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クレイジーケンバンド『Free Soul Crazy Ken Band』

通常価格(税込): 3,035
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Toru Hashimoto Compilation > Free Soul

橋本徹が「2014年夏のマイ・サウンドトラックNo.1」と断言する(聴けばわかります!)、メロウ&グルーヴィーなクレイジーケンバンドの名曲を“エレピ”“サマー・ドライヴ”“アーバン・ブリーズ”“ゆっくり跳ねる音楽”といったキーワードのもとに厳選した『Free Soul Crazy Ken Band』が7/16にリリースされます。“Crazy Urban-Mellow”“Crazy Urban-Groove”の2枚組・36曲・160分にわたって(しかも¥2,759+税というスペシャル・プライス!)、大人であることの酸いも甘いも、カッコよさもつらさも、楽しさも切なさもほろ苦さも詰まった、まさにCKBの“音楽力”全開の決定版ベスト・コンピです。アートワークの冴えも抜群で、全曲解説も圧巻。アプレミディ・セレソンでお買い上げの方にはもれなく(通販含む)、橋本徹・選曲のスペシャルCD-R『夏への扉 2014フリー・ソウル・サマー』と『真夏の夜のナイス・ミドル・メロウ』をプレゼント致しますので、お見逃しなく!


『Free Soul Crazy Ken Band』ライナー(橋本徹)

「OYA-Gになってから選曲できて本当によかったな」──心からそう思う。
『Free Soul Crazy Ken Band』には、大人であることのカッコよさとつらさ、楽しさと切なさ、甘さと苦さが詰まっている。ときには、ほろ苦く、切なすぎる瞬間さえも。そして、夏の"刹那"感も。
身につまされる歌詞と、最高に心地よいサウンド。まさにナイス・ミドル・メロウ。「俺にとっての40代のサウンドトラック」──そんな気障な台詞さえ口走ってしまいたくなるほど。

"CRAZY Urban-Mellow"と題したディスク1は、冒頭の「タオル」から、これ以上は考えられないサマー・ドライヴ・ミュージック名作が続く。メロウ・ブリージン&カンファタブル・クルージング。合言葉は「考えるな 感じろ今」。"Mellow"で"Slow"な"Groove"に乗って「夕陽と走るぜ ベイ・ブリッジまで」。そう、「ハマ風」や「ABCからZまで」にも象徴されるように、海辺をドライヴしたくなるような快適なグルーヴ。聴いていると僕は、1995年に編んだアイズレー・ブラザーズのコンピ『Mellow Isleys』と『Groovy Isleys』を思いだしてしまう。
「7時77分」あたりからは次第に、より湿気と気だるさを含んだ夏の夜の空気を思わせる、メロウ・マッドネスな情景へとグラデイションを描いていく。我が愛してやまないOYA-Gラヴ・ソング「ガールフレンド」と「37℃」によって、ジャクソン・シスターズ&ジャクソン・ファイヴへのオマージュ「空っぽの街角」を挟み、艶めかしく揺れるエレピの気持ちよい絶品のミッド・メロウ・グルーヴが連なっていく。ソウル・ミュージック愛好家なら、マーヴィン・ゲイやダニー・ハサウェイ、あるいはレオン・ウェアなどを思い浮かべ、恍惚となる瞬間もあるだろう。そして忘れてはいけない、デュエットでもコーラスでも、僕はSGWの歌声がたまらなく好きなのだ。
ポジティヴな音楽愛にグッと来る「SOUL通信」を合図に、「感じたもの全部 メロディーに変換」して、グルーヴィーにシフト・チェンジ。「箱根スカイライン」から「透明高速」へと、風を切って走るドライヴィンな至福の並び。そしてディスク1は、スタイリスティックスを彷彿させる男の哀愁滲むナンバー「ま、いいや」でエンディングを迎える。

