンを変えていく抽象画を思わせながら、よく効いたエア・コンディショナーのようにリスナーを包み込む。クリスチャンヌ・ルグランが結成したグループ、クワイアなど、初期サバービアはクラシカル・ミーツ・ジャズ・テイストが好物だった。アルバム『Cool』(1965年)より。
02. Like A Seed / Morgana King
メロウな空気が満たす午後のひととき。ギターとエレピ、パーカッションが紡ぎ出すまろやかな空気は、甘みのあるコーヒーのように心を温めてくれる。作者は『Silver Morning』(1974年)をはじめとする、ボサノヴァやフォークやジャズの影響色濃いアルバムを多数生み出したケニー・ランキン。“カフェ・アプレミディ“を象徴する男性アーティストのひとりでもある。1960年代に「A Tase Of Honey」がヒットし、映画『ゴッドファーザー』にも出演経験のある女優/シンガーの1973年のアルバムは、ボブ・ジェイムスがプロデュース。クロスオーヴァー感覚を導入しながらも、ナチュラルな質感を感じさせるのが何よりの魅力。主役であるモーガナ・キングのヴォーカルも、しっかりとしたテクニックに裏打ちされ、燻し銀のような輝きを放っている。スティーヴィー・ワンダー「You Are The Sunshine Of My Life」の絶品カヴァーも含む1973年の『New Beginnings』からのエントリー。
03. Now / Dave Mackay & Vicky Hamilton
清冽な小川のせせらぎに足を浸す男女、それを包み込む新緑の木々。ブラジリアン・テイストを底に秘めた生き生きとした変拍子ジャズ。盲目のピアニスト、デイヴ・マッカイとそのパートナー、ヴィッキー・ハミルトンの、息の合ったハーモニー。ジャッキー&ロイなどを彷彿とさせるそれは草原のフレッシュな空気さながらに広がり、昼下がりのひとときを彩ってくれる。モーダルなテイストや彼らのファッションなど、60年代末ならではの雰囲気も刻印されたインパルス・レーベルからの『Dave Mackay & Vicky Hamilton』(1969年)で、オープニングを飾っていたナンバー。彼らは翌年にも『Rainbow』というもう一枚の名盤を同レーベルに残しており、こちらも愛すべき名作だ。
04. The Girl From Ipanema / Boulou
縦横無尽なスキャットと天衣無縫なギター・テクニックを披露する13歳の天才少年。『The 13 Year Old Sensation Of France』(1965年)のジャケットでギターを抱え、まだあどけない表情を見せるブールーは、伝説的ロマ・ギタリスト、ジャンゴ・ラインハルトの甥にあたる神童。ここではアラン・ゴラゲールによるサウンド・ディレクションのもと、アントニオ・カルロス・ジョビンの永遠の名曲をシックにカヴァー、キュートなスキャットも大人っぽく決めている。アルバムは全編で「Night & Day」「Bluesette」など、お馴染みのジャズ・ナンバーを取り上げているが、本曲とは打って変わって「Mack The Knife」などで見せる、つんのめるような疾走感で暴れまわる様も痛快だ。
05. Garôta Da Minha Cidade / Johnny Alf
鍵盤に向かって歌う黒人のブラジリアン。もう40代くらいだろうか、まろやかで優しいその歌声は、過ぎ去った青春の郷愁を振り返るように響く。ジョニー・アルフは1953年にヴィニシウス・ジ・モラエス作詞、アントニオ・カルロス・ジョビン作曲の「Rapaz De Bem」(邦題「心優しい青年」)を歌ったことで、“ボサノヴァ以前からボサノヴァだった男“と称されることもある人物。何をもってボサノヴァの発祥とするかはさておき、彼が1950年代からナイトクラブでモダンなセンスの音楽を奏でていたからこそ、そのようなニックネームが生まれたのは言うまでもない。本曲における混声コーラスの歌うヴァースを聴けば、彼の音楽の持つ“新しさ”が理解できるだろう。自身の洒脱な肩肘を張らないヴォーカルも素敵だ。ジョニー・アルフはその音楽的な影響力の大きさにもかかわらず、あまり多くのレコーディングを残していないが、1971年の『Ele É Johnny Alf』は彼の音楽性を知るには最適なアルバムだ。
06. Êle E Ela / Marcos Valle
