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キリンジ『フリー・ソウル・キリンジ〜Bluelight Edition』アナログ盤
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今春コンパイルされ大好評を博した『フリー・ソウル・キリンジ』のアナログ盤が2タイトルに分かれて12/12にリリースされます。1998〜2002年のワーナー在籍時の名作群を選び抜いた“Redlight Edition”と、2003年以降のEMI〜コロムビア在籍時の傑作群を選りすぐった“Bluelight Edition”(※こちらは“Bluelight Edition”がご購入いただける商品ページです)で、初アナログ化曲多数の貴重なレコードとなると同時に、CDにも増してアートワークの素晴らしさも際立っています。すでにリリース元にオーダーが殺到してしまい、アプレミディの取り扱い枚数も各50枚に限定されますので、お早めにご予約をどうぞ。アプレミディ・セレソンでお買い上げの方にはもれなく(通販含む)、橋本徹・選曲のスペシャルCD-R『音楽の架け橋 快適音楽 Vol.3』(同時入荷の『フリー・ソウル・キリンジ〜Redlight Edition』と併せて2枚ともご購入の方には、それに加えて『クワイエット・コーナー 心を静める音楽 Vol.3』)をプレゼント致しますので、お見逃しなく!
『フリー・ソウル・キリンジ』ライナー(橋本徹)
『フリー・ソウル・キリンジ』を選曲してもらえませんか、と不意の電話がかかってきたときに感じた胸の高鳴りは忘れられない。そのときの何だか甘酸っぱい、爽やかな風が吹いたような気持ちをそのままパッケージするつもりで、思う存分てらいなく、コンパイルを進めていった。
もちろんセレクトに際しては、今では入手困難なシングルのカップリング曲やリミックス/別ヴァージョン、インディーズ時代の音源やトリビュート・アルバムへの提供曲も含め、すべてのキリンジ“兄弟時代”の作品を聴き返してみた。1997年から2013年まで、デビューからの彼らの歴史を改めてたどるように。それでも、結果としてご覧のように、ストライク・ゾーンに渾身のストレートを投げ込むようなセレクションになったのは、そうした素直な気分の反映だろう。選曲を終えたときに感じた清々しさも、僕はきっと忘れない。
「今日も誰かの誕生日」に始めて、「サイレンの歌」に終わる、というのは最初から決めていたが、曲順決定も極めてスムーズで、全く迷うことはなかった。“世界は憂鬱/いつでも残酷/だけど今夜は最高”という「今日も誰かの誕生日」の一節を、このコンピレイションを貫くトーンと考えていたから。それは『フリー・ソウル・キリンジ』の通奏低音であり、“Free Soul”シリーズで初めてカタカナ縦組みのデザインとした、街の夜景をあしらったジャケットのアイディアの源にもなっている。
選曲の過程では様々なことも思いだした。憶えばキリンジを初めて聴いたのは、タワーレコードが発行するフリー・マガジン「bounce」の編集長をしていた97~98年頃だった。流麗なメロディー・センスと美しいハーモニー・ワーク、型通りには行かない、時として文学的でさえある言葉選びと、器楽的な少しぎくしゃくとした節まわしが生むカタルシス。同時にそこには、豊かな音楽的背景と強い探究心が感じられた。その頃すでに、グルーヴィー&メロウな70年代ソウル周辺音楽に光を当てようと“Free Soul”をスタートさせていた僕は、アイズレー・ブラザーズやナイトフライトへの共鳴がうかがえる「双子座グラフィティ」や「野良の虹」を聴いて、当然のように心くすぐられ、好感を抱いた。そしてそれ以上に「雨を見くびるな」や「かどわかされて」に、こんな日本語のポップスは聴いたことがない、と魅了されたのだった。好きな音楽への憧れと、唯一無二の独特のオリジナリティー、その青くさいほどの甘酸っぱさに。