"CRAZY Urban-Groove"と名づけたディスク2は、バリー・ホワイト流儀の華やかなオーケストラ・スタイルの、CKB版「My Way」とでも言うべきマニフェスト「男の滑走路」に始まる。めくるめくようにつながる「レコード」は、音楽マニアなら誰もが身に憶えがあるだろう心情が綴られたラヴ・ソング。「狂おしい夏の記録 探してる珠玉のSpecial One」という最後の一節に深くうなずいてしまう。ミラクルなエレピのイントロから、多幸感に満ちたメロディー&ハーモニーが広がるのは、その名も「音楽力」。メロウなヴァイブが混ざり合い溶け合う、多彩なヴォーカル・コンビネイションからは、「メロディーに翻訳して SOUL電波 届けるんだ」という気概も伝わってくる。
「Soulful Strut」を彷彿させるホーン・アレンジに間奏のエレピも快い「僕らの未来は遠い過去」に続いて、ジョージー・フェイム「Eso Beso」を思わせる疾走感に胸高鳴る「ギラギラ」が登場。"Hot Fun In The Summertime"の映像を鮮やかに喚起させる、ワック・ワック・リズム・バンド×ライムスターにも負けないご機嫌なパーティー・チューンで、僕は毎年この曲を聴くと、夏が始まったんだな、と実感する。
70sジャズ・ファンク~アシッド・ジャズ~アイズレー・ブラザーズ的な、アーバンに艶めくグルーヴ感で駆け抜ける中盤から、小気味よいボッサ・ビート・リレーを経て、音楽力と人間愛を讃えるCKBのテーマのような「SOULMATE」を機に、ファンキーでウィットに富んだノヴェルティー・ナンバー「Brand New HONDA」へと、セレクションはクライマックスに向けて走り始める。蒼きCKBという風情で、山下達郎ならシュガー・ベイブという感じの70年代的な瑞々しい情感をたたえた「珈琲キャンディー」は、過ぎ去りし遠い夏の幻のような名曲だと思う。
そしてフィナーレは、CKBらしい大らかでロマンティックな人生讃歌・宇宙讃歌「地球が一回転する間に」。懐かしい未来へ希望を馳せてしまう、SMAPにも歌ってほしいようなアンセム。胸に熱いものがこみ上げるのは僕だけだろうか。

15年以上におよぶCKBの歩みを振り返りながら最初に収録希望曲をリストアップしたときには、70曲以上も候補が挙がってしまった『Free Soul Crazy Ken Band』。まさしく断腸の思いで、何とか"Urban-Mellow" "Urban-Groove"の2枚組36曲160分に絞ることができたのだが、惜しくも選にもれた曲たちに触れることは、ここでは特にしなくてもいい気がする。リスナーの皆さんがそれぞれCKBのオリジナル・アルバムを聴くことで、様々に想像を膨らませてもらえたら嬉しい。
音楽的な解説をこれ以上することも野暮だろう。ひと足早くアドヴァンスCD-Rを手にした僕は、このコンピレイションをただただ聴き倒している。「清濁 併せ飲んで それでも聖くありたくて あがいている」大人の音楽。そんな言葉で十分なはずだ。ここにはそう、敢えてありふれた形容で表現するなら、夏の思い出のように胸を疼かせる歌がぎっしり並んでいる。僕が最後に書き添えたいひとことは、やはりこれだ。Don't think, feel!


FREE SOUL CRAZY Urban-Mellow [DISC 1](waltzanova)

1. タオル
『Free Soul Crazy Ken Band』の栄えあるオープニングを飾るのは、暑い夏の到来と甘酸っぱい恋の予感を見事に描き出した、究極のミドル・メロウ・ブリージン。このコンピレイションの空気感も鮮やかに刻印されている。キーワードは歌詞にも出てくる、60年代から活動を続けるレジェンダリー・ソウル・グループ、アイズレー・ブラザーズだろう。この曲に限らずCKBというバンドの根っこには、“アイズレーズ”というのがひとつの共通言語として存在しているように思う。一方フリー・ソウルも、彼らのコンピレイション『Groovy Isleys』『Mellow Isleys』が1995年にリリースされており、そこでの選曲は70年代の音源を中心とした、ファンクだけにとどまらないアイズレーズの再解釈だった。往年のセックス・シンボル(この言葉も死語ですか?・笑)、ファラ・フォーセットの名も登場、ひと夏のベイサイド・アヴァンチュール気分を演出している。“考えるな、感じろ”はCKBの合言葉だが、温度や湿度、匂いなどを音に封じ込める(念写する)のも彼らの得意技である。