ベッドの中で繰り返し交わす長く甘い口づけ。1970年のセルフ・タイトルド・アルバム、通称“ベッドのマルコス”に収められた究極にスウィートで陶酔感のあるワルツァノヴァ。ミルトン・ナシメントのバック・バンドであるプログレッシヴ・ロック・グループのソン・イマジナリオのメンバーが参加、ストレンジな音像が味わえる。マルコスは1960年代末から70年代前半にかけて数々のオリジナリティーに満ちた名作をものしており、“プールのマルコス”の愛称で知られる『Previsão Do Tempo』(1973年)は、シュギー・オーティスの『Inspiration Information』(1974年)と並んで、トータスやシー・アンド・ケイク、ジム・オルークらのいわゆるシカゴ“音響派”を中心とする再評価によって“発見”された早すぎた名盤。
07. Sambachiana / Os 3 Morais
かつて「Suburbia Suite」では“ブラジルのランバート・ヘンドリックス&ロス“と称された、オス・トレス・モライス。ブラジルではその名で活動していたが、アメリカ進出にあたってオス・トレス・ブラジレイロスというグループ名を用いた3人組。本曲にも顕著だが、LH&Rやスウィングル・シンガーズなどのジャズ・コーラス好きにもアピールしそうな、バロックの対位法的なハーモニーを生かしたスキャットが印象的だ。ストリングスの働きも見逃せない。1971年のこの『Os 3 Morais』では、マルコス・ヴァーリ作曲の緊張感と疾走感溢れる「Freio Aerodinâmico」(邦題は「空気力学的ブレーキ」)も取り上げており、こちらも彼らのスキャットの魅力を改めて味わえる好ヴァージョンとなっている。
08. Sá Marina / Som Três
ブラジルを代表する名ピアニスト、セーザル・カマルゴ・マリアーノ(エリス・レジーナの2番目の夫でもあった)をリーダーとするトリオ、ソン・トレス。ソフト・ロック的なテイストのオーケストラが奏でるファンファーレに続く、ラウンジ風味のピアノ・プレイは快適な気分を運んできてくれる。1968年のセカンド『Som Três Show』は、ホーンやヴォーカルを加えてグルーヴィーなサウンドを作り出したカラフルな一枚。ジョアン・ドナート、バート・バカラック、ミシェル・ルグランなど選曲もヴァラエティーに富んでいる。
09. Velho Sermão / Ivan Lins
ブラジルを代表するシンガー・ソングライター/コンポーザーであるイヴァン・リンス。ブラジル随一といっても過言ではないメロディー・メイカーとしての才能はアメリカでも高く評価され、1980年代以降はかの地でも活躍するようになる。そんな彼が70年代後半に残した4枚のアルバムはその創造的ピークを示すものとして知られるが、『Somos Todos Iguais Nesta Noite』(1977年)は彼の最高傑作でありブラジル音楽史に刻まれるべき金字塔。力強さと優しさを宿したヴォーカル、胸を打つメロディー・ラインとそれを引き立てるアレンジメント。そして何よりも全編にみなぎるイヴァン・リンスの人間とその生を肯定しようという思いこそが核心。朋友ヴィクトル・マルチンスのイマジナティヴな詩世界の素晴らしさも見逃せない。「Velho Sermão」は、高鳴る胸の鼓動のようなヴァース、溢れる思いを込めたコーラスが鮮やかな印象をもって迫る。アルバムのラストに収められた感涙の一曲「Qualquer Dia」はNujabesのサンプリング・ソースでもあるが、この曲を選ぶところに彼の音楽観と愛情がよく表れている。
10. Primaverando / Umas & Outras
ピアノのイントロを経て一気に高揚感溢れる展開を見せるポップ・チューン。ストリングスやコーラスなど、サウンドの処理にはソフト・サイケなフィーリングも。ドリーニャ、ヘジニーニャ、マルの3人娘からなるコーラス・グループ、ウマス&オウトラス。ノヴェラのサウンドトラック『Pigmalião 70』にも参加していた。ドリーニャとヘジニーニャはともにトゥルマ・ダ・ピラントラージェンとしての活動でも知られ、ドリーニャはクアルテート・エン・シーに参加、ヘジニーニャはやはりノヴェラ『Véu De Noiva』(1969年)のサントラにも参加している。彼女たちの唯一のアルバム『Poucas E Boas』(1970年)からのセレクション。
11. Sem Essa / Wilson Simonal