このコンピを作るうちに、より特別な存在になっていった曲もある。例えば堀込高樹のソロ作「冬来たりなば」。大瀧詠一が亡くなったと知った去年の大晦日、僕は“春よ来い”からの連想でこの曲を聴いていて、あふれる詩情に胸が詰まった。はっぴいえんどへのオマージュにも相応しい掌編小説、あるいは短編映画のようで、文学作品としても一級品だと感じた。堀込泰行のソロ作となる馬の骨「燃え殻」も、昨秋のSoggy Cheeriosのオープニング・アクトとしてのライヴ演奏を機に、とりわけ深く、心のひだにまで染みわたるようになった。ヴォーカルとメロディーが一心同体となってじわじわと感情が奔流していく、ボズ・スキャッグスを思わせるような内なる高揚に感極まるこの曲は、彼にしか表現できない個性だろう。もはや日本語によるポップスのスタンダードとして、絶大な人気と評価を得ているメランコリックなミディアム・バラード「エイリアンズ」にも匹敵する名作だと思う。
収録したひとつひとつの曲について詳しく触れていきたい気持ちもあるが、それこそどれだけ字数があっても足りないだろう。それでもやはり「今日も誰かの誕生日」はSMAPに歌ってほしいような名曲だし(スライ風アレンジの「君のことだよ」もそうだな)、「サイレンの歌」を聴けばビーチ・ボーイズの『Surf’s Up』や「’Til I Die」のことを考えずにいられない。「君の胸に抱かれたい」や「恋の祭典」は麗しのソフト・ロック名品という感じだし、「グッデイ・グッバイ」が流れればアル・クーパー「Where Were You When I Needed You」を口ずさみたくなってしまう。「YOU AND ME」のアーバン感や「スウィートソウル」を聴いているときに感じるサウダージについても特筆すべきだろう。メロウに揺れるエレピが印象的な堀込高樹の歌うボサ・ソウル「まぶしがりや」は、僕ならではというか、“カフェ・アプレミディ”的感性による選出かもしれない。逆に本来なら、複雑なコード進行などでスティーリー・ダンを彷彿させる楽曲(冨田恵一の貢献も大きいだろう)がもう少し選ばれてもいいのだろうが、「ダンボールの宮殿」に代表させていたりする。いずれにしても、一貫して感じられるのは、堀込高樹がかつて「普通の古着の、なんてことのないボタンダウン・シャツを着ていても、ブルックス・ブラザーズに見えていたと思う」と自ら語っていた、趣味のよさだ。もちろん実際の彼らは、それだけではない、ある種の毒も含んでいるところが魅力的なのだが。
考えてみれば、堀込高樹・泰行の二人とそれほど個人的な関わりが強くあるわけではない僕が、『フリー・ソウル・キリンジ』のコンパイルに携われたのは、本当に幸せなことだ。彼らには、2007年に僕がアントニオ・カルロス・ジョビン生誕80周年を記念してプロデュースした『ジョビニアーナ~愛と微笑みと花』のために、中島ノブユキとの顔合わせで「Wave」をカヴァーしてもらったことがあるくらいで、その後は「Billboard Live TOKYO」のアニヴァーサリー対談で一緒になったことがあるだけだ(泰行とは同じバーで飲み合わせたことが何度となくあるが、待ち合わせたことは一度もない)。でもそんな僕だからこそ、レコード会社間の収録曲数のバランスに多少は気を遣ったものの、純粋なリスナー目線の、キリンジの音楽の素晴らしさがまっすぐ伝わるコンピレイションを作ることができたのではないか、と今は感じている。レーベルの枠を越えて、僕なりのキリンジ“兄弟時代”のオールタイム・ベスト・セレクションを実現してくださった皆さんに、ただただ心から感謝したい。
最後にエピソードをひとつ。僕の手元には今、1991年の夏に、当時まだ大学生だったはずの若き日の堀込高樹からもらった手紙がある。そこにはフリー・ペーパー「Suburbia Suite」を始めたばかりだった僕へのリクエストに、A&Mサウンドのことが綴られている。そういう時代だった、と言ってしまえばそれまでだが、人と人の物語の不思議を感じずにはいられない。もちろんその頃は、彼がこれほどの才能の持ち主だとは知る由もなかった。僕は葉書を眺めているうちに、あの夏がここに連れてきてくれたんだな、と何となくそんな気がして、懐かしい気持ちになった。
フリー・ソウル・キリンジ〜Bluelight Edition
Side A
01. 今日も誰かの誕生日
02. 君のことだよ
03. 冬来たりなば (堀込高樹)
04. 燃え殻 (馬の骨)
Side B
01. 愛のCoda
02. YOU AND ME
03. ブラインドタッチの織姫
04. スウィートソウル