2. ハマ風
タイトル通り、ハマ風をいっぱいに受けながら走っているような気分になる、爽快な一曲。メロディー・ラインや節回しには、剣さんの矢沢永吉イディオムが感じられる。剣さんにとって“エーちゃん”が特別な存在なのはファンなら周知の事実だが、キャロル解散後の初ソロ・アルバム『I LOVE YOU, OK』にはA&M~バート・バカラック的な要素が入っているのが大好きなところだとか。いわゆる不良な面に着目しただけではない切り取り方が剣さんならでは。結婚を題材にしたストーリーは、ラストの「キャッてもいいぜぇ~」でオチがつく(発音に注目!・笑)のもCKB的。

3. ゆっくり跳ねる音楽
冒頭3曲は、ヨコハマ周辺のサマー・ドライヴにぴったりのナンバーが並ぶ。こちらはベイ・ブリッジを眺めながらの極上のトワイライト・クルージン。テンポといいコード感といい、快感原則のツボ突きまくりの一曲で、その心地よさにひたすら身を任せていたくなる。菅原愛子とスモーキー・テツニによるヴォーカルとコーラスも、車内の恋人たちのスウィートで親密な雰囲気を醸し出すのに貢献している。フリー・ソウルだと、ナイトフライト「If You Want It」あたりの心地よさに通ずるところがあるだろうか。CKBとは切っても切れない街、横浜はアーバン感とリゾート感の両方を併せ持つ場所であり、だからこそ彼らの音楽には映画の一場面のようなドラマティックさがあるのだと思う。

4. あぶく
シュガー・ベイブ~アイズレーズ「If You Were There」流儀のアレンジがフリー・ソウルど真ん中の楽曲。“あぶく”は、胸に湧き上がるさまざまな感情や心模様を表していると思われるが、サバービア用語(?)で言えば、“サウダージ”と捉えることもできるのではないだろうか。“サウダージ”もまた、胸に去来する切ない郷愁のような想いを指す言葉で、言語化するのがなかなか難しい。百聞は一見に如かずということで、そのものズバリの「Saudade」というピエール・バルーの曲をご一聴いただければ、この言葉のニュアンスが理解できるだろう。

5. ABCからZまで
これまた甘酸っぱい青春のフレイヴァーがまぶされた、スウィートなサマー・チューン。剣さんによれば、元町公園のプールがこの曲のアイディアの元になった場所だそうで、若かりし頃にここで仲間とラジカセを持ち込み、女の子に声をかけたりした思い出が曲に反映されているとのこと。中西“スター”圭一のフルートで、涼やかさとオシャレ感も増し増しに。歌詞やサウンド・メイキングの完成度も含め、剣さん自身もお気に入りの一曲だとか。

6. Precious Precious Precious
60年代後半から70年代前半の手触りを宿したサウンドが、夏の朝の爽やかな空気を思わすブライトなナンバー。歌詞さながらに、風を受けながら海沿いをドライヴしたくなる。「あぶく」に通じるような音作りは、CKBの十八番とも言えるもの。剣さんは「いちばん得意なのはメジャー・セヴンスや、分数コードを多用したスウィートでメロウな曲だ」と語っているが、この曲のみならず本コンピレイションの収録曲は、それが当てはまるものばかりだと言える。

7. 7時77分
マーヴィン・ゲイの永遠の名曲「What's Going On」を彷彿させる、ヴィンテージなニュー・ソウル・アレンジにグッと胸を締めつけられる、『777』のオープナーを務めていたトラック。ストリングスとベース・ラインには特に掴まれるものがある。ロイ・エアーズのサマー・クラシック「Everybody Loves The Sunshine」のように、真夏の眩しさの中で感じる眩暈にも似た感覚がよく表現されている。最後は闇から光へと向かう歌詞世界も、マーヴィン・ゲイ~カーティス・メイフィールド~ダニー・ハサウェイ的だ。

8. 37℃
ミステリアスで浮遊感漂うコード進行、エレピの音色も隠し味の、ねっとりとした湿度を感じさせるクール&ホットでメロウ・マッドネスなナンバー。ハイブリッドに組み立てられたトラックはCKBでも屈指の洋楽指数の高さ。剣さんのヴォーカルに絡んで艶っぽいラップを聞かせるのは、CKBの紅一点、“SGW”こと菅原愛子。彼女独特の詞世界も、剣さんとの微妙なズレ感が面白い。よりラヴァーズ風に仕上げられたヴァージョンも聴きもの(10インチ盤もリリースされた)。現在ではiTunes Storeなど配信で聴けるので、気になるファンの方はぜひ。