ウィルソン・シモナルは、ブラジルを代表する大衆サンバ歌手。「Sem Essa」は突き抜けるようなホーン、早めのサンバ・ビートが腰を刺激するグルーヴィー・チューン。快感原則に忠実なツボを突いたメロディーを、実に気持ちよさそうに歌い上げる大らかなヴォーカルもご機嫌。『Tonga Da Mironga』(1970年)の冒頭を飾っていた。この当時シモナルとよくコンビを組んでいたソン・トレスを筆頭として、トップ・ミュージシャンたちがバックを務めている。『Café Après-midi Lilas』収録の「Mexerico Da Candinha」もフロア対応のファンキー・ブラジリアンだ。
12. I Can't Cry Anymore / Eddie Cano & His Quintet
エディー・カノはLA出身のメキシコ系アメリカ人ピアニスト。自らのルーツであるラテン・ミュージックをバックボーンとして、1940年代から数々のセッションやレコーディングに参加してきた。1967年の『Brought Back Live From P.J.’s』は、彼のホームグラウンドとでも言うべきウエスト・ハリウッドのクラブ、「P.J.’s」でのひとコマを活写したライヴ・アルバム。「La Bamba」「Wack Wack」など、観客と一体になって熱気に満ちたプレイを聴かせる、快楽的な一枚だ。カノのオリジナル曲「I Can’t Cry Anymore」は本作の白眉。ソロ・ピアノのイントロからなだれ込む、ピアノ・トリオとパーカッションの4人によるスピーディーでドライヴ感に満ちた展開は圧巻。カノの弾くフレーズのはしばしには、キューバン・ジャズ的なニュアンスも強く感じられる。
13. Down In The Village / The Tubby Hayes Quintet
スーツに身を固めた5人の白人ジャズ・ミュージシャン。簡潔なイントロに続いて、才気に満ちた雰囲気を醸し出すトランペッターがミュートでテーマを取る。テナー・サックスも担当しているリーダーと思しき男がクールに透明感のあるヴィブラフォン・ソロを決める。彼らのパッションはあたかも青白い炎となって燃え上がるようだ──。タビー・ヘイズ・クインテットがロンドンの名門ジャズ・クラブ「ロニー・スコッツ」で繰り広げた名演の記録。それはヨーロピアン・ハード・バップの粋の凝縮として、正統派ジャズからクラブ・ジャズのファンまでを虜にして離さない。イギリス随一のハード・バッパーとして知られるタビー・ヘイズは、コンボ編成からオーケストラまで、1960年代を中心に多数のレコーディングを行っているが、中でも『Down In The Village』(1962年)は名盤の誉れ高い一枚。
14. Minha Saudade / João Donato
ジョアン・ドナートはブラジルを代表するピアニスト/コンポーザーで、ジョアン・ジルベルトと並んでエキセントリックなエピソードも多い鬼才。70年代にはブルー・サム・レーベルに異色作にして傑作『A Bad Donato』を録音するなど一風変わった個性の持ち主だが、ミルトン・バナナ、セバスチャン・ネトとともに録音した『Sambou, Sambou』(1962年)では、オーソドックスなフォーマットで香り高いブラジリアン・ジャズをプレイしている。ピアノの粒立ちの良さやリズムの切れの良さなど聴きどころは多いが、特筆すべきは何と言っても彼の天性のメロディー・センス。親しみやすく、そしてタイトル通りにサウダージを備えた曲想は、彼の他の曲にも共通している。
15. I Can't Wait Until I See My Baby's Face / Dusty Springfield
春の野に降り立ったソウルフルなモッド・ガール、ダスティー・スプリングフィールド。傑作『Dusty In Memphis』が彼女のファンキー・サイドだとしたら、1967年の『Where Am I Going』はスウィンギン・ロンドンのヒップ&モッドな空気を伝える逸品。セイント・エティエンヌによりサンプリングされた甘酸っぱくドリーミーなサウンドとヴォーカルに胸を締めつけられる本曲や、ソウル・ミュージックへの憧れが全開のアレサ・フランクリンの絶品カヴァー「Don’t Let Me Lose This Dream」など、きっぷのいいロンドンっ娘が時に見せるチャーミングな曲が収録されている。
16. Coco-Loco Samba / The Gimmicks