9. 空っぽの街角
イントロのギター・カッティング、こみ上げ系のメロディー(Cメロの気持ちよさといったら!)など、これもフリー・ソウルど真ん中と言える渋谷系的な要素を多分に含んだ名作。ジャクソン・ファイヴの名曲タイトルがフックのフレーズとなっているのも象徴的だ。1997年のCKBのデビュー作『PUNCH! PUNCH! PUNCH!』に収録されているが、このアルバムは剣さんいわく、CKBの原点にしてすべての要素が入っている作品とのこと。

10. ガールフレンド
三連のリズムがせつない夏の黄昏どきの風景を思い起こさせる、ノスタルジックなムードを漂わせた、狂おしくもメロウな名ミディアム・バラード。心の波紋を描き出すように、全編でフィーチャーされるエレピのサウンドがたまらない。ちなみに、『Free Soul Crazy Ken Band』を編むに当たり、橋本徹さんのインスピレイションの核となったのが「タオル」と本曲だそう。中年オヤGの失恋が情感たっぷりに歌われるが、年齢を重ねたからこそ理解できる経験や感情が描かれている。「この歳になってCKBのコンピレイションを作れて本当によかった」とは橋本さんのコメント。女性目線で夏の終わりのハートブレイクをテーマにした「せぷてんばぁ」もファン人気は高い。

11. DUET
「37℃」と同じように、剣さんと菅原愛子の掛け合いが魅力的な一曲は、そのままズバリ“デュエット”がテーマ。マーヴィン・ゲイ&タミー・テレル、アシュフォード&シンプソンなど、ソウル・ミュージックには男女デュエットという文化があるが、そのようなこともリスナーに想起させる。ブレイクビーツ的なニュアンスを持ったドラム・サウンドも無条件に心地よい。剣さんは一時期から、90年代R&B~ヒップホップ的な方法論を導入し、自らトラックを作ってそれにメンバーのラップ部分などを割り振るような制作手法を取っているそうだが、その感覚が作品にしっかりと反映されている。

12. Hong Kong Typhoon
失恋した主人公が香港へ傷心旅行に行くという、映画のようなイメージが広がるメロウなミディアム・ナンバー。メロディー・ラインとコード進行のマッチングが生む中毒性は特筆ものだ。CKBには「Sweet Seoul Tripper」など、中国や韓国、インドネシア、タイなどのアジア圏を題材にしたレパートリーも多数あり、ライヴやアートワークなどでもそのようなモティーフが取り入れられることも多い。それは彼らが、中華街のある横浜という、昔からのマルチカルチュラルな港町を拠点としているところから来ているのかもしれない。

13. Hideaway
前曲から続くアジアン・シリーズ。こちらにはガムランやバリハイという単語が登場、東南アジアが舞台となっている。お忍びで行った旅行先のリゾート・ホテルで、スウィートでセクシーな二人だけの時間を過ごす……というちょっぴりアダルトな世界観。CKBの曲は情景や空気を眼前に立ち上げる力を強く持っているのも特徴で、リスナーにフィジカルに訴えかけるマジックがあるという点についても、もっと語られていいのではないだろうか。

14. 赤と黒
前曲に続き、ややアダルトな雰囲気を持つソウル・ナンバー。歌詞に出てくる“真っ赤なライト”は、TLCの「Red Light Special」を連想させるが、剣さんにとってその曲が収録された『CrazySexyCool』(1994年)は愛聴盤であり、“レッド・ライトな怪しいムード”も好みだと語っていた。剣さんはディアンジェロやエリカ・バドゥ、ミュージック・ソウルチャイルドなど、ネオ・ソウル系のアーティストにもシンパシーを感じるとのこと。そのあたりの趣味はフリー・ソウル・リスナーと重なるものがあるというか、むしろ完全に一致している。

15. SOUL通信
ブルース・リー由来の“Don't think, feel!”と同じように、CKBでは“電波”も大切なキーワードのひとつ。ニュアンスとしては、同じID=感覚を共有している者だけが持つヴァイブレイション、というところか。CKB自体がそのような特別な“電波”で結ばれた仲間なのだろう。サウンドはゴスペル的な高揚感も感じさせる(コーラスの印象も大きい)、60年代から70年代にかけてのソウルのエッセンスが注入されており、アレサ・フランクリンやダニー・ハサウェイあたりとも共通性がある。