コンピレイション『Café Après-midi』シリーズが多くリリースされた2000年代初頭は、カフェ・ブームも相まってボサノヴァやブラジリアン・ミュージック、北欧を中心としたヨーロピアン・ジャズなどが大きな人気を集めた時期だったが、そんな時代の空気を象徴していたとも言えるのがギミックス。『En Acapulco』(1972年)からの心弾むスキャット・ナンバー「Coco-Loco Samba」は、ヴォーカルのアニタ・ストランデルが作曲に関わっている彼らのオリジナル。セルメンの影響を見事に昇華した多幸感に満ちたハッピー・サンバだ。アニタはギミックス解散後にソロ・アルバムもリリース、そのキュートな歌声を聴かせてくれている。
17. Mas Que Nada / Oscar Peterson
圧倒的なテクニックとドライヴ感でどのようなタイプの曲も自在に弾きこなすジャズ・ピアニスト、オスカー・ピーターソン。彼が1966年にライムライト・レーベルに吹き込んだ『Soul Español』は、サム・ジョーンズとルイス・ヘイズの彼のトリオに、3人のパーカッショニストを加えた編成。ジョルジ・ベンの名刺代わりの一曲でもありセルジオ・メンデス&ブラジル’66のヒット曲「Mas Que Nada」のシャープでクールな演奏をはじめ、「How Insensitive」「Meditation」「Manhã De Carnaval」などのブラジリアン・ナンバー、“英国のバカラック“ことトニー・ハッチの「Call Me」などを、ラテン〜ラウンジ的なニュアンスで演奏した傑作。全編に漂う余裕のある佇まいが、ラテンが大人の音楽だった時代の空気を伝えてくれる。
18. Jazz À Gogo / France Gall
そのキュートでロリータな容姿も含め、60年代フレンチ・ポップのアイコンとなっているフランス・ギャル。曲の印象を決定づけるオルガンとブラッシュド・ドラム、パーカッションにチャーミングな彼女の歌唱が融合し、“ジャズ“の持つヒップでクールなイメージを見事に表出させたアイドル・ポップスの逸品であると同時にグルーヴィー・ポップ・クラシックでもある。サウンド・クリエイションはセルジュ・ゲンスブールやボリス・ヴィアンとの仕事でも有名なアラン・ゴラゲール。彼女の最初の集大成とも言えるファースト・アルバム『France Gall』(1964年)から。
19. Loco Love Motor / Augusto Martelli
ヒップホップのブレイクに引用されそうな乾いたビートにミステリアスなムードを漂わせたコード進行、イタリアン・サントラを想起させる女声コーラス。イタリア人コンポーザー、アウグスト・マルテッリによるヒップな未来の音楽。映画音楽やTVの劇伴などを数多く手がけ、DJ的な編集センスの持ち主だった彼の音楽が30年後に陽の目を見たのは必然だったのかもしれない。タイトルも冴えている『Black Sound From White People』(1972年)より。
20. Um Amor Em Cada Coração / Beth Carvalho
バールでひとり時間を過ごしながら、哀愁あるメロディーに身をゆだねる。エレガントなサンバ・リズムと芯のある女性ヴォーカルが誘うのは、いつかの甘美なカーニヴァルの記憶──。1970年代にはサンバ歌手として人気を集めることになるベッチ・カルヴァーリョが、幅広いレパートリーを歌う『Andança』(1969年)からの、ヴィニシウス/バーデン・パウエル作品。アルバムにはソン・トレスやミルトン・ナシメント、ゴールデン・ボーイズも加わり、彼女のヴァーサタイルな魅力を耳にすることができる。
21. Tristeza Em Mim / The Sergio Mendes Trio
ギターとドラム、ベースのシンプルな編成の演奏。それは余白を大きく残したキャンヴァスのように、あるいは誰もいない部屋で鳴るメロディーのように、聴き手のイマジネイションを喚起してやまない。あの時代のボサノヴァが持っていた、ピュアでフレッシュな香りは今も色褪せない。ギターは『Um Violão Em Primeiro Plano』(1971年)がアプレミディ・クラシックとして名高い、女性ボサノヴァ・ギタリストの最高峰ロジーニャ・ジ・ヴァレンサ、ひと筆書きのようなフルートはバド・シャンクが担当。セルジオ・メンデスがブラジル’66を結成する以前にワンダ・ジ・サーをヴォーカルにフィーチャーして録音したトリオ作品『Brasil '65』(1965年)から。
22. Tudo Que Você Podia Ser / Quarteto Em Cy
クアルテート・エン・シーは、1960年代から活動を続ける女性ヴォーカル・グループ。結成当時のメンバーだった4姉妹全員の名前に“Cy”がついていたことから、ヴィニシウス・ジ・モラエスとカルロス・リラが命名したというエピソードを持つ。ミナス・ミュージックを代表するひとり、ロー・ボルジェス作の「Tudo Que Você Podia Ser」は、名盤『Clube Da Esquina』の1曲目に置かれていた曲。スピリチュアルな雰囲気とアレンジはオリジナルを意識しているものの、女声ならではの澄んだハーモニーが清涼感を感じさせる。1972年のオデオン録音『Quarteto Em Cy』に収録。
23. This Love Of Mine / Shirley Scott
シャーリー・スコットはリズム&ブルース~ソウル色の強いオルガン・プレイヤーとして知られるアーティスト。「Suburbia Suite」にはラテン・ジャズ・クインテットとの『Mucho, Mucho』(1960年)も掲載されており、アシッド・ジャズ~レア・グルーヴ的な視点からも人気を集めていた。彼女の1965年のインパルス録音『Latin Shadows』は、少し夜も更けた時間帯が似合う洗練をまとった一枚。アレンジも担当したゲイリー・マクファーランドのヴァイブの響きに導かれ、ソフトなハモンド・オルガンが親密な時間を演出するラウンジーなリラックス・ボッサ。アルバムには他にも「Can’t Get Over The Bossa Nova」など、柔らかな感触が心地よい曲が並ぶ。
24. Miss Universo / Tita
野に咲く可憐な花を思わせる存在感のボサノヴァ・シンガー、チタ。彼女の素直なヴォーカルは、聴く者の心と共振し、柔らかな波紋を描き出していく。「Miss Universo」が収められた『L'Incomparable Tita』(1968年)は、ファースト『Tita』(1965年)のリリース後にブラジルからフランスに渡ってバークレイ・レーベルに録音されたアルバム。夫のエジソン・ロボがメンバーだったトリオ・カマラがバックを務めている。12時から29時まで、“カフェ・アプレミディ”でそれぞれの時間帯にフィットする音楽を紹介する、というスタイルで編集された2000年の「Suburbia Suite」ではこのアルバムはラストに置かれ、29時過ぎ、閉店後の音楽として位置づけられていた。
25. Onde Eu Nasci Passa Um Rio / Gal E Caetano Veloso
「僕の生まれた町には川が流れている」というタイトルの、カエターノ・ヴェローゾが故郷のサント・アマーロを思って書いた繊細なボサノヴァ。柔らかな木管楽器のアンサンブルが心の琴線に触れる。他にも、カエターノの初期名作にして彼の代表曲のひとつと言える「Coração Vagabundo」、最高傑作の呼び声も高い1973年のセルフ・タイトルド・アルバムでジョアン・ジルベルトが取り上げた「Avarandado」、美しいワルツァノヴァのタイトル曲など、けだるい日曜日の心象風景が描かれた『Domingo』(1967年)は、発表から年を重ねるごとにその存在感を増しているように思える。白昼夢を思わせる手触りを演出するのに大きな貢献を果たしているアレンジは、ドリ・カイミとフランシス・ハイミ、ロベルト・メネスカルの3人が分け合っているようだ。
26. My Ever Changing Moods / The Style Council
セーヌ河畔のカフェで新聞に目を通しながら口にする一杯のカプチーノ。理想と現実の蹉跌の中で、苦さと甘さが入り混じる。ポール・ウェラーが1980年代にスタートさせたユニット、スタイル・カウンシルは、彼が好きなものや格好いいと思うものごと、つまりスタイルを評議するプロジェクトだった。『Our Favourite Shop』(1985年)と並び、彼らの名作として名高い1984年の『Café Bleu』からの青春の愁いを帯びたナンバーは、いつでも若者の、そしてかつて若者だった人々の胸を震わせる。これはピアノも印象的なしっとりとしたアルバム・ヴァージョンだが、ヤング・ソウル的なグルーヴィーなシングル・ヴァージョンは『Ultimate Free Soul Collection』に収録、両者はサバービアとフリー・ソウルの関係性を示しているかのようだ。