16. 箱根スカイライン
ここからの3曲はドライヴものが並ぶ。剣さんはクルマを運転しながらのときが、いちばんアイディアが湧いてくるのだそう。軽快なギターの刻みにグルーヴィーなベース、アクセントとなっているフルートなどが、スムースなハイウェイ・ドライヴィングのイメージにぴったりの、フリー・ソウル・ファンには希求力抜群のナンバー。CKBの歌詞世界は、横浜を中心に横須賀~三浦~鎌倉~逗子~葉山~箱根など、神奈川県のさまざまな地名が登場し、その場所に行って聴くとあたかも自分が物語の主人公になったような感覚を与えてくれる。

17. 透明高速
この曲もボッサ風のギター・カッティングが無条件に心地よさを演出する、カンファタブルなクルージン・ナンバーだが、歌詞は真昼の本牧界隈でシヴォレーの幽霊を見たという、ちょっと背筋がヒヤリとするような内容。過去と現在、あるいは未来を行き来したり、現実と非現実が交錯したり。それは、剣さんがリスペクトしてやまない、日本を代表する女性シンガー・ソングライターであるユーミン(松任谷由実)の感覚にも通じるものがあるかもしれない。CKBは、2002年にリリースされたユーミンのトリビュート・アルバム『Queen's Fellows』で「COBALT HOUR」を取り上げている(非常に剣さんらしいセンスと言える)が、その曲も時間旅行がテーマになっていた。

18. ま、いいや
ディスク1のクロージング・ナンバーは、スタイリスティックス的なスウィート・ソウル・バラード。タイトルである「ま、いいや」は剣さんの口癖だそうだが、この曲で歌われる、未練を残しながらも感謝の思いを捧げ、“清濁併せ呑み”つつもそれでも割り切れないものを受け入れる感覚は、「ガールフレンド」と同じく人生を重ねた人間たちによって発せられるからこそ、より重みを増して聴く者に響く。そのような“人間力”は、CKBの音楽の本質のひとつなのではないだろうか。


FREE SOUL CRAZY Urban-Groove [DISC 2](waltzanova)

1. 男の滑走路
CKBファンなら、彼らのライヴでフランク・シナトラの「マイ・ウェイ」(もちろん日本語版)が定番のレパートリーであることはよくご存じだろうが、バリー・ホワイト×「マイ・ウェイ」という感じのゴージャスなビッグ・バンド・アレンジをバックに、気持ちよさそうに歌い上げられる俺節が爽快だ。「機内食は肉か魚か、迷うことなく肉を選んだ」など、パンチラインも満載で、CKB=横山剣の所信表明とも言えるナンバー。“マイ・スタンダード”という単語は、剣さんの2007年の自伝のタイトルにもなった。

2. レコード
別れた彼女をレア盤に例え、やるせない想いを吐露するミディアム・メロウな名曲。音楽好きにはなんとも身につまされる曲で、映画だったらジョン・キューザックがレコード店の店主を演じた『ハイ・フィデリティ』(2000年)を思い起こさせたりもする。冨田ラボがリミックスしたヴァージョンもあり(『Middle & Mellow Of Crazy Ken Band 2』収録)。剣さんは冨田ラボの最新作『Joyous』(2013年)に全面的に参加しており、両者は都会的で洗練されたメロウなサウンド(それはときにAOR的でもある)への志向、そして凝ったコード・ワークなど、実は共通項が多い。

3. 音楽力w/Full Of Harmony × ISO from I.S.O.P
『Free Soul Crazy Ken Band』の裏の主役はエレピ(エレクトリック・ピアノ)であることは、もうお気づきになっている方が多いのではないかと思われるが、CKBの曲にはエレピが重要な役割を担っているものが多く、その芳醇なメロウネスを演出するのに一役も二役も買っている。この曲もウーリッツァーの転がるような音色が絶品の音楽讃歌で、トラックは「タオル」を再構築して作られたもの。ケツメイシのファンなどにもアピールするポテンシャルを秘めているのではないだろうか。フィーチャーされているI.S.O.Pは横浜を中心として活動するラッパーで、菅原愛子の夫でもある。

4. 僕らの未来は遠い過去
前曲からたたみかけるように続く、これまたエレピがキーとなっているヴィンテージ・ソウル感に満ちた一曲で、フリー・ソウル度数も高い。ホーンのフレーズにバーバラ・アクリンの「Am I The Same Girl」が引用されているのがその秘密かもしれない。英国のモッドにも愛された「Am I The Same Girl」は、スウィング・アウト・シスターがカヴァーしたりピチカート・ファイヴがサンプリングしたりするなど、90年代の渋谷系界隈ではとりわけ(女子に)高い人気を誇っていた曲である。

5. ギラギラ
60年代のロンドンで活躍したジョージー・フェイムあたりに通じるモッド・テイストを持った、疾走感抜群のスカッとするナンバー。洞口信也の強力にドライヴするベース・ライン、ステディーなリズムをキープするドラム、ヒップなオルガンと聴きどころたっぷり。本牧~山手~元町周辺を小回りのきくスポーツカーで駆け抜けていく景色が浮かぶ歌詞とサウンドのマッチングも素晴らしい。夏が今まさに始まろうというときのワクワクする気分を、猥雑さも込みで全開にさせてくれるグルーヴィンな傑作。

6. パパ泣かないで
ニュー・ジャック・スウィング~グラウンド・ビート的なリズム感が印象的な、90年代的な感触を持った一曲。歌詞も含め、ほのかなサウダージを感じさせるのがポイント。菅原愛子はこの曲が初のCKB作品参加だった(剣さんの奥さんが店長をしていた洋服店で、バイトしていた彼女を剣さんが“発見”したとか)。ライムスターとの共演が話題になった「肉体関係part2 逆フィーチャリング・クレイジーケンバンド」のサンプル元が収められたマンモス・シングル(!)『肉体関係』(2001年)に収録。

7. ボタンのかけ違い
ブラン・ニュー・ヘヴィーズやインコグニートなど、90年代初頭アシッド・ジャズの影響を感じさせるスピーディーなジャズ・ファンク・チューン。剣さんの特質として、同時代音楽に対するフレキシブルな感性が挙げられるが、先述のネオ・ソウルや本曲のアシッド・ジャズ、またヒップホップやイタリアン・ボッサなど、かなりの部分でフリー・ソウル~サバービアとの共振性を持っている。

8. ランタン
ドラムの廣石“K-1”恵一のグルーヴ・マスターぶりが曲の背骨になっているボッサ・ナンバー。スネアの音色と途中で挿入されるブレイクビーツ的なフレーズが、なんともクセになる味わい。廣石は80年代の人気グループ、杉山清貴とオメガトライブのメンバーだった。筆者の最初に買ったレコードは、彼らの「ふたりの夏物語」だったので、そのことを知ったときにはミッシング・リンクが繋がったような不思議な気分になった(笑)。中華街のミステリアスなムードを象徴するタイトルの「ランタン」も、“レッド・ホット”的なスパイスが。

9. 秋になっちゃった
「タオル」の項で、アイズレーズはCKBの音楽性の基本言語のひとつと書いたが、この曲もそんなことを思わせるラテン・ソウル・タッチの一曲。名作「That Lady」でのアーニー・アイズレーを文字通り彷彿させる、小野瀬雅生のファズの効いたギター・プレイが堪能できる。小野瀬は楽理的な知識が豊富で、剣さんのデモテープを聴いてコード譜に起こすなど、CKBの音楽的頭脳とも言うべきメンバー。

10. El Diablo
“Diablo”とは、“悪魔”を意味するスペイン語で、ランボルギーニにも同名のクルマがある。この曲が発表された2004年当時、剣さんはチカーノ・ヒップホップにハマっていたようで、ラテン的なモティーフが顔を出すこともしばしばだった。メロディー展開やサウンド・プロダクションなどには、オリジナル・ラヴ=田島貴男の諸作と相通ずるものが感じられる。田島貴男と剣さんは雑誌「Barfout!」で2003年に対談を行い、TV番組でも共演して「接吻」を歌うなど、親近性を自他ともに感じていた模様。

11. Sweet Seoul Tripper
スペイシーな浮遊感が心地よいミドル・メロウ・チューンで、ループ感のあるサウンドにはシュギー・オーティスを連想させるところも。CKBにはループ感を持つトラックも多くあるが、90年代のR&Bやヒップホップを通過しているからこそのセンスだろう。韓国旅行から帰ってきた主人公が彼女の態度に違和感を覚える、という心理が歌われているが、「ゆっくり跳ねる音楽」には、本曲のアンサー・ソングとも取れる部分がある。

12. Summer Freeze
タイトルのアイディアはアイズレーズもカヴァーしている(GREAT 3も演ってますね)、シールズ&クロフツの名曲「Summer Breeze」からか。アイズレーズのヴァージョンは彼らの最高傑作のひとつとして名高い『3+3』(1973年)に収録されている。夏の終わりのやるせなさを感じさせるボッサ・ナンバーで、コーラスのせいか、どことなくノスタルジックな風情も。

13. 発光! 深夜族 Honmoku'69 tune
前曲からのボッサつながりだが、こちらは趣きを変えてクラブ仕様のナンバーに仕上げられている。オリジナルは、小西康陽のレーベルである524レコーズから2000年にリリースされた『ショック療法』に収録。ムッシュかまやつやその友人の福澤幸雄らが通っていた「キャンティ」など、60年代の麻布や六本木のナイトスポットに集まる深夜族に材を取ったスタイリッシュ・チューンで、剣さんが憧れていたという、洒落た大人の夜遊びの世界が活写されている。

14. お引っ越し
ボッサ・セクションのラストは、ある意味では本コンピレイション収録曲の中で、最も初期サバービア的と言えるかもしれないライト・タッチのボッサ。そのサウンド・プロダクションは、A&Mなどのソフト・ロック、ヨーロッパ~アメリカ産のブラジリアン・ミュージックに通じるフィーリング。家具や荷物の運び出された後のガランとした部屋と主人公の心情が重ねあわされており、翳りのない明るさがより寂しさを感じさせるのは、日曜夜の「サザエさん」的な感覚と言えるだろうか。

15. SOULMATE
CKBグルーヴの魅力をたっぷりと味わえる、ファンク的なイディオムが前面に出たヴィンテージ・ソウル・ナンバー。リズム・セクションのコンビネイションを始めとして、剣さんが“サンプリング・ネタの宝庫”と呼ぶメンバーの高い演奏能力が楽しめる。人間愛をテーマとした歌詞は、CKBというバンドの“熱さ”を再確認できる内容。メンバーひとりひとりの濃厚な“人間力”こそがこのバンドの核であり、またそれが彼らの音楽が持つ説得力へと繋がっているのだと痛感させられる。メロウな中盤のセクションへの転調もお見事。

16. Brand New HONDA
フリースタイル的なラップ/歌も含め、メロウな中にもレゲエ~ディスコ的なニュアンスとグルーヴが強く感じられる、リラクシンで抜けの良い一曲。この曲のリズムにも思わず腰が動いてしまう。目的地を決めずにドライヴしているときのイイ感じの適当さ、みたいなものがよく出ている。剣さんのクルマ好きはファンにはもはや説明不要、というところだろう。「ベレット1600GT-CKB仕様」を筆頭としてCKBの曲には数々のクルマが登場するが、この当時(2003年)ホンダ車がカッコいいと思っていたことが歌詞のトピックへとつながったそう。

17. 珈琲キャンディー
淡いセンティメントが印象的な、70年代的な懐かしさを感じさせるスウィート&メロウ・チューン。シュガー・ベイブなら「夏の終りに」「雨は手のひらにいっぱい」といった曲を思い起こさせる青春感をたたえている。彼らや、はっぴいえんど、フィフス・アヴェニュー・バンドなどが描き出したような、架空の存在でもあるような場所である“街=シティ”とそこに生きる若者の思いが伝わる素敵な作品だ。

18. 地球が一回転する間に
「男の滑走路」同様、めくるめくようにカラフルなオーケストレイションに乗って、生きる喜びが高らかに歌い上げられるラスト・ナンバー。タイトルは、トワ・エ・モア「地球は回るよ」やピチカート・ファイヴ「世界は1分間に45回転で廻っている」なども連想させる。剣さんが作曲家志望だったというのはファンには有名な話で、和田アキ子やTOKIO、直近では小泉今日子&中井貴一など、他アーティストへの提供曲も数多い。SMAPあたりが歌ったらハマるのではないだろうか、と思わせるポジティヴィティーに溢れた一曲で、『Free Soul Crazy Ken Band』は涙・涙、感動の大団円を迎える。